『The Witcher 3』から生まれた
『グウェント』日本上陸、運に頼らないカードゲームの心理戦
『The Witcher 3: Wild Hunt』を手がけるCD Projekt RED(以下、CDPR)は、同作にミニゲームとして収録されたカードゲームのスタンドアロン版『Gwent: The Witcher Card Game』(グウェント ウィッチャーカードゲーム)を、日本向けに配信すると発表した。配信日は近日公開予定だという。今回、AUTOMATONではプレスツアーで来日したプロダクトディレクターJakub Kowalski氏と、CDPRジャパン・カントリーマネージャーを務める本間覚氏にインタビューを実施。一足先に日本語版をプレイすると同時に、『The Witcher 3: Wild Hunt』の収録内容との違いや競合カードゲームにはない同作の魅力など、同類の作品が乱立する今だからこそ伝えたい差別化について質問した。
※本稿にて執筆されているのは開発中のバージョンに基づいた内容となっております(編集部注釈)。
スタンドアロン版にいたる経緯とゲーム内容
「Gwent」とは、2015年に発売されたアクションRPG『The Witcher 3: Wild Hunt』(以下、The Witcher 3)の作中にミニゲームとして登場するコレクタブルカードゲームだ。昨年の「E3 2016」にて、基本プレイ無料タイトルとしてスタンドアロン版『Gwent: The Witcher Card Game』(以下、Gwent)が、Microsoft Windows・PlayStation 4・Xbox One向けに発表された。現在は一部のユーザーを対象にクローズドベータテストを実施している。運よりもプレイヤースキルが勝敗に大きく影響するゲームルールが特徴で、『The Witcher 3: Wild Hunt』では「Gwent」のみをプレイできるようにするModがファンによって作られるほど多くのプレイヤーに愛された。その需要に応えてスタンドアロン版の開発にいたったという経緯がある。
近年のデジタルカードゲームには珍しく3ラウンド制のルールで、プレイヤーキャラクターの体力という概念はない。近接・間接・攻城からなるボード上に、より大きな戦力を展開したプレイヤーがラウンドを制し、2本先取した方の勝ちとなる。また、基本的にターン毎のカードドローはないため、試合開始時に配られた手札の配分が勝利の鍵を握る。各ラウンドは両者がパスした時点で終了。重要なのは、いかに相手のリソースを消費させ、どこで勝負をおりるか。カードの組み合わせと使用タイミングによる戦略はもちろん、勝つためにはポーカーのようなブラフが求められる。そのため、運の要素はほとんどない。まさにプレイヤースキルがものを言うゲームなのだ。
『Gwent』の課金要素について補足すると、本作には有料もしくはゲーム内通貨で購入できるカードパックのほかに、カード裏面のデザインやアニメーション付きのプレミアムカードといったアバターアイテムが存在する。同様にゲームボードのカスタマイズも可能となる予定だ。また、正式ローンチ後はシングルプレイキャンペーンモードの実装を予定しており、エピソード形式で個別に有料配信される。『The Witcher』の世界を舞台に、新旧さまざまなキャラクターが登場する新たな物語が描かれる。
本作のカードはコモン・レア・エピック・レジェンダリーのレアリティに分類されており、1つのカードパックから手に入るカードは5枚。そのうち1枚はレアリティが「レア」以上の3つの候補から自分で好きなものを選択できる。自分で選べるという点が他のゲームと少し異なる。ベータ版である現在はおよそ300枚のカードが存在する。正式ローンチ後は定期的な拡張コンテンツが予定されており、毎回100種類以上の新カードが登場していく。ちなみにデッキビルドにおける同種カードの使用枚数はブロンズが3枚、シルバーとゴールドが1枚ずつに制限されている。重複して手に入った不要カードは「紙片」と呼ばれる専用通貨に分解することで、それを消費して特定カードをクラフトできる仕組みだ。
なお、今回の日本展開にあわせて、『Gwent』をPCで起動する際にも必要なプラットフォーム「GOG Galaxy」も部分的にではあるが日本語に対応する。「GOG Galaxy」は、CD Projekt Groupが運営するDRMフリーのオンラインゲーミングプラットフォームGOG.comの専用クライアントで、ゲーム販売やクラウドセーブ、コミュニティ機能といったSteamと同等のサービスをすべて提供している。『Gwent』配信に伴ってインターフェイスが日本語化されることに加えて、GOG.comでも日本語のユーザーサポートに対応するとのこと。
