映像も建築もVRも、幅広く活躍するゲームエンジンUnreal Engine 4が示した可能性。Epic Games Japan 代表 河崎高之氏に聞く

GDC2017での基調講演「State of Unreal」を振り返りながら、Unreal Engine 4の活用事例や、VRエディタに対するこだわり、そして今後について、Epic Games Japan代表 河崎高之氏にお話をうかがった。Unreal Engine 4は、映像・建築・VRなどなど、多くの分野で活躍しているようだ。

国内外の大型ゲームタイトルの開発にUnreal Engine 4が続々と採用されていることに加えて、インディーゲームやモバイルゲームでもUnreal Engine 4ロゴを見る機会が多い。また、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)やVRといった新時代のハードウェアをカバーし、さらにはゲームとは直接関係のない分野でもUnreal Engine 4を活用する事例が増えている。

今回AUTOMATONでは、Game Developer Conference(GDC) 2017での基調講演「State of Unreal」を振り返りながら、Unreal Engine 4の活用事例や、VRエディタに対するこだわり、そして今後について、Epic Games Japan代表 河崎高之氏にお話をうかがった。

なお、4月15日(土)には京都にて、Epic Games Japanが主催するオフィシャルのUnreal Engineの大型勉強会アンリアル・フェスが開催される。

 
――3月のGDCでいろいろ発表された中で特に大きな狙いや注目といったところはどこでしょうか?

河崎:
今年のGDCではUnreal Engineの可能性を示しました。去年まではゲーム寄りの機能の追加などがメインでしたので、初日のティム・スウィーニー(Tim Sweeney)のキーノートを見て驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。まずノンゲームの話から入っていって、後半になってやっとゲームの話が出てきましたので。ゲーム以外――いわゆるノンゲームでの活用にも力を入れていることを紹介し、リアルタイムレンダリングツールとしての可能性を示しました。

あと、今年のGDCでEpic GamesのティムがLife Time Achievementという賞を頂きました。今までの実績を鑑みて殿堂入り、みたいな賞ですね。ティム本人はまだ50歳にもなっていなくて、46か47歳くらいなので、「この歳でこんな賞をもらったら杖を買いにいかなきゃ」みたいなことを言ってました(笑)。ティムと授賞式で話したんですけど、今まで自分達で会社を作ってきたなかで、ファンドや投資家を入れるんじゃなくて、本当にゲーム作りが好きな人間たち、技術が好きな人間たちだけでハードワークし、切り開いてきた結果がこういう形になったことはすごく嬉しいと、ティム本人も言ってました。一緒に授賞式に出させていただいた我々も誇りに感じたところでした。

 
――ゲーム以外の方にも力を入れるというのはノンゲームの方にも同じくらい力を入れるということですか?

Epic Games Japan 代表 河崎高之氏

河崎:
そうですね。一昨年くらいから「エンタープライズ」と社内では呼んでいるんですけど、いわゆるノンゲーム案件を担当する部隊を作りはじめています。今回のGDCでチームメンバーと会ってみてビックリしたんですけど、もう10人くらいの組織になっていたんです。営業だけではなく、技術とかサポートも含めて、どんどん部隊を大きくしているので、会社としてすごく力を入れているところですね。

 
――映像やVFXといった業界と既にコラボレートされていて、Unreal Engineがそういった分野と協業を行うことの経緯や意図についてお答えいただけますか?

河崎:
20年くらい前、ゲームで使われ始めたときもそうだったんですけど、今回の映像や建築などの分野でUnreal Engineが使われるようになったきっかけも、べつにEpic Gamesの方から押しかけて営業したわけではないです。一番大きかったのは3年前にサブスクリプションを公開した時だと思います。Unreal Engineに触れる人が多くなり、さまざまな業界の方に「あ、これ使えるんじゃないの?」という流れで使っていただいて、すごくありがたいですし、我々が良いものを作っているというのを認めていただいているということだと思います。

