Inspired by Bushido Bladeだって?すぐそれ。昔のタイトルを持ち出せばゲーマーが喜ぶとでも思っている。『ブシドーブレード』ってのは、もっとこう、サツバツとして、蛍火ロングソードで……」。こう斜に構える筆者は、きっと懐古アピールのキャッチコピーに疲れていたのだろう。未プレイのままで断じてはならないと自らをいましめ、『Slice, Dice & Rice』の世界に飛び込むことにした。そしてどっぷりと堪能した。結論から言えば、本作は2D格闘ゲームのエッセンスがたっぷりと詰まっている。光かどうかと問われると、まちがいなく闇なのだが、格闘ゲーマーがスラングでいう「ゆがみ」が深いコクを加え、「濁り」は旨味に昇華されている。この際だ、ハッキリ言おう。本作のキャラクターは全員「動かしていて楽しい」のだ。筆者はオフラインパーティに持参し、友人とアレなこのゲームを共有するつもりでいる。この覚めやらぬ興奮を弊誌読者へ伝えさせていただこう。

『Slice, Dice & Rice』
開発元: DojoGames
発売日: 2017年4月28日
価格: 9.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows)

 

まずは見た目について。格闘ゲームにおいてフレーバーはモチベーションの大部分を占める。格闘ゲームのゴア表現といえば、『サムライスピリッツ』と『モータルコンバット』の名があがるが、本作は新たな境地を開拓している。生々しさではなくアメコミ調のペン画を採用し、一撃死という過激なコンセプトをひきたてている。白黒のハイコントラストに、剣撃の火花や血しぶきが彩りを加え、長たらしい演出カットをもちいず死合いの結末をうったえている。ハイテンポのゲーム展開とマッチし、演出でストレスを感じることはない。

画面背景もエキゾチック・ファンタジーというべき神秘の世界を見事に描く。中国風の建造物や、「仁義」「夢」と書かれたノボリなど。メタフィクションと化した勘違いニッポン像をもって、作り手と受け手をシンパシーでつないでいる。地獄ステージで登場するボスに、夜魔ではなく「山」と漢字をつける高品質ぶりである。和風ゲームで定番の和ロックも聴き応えがある。生身のまま刃物を振り回しあう異様な場景に、映像とBGMの両面で説得力を与えている。

「おまえのことは知っているぞ、お前の名もだ。オダ・ノブナガ!」ノブナガが魔王なのは、もはや世界の常識である。

キャラクターは8体。それぞれ個性が強く、数の不足は感じない。モデルやアニメーションだけでなくストーリーも充実しており、エンシェント・パワー・オブ・ライス(お米の力)を巡る屍山血河の因縁が、ヴィジュアルに負けないバックボーンを生みだしている。日本産のフルプライスタイトルと比べれば見劣りはするものの、アートワークやフレーバー面に関しては卒や粗がなく好印象だ。開発の意気込みがひしひしと伝わり、一撃死というコンセプトにも注力したのだろうと期待を抱いてしまった。そう、期待を抱いてしまったのだ。

ストーリーモードは1キャラクリアすると次のキャラがアンロックされる。全8章のなかに中間デモや試合前の会話がはいり、キャラクターの相関図が明らかとなっていく。物語の焦点は「ライス」に秘められしパワーだ。ライスは知、ライスは力。そしてYokaiとは、kamiとは、yamaとは?

 

当たると死ぬから必殺技

実のところ、今日の格闘ゲームにおいて、画面端でダウンを取られ一生起き上がれずに死ぬ「結果的に一撃死」はありふれたものである。勝利に直結するセットプレイは攻防において重要なポイントであり、そこにいたるまでの過程をさまざまな要素から組み立てていく。ダウン状況、画面端、ゲージ、ひいては勝敗を分ける体力や残りタイム。しかし、『Slice, Dice & Rice』は一撃死の名のもとに、ほとんどすべての要素を投げ捨ててしまった。同じく一撃死をコンセプトとする『Divekick』では、ゲージ状況やヘッドショットといったラウンド持ち越しの要素がある。『Nidhogg』ではプレイヤーの生死を、ゴールへの到達を競い合う過程とした。そうした、勝利のために築き上げる「ポイント」が本作にはないのだ。

システムを操作面から見てみよう。オーソドックスな2D格闘ゲームで、移動は歩き、ジャンプ、ステップ&バックステップ(空中可)。ボタンは横斬り、縦斬り、弾き、強斬り(弾き不可)。特徴はガードができない点と、攻撃が当たれば死ぬ点だ。厳密には一撃死ではなく、浅く入ったときは非表示のライフが削られる。時間経過で回復するが、大体当たれば死ぬので非表示でも困らない。要点は、攻撃を「弾き」で受けると相手の攻撃をそらして有利フレームをつくる点にある。