競技性という霊薬で生まれ変わったミニゲーム
――『The Witcher 3』のミニゲーム「Gwent」とスタンドアロン版『Gwent』における最大の違いを教えてください。
Jakub Kowalski:
もっとも異なる点は、デッキビルドの仕組みでしょうね。マルチプレイヤー向けに制限を設けています。2番目に大きな違いは、多くのカードが単に強力というだけでなく、それらに多種多様な効果を持たせていることです。『Gwent』の開発を始めるにあたって、最初のステップは『The Witcher 3』から抜き出したミニゲームに対人モードを追加した後、マルチプレイヤーの環境にどうフィットするかを確認することでした。そこですぐに気が付きました。友達と2人で遊ぶくらいなら十分楽しいけれど、競技性を求める上ではあっという間にマンネリ化してしまうことに。
最強のデッキを作ろうとした時に、方法論が一通りしかないのですから当然ですよね。基本的にヒーローカードやスパイカードをたくさん入れれば勝てる。それだけでした。もともと『The Witcher 3』のミニゲームをこのように単純なデザインにした理由は、ロールプレイングゲームとしての本編で味わえるような、カードデッキが段階を踏んで強力に成長していくプロセスをプレイヤーに体験して欲しかったからなのです。マルチプレイヤー用のゲームとして作り変えるにあたって、そこがもっとも重要なポイントでした。
――『The Witcher』というブランドには長い歴史と独特の世界観があります。そうした作風をカードゲームという形でどのように反映させているのでしょうか。
Jakub Kowalski:
『Gwent』にはシングルプレイキャンペーンがあって、そのシナリオを手がけているのは『The Witcher 3』のシナリオを担当したライターです。そういう意味ではまったく異なるゲームという感覚ではなく、本編の世界観が上手く反映されていると思います。また、プレイヤーに『The Witcher』っぽい雰囲気を味わってもらうために、自由に歩き回れるフィールドを用意しました。基本プレイ無料のゲームにおけるキャンペーンモードとはいえ、現在市場に出回っているものの中で最大級の規模ではないでしょうか。
くわえて、プレイヤーの選択によって結末が変化する仕組みにデザインしています。クエストにおける問題の解決方法とその顛末は、プレイヤーが容易に想像できるほどシンプルではありません。『The Witcher 3』の世界では物事を白か黒ではっきりさせられるわけではなく、すべての選択肢がグレーに描かれているからです。可能な限り『The Witcher』をプレイしていると感じてもらえるようなゲームモードを意識しています。シリーズを未プレイのユーザーはもちろん、ファンタジージャンルそのものに疎い人にも優しい世界観へ入口でありながら、往年のシリーズファンが過去作を思い出せるノスタルジックな内容に仕上がっていることでしょう。
――シングルキャンペーンの目的はゲームルールやオンライン対戦に慣れるためのトレーニングモードというわけではないと。
Jakub Kowalski:
そのとおりです。キャンペーンモードではプレイヤーがオンライン対戦で使っているデッキは使用できず、別にシナリオ専用のカードを含んだセットが用意されています。有料キャンペーンでは、サイドクエストを含めて10時間以上のボリュームを用意させていただく予定で、ゲームプレイよりはむしろナラティブにフォーカスした内容です。別途「ゲラルト」や「シリ」がゲームを解説してくれるチュートリアルを用意しており、決してキャンペーン自体がトレーニングを目的にしているわけではありません。ほとんど別のゲームといってもいいでしょう。また詳しくは話せませんが、キャンペーンモードをプレイすることで受けられるオンライン対戦への恩恵は、少なからず予定しています。
――近年、『Hearthstone』や『The Elder Scrolls: Legends』といった多くのカードゲームが登場していますが、他の作品ともっとも異なる点はどこでしょうか。『グウェント』にしかない魅力について教えてください。
Jakub Kowalski:
『Gwent』は3点において、他のカードゲームと大きく異なります。まず、1試合が3ラウンド制で構成されていること。次に『Hearthstone』におけるマナのような、カードを使用するのに必要なリソースが存在しないこと。最後に、プレイヤーは毎ターンカードを出さなければいけないこと。ほかのCCGでは、カードを出さずにターンをパスして手札を蓄積して後半で一気に放出するようなプレイもできます。本作では必ずカードをきらなければいけないし、1ターンに1枚しか使えません。これらの要素こそが「Gwent」を構成する大原則であり、他にはない魅力だと思います。