今のハリウッド並の映画を製作するCGのプロダクションの場合、映画で1秒24フレームだとして、24分の1秒の絵を描くのに、場合によっては丸1日とか数日かけてレンダリングして、その結果だめだった場合は直しが入りますし、ものすごく時間とコストがかかります。そこでUnreal Engineを使うとどんなに遅くとも、1秒に3フレームとか5フレームとか描けるといったところで単純にスピードが早くなります。あと、今までだとコンポジットする時にグリーンスクリーンの前で、何もない場所で役者が演技しなければならなかったところが、Unreal Engineならリアルタイムにコンポジットしながらその場で確認できます。ですので、役者さんがファイナルに近い映像を見ながら演技ができて、監督とかディレクターもそれを確かめながら演出できるというところがすごくいいというお話を、映像業界の方からよく聞きます。キーノートでも言ってましたけど、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」でUnreal Engineで作った絵がファイナルにまで入ってしまったというところも含めて、もともとはスピードアップというのが目的だったんですけど、いろいろなところでお役に立っているのかなという感じはあります。

 
――早いのはトライアル&エラーが何度もできるので当然いいと思うんですけど、品質的に映画のようなAAAの映像でもUnreal Engineは求められるクオリティに達することができるということでしょうか?

河崎:
そうですね、「スターウォーズ」に関してはILM(Industrial Light & Magic)が相当手を入れているみたいなので、素のUnreal Engineであのクオリティが出るかと言われると多分難しいと思います。インタラクティブに、そこそこのクオリティのCGを、ほぼリアルタイムにレンダリングできるというニーズと、そのままファイナルとしても使えるというニーズで分化してきているというのはありますね。

 
――映像以外の分野で使われていて実際にすごい実例というのはありますか?

河崎:
アメリカのThe MillというCGプロダクション会社が、シボレーと組んでやった車のコンフィギュレーターですね。骨組だけの車がコースを走る実写映像に、リアルタイムで車の映像をレンダリングしてコンポジットし、骨組の車にはマーカーやカメラがついているので、反射や光の当たり方もレンダリングして映像に反映させられる技術が紹介されていました。

たとえば未発表の新車の映像を撮る場合、コースを走っているとどうしても野次馬が見に来てしまったり、屋内であっても関わるスタッフが多いとリークがあったりという可能性があります。しかしこの技術だと、実際に走らせるのは「マッドマックス」に出てくるバギーみたいな骨組だけなので、リークの心配もしなくていいですよね。さっきの話と被りますけど、光の当たり方などの演出のチェックをほぼほぼファイナルでできるというのを評価していただいてましたね。

 
――品質も実写の車と見分けがつかないということでしょうか?

河崎:
そうですね。いい景色が広がるCM撮影用のコースを走っているというのもクオリティが高いんですけどね。講演した部屋の前に骨組だけのバギーが置いてあったんですけど、コンポジットした画面で見るとそこにはシボレーの新しいカマロがあるわけですよ。カメラでリフレクションを取り込んでいるので、その最前列に座っているお客さんが実際に車のボディとかガラスに写っていて、そのお客さんが不思議そうに見ているのも見ていて面白かったですね。

 
――今までは別のツール(After Effects)で作っていたエフェクトも、合成も含めてUE4でできるということでしょうか?

河崎:
映像系の方と話をしていると、最後はやはりAfter Effectsを使わないといけないと絶対言われます。そうするとイテレーションのループが切れてしまうので、できればUnreal Engineの中で完全に完結した方がいいですし。取り込んだあとはファイナルまでUnreal Engineで完結できた方が効率は高いはずなので、After Effectsの部分をいかにUnreal Engineでやるかというのは大きなテーマだと思います。

 
――完璧ではないにせよ、かなりの部分までUnreal Engineで完結できるということですね。映像ではUE4の新エフェクトツールである「ナイアガラ」も出てきているので、エフェクトにもかなり力を入れているというのはわかりました。

河崎:
ナイアガラは4.16で入ればいいなというところまではきているみたいですが、まだこれからという感じですね。

 
――最後までWii Uには対応しなかったUE4ですが、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)では早い段階から参入することが発表されていました。これまでのEpic Gamesはあまり任天堂のコンソールに興味がないものかと思っていましたが、あえて早い段階から参入した理由は?

