『Royals』レビュー 『Threes!』の作者がつくった王国建設ゲーム(箱・説明書なし)
『Royals』は中世で王国建設を目指すローグライクだ。それと平行し、なくした説明書を探すゲームでもある。ゲームショップで箱・説明書なしのファミコンソフトを購入した経験のあるゲーマーは挑戦されたし。このプレイ体験は、公式サイトが強烈なコピーライトで集約している。
“an old forgotten game from your youth. you can’t find the manual.”
(持っていることをすっかり忘れていた古いゲーム。説明書はみつからない)
『Royals』
開発: Asher Vollmer
発売日: 2015/04/30
価格: 無料(ドネーションウェア。推奨寄贈額 2ドル)
プラットフォーム:PC(Windows, Mac)
開発者の代表作はパズル『Threes!』だ。クローン作『2048』の影にかくれた感じもあったが、2014年Apple Design Award受賞など評価は高い。現在はリアルタイムストラテジー『Close Castles』(PS4)を開発中で、そのかたわら、2週間で本作『Royals』を開発した。公式ブログで開発コンセプトを次のように述べている。
“遊びやすいゲームをつくるのは時間がかかるので、遊びにくいゲームをつくることにした。いにしえの作品という見栄えは、遊びやすさの問題を文字通り解決した”
練磨に時間をかけた『Threes!』『Close Castles』と逆のコンセプトだ。だが、言葉にしたとおり、遊びやすさの問題を放置したわけではない。本作はその見栄えの工夫で、遊びにくさを遊ぶメタゲームにした。
まるで古典の名作
本作はターン制のローグライクだ。つつましい農家で育った主人公が12歳で人生の可能性にめざめるところからはじまる。この地を支配する王族から領土を切り取り自分の国をつくるのがプレイの目標だ。タイトル画面で「楽観的農民シミュレーター」とあるが、これは、リアリティを割愛し、各パラメータの変動にぶれがないルールとする方便と受け取ればよい。
リアリティの割愛は見た目にもおよぶ。白黒2色の低解像度。BGMはなく、効果音もチップ音源。このチープなビデオ要素に、マウス非対応のアローキーとZ・Xキーによる操作があいまって、ビデオゲームが「コンピュータゲーム」と呼ばれていた時代を想起する。
しかし中身は小さいながらも高濃度だ。ゲーム勝利の手段は複数あり計画をたてやすい。王族の妨害は容赦なく寿命を削り取り、運にゆだねた要素もある。限られた命を、延命と王国建設に割り振るのは難しいが、ルールが強固で行動と結果に納得がいく。
本作の特徴は、その強固なルールがゲーム内で詳細に説明されていない点だ。説明書に記されてるかもしれないが、冒頭で紹介したとおり、説明書はみつからない。ゆえにプレイヤーはローグライク王国建設ゲームと同時に、存在しない説明書を探すゲームもプレイすることになる。
説明書を探すゲーム
説明書は大事だ。操作法やゲーム展開を説明し、プレイヤーがゲームの魅力に到達するまでの道筋をつくる。また、イラストを交えた背景の提示など、没入感の土台づくりにも役立つ。
当然、説明書が機能せず評価をさげる作品もある。スクウェアが2002年に発売した『アンリミテッド:サガ』(以下、アンサガ)がまさにそれで、操作法と独自の要素を説明書で紹介しきれなかったため、評価を大きく落とした。しかし、プレイヤーみずからで操作法や要素を発見する感動が、説明書を探すゲームとして成立し、ごく一部の根強いファンを持つ。ここで説明書からの言葉を引用する。
“「なにかあるかな?」と思ったら、メニューからスキルを選んで”アクション”を試してみましょう。そのほかにも、キャラクターによっては状況を突破できるスキルを持っているかもしれません。あきらめないことが肝心です。”
(取扱説明書13ページより転載)
つまり、説明書探しとは試行錯誤だ。この手法は、労力に見合う魅力がなければ意欲を維持できない。『アンサガ』は、水彩画がそのまま動くかのようなOPムービーをはじめ、ビジュアル・音楽・キャラクターといった、ゲーム設計外の部分で試行錯誤の意欲をおぎなった。
本作『Royals』はその説明書探しをゲーム設計に内包した。寿命という制限時間がプレイを短時間にし、リプレイを容易にする。また、小さく強固なルールは、存在しない説明書を簡潔にするのに役立っている。
わかる楽しさ
『Royals』は厳密なルールを持つローグライクで、存在しない説明書を探すメタゲームでもある。冒頭で紹介した開発者コメントの「遊びやすさの問題の解決法」とは、遊びにくさを遊ぶゲーム、言い換えると、遊びやすく、遊びにくさを調整したゲームだ。小さく強固なルールと、いにしえのゲームという見栄えでメタゲームへの誘導を仕掛け、試行錯誤という苦痛を、プレイヤーみずからが発見する感動に転換している。
本作の試行錯誤は人を選ぶが、手応えある小さなゲームを探しているなら、手に取ってほしい。また、上記したメタゲームを実際に体験したゲーマー ――たとえば、昔のゲームの不親切さを「レゲー風味」と楽しんだゲーマー ――も手に取ってほしい。ここに、本作の販売形態がドネーションウェアであることも付け加えておく。価値があるとしたときに任意の利用料を開発者に寄附する形態だ。本稿で興味を持たれたなら、まずは無料で体験されたし。『Threes!』のクローン作『2048』のように、ゲーム中に広告画面がでることもないので安心していただきたい。