Nintendo Switch向けビッグタイトル移植を手がけてきたスタジオが、数々の疑問に答える。もっとも苦労する要素は“ファイルサイズ”と回答
アメリカ・テキサス州に拠点を置くデベロッパーPanic Buttonは7月13日、コミュニティサイトRedditにてAMA(Ask Me Anything)を実施。社長のAdam Creighton氏と、テクニカル・ディレクターのAndy Boggs氏が、ファンから寄せられたさまざまな質問に回答した。
同スタジオは2007年に設立され、これまで『Disney Infinity』シリーズや『Octodad: Dadliest Catch』『ReCore』など、主に他社タイトルへの開発協力や移植を多数手がけてきた。どちらかというと、あまり表に出ることのない立場にあったが、『ロケットリーグ』を皮切りにNintendo Switchへの移植をおこなったタイトルがリリースされたタイミングで、その名が広く知られるようになった。直近では、『Warframe』のNintendo Switch版を手がけることが発表されている(関連記事)。今回のAMAでは、これまでに移植を手がけたNintendo Switch作品について主に語られており、いくつかかいつまんで紹介したい。
Panic Buttonが注目されることとなったきっかけの一つは、『DOOM』および『Wolfenstein II: The New Colossus』のNintendo Switch版だろう。それまでにも『The Elder Scrolls V: Skyrim』などがNintendo Switch向けに発表されていたが、現行機向けのAAAタイトルを移植するとあって驚きをもって受け止められた。Panic Buttonは、かねてよりBethesdaと仕事をすることを望んで、企画を提案し交渉をおこなってきたという。そうした付き合いがあったことから、『DOOM』のNintendo Switchへの移植を任されることになったそうだ。そして技術的に移植が可能であることを確認できた時点で、さらに『Wolfenstein II』の移植も追加された。
その『DOOM』の移植は、これまででもっとも難しかったかもしれないと振り返る。もともと同作は、Nintendo Switchは対応プラットフォームとしてまったく想定されていなかったこともあるが、ゲームとして要求されるレベルが高く、またPanic Buttonにとって初めて扱うゲームエンジンだったことが理由に挙げられている。同スタジオは以前にも、その困難さを認めつつ「まさしく『DOOM』であると感じられること」を基準にして取り組んでいることを語っていた(関連記事)。それでも、Bethesdaやid Softwareのサポートもあり、移植にかかった期間は1年弱と、ほかのタイトルと同等に収めることができたそうだ。
移植作業においては、まず技術的な調査に1〜3ヶ月を費やすという。それはゲームを試験的に移植してみて、最終的にどの程度のパフォーマンスを実現できるかを確認し、同時にゲームが内部でどのように動いているかなどを理解するための作業だ。それが済んだ後に、各パートのスタッフをすべて投入しての本格的な移植作業に進む。ゲームのパフォーマンスについては、たとえばフレームレートであったりビジュアル、あるいは解像度など、どれを優先するのかを決める。それは作品によって異なるが、可能な限り多くの要素を実現させる努力をしており、うまく動作しないからカットするようなことはなるべくしないようにしているそうだ。とはいえ、毎回最後の一滴まで絞りきった気持ちで移植作業を終えるものの、ゲームの発売後には、まだ何か改善できるところがあったのではないかという気持ちになるそうで、それが次のプロジェクトに活かされていくという。
『ロケットリーグ』については、Panic ButtonはNintendo Switch版の前にXbox Oneへの移植を手がけている。開発元のPsyonixとはPC/PS4版のローンチ時に会合を持ち、Xbox One版の開発を任せられることとなったが、その場でPanic Buttonは当時未発表のNintendo Switchへの移植を(ハードの詳細は伏せたまま)提案したという。任天堂を含め各プラットフォームホルダーと長く仕事をしている同スタジオは、そうした新ハードの情報をいち早く入手できる立場にあるのだ。これもまた、多くの移植を手がける同社の強みだろう。
このように、移植の依頼は舞い込むばかりではなく、自ら提案することも多いようだ。手がけたいタイトルについて、なぜ移植すべきなのかや、どのようにして実現させるのかなどを開発元に懇切丁寧に説明し、それから具体的なビジネスの話をするのがPanic Button流だそうだ。一方、移植を依頼された場合は、情熱を持って取り組める内容かどうかを判断基準にしているのだという。
巨大なプレイヤーベースを誇る『ロケットリーグ』のNintendo Switchへの移植には、すでに発売されているバージョンと同等のスムーズな動作への期待が大きく、その分プレッシャーも大きかったそうだ。また、同作がUnreal Engine 3という古いゲームエンジンを利用していたこともハードルとなったが、そこはこれまでにUE3タイトルを数多く扱ってきた経験が活きることとなった。UE3製ゲームのNintendo Switchへの移植は難しいのではないかと言われることもあるが、Panic Buttonとしては特別障害になるものはないとしている。
一方で、移植作業ではファイルサイズが大きな懸念材料になるとも述べている。ゲームのデータは、ビジュアルアセットとオーディオデータが大部分を占める。それらの品質を落とすことなく容量を削減する手法は存在するが、ある段階まで削減すれば限界に達してしまう。それ以上は、品質を下げてでも容量を減らすか、ユーザーに追加ダウンロードしてもらうかの選択が求められる。Nintendo Switch版『DOOM』や『Wolfenstein II』のパッケージ版では追加ダウンロードを求められるが、これはPanic Buttonが悩みつつも品質を優先した結果ということなのだろう。それでも、効率よく容量を減らす研究は常に続けているそうだ。
Panic Buttonは、Nintendo Switchへの移植については「素晴らしいゲーム体験を実現できるか」という点に焦点を当て、高い基準を持って取り組んでいるという。そのゲーム体験には、大きなテレビでも本体の小さなディスプレイでもプレイできるという、ほかのコンソールとは大きく異なる特徴や、スペックや解像度、フレームレートなどの要素も絡んでくる。移植作業はいつも大きな挑戦になるが、メーカーや任天堂からの手厚いサポートを得ながら、このプラットフォームにて特別な作品にするべく取り組んでいるそうだ。
AMAではこのほかに、スタジオの1日のスケジュールについてや、お気に入りのゲーム、またリアルPanic Button(緊急通報ボタン)を作ってスタッフの椅子に仕込むイタズラをしたら、怒って捨てられたエピソードなどが語られている。さらに詳細は伏せられていたものの、さらなるNintendo Switch向け移植に関わっていることを示唆していたり、同ハード向けのオリジナルタイトルのリリースを検討していることを漏らすなど、さまざまな話が飛び出している。興味のある方はRedditをチェックしてみてはいかがだろうか。