本作唯一の表示された優位状況が、画面下の「鰻」である。致死状況がせまるとき、一度だけスローモーションになる。先に攻撃すれば相手の鰻を消せるが、受ける側に弾きやスカ確といった選択肢をあたえることになる。なお鰻は両者離れると両者ともに回復する。「真の鰻を成し遂げたとき、降りかかるあらゆる危険に備えがができている」(ヒント集より)

弾きの有利フレームは反撃が確定しない程度に短いので、攻防は次のものとなる。こちらの反撃を弾こうとする相手の目論見をずらすべく「遅らせ」て攻撃するか、遅らせ弾きを読んで最速で攻撃するか。ディープなレベルになるとジャンプ回避も加わってくる。地上横斬りをジャンプでスカす、そしてスカ確狙いのジャンプを地上縦斬りで狩る。ここに駆け引きがあるように見えるのだが、実はバックステップが安定行動だ。発生完全無敵で硬直も短い。これは本作のヒントにも書いてある「推奨行動」である。

バックステップずるい!弾きとかいらんかったんや!このバックステップ対策が本作の最初の壁となろう。

たしかに、攻撃は当たると大体死ぬので強い。ならば防御行動も強くなければ釣合いが取れないということか。その結果、弾き入力後最速バックステップが鉄板行動になってしまった。バックステップすることによって画面端までの距離が縮まるが、両者ともに一発当たれば死ぬ攻撃を振り回すため、位置の不利がさほど苦にならない。ここまでバックステップの防御面が強いゲームは、筆者が知るかぎりわずかである。格闘ゲームにさといゲーマーなら、ものの2分でシステムの「底」を目にしてしまうだろう。残念ながら、それは早計ではない。本作においてバックステップは絶対の行動なのだ。いいからバクステを擦れ!

 

クソ(つよい)技

筆者のセンサーが異常を検出したのは、ストーリーモードで3人目のキャラクターを始めたときである。背丈より長い大剣を振るう、ビキニアーマーの女性Yoketsu。もっちりとした肉付きだがさすがに武器が重すぎるようで、とにかく攻撃判定の発生が遅い。ゲームになるのか疑わしいと思った矢先に「事故」が起きた。初プレイ時を録音していたので、発した言葉をそのままつづろう。「こいつ、ガーポ持っとるやんけ!」

このガードポイント。なんと、入力して即座に発生するのだ。弾きと同じ要領で使えるどころか、相手の技は最後まで出てしまうから有利が取れる。見てからガードポイント余裕でした。

ガードポイントとは相手の攻撃を受け流す判定である。何と、このキャラクターだけガードを持っているのだ。それどころかガードをしながら攻撃できるのだ。なんかテキトーに技を振ってたら、相手の攻撃をカチカチ防ぎながらコッチの攻撃が当たって相手が死んだ。「あああーもうーガーポ擦っとけーー!やったーーありがとなーーー!」さらに、本作は攻撃フレームのいろいろなところで弾きやステップのキャンセルがかかるのだが、ガードポイント技もステップキャンセルできる。それどころか、ガードポイントのフレームが出た後に前ステップを入力すると、相手の攻撃をガードしつつ接近できるのだ。前ステップにガードが仕込めるゲームは、筆者が知る限りわずかである。さらに、Yoketsuの弾きには当てて有利フレームが取れる打撃判定がなぜか付いている。結果、ガード仕込みステップで接近し最速パンチするキャラになってしまった。こうなると、システムもへったくれもない。

なんでおまえ柄で殴ってるの? しかも技を弾くし、こんなん擦り得やん!

この体験が『Slice, Dice & Rice』に対する印象を大きく変えた。すべてのキャラクターが何かしら壊れた技をもっているのだ。パワフルで、そしてやんちゃな技の数々をもって、システムの奴隷になるのを拒んでいた。こうした、システムを無視する技のことを本稿ではクソ(つよい)技と呼ぶことにしよう。「ウソやろオマエ」と声をあげてしまうような事故で強さが明らかとなるのだが、実は事故が起こるべくして起きている。仕掛けはストーリーモードの後半にある。CPUに「ライフが数人分ある」という強化がつき、数発連続で当てるか強攻撃を当てないと死なないのだ。相手が普通のライフなら大体当たれば死ぬので勝因に気付きにくい。理不尽な状況を打開する「つよいオブつよい」がクソ(つよい)技となるワケだ。

Yamaだから人間より丈夫。常人なら2回分殺せるダメージでもびくともしない。これが、超高難度CPUを相手にするスパーリングと同様、プレイスキルをメキメキとあげてくれる。一応、ジェネラルよりはマシ。血が出るなら殺せるはず。