河崎:
UE3はWii Uにアンオフィシャルですけど対応していました。当時からEpic Gamesと任天堂との間でのお話というのはずっと続けていました。Wii Uの時は残念ながら、やはりハードの能力的にUnreal Engine 4を動かすのが相当厳しかったです。今回Nintendo Switchでアーキテクチャーも一新して、かなりパフォーマンスも期待できるものになったところで、我々としてもぜひサポートさせていただきたいというのを、2015年の頭くらいから任天堂さんとはずっと話をして対応を進めてきました。

我々サイドの事情で言うと、もちろん任天堂のハードに興味がないわけではなくて、3大ハードメーカーいずれもサポートして、使っていただきたいという気持ちはずっとありました。ただなかなかタイミングが合わないというか、WiiとかDSとか3DSのころってハードのスペック的にUnreal Engineを動かすのはなかなか厳しいものがあったんです。たとえばプログラマブルシェーダーが使えなかったりとか、そういうところで対応が難しかったんです。あとは、Epic Games Japanができる前はEpic Games本社(アメリカ)と京都の任天堂が直接話をするルートがなかったんです。我々Epic Games Japanができてからは、日本側の窓口として任天堂と直接お話できるようになりました。ですから、Wii Uからスイッチという流れが裏では4、5年くらいずっと動いてました。その結果としてWii UのUE3に対応であったり、今回のスイッチのUE4対応であったりという流れができたというところだと思います。

個人的には僕も京都生まれで、ずっと昔から、「カラーテレビゲーム15」のころから任天堂のゲーム機と共にずっと生きてきたので、個人的にはぜひサポートしたいと思っていたんですけど、それがようやく実を結んだという感じですね。一方で任天堂側でも今回のスイッチを出すにあたって、開発環境を整えたいという気持ちがすごく強くて。今まではわりと任天堂独自のSDKとツールセットを提供するというのが主流でしたが、今回はEpic Gamesに限らずほかのミドルウェアとかゲームエンジンも積極的に使えるように環境を用意しようと、京都とアメリカの任天堂含めて、かなり早い段階からプランとして持たれていました。その流れの一環として早い段階からハードウェアの中身を開示していただいて、対応してきました。

残念ながらローンチタイトルにはUnreal Engineのタイトルはなかったんですけど、3月の末にアメリカとヨーロッパでは『Snake Pass(スネークパス)』というGDCでもプレイアブル出展したタイトルが発売されましたし、Nintendo Switchの発表会では『真・女神転生』なども登場しました。日本でも20タイトルくらいUnreal Engineを使って開発いただいているタイトルがあるので、これからどんどん発表されていくと思います。

 
――タイトルというのはスイッチ向けのUnreal Engine採用タイトルでの数ということですか?

河崎:
Unreal Engineを使ってNintendo Switch向けに、日本で作られているタイトルですね。もっとあるかもしれません。そして今はフリー版のスイッチの対応もどんどん進めているところです。スイッチの開発ライセンスをお持ちの方であれば、フリー版でもスイッチの開発ができるようになります。

 
――『Lineage 2:Revolution(リネージュ2:レボリューション)』の成功により、モバイルでもUE4の波が来ていると感じています。しかし現状のモバイルゲームではまだUE4の利用は少ないように見えます。実際ビジネスとしてモバイルゲームの制作にUE4を使う利点にはどういうところがあるのでしょうか?

河崎:
『リネージュ2 レボリューション』は僕も実際にGDCで現物を見て触ってみたんですけど、かなり綺麗で驚きました。たしか100対100のPvPもできるMMOで、しかもモバイルということを考えるとすごいクオリティです。もうひとつ『Blade 2』という『Diablo』ライクなタイトルがあるんですけど、そちらはMMO要素を削ってMOにしているぶん、グラフィッククオリティは半端ないですね。それとEpic Gamesで作っている『Battle Breakers』というタイトルの3つがGDCでは出ていたんですけど、どれもすごいクオリティで印象的でした。『リネージュ2 レボリューション』はMAUが500万を越えているみたいですが、韓国の人口は5000万人くらいしかいないので、もはや意味がわからない数字ですね。で、売り上げもひと月で200億くらいいっちゃったという(笑)。

モバイルゲーム制作にUnreal Engine 4を使う利点のひとつは、タイトルがたくさん存在して混み合っていて、なかなか差別化するのが難しい状態ですから、そこでUnreal Engine 4を使って本気で作りこんでいただくと、それだけで競合との差別化が測れるというのが大きいです。もうひとつは、大規模な開発環境の中で効率良く開発できるという意味でもUnreal Engineはすごくお役に立つのではないかなと思います。

 
――確かにUnreal Engineは、もともと大規模なゲームを想定しているエンジンですからね。逆に小規模なモバイルゲームではどうでしょう?

