ただし”侵略側”な『X-Morph: Defense』紹介。文明を徹底的に破壊し尽くすタワーディフェンス&シューティング
物語の出だしはこうだ。宇宙空間を横切る巨大隕石。そこで何かが目覚めた。その意識に迷いはなく、ルーチンワークと化した惑星侵略の手はずにとりかかる。星系をスキャンし、エネルギーや資源などさまざまな要因から候補を絞っていった。侵略目標は青く輝く惑星だ。巨大隕石から目覚めた何かは、破壊の尖兵「ハーベスタコア」を現地生物の主要地に撃ち込んでいく……。(日本語字幕付き)
SF映画のプロローグを想起させるデモシーンのとおり、『X-Morph: Defense』は地球を侵略するエイリアンと、滅亡の危機に立たされた人類が戦うゲームである。重力どころかダークマターすらあやつる技術力のエイリアンを相手に、人類は団結と数、具体的には戦車や戦闘機をこれでもか、これでもかと送り込んでくる。さらには、もっと巨大な兵器も。「タランチュラMk.Vを起動せよ! 我々が敗北すれば、民間人が避難することさえ不可能になる!」
ギラギラした光沢にトゲトゲしいデザインの異星メカ。現代兵器の延長にあるミリタリー色が強い人類軍兵器。これらの大激突に、安直だがマイケル・ベイ監督「トランスフォーマー」シリーズを想起してしまった。うれしいことに本作は、その印象を裏切ることなく街を破壊の渦に巻き込んでくれるのだ。地球侵略戦争と都市の破壊描写は相性抜群で、文明への暴力を心ゆくまで堪能できることを保障しよう。ストーリーは、まあ、毎度おなじみのSF戦争モノだが―― ただひとつ、いつもと様子がちがう。プレイヤーが操作するのは人類軍ではなく、エイリアン「エックス・モーフ」なのである。
人類文明のゴア表現
『X-Morph: Defense』はツインスティックシューティングと、タワーディフェンスを融合したハイブリッドジャンルだ。プレイヤーはたった1体のエイリアン戦闘機(以下、自機)で、マップ中央のハーベスタコア(以下、コア)を、人類の猛攻から守り抜く。タワーディフェンスといえば、限られた資源で効率良く砲台を配置して―― という印象はひとまず忘れてもらおう。ゲームパッドで操作でき、攻撃判定も大きく、バリバリの爽快感を味わえるシューティングだと思って触れてほしい。
まずはコアに群がる警察の車と報道ヘリを蹴散らしてみよう。脅威を感じ取った敵は、ヘリで自機を攻撃しつつ、バギーをコアにさしむける。弊誌読者なら、地上と空中の同時攻撃にも問題なく対処できるはずだ。やがて敵地上部隊に戦車が加わり、戦闘は白熱しはじめる。戦車の破壊に時間がかかる自機の火力では、四方から迫る敵をすべて対処できない。そこでおまちかね、砲台の出番である。
コアを取り囲む砲台の要塞に、敵は波状攻撃で攻略しようとする。この攻撃の波(以下、ウェーブ)が終わった後は、プレイヤーが開始ボタンを押すまでインターバル時間になる。このあいだに砲台を設置し、敵の進軍ルートを迎え撃つ準備を整えよう。ウェーブの強さは増す一方で圧倒されそうになる。ならば、こちらは頭脳で応戦するしかない。砲台同士をレーザーフェンス(以下、フェンス)でつなげば、道路をふさいで敵を遠回りさせることができる。遠回りさせたぶんだけ、砲台や自機で攻撃する時間を稼げるということだ。
本作最大の特色は、敵すなわち人類軍がリアルタイムで進軍ルートを見つける点にある。ヘリが墜落し森が焼ければ、なんと、そこをバギーで通過してしまうのである。建物の倒壊や橋の崩壊で、街の景観とともに進軍ルートは刻々と変化していく。また、序盤ステージから早々に、爆撃機や砲撃車両で地上砲台を破壊して防衛網を破ろうとする。ロシア兵にいたっては、フェンスをすり抜けて強行突破してしまう。かつてない強敵として現れた「人類」の利口さは、この手のジャンルを痛食してきたプレイヤーでも苦戦に引きずり込むだろう。こざかしい現地生物め!
