大人になってから始めた「ゲームのタイムアタック」、『ミンサガ』RTA走者に聞く”全力で趣味”。「RTA in Japan」インタビュー

長丁場で一分一秒を縮めることに挑戦し続ける精神力は、いったいどこからくるのだろうか。今回は3時間を越える『ミンサガ』RTAを走られた「やわらかさん」に、同作を含めたRPGのスピードランについてお話をうかがった。

前回の『スプラトゥーン』『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』がアクションよりなRTAだとすれば、今回の『ロマンシングサガ ミンストレルソング(以下、ミンサガ)』のRTAはより「静」のタイムアタックだと言えるかもしれない。長丁場で一分一秒を縮めることに挑戦し続ける精神力は、いったいどこからくるのだろうか。今回は3時間を越える『ミンサガ』RTAを走られた「やわらかさん」に、同作を含めたRPGのスピードランについてお話をうかがった。

──おつかれさまでした。今日の記録はどうでしたか?

やわらかさん:
自己ベストまであと2秒ですね。今まで本番は弱かったんですが、心の憂さを晴らしました。完全に間違えてしまったところがあるんで、そこがなければ自己ベストでした。

──ロールプレイングゲームのRTAを見ていると、アクションモノと比べて精神力との戦いという感じがしますね。

やわらかさん:
緊張感がずっと張り詰めていると逆にダメなんで、集中しないといけない場面のために張り詰めながらも気を抜いておくのもすごく意識しますね。『ミンサガ』のRTAって、どれだけ敵を早く処理できるかってのがすごく重要になります。当たったときの敵の編成を見て、いつもどおりさっと倒せる編成か、ちょっと変更しなきゃならない編成か、一瞬で見極める。これだとちょっと変えなきゃいけない場合にあわせてパターンをいくつか作っておいて、その引き出しから1番を使おうとか2番を使おうという形で、極力頭で考える時間を削る。どの引き出しを使うかだけに集中してます。

──ほかにも『ミンサガ』のRTAの特徴について教えていただけますか。

やわらかさん:
RPGのRTAでもっとも盛んな『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』と違って、『ミンサガ』は戦闘を避けてると話が全然進まないってのがあって、どんどん狩らなきゃいけない。そこがほかのRPGのRTAとの違いですね。勝利回数の積み重ねが鍵になります。あと強い敵を倒すと物語が早く進むので、倒しやすくて強くて、かつ稼ぎのいい敵を倒し続けるのがコツです。

──戦う敵の強さなど、ぎりぎりの見極めが大事になりそうですね。

やわらかさん:
『ミンサガ』では適正値の敵と戦うと進む「進行度」というのがって、それによってゲームが進行していくんです。ある地方の特定の場所にずっと強い奴がでるとか、この種族はこの進行度の時だけちょっと強めのが出るってのがあって、そういうのを狙っていく戦いになります。序盤だとそのへんをうろついてる「ごろつき」ってのがいるんですけど、こいつが弱いくせにゲーム的には強い扱いを受けてるんで、街の掃除を行う。そうすると普通に闘うよりも1.2倍くらいの速さで進みます。しかも短剣一突きで終わり。敵が先制してくるかどうかってのも大切になっていくんです。最速攻撃の「ハヤブサ斬り」ってのがあるんですけど、それを閃いたらそれだけを使って排除していく。もし敵に負けたときも、時間が掛からなくて済む。

序盤はそういう風に工夫していって、中盤はとにかく敵の密度の高い所を目指す。倒したらすぐ次の戦闘にいける場所で、ただ多すぎると一斉に襲い掛かってくるんで、ほどほどの場所がいい。「チェーンバトル(触れていない近くの敵と連戦することになるシステム。逃走ができなくなるが、獲得するジュエル量が増える)」という連戦をゲームのシステムに組み込んでる関係で、そこまで詰め込むことができないんで。ほどほどのバランスってことになると、序盤だと雪原になる。雪原も終盤にいくに従って強い敵がでてこなくなるっていう特徴があるんで、ある程度闘ったら雪原からは出て行く。

──戦闘回数が鍵になる。

やわらかさん:
やり方がまずいと250回くらいになるんですけど、今回だと230回くらいです。だいたい20回闘うと進行度は10パーセントぐらいもらえて、10パーセント上げるのに10分くらいかかる。となると20回戦わなければ純粋にタイムが10分縮む。ほかにも術一発で倒すといった戦い方にしていくことで、10分から15分は縮むんで、それをやるために吟味に吟味を重ねていく。イベントやるとどうしてもキャラクター同士のかけあいが発生するので極力避ける。

──ほかにも主人公の名前の文字を一文字削るというテクニックがありましたけど、あれはどういった効果があるんですか?