スウェーバックしてから踏み込む弾き不能の強斬り。自動反撃からコンボに移行できる弾き。おっと、これ以上は読者自身に体験してもらうことにしよう。ライフ数人分のCPUというむちゃくちゃな状況ゆえに、クソ(つよい)技がストーリーモード攻略の中心となり、そしてクソ(つよい)技そのものをもって攻防の駆け引きが見えてくる。システムの底はゲームの底ではなかった。その次元をはるかに上回るキャラパワーで戦っていたのだ。他の格闘ゲームなら即レッドカードの技がぶつかりあう、まさにそのとき。プレイヤーの脳は新しいものへの興奮で活性化する。一番近いのは、異文化体験で日常感覚がゆさぶれらる、カルチャーショックのそれであろう。

 

オンラインプレイがない欠陥?

本作で真っ先に上がる批評点は、対戦ゲームであるにもかかわらずネット対戦がない点だ。対戦ゲームなのに他のプレイヤーと競い合えないなんて論外である。いや、ちょっと待ってほしい。プレイヤー同士の対戦要素を切り捨てたワケではない。オフライン対戦はあるのだ。この仕様は対戦機会の損失というデメリットこそ大きいが、本作の特異なプレイ体験を守るのに一役買っている。

前章のとおりシステムを上回る強烈なクソ(つよい)技が多数あり、自分で振り回す分には最高に楽しい。しかし、相手に振り回されると、めまい、吐き気、頭痛、最悪の場合は死に至る。率直に言えば、本作の雑なバランスは赤の他人と対戦できるものではないし、ストーリーモードで高次元の攻防を学ばなければ「底の浅いゲーム」という印象で終わってしまうだろう。ネット対戦できないことで、「他人から与えられる不快」が「ゲームから与えられる不快」になるのを未然に防ぐかたちとなった。惜しいのは、これが狙ったものではなく、開発元の技術力不足がたまたま幸運をもたらした、というところなのだが。

shinigamiの昇り縦切り。ジャンプで地上横切りをスカし、上から弧を描くように大鎌を振るので空対空も取れる。さらに、弾かれても空中バクステでオッケー。自分で振り回す分には相当エンジョイできる技だ。

ネット対戦が未実装の他にも、粗だと感じた部分がいくつかある。1マッチが短いわりに、リマッチやコンティニューのたびにローディングが入るのは減点だ。特に、ストーリーモードはハンデ戦なので何度もコンティニューする羽目となる。スピーディかつ濃厚な駆け引きで高まったモチベーションに水を差してしまう。次に、黙ったまま攻撃するのは殺風景な雰囲気が出ているもののケレン味に乏しい。ガードがないため画面の凝視を強いられるという点でも、聴覚のサポートがあればよかった。「ソイヤッ!」「ワッショイ!」と奇天烈な怒号も少しばかりあれば、本作の勘違いニッポン像をエンターテインメントで補強できただろう。試合終了時に勝利ポーズがないのも、ファンタスティックなクソ(つよい)技合戦という画竜に最後の点睛を欠く。この点はもうすこしサービス精神を出してほしかった。

 

今よりもっとテキトーで大らかだった時代の真剣勝負

『Slice, Dice & Rice』はアートワークやフレーバーこそ備わっているものの、2分もプレイすれば「底」が見えてしまう雑な対戦システムが影を落とす。一撃死というコンセプトは、格闘ゲームのシーンがこれまで築き上げたゲームメイクの構造を更地に変え、あらゆる駆け引きは絶滅したかに見えた。だが、キャラクターは死滅していなかった! システムという鎖から解き放たれたクソ(つよい)技を振り回し、格ゲー事故を狙うプレイフィールをもって、「動かしていて楽しいキャラクター」が元気に生きている―― たしかに、はた目から見ればいびつな楽しみかたに見えるかもしれない。しかし、メインストリームから外れた格闘ゲームでも、そこにある高度な「駆け引き」を楽しむプレイヤーがいるのは、今日のゲーム実況で周知であろう。

刃物だらけのなか徒手空拳で戦う坊主Benkei。渾身の強攻撃で相手は爆発四散!

本作は格闘ゲーマーの生命力、それも、ペンペン草も生えないような荒れ地でも生き延びる強靱な生命力を信頼している――のだと好意的に解釈していこう。プレイヤーポイントやバトルポイント、称号のためではなく、ゲームが好きだからプレイしている格闘ゲーマーに贈る、新種のそしてちょっと懐かしい驚きに満ちた2D格闘ゲームだ。深い駆け引きとテキトーに押したボタンがぶつかる格ゲー事故で、脳内麻薬がドバドバ出ることを保障しよう。毎日だとクソ(つよい)技中毒になり健康を害するが、ほどほどにたしなむなら格ゲーライフに彩りを加えてくれるだろう。