――CDPRにとってカードゲームの開発はおそらく初めての試みですよね。カード内容のデザインや全体的なゲームバランスは、どのように調整しているのか教えてください。やはり開発チームにはカードゲームの専門家のような人材もいるのでしょうか。
Jakub Kowalski:
これまでの『The Witcher』シリーズに収録されたミニゲームを除けば、独立コンテンツのスケールとしては確かに初めての挑戦です。ゲームデザイン部門の人間はカードゲームに精通した者ばかりです。彼らはとても勉強熱心で、Playgwent.comやReddit、Discordをとおしてコミュニティの声に常に耳を傾けています。コミュニティと共同でデザインするわけではありませんが、フィードバックと向き合うことに重きを置いているわけです。
統計学に基いた数学モデルもゲームバランスの維持には欠かせません。たとえば、使用できるカードの違いから特定ファクションの勝率だけが上がってしまわないように監視する必要があります。今のところパワーバランスの調整は満足できる結果が出ています。これまででもっとも勝率に差が出たデータでも、最大で「北方諸国」が52パーセント、最小で「スコイア・テル」が48パーセントと、僅かな範囲内に収まっていました。もちろん最終目標はすべてのファクションの勝率が50パーセントに収束することです。まだベータ版の段階(インタビューを実施したのは3月下旬)なので、調整は頻繁に施しています。
――ビジネスモデルについてお聞かせください。今後、スマートフォンやタブレット向けにリリースする予定はありますか。また、将来的にどのような追加コンテンツを展開していく予定なのでしょうか。
Jakub Kowalski:
当初の予定どおりPC・PlayStation 4・Xbox Oneでのリリースが軌道に乗ったらモバイル版も検討したいですが、すべては結果次第なのでいまのところ断言はできません。もちろん究極的なゴールとしては、あらゆるプラットフォームで提供したいという想いはあります。ただ決断には時間がかかるし、いまはその時ではありません。将来的に追加していくコンテンツも、シングルキャンペーンのほかにさまざまなアイデアはありますが、具体的に語るにはまだ時期尚早でしょう。コミュニティの規模が縮小しないように常に何かしらの新コンテンツを追加していくことは必要だと思いますが、まずはローンチを成功に導いてからですね。
――日本以外で展開を予定している地域を教えてください。
Jakub Kowalski:
いまのところ日本語のほかに、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ブラジルポルトガル語、ロシア語、ポーランド語でローカライズ展開していて、すべての言語で吹き替えにも対応しています。『The Witcher 3』のゲーム本編が多くの言語に対応していたのと同様に、『Gwent』も世界中のユーザーにプレイして欲しいと願っています。
本間 覚:
吹き替えについては、『The Witcher 3』本編よりも『Gwent』の方が多くの言語に対応しています。『The Witcher 3』にはイタリア語やスペイン語の吹き替えは収録されませんでしたから。ちなみに他言語については分かりませんが、『Gwent』で日本語の吹き替えを担当している声優さんは、新キャラクターを除いて『The Witcher 3』と同じ人物が担当しています。
――すべてのローカライズはCDPRが自ら手がけているのですか。
本間 覚:
この『Gwent』に関しては、日本語へのテキスト翻訳はすべて私が担当しています。収録スタジオでの吹き替えに関しても自分が統括しています。本国には5人から6人ほどのメンバーからなるCDPR専属のローカライズチームがおり、他の言語については彼らがハンドリングしています。
――日本語はたった独りなんですか……。
本間 覚:
ええまあ。ハハハ。『The Witcher 3』本編のテキスト量に比べたら不可能ではありませんから。カードの名称やアビリティの説明、ユニットが発する台詞など、RPGのような物量があるわけではありませんし。
――ゲームサーバーは地域によって異なるのでしょうか。
Jakub Kowalski:
データセンターこそ世界中に設置していますが、プレイヤーが集うのはグローバルサーバーただ1つです。「一つのゲームを世界のみんなで」という企業のビジョンに基づき、今のところは地域ごとにサーバーを分ける予定はありません。
