『P.T.』のPC向けファンリメイクがコナミの公開停止命令を受ける。ただし同社は再現度の高さを評価し、17歳の制作者をインターンとして勧誘
完成間近に迫っていた『P.T.』のPC向けファンリメイクが、コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)の公開停止命令を受け開発中止となった。17歳の高校生Qimsar氏によるファンリメイクは、PlayStation 4用タイトルとして配信されていた『P.T.』をUnreal Engine 4を使ってPC向けに再現したもの。あと数日で全てのアニメーションが完成し、残すところは照明効果やゴキブリの動き、雨エフェクトの微調整のみという、完成直前での停止処分となった。
Qimsar氏がGame Joltに投稿した最新ブログによると、先日コナミ社の従業員よりQimsar氏宛てに、ファンリメイクの公開停止を要請する電話がかかってきたという。IPの無断使用はもちろんのこと、Game Joltのブログでは『P.T.』から抜き出したアセットの募集をかけていたことから、Qimsar氏には素材盗用の疑いもある。そうした『P.T.』ファンリメイクに挑戦しているのはQimsar氏だけではないが、完成目前に迫ったことや、Polygonといった海外メディアでの露出により存在が知れ渡ったことが公開停止命令に繋がったのかもしれない。
『P.T.』とは、2014年8月にPlayStationストアでの配信が開始された一人称視点のホラー作品。小島秀夫監督率いる小島プロダクションが当時開発を進めていたシリーズ新作『Silent Hills』のインタラクティブ・ティザーとして無料公開されていた。2015年には『Silent Hills』の開発中止に伴いPlayStationストアから削除されたため、現在は入手困難な作品となりつつある。だからこそ、本家『P.T.』を最初から最後までを完コピするというQimsar氏のファンリメイクは注目を浴びていた。
ファンゲームやファンリメイクのテイクダウン自体は決して珍しい話ではない。弊誌でも、任天堂作品のファンゲームの大量削除処分(関連記事)、『マインクラフト』に「ポケモン」を導入する「Pixelmon Mod」(関連記事)、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を2D化する『Breath of the NES』(関連記事)など公開停止処分を受けた事例を扱ってきた。
今回のケースで特筆すべき点は、ファンリメイクの作者であるQimsar氏がインターンとしてコナミに勧誘されたことだろう。Qimsar氏は上述したブログにて、コナミは書面での一方的な通告ではなく、電話を通じて生身の人間として丁重に接してくれたと報告している。法律上公開停止要請をすることはやむを得ないと説明されたが、Qimsar氏に知らせを届けた従業員含め、コナミ社内ではQimsar氏の作品が高く評価されているという。
『P.T.』のファンリメイクや『P.T.』ライクなインディープロジェクトは他にもあるが、完成目前までたどり着いたものは限られている。またQimsar氏によれば、『P.T.』ファンリメイクの開発期間はわずか1か月(180時間)。しかも初めてのゲームプロジェクトであり、それまでUnreal Engine 4は6時間ほどしか触れたことがなかったという。17歳という若さながら(もしくは、若さゆえに)凄まじい学習速度により短期間で完成間近に、それも品質の高い状態にまで仕上げた手腕と素質が認められたのだろう。
Qimsar氏はインターンシップのオファーについて「皆さんはそれぞれ違った意見を持っていると思いますが、私個人としては、非常に嬉しい知らせです」「数あるファンリメイクの中で、私のプロジェクトが公開停止処分を受けたことを感謝すべきだと悟りました。もし注目されたのが他の誰かの作品であれば、私はいまだに将来について何の展望もないまま、家でのんびり過ごしていたことでしょう」と語っている。まだ高校を卒業していない17歳の青年にとって、ゲーム会社でのインターンシップの機会を与えられるというのは、これ以上ないチャンス。また「これでもう、訴えられることを恐れなくて済む」と述べていることから、公開停止命令を受ける可能性があることは十分に認識していたようだ。
ただインターンシップを始めるとしても、今すぐにという話ではないだろう。今後の予定としては、公開こそできないが個人的に『P.T.』プロジェクトを完成させ、その後は空いた時間を使ってBlenderや3DS Max、Substanceなどの使い方を学んでいきたいとのこと。精魂込めたプロジェクトこそ中止に追いやられたが、コナミ社の対応により、Qimsar氏には将来の展望を描く貴重なきっかけが与えられた。長期的な視点で見れば、Qimsar氏にとっても、コナミにとっても、そしてゲーム業界にとってもプラスとなりえる対応と言えるだろう。