本作のもうひとつの特徴は、戦闘で火を噴き壊れゆく都市にある。リアルタイム進軍ルートと密接にリンクした都市の破壊は、過去の「街壊しゲーム」と一線を画す見栄えだ。プレイヤーの操作ひとつひとつが、都市になにかしらの影響をあたえていくし、その見栄えも生々しい。ハリウッド映画で見慣れた光景ではあるが、敵の猛攻がやんだ時に、ふと気付かされるだろう。半壊した建物の中身や、巨大なガレキは、コンクリートを通じた人類文明のゴア表現なのだと。
それはゾンビ、ロボット、モンスターでは醸し出せない悲痛感に満ちているし、他人がつくった積み木を崩す「趣味の悪さ」をひそかに楽しむ自分がいる。メーカー独自開発の「Schmetterling Engine」が謳う“完全に破壊可能な環境”は、誇張抜きでプレイヤーの想像通りに壊れ、リアルでは味わえないファンタジーとして映画的表現の域に到達している。
破壊衝動の赴くまま、敵ルートをスクラップ&ビルドせよ
『X-Morph: Defense』で繰り広げられる猛攻と、エイリアン襲来という災害を見事に描いた独自開発エンジンは、トレイラー動画やスクリーンショットを見ていただいたとおりだ。もしこの災害が我が身に降りかからず対岸の火事を眺めるだけとなれば、エイリアン側や人類側の事情が他人事になり、「勝手に戦え!」の印象で終わってしまうだろう。もちろんこれはゲームであり、とっておきの特等席がゲームシステムで用意してある。
まず、自機がむちゃくちゃに強い。ボタンひとつで完全無敵の「ゴーストモード」になれるのだ。ショット攻撃こそできないが、敵弾をすり抜け、敵や誘導ミサイルからは不可視になる。さらにこのゴーストモードは砲台操作モードを兼ねている。砲台は設置、移動、回収だけでなく、対地・対空に特化したアップグレードもほどこせるので、無敵のうちにパパッとやってしまおう。ある意味、完全無敵のまま攻撃しているようなものだ。敵は神出鬼没の自機と、突如沸き出す砲台に翻弄されることになる。
敵も負けじと次々に新兵器を投入する。初めのうちは変化に心も躍るが、膨大な敵種類に歓喜の悲鳴をあげることになろう。中でも、周囲の車両を回復しつづける修理車両が厄介だ。ピンポイントで高火力をたたきこみ排除するしかない。ここで自機の通常モードが出番となる。使用回数無制限のチャージショットを狙い撃ち、迅速・正確に撃破すべし。広大なマップに対し自機は1体のみ(分割画面協力プレイでは2体)で、人手というか砲台はぜんぜん足りていない。4種類のショット攻撃を対地・対空と使いわけ、ポテンシャルを引きだそう。
文字通り、迫る敵軍に忙殺されるような印象だが安心してほしい。ウェーブ間のインターバルに時間制限はない。敵ルートとその戦力を見定めて砲台を増設しよう。砲台は移動、回収、ダウングレードといった再配置や、敵に破壊されても、コストがまるまる返ってくる。だから、最悪、砲台網をイチから再設計してもよい。コアが破壊されても前回のインターバルからリトライできるので、対策を立てやすい。
ステージの基本構成は、敵ウェーブの撃退とインターバルの繰り返しである。その難度は実に心憎い調整がほどこされており、プレイヤーが慣れる直前で新要素を投入してくるから面白い。やはり人類は敵に回すと恐ろしい。有効打を探して戦略を模索しつづける、諦めの悪さが最大の武器であろう。その極めつけが最終ウェーブで投入される最終兵器である。
多脚戦車、超重戦車、弩級爆撃機といったボス戦の「おもてなし」は、街を守るという枷が外されたものばかりだ。人類よ、それをいったい何に使うつもりだったのか? そして、完全に破壊可能な環境は、無駄なく完全に破壊し尽くされるのである。これにはエイリアンも大喜び。本作が用意したとっておきの特等席とは、ズバリ、街を破壊しまくるディザスタームービーの監督が座るイスなのだ。
監督不在のディザスタームービー
さて。最初のチュートリアル以降は1つのステージクリアに1時間ほどかかるなど、全14ステージもある『X-Morph: Defense』は、とてもヘビーなゲームだ。量の面でもだが、人類の猛攻をしのぐギリギリの状況がつづき、質の面でも重い。一度ゲームパッドを握ってしまえば怒濤のプレイ展開にのめり込んでしまうが、ふたたびゲームパッドを握るには、かなりのやる気量を必要とする。
これは“難しいのは分かっているが、それでもプレイしてしまう”の、「それでも」が乏しいことを意味している。ゲームに質と量はあるのだが変調がなく、堅実というより堅物、有り体にいえば真面目すぎるのである。エイリアンや人類軍にマヌケな面はなく、バカが話を引っかき回すことはない。報道規制も行き届いており民間人が戦渦に巻き込まれることもない。三文芝居にいらつかされないものの、笑いどころという緊張の逃がし先がまったくないのである。
B級映画調にしてほしいという嗜好から出た願望ではない。本作のストーリーにプロットがないことが不満なのだ。ステージをクリアしても物語上の変化はなく、人類が劣勢に追い込まれていくだけというのは、話のつづきにワクワクできない。ああ、たしかに、地球を侵略する側で物語を扱うのは難しい。しかし、いくつかのゲームはすばらしいストーリーを紡ぎだしている。本作に近いテーマなら、近未来SF戦争RTS『Command & Conquer 3』が好例となろう。
では、前章で紹介したとおり「ディザスタームービー」を楽しむゲームだとすればどうか。豪華な破壊演出と、破壊を楽しむゲーム性は見事にマッチしており、ジオラマは映画級だ。しかし、カメラワークがツインスティックシューティングに捕らわれている。都市の破壊を上空からのトップビューだけでなく、等身大に近い視点でも楽しみたかったのが正直な感想だ。世界を震撼させたテロ事件の影響からか高層建造物の崩壊を自主規制しており、世界各地を回るワリにはランドマークぶっ壊しツアーでもない。結局、プレイヤーが見たいと思うような破壊シーンは、怪獣映画で免疫がついた日本ステージ(最終ステージ)までおあずけになる。
破壊表現にこだわった独自エンジンを開発した本作が、物語体験の不足という高い壁を壊せなかったのは、なんとも皮肉な話である。だが「むちゃくちゃ楽しいタワーディフェンスを教えてくれ」と問われたなら、間違いなく『X-Morph: Defense』が筆頭だ。今年豊作のシューティングジャンルで見ても、5本の指に本作を推す。ギリギリの砲台数でフェンスを敷くタワーディフェンスの計画と、リアルタイム進軍ルートに対処するシューティングの実行。このふたつのジャンルを失敗箇所の確認と分析が結びつけ、快適なリトライが強固なPDCAサイクルを生み出した。そして、敵の最終兵器が審判をくだし、大爆発で終焉を迎える。これで夢中にならないワケがない。