――日本と海外ではコンテンツのリリース時期に違いはありますか。
本間 覚:
すべてのコンテンツにおけるリリース時期は全世界同時です。もちろん日付や時刻はタイムゾーンによって異なることもありますが、地域によるタイミングの違いはありません。
――『グウェント』で今後e-Sportsシーンに進出する予定はありますか。
Jakub Kowalski:
e-Sportsというのはコミュニティ側から自発的に生まれるイニシアティブだと思っています。おかげさまで、もうすでにいくつかのユーザー主導型のトーナメントが開催されていて、日増しに盛り上がっているようです。これを受けてCDPRとしても、5月に開催を予定している「Gwent チャレンジャートーナメント」の実施を決定しました。今回の大会は、8つの出場枠に『Hearthstone』や『Dota 2』などで実績のあるインフルエンサーを4人招待し、残りの半分を一般参加枠として予選で決定するというものです。
今後e-Sportsシーンがさらに盛り上がるかどうかは、このトーナメントの反響次第といえるでしょう。まだベータ段階ということもあって、これが最初のステップです。個人的には『Hearthstone』の試合観戦が好きなので、『Gwent』も同様にe-Sportsに仲間入りして欲しいと思っています。企業としても同じ方向性のビジョンはありますが、現段階で具体的なビジネスプランを立てているというわけではありません。ちなみに今回の大会では合計10万ドルの賞金を設けています。これから先はコミュニティのリアクションを見つつといったところでしょうね。
本間 覚:
5月の大会は世界的なe-SportsプロバイダーであるESL(Electronic Sports League)との共同主催なんです。もちろん大会の様子はTwitchでライブ配信されると思います。日本でのローンチが近日中なので日本コミュニティとしてはあまり関われませんが、たとえば今後は試合を日本人のコメンテーターが解説するなど、国内向けにもe-Sportsシーンを発信することは可能だと思います。
――次にポーランドのゲーム業界について教えてください。CDPRの輝かしい活躍や存在感に関するニュースは、ここ日本にもたびたび伝わってきます。ポーランドにおいて御社はどのような立ち位置にあるのでしょうか。
Jakub Kowalski:
ポーランドのゲーム業界は近年大きく成長しました。世界的に名前が知られることでグローバルな影響力を持つ企業が増えました。CDPRも例外ではありません。『Dying Light』を手がけたTechlandも有名ですね。あとは『This War of Mine』の11 bit studios……。
――そのゲーム大好きです。
Jakub Kowalski:
それはよかった。実は11 bit studiosは私の古巣で、『This War of Mine』の開発にも携わっていました。ほかにもポーランドといえば『SUPERHOT』で知られるSuperhot Teamもありますね。このようにユニークなゲームを世に送り出す企業が増えてきているので、いいゲームがたくさん生まれる国というイメージが少しでも根付いていくれたのではないでしょうか。CDPRの立ち位置については私たち自身が判断できることではないので、何とも言えませんね。
――本格的に日本のマーケットへ参入するにあたって、これからCDPR Japanは具体的にどういった活動をしていくのでしょうか。
本間 覚:
まずは日本における『Gwent』のリリースを成功させることですね。その後は現在開発中の『Cyberpunk 2077』の日本語ローカライズを行うことになるのではと思います。まだ「CD Projekt Japan」という日本法人が存在するわけではないため、どういった形で今後のタイトルを日本に展開するか話せるタイミングではありませんが、これからの作品を国内向けに積極的に展開していければと考えています。
――カードゲームにおいてコミュニティ運営は特に重要な要素だと思います。どのように国内コミュニティを盛り上げていくのでしょうか。
本間 覚:
海外では公式サイトにアカウント登録制のフォーラムが常設されていることが多くて、開発チームがユーザーと直接コミュニケーションを取れる運営体制が主流ですよね。『Gwent』のフォーラムでも日本のプレイヤーが日本語で意見を投稿できるようにして、それを開発チームに伝えられるような流れは作りたいと考えています。それからTwitterにも日本語アカウントを設置して、ファンとの距離が近いというCDPRの姿勢は崩さないように運営していきたいと思います。