やわらかさん:
キャラ紹介とか挨拶の時に自分が名乗らなくなるという時間短縮メリットがあります。キャラクターの名前が変えられるゲームだと、名前を「おい」とか「あなた」とか「君」とかにして、結局名前を言わなくなる感じのやつありますよね。それが『ミンサガ』にもあって、「アイシ」だったら「○○族の娘」で終わって、「○○族の娘アイシャ」まではいかなくなる。ほかにも最初のイベントで人攫いにさらわれて、その先にファラって娘がいるんですけど、そのファラさんが「私はファラっていうの、あんたは?」っていっても何も答えなくなるんで、ファラさんはひたすら独り言を話してイベントが進むっていう。だから「アイシャ」じゃなくて「アイシ」になってる。たまにかわいそうだなって人は、もう1文字消して「アイ」にしたります。

──『ロマンシングサガ』の特徴としてシンボルエンカウントがありますが、敵との接触にはアクション要素もありそうですね。

やわらかさん:
そういった部分は出てきます。最初は敵も早くないんで正面から当たりにいってもこちらが勝つんですけど、後半になると競り負けることが出てくる。1人だけでは倒せないんで2人目、3人目まで殴りたいんだけど、後ろを取らないと途中で割り込まれる場合がでてきて、割り込まれるとそれは単純にロスって感じになる。なんで全部自分の攻撃だけで終わらせために、後ろ取をった方がいい。割と丁寧にそこはやりますね。犬だったら正面から突っ込んでくるだけとか、ひょいって避けて簡単に後ろを取れるんですけど、逆にそれができない敵だと「ステルス」とか「忍び足」とかのマップアビリティで敵が認識できないようにして後ろから攻撃に入る。後ろを取ってしまえば最大火力で殴って勝てる。全てはタイム短縮につながるわけです。やってることは、どれだけ上手に奇襲をかけるか。ただ、避けるだけなら断然アクションRPGとかの方が大変ですね。『ミンサガ』だと敵の振りかぶったのに合わせてふところにもぐりこむといった腕前は全然いらなくて、単純に避けてればいいんで。

──ただアクションゲームは1プレイが短いものが多いですが、たいていRPGは数時間かかりますよね。周回プレイで研究するのもすごく大変そうだなと思います。

やわらかさん:
クリアまでにある作業工程をどれだけ減らせるか、無駄をどれだけ削れるかですね。自分はもともとRTAに参戦したのが遅かったこともあって、やりたいゲームのチャートはもうほかの方が完成させてるんですよ。後はそのチャートをやっていきながら、さらにどうするか、マニュアルどおりに進めてる中でどこが削れるかを調べながらやっていく。割と安定して何週やっても変わらないって箇所も、運要素でバラつきがある箇所もあるんですけど、そのバラついてる所を綺麗に早くできるかってのがありますね。ここはこのタイムで終わるだろうって所が、やり方一つでくるっと変わっちゃうことがあるんで。もともとチャートにあったことでも、わざわざそれをやらないで削っちゃった方が結果的に早くなったこともある。これをやったら効率がいいっていうのを崩すって場合もあるんですね。自分なりにやり方を組み替えて試行錯誤して一番いいパターンを作り出すっていう。そういう部分が非常に面白いです。

──RTAをはいつごろから始められたんですか?