河崎:
日本国内でというと、モバイルは少ないというのが正直なところです。とくにバッテリーの消費量を気にされる方が多いというのもあります。Unreal Engineでグラフィックに力を入れすぎてしまうとバッテリーの消費量が厳しいことになるというのは『Infinity Blade』のころからそうなので、日本のユーザー向けに省電力モードみたいなものが欲しいと本社にずっと言ってるんですが、Epic Gamesの方針としては、「あるものは全部ブン回して」という考え方になってしまうので……。小規模なチームで、たとえば2Dのカジュアルゲームというのも制作できますが、新たにUnreal Engineを習得するという部分でのランニングコストと効率改善のボリュームがどこで釣り合うのかなというところだと思いますね。

 
――VRエディターについて、今年のGDCでもいろいろと新発表が行われていました。去年のGDC以降もずっとVRエディターをアップデートし続けていますが、Epic GamesがVRエディターにそこまでこだわり続けているのには何か理由があるのでしょうか?

河崎:
Epic Games内でVRコンテンツを作っているチームもVRエディターを使っているので、もっと効率良く作業できるようにしたいというのが動機付けになっています。他社でVRコンテンツを作られている現場の皆さんからも、とくにイテレーションの最後の部分を意識しながら調整するというところでVRエディターがとても役に立つと聞いていますので、その辺りのフィードバックも聞いて力を入れています。VRではないのですが、リアルタイムのテレビ番組ですと、ディレクターがバーチャルセットの中でカメラの位置とか、ここから見るとどうなるのかというのを、VRエディターで調整するとすごくやりやすいとのことで、そういう使い方も聞いています。

VRエディターにはティムがすごくこだわりを持っていて、彼はいつも「現行のデバイスでは解像度やピクセルの関係でまだ文字がすごく見づらいが、デバイスが進化すれば環境は一変する」と言っています。今回VRエディターを使って、VRデバイスをかぶったままアセットなどを引っ張りだせるようになりましたけど、まだ文字が大きすぎたり小さすぎたり、使いづらい点はあります。けれども、この先遠からず、4Kとか8Kとかのデバイスとかが出てきて、片目4Kくらいの解像度になれば文字ももっと見やすくなるでしょうし、操作性もずっと向上します。そうなるとコンテンツを作る人間は最初から最後までVRエディターの中で作業するような時代がやってくるというのが、ティム・スウィーニーの予測です。その想定をベースに今から練り上げているところだと思います。

 
――では現状はまだ実験的な段階で、今後は4K・8Kの解像度になり、全てVRの中だけで完結するという前提で開発をされてるんですか?

河崎:
VR自体もそうなんですけど、一般化するタイミングで参入しようとしても、もう間に合わないだろうなと。早い段階から参入してノウハウをためていかないと、その技術が花開いたときに参入しても競争力がないということはティムが常々言っていることなので、VRエディターというのもその一環ですね。さらに言うと、VRではない3Dコンテンツを作るのも、VRエディターの中でやるようになるかもしれないというのがティムの予測ですね。そのためには今のような大きさではとても丸一日かぶってはいられないので、デバイスが進化して解像度がもっと上がっていくというのが前提にはなりますけど。

 
――それが具体的にいつごろまでとかも考えておられるんでしょうか?数年以内とか……。

河崎:
数年以内だと思います。これもティムがよく言うんですけど、「今考えて10年と思っているものは、たぶん5年で実現するから、今の肌感覚で思っているものが倍の速さで実現すると思って準備を進めないと間に合わない」と。かなり前から、VRというのは文明を変えるデバイスになるとよく言っていたので、やはり着眼点が違うなと。

 

つづく: VRゲーム『Robo Recall』に込められた思い、Epic Gamesの開発体制、Unreal Engine 4のこれから、など。

Masahiko Nakamura
Masahiko Nakamura

Unreal EngineとVRを専門とするゲーム制作集団、Indie-us Games代表&クリエイター。

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