――ちなみにJakubさんと本間さんは『Gwent』を遊ぶ際、どのファクションを使ったどんなプレイスタイルが好みですか。
Jakub Kowalski:
あらゆるデッキタイプをプレイしますが、中でも「スケリッジ」を使った廃棄戦略が一番好きかな。可能な限り多くの自軍ユニットを墓地に送って、後からまとめて盤面に復活させるというネクロマンサープレイのようなデッキコンセプトです。
本間 覚:
Jakubさんは名刺のイラストも「スケリッジ」の王様だし、本人も見た目がスケリッジ人ですからね。私は「モンスター」(ワイルドハントを含めた魔物全般の勢力)が気に入っています。同じ種類のカードをデッキから一気に展開できるユニットがいるのですが、とにかく数を展開して強化カードで同時に底上げするプレイスタイルが好きですね。
――カードゲームにおける有利不利は、それぞれのデッキコンセプトに応じたメタプレイで決まります。『Gwent』には何種類くらいのバリエーションが存在するのでしょうか。
Jakub Kowalski:
目標としては、5つのファクションに3種類のリーダーカードを組み合わせた合計15種類のバリエーションは少なくとも用意したいですね。現在、トッププレイヤー100人の傾向を見る限り、これが最強といった特定のデッキは存在しません。
――最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
Jakub Kowalski:
『The Witcher』シリーズを遊んでくれてどうもありがとうございます。日本のみなさんからも支持してもらえたことは嬉しい限りです。『Gwent』も同じように愛されるゲームとなることを願っています。
本間 覚:CDPRはファンに寄り添うフレンドリーな企業であるというイメージが特に強いと感じています。私としても同じように日本ユーザーと近い距離で接することで、国内で『Gwent』を根付かせていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
不運を言い訳にできないシビアな勝負の刺激
いまや日本のゲーム業界でも盛名を馳せるCD Projekt Groupは、ポーランドの首都ワルシャワやクラコフ、ロサンゼルスに社員600名を抱える上場企業で、時価総額は18億ドルにのぼると言われている。インタビューの中では語られなかったが、同社がポーランドを代表するゲームメーカーの先頭に立っていることは間違いないだろう。10年前にスラブ神話をテーマにした1986年の小説『魔法剣士ゲラルト』を初めてゲーム化してから、現在にいたるまでシリーズ作品は続編を重ねるごとにメタスコアを更新してきた。中でも『Gwent』誕生のきっかけとなった『The Witcher 3』の評価は極めて高く、世界中で850以上のアワードを獲得している。そんな今だからこそ、オンライン対戦ゲームとしてのフランチャイズ展開にかかる期待も大きい。
筆者自身も、『The Witcher 3』のメインストーリーそっちのけでミニゲーム「Gwent」に没頭しただけに、「Magic: The Gathering」に影響された類似カードゲームが乱立する“大CCG時代”の潮流にスタンドアロン版『Gwent』が参戦した際には、一種の爽快感にも似た特別な想いがあった。これまでクローズドベータテストで『Gwent』をプレイしてきたユーザーとして断言できることは、冒頭でも述べたように本作は限りなく運要素を廃して心理戦に重きを置いたポーカーライクな本格派の対戦ゲームであるということだ。もちろん、規定のカードのみを使用するポーカーと違って、基本プレイ無料とはいえフェアな対戦のリングに上がるにはそれなりのリソースを揃える必要もあるだろう。しかし、ひとたびデッキへつぎ込んだ出費を試合における引きの悪さで裏切られることはないはずだ。
『Gwent』は囲碁のように至極シンプルなルールでありながらも、ポーカーのようなブラフを用いた心理戦を内包しているという特性から、始めるのは簡単だが勝つのは難しいゲームと言える。そういう意味では、カードゲームに馴染みがない人でも楽しめるカジュアルなCCGというよりは、すでに『Hearthstone』や『シャドウバース』で経験を積んだユーザーへ向けて、完全にスキル重視の新たな体験を訴求するタイトルなのかもしれない。時として勝敗を運に支配されてしまう“e-Sports”ならではの不確定要素に辟易したプレイヤーなら、ほぼ読み合いですべてが決する本作のシビアなゲームデザインに刺激を感じない人間はいないだろう。