やわらかさん:
2012年くらいですね。大人になってもタイムアタックの存在を知らなかったくらいです。普通に買ってきたゲームを、そこで買える装備とか術とか全部買い切ったら次の街へいくっていうプレイスタイルでやってました。最後に取りこぼしを全てとって、どうしようもなければ次の周で全部取りきってコンプリートデータを作成するっていう、「やりこみ」に近いやり方で。でもタイムアタックを知ったら、それとはまったく逆のやり方で、極限まで切り詰めていく。こんな遊び方あったのか、これは面白いなって。

──遊び方のベクトルが180度変わった訳ですよね。

やわらかさん:
『ミンサガ』も最初はタイムアタックから入ってないです。普通にリメイクが出たときに久しぶりにゲームをやりたくなって、楽しそうだったのでその時「PlayStation 2」を買ってきてやりこんでました。でもある時、タイムアタックやってる人がいるというのを知って。駅伝とかもやってて、その人達がすごく楽しそうにゲームやってるのを見て、「これ楽しいのかなって」と思ってやってみたら、面白かった。ずっと自分だけでゲームやってると、ちょっと面白いゲームなんだけど今日気分乗らないからいいやみたいな感じになるんですけど、マンネリを打開するのにいい刺激になった。

──今回の「RTA in Japan」では、ゲームごとに別れたRTプレイヤー同士の交流というテーマもありました。

やわらかさん:
実際の話、ビッグタイトルで言えば『ゼルダの伝説』と『マリオ』とか『カービィ』とかあるんですけど、自分の場合RTAだとRPGしか知らないんで、その方面の方々はほとんど知らないんですよね。でもイベントで一緒にやったら一体感もあるんで、こういうイベントいいなって思います。RTAって配信先も多方面で、やってて繋がりもないんですけど、このイベントでその垣根がなくなればなと。これから2回、3回と繋がっていくと、前回参加した人たちが顔見知りになったりとかすると思うんで、話しやすくなりますよね。あるいは参加した人の一覧とか見ながら「この人はどこでなにをやってるんだろう」って興味をもったり。今回はこれで申し込んだけど、普段はこういうのやってますみたいな感じで、もしかしたらその違うゲームが自分のやってるゲームと被ってると繋がりますよね。

──意外にRTAプレイヤーの方って、いろいろな作品に挑戦されますよね。そういうところで繋がっていくと。

やわらかさん:
一つのシリーズをやりこむ人もいるんですけど、色んなゲームをやってる人もいて。自分は割と配信系の大会に顔を出すようにしてます。たとえばこの人とこの人の間の共通点に自分がいて、自分を介して繋がることもあると思うんで。やっぱり僕らゲーマーって、ゲームトークしてる時が一番楽しいですからね。なんで、そういう繋がりを活性化させてもいいんじゃなかって。

──やわらかさんにとって「RTA」とはなんでしょう?

やわらかさん:
「趣味」ですね。「全力で趣味」ですね。釣りバカな人だったら竿の種類にこだわったり、車好きならホイールとか細かいとこまでこだわりがあると思うんですけど、それと同じかなと。それに大人になっちゃうと同級生とかと一緒にゲームやるみたいなこともないんで、配信しながら繋がっていくしかないですよね。ほかの配信者がやってるRTA見るとそれやりたくなったりとか。より良いゲームライフのためにという感じです。

──「RTA in Japan」などのイベントを通して、日本のRTAがどうなっていって欲しいですか。

やわらかさん:
ゲームを楽しむ一環として、みんなにRTAに触ってもらえればなあと。普通に遊ぶのはもちろん、タイムアタックがあって、縛りがあって、やりこみがあって、色んな遊び方の選択肢の中の一つとして。上手くいってたのに途中で事故っちゃったりとか、上手くいかなかったんだけど工夫したら上手くいったとか、あの人に聞いて上手くいったとか、そういう体験をしてみてほしいです。無理してやらなくても、ちょろっと見るだけでもいいし、ライフスタイルの中に軽く組み込んで。楽しく、ゲームってのは本来楽しんでやるもんだと思うんで。

──ありがとうございました。

 

次回は番外編、『プロゴルファー猿』の走者バカンダさんのインタビューを掲載予定だ。

 

[編集・撮影・取材 Shuji Ishimoto]

[執筆・取材 Nobuhiko Nakanishi]

Nobuhiko Nakanishi
Nobuhiko Nakanishi

大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。
喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。

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