Valveが中国向けに「Steam China」を提供へ。中国政府による検閲済みタイトルのみを販売、中国ユーザーは従来のSteamも利用可能か
Steamを運営するValveは6月12日、中国の大手ゲーム会社Perfect World(完美世界)と提携し、中国国内向けに「Steam China」を提供するための作業を開始すると発表した。Steam Chinaはいわば中国版Steamで、いまあるSteamと同じようにゲームやほかのエンターテイメント作品を提供する。
両社は、『Dota 2』や『Counter-Strike: Global Offensive』の中国国内での展開において2012年から提携関係にあり、今回発表したSteam Chinaでも、そのローンチのプロモーションやマーケティング、またラインナップするゲームについて密に協力していくとしている。なお、今回の発表を受ける形で、現在世界中で提供されているSteamの運営やサービスについて何か変更がおこなわれるということは無いとのことだ(Steam Database)。
Steamはこれまでも中国国内から利用できたが、いわば“グレー”な状態にあった。というのも、中国でゲームをリリースするためには、政府機関によるいわゆる検閲を受けなければならないが、現在Steamで販売されているゲームは基本的に検閲を受けていないからだ。PS4やXbox Oneといったコンソールではこの検閲が厳格に適用されており、人気作であっても中国国内では発売できない例が出ている。Steamでは、歴史ストラテジーゲーム『Hearts of Iron IV』が、中国の関係機関からの求めに応じて中国向けの販売を停止したように、いまは個々のケースについて対応がおこなわれているだけだが、厳格に法を適用し、中国国内からSteamへのアクセスが完全に遮断されてしまうことは、いつ起こってもおかしくない状況にある。
たとえば昨年12月には、中国国内からSteamコミュニティへのアクセスが遮断されたことが話題となった(関連記事)。Steamコミュニティは、ユーザーのプロフィールや掲示板など「www.steamcommunity.com」から始まるURLのページのことで、アクセスの遮断は現在も続いている。熱心なユーザーはVPNなどを使い回避し、またストアページはブロックされておらずゲームの購入やプレイには支障がないため、さほど大きな影響はないようだが、中国政府のSteamに対するスタンスが垣間見えた出来事であった。今回発表されたSteam Chinaは、こういった問題に対処することが目的のひとつであると考えられる。
また、中国国内ではIT大手Tencent(騰訊)が運営するゲーム配信プラットフォームWeGameが成長を続けている。海外企業が中国で“正規に”ゲームをリリースするには、国内企業との提携はほぼ必須な状態で、こうしたライバルを前に強固な体制を整える意味もあったのかもしれない。そして、Steam Chinaが検閲を通過したゲームのみをラインナップするのであれば、いまあるSteamとは別に用意した方が分かりやすい。
今回の発表を受けた中国のゲーマーは、特に歓迎一色になるわけでもなく拒否するでもなく、さまざまな議論がおこなわれている(A9VG)。というのも、どのようなサービスが提供されるのかなど、まだ分からないことが多いからだ。そんな中、アメリカと中国に拠点を持ち、アクションRPG『My Time At Portia』などを手がけるインディースタジオPathea Gamesが、Steam ChinaについてValveから受けた説明をWeibo(微博、中国向けSNS)に投稿しており、中国メディアGamerSkyなどが報じている(投稿は現在は削除済み)。
それによると、Steam Chinaはあくまで中国向けの“もうひとつのSteamストア”であり、中国国内のユーザーは今後も従来のSteamにアクセスでき、ライブラリに保有しているゲームもプレイできるとのこと(ただしゲームに何か変更が加えられた場合は、その限りではないとも)。ユーザーは同じSteam IDで両方のストアを利用できる。そして、Steam Chinaにラインナップされるゲームは、政府の検閲を受けたもののみとなるそうだ。なおゲームの売り上げは、Steam Chinaでのものあっても国外のSteamと分け隔てることなくカウントされるという。つまり、たとえばストアの売り上げ上位ランキングへの中国国内ユーザーの影響力には変化はないということである。
投稿ではそのほか、もし世界中で大ヒットしたゲームが検閲によってSteam Chinaでリリースできないとなった場合、中国ユーザーをSteamからSteam Chinaに誘導することは困難になってしまうかもしれない、というValveスタッフの不安の声も伝えられていた。Pathea Gamesは開発者の立場として、Steam Chinaはまだ分からないことだらけのため、実際にローンチするまで様子を見ることになるだろうと述べている。
開発者の立場からは、巨大マーケットである中国でのSteam Chinaの設立は大きなトピックで、その行方には目が離せないことだろう。一方ユーザーの目線でいうと、たとえば同じゲームのSteam版とSteam China版はオンラインでマッチングするのか、といったことが気になるところだろうか。Steam Chinaのローンチ時期はまだ示されていないが、中国国内外にどのような影響を与えることになるのか目が離せない。