『Darkest Dungeon』プレビュー 現代によみがえる不運死の恐怖
『Darkest Dungeon』は"不運死"を最新ゲーム技術で再構成したダンジョンクロールだ。ファミコン版『ウィザードリィ』を懐かしむゲーマーは挑戦されたし。また、昔の高難度RPGをプレイしていない新世代のゲーマーも、この機会に注目してほしい。
『Darkest Dungeon』
開発: Red Hook Studios
発売日: 2015年下半期予定
プラットフォーム:
PC(Windows, Mac, Linux) PS4, PS VITA
2月3日(日本時間2月4日)にsteamアーリーアクセス開始(20ドル)。
"ダンジョンクロール"とは、多数の戦闘と報酬獲得に重点を置いたダンジョン探索+ハックアンドスラッシュのゲームジャンルだ。日本では『デジタル・デビル物語 女神転生』『世界樹の迷宮』などで知られている。本作も同様の展開で、様々なクラスで4人パーティを組み、探索やボス撃破などクエスト目標を達成すべくダンジョン探索する。その過程で報酬を得てキャラクターを強化し、最終目標の"Darkest Dungeon"攻略をめざす。キャラクターの死は絶対死で復活しない、シビアなゲーム難度だ。
ダンジョンクロールは古来より人気のジャンルであり、現在でも新作が発売される激戦区だ。本作はその類似作に埋もれることなくおおきな注目をあつめ、Kickstarterで目標額7万5000ドルのところ30万ドル以上の投機を得た。その注目に応えてか、海外のオタク趣味イベント「PAX」への出展などメディア露出を意欲的にこなし、PC版開発と平行しPS4・PS VITA版の展開を告知している。
その注目をあつめた要因は下のアーリーアクセス・ローンチトレイラー動画で見てとれる。ゴシック調ホラー。黒と赤を基調としたハイコントラストなアートワーク。カートゥーンタッチのビジュアル。エルドリッチ(クトゥルフ的モンスター)。それらキャッチーな雰囲気作りが好評を博した。その中でひときわ輝くのが、キャラクターが恐怖に屈して正気を失い、混沌が支配する"キャラクターストレス"要素だ。
キャラクターストレスの恐怖
冒頭にあげた不運死とは、そのとおりプレイヤー自身の運が悪ければ死ぬ要素を指す。プレイヤーに不快感を感じさせないよう配慮された近代RPGにはあまりみられない要素で、好意的に解釈すれば昔のRPGの持ち味といえなくもない。本作はその不運死を積極的に取りいれており、昔のRPGと同様にプレイヤー自身の運でキャラクターが死ぬ。しかし、即死ではなく真綿で首を締めつけられる点がおおきくちがう。はじめは何も感じないが、徐々に、事態を収拾できない手遅れの状況に引きずり込むのだ。
昔のRPGにあった不運死の具体的な例をあげておく。代表的なものは、ランダムエンカウントで出現し、即死攻撃を放つ恐るべきザコ敵だ。『ウィザードリィ』ではキラーマンティスやポーバルバニー。『ドラゴンクエスト2』ではロンダルキア台地で出現するブリザード。『ファイナルファンタジー2』ではパンデモニウムで出現するデスライダー。これらの具体的な対策はほとんどなく、出現しないことを祈るしかない。
本作は不運がキャラクターの「ストレス」というパラメータとして蓄積されてゆく。ストレスが最大に達するとキャラクターは発狂し連鎖的に状況が悪化する。戦力はみるみる低下していき、ここで意地を張るとたちどころにパーティは全滅し何も得られない。いきつくところがクエスト失敗なのは突然死と同様だが、そこにいたる課程に時間をもうけることで不運の恐怖をかきたてるのだ。発狂すると、能力が下がる"Affliction(苦悩)"状態になってしまい、内容によってプレイヤーの操作や指示を時折受け付けなくなる、仲間に悪態をつきストレスをかける、といったネガティブかつ身勝手な行動で本人だけでなく仲間も危険にさらしてしまう。この重大なペナルティにいたるストレスは「敵に遭遇する」「敵の攻撃を受ける」「味方が致命傷を負う」といった戦闘中の出来事だけでなく「罠にかかる」「暗闇を歩く」など通常のダンジョン探索でも蓄積してゆく。キャラクターストレスの本質は不運死だが、突然死ではなく段階的な死とすることでリスク管理を可能としている。ダンジョンからの撤退はコマンド一発で行えるので、進退きわまったと悟った場合はダンジョンから撤退すればよい。
このキャラクターストレスと対になるのが、ダンジョン攻略への投資だ。食料やたいまつなど必要な消耗品はダンジョンへ入る前に購入し、ダンジョンから出るとすべて破棄される。これはプレイヤーに掛け金をベットした心境をうみだす。アイテムを使いきるまでは探索したい、アイテムへの投資分のお金は回収してから撤退したい――ストレス管理の基準が、発狂の可能性からダンジョン攻略への投資にすりかわり、欲に目がくらみ状況判断を誤らせるのだ。
投資からうまれた打算が覆される焦燥感。ストレスが限界に達してキャラクターが発狂し、連鎖的に他のキャラクターも危機に陥る混沌。それらを乗り越えダンジョン攻略に成功した喜びは大きなものとなるだろう。不運死を段階的にすることでうまれたドラマは、キャラクターが時折発するセリフで演出され、プレイヤーの心境をさらにかき乱す。
集合知の対策
先に、不運死の具体的な対策がほとんどないと述べたが、避ける方法はある。それはダンジョン内を歩く歩数を減らすことだ。歩数が減ればそれだけありとあらゆるイベントの発生確率が下がる。そこで、マップを手書きして最小歩数ルートを見つける攻略法がうまれた。ダンジョンクロールの発祥テーブルトークRPGでもマップを書く担当"マッパー"がいるとおり、古来よりゲーム内外に伝わる攻略法だ。しかし、かつてはゲームの重要な要素のひとつだったが、現代においては陳腐化している。発売当日から"集合知"が最短ルートを探し当てるためだ。本作は最短ルートを最初から提示することで、集合知の関与をふせいでいる。
集合知はインターネットで知識交換する複数人を一個人に見立てた概念と知られている。ゲームにおける集合知は集団で攻略するwiki形式の攻略サイトといっても差し支えない。集合知のマンパワーは強力だ。総当たりで攻略できるタイプのゲーム要素はすぐさま最短ルートが発見され、その価値が薄れてしまう。ゆえに、近年はこの集合知を前提としたゲーム要素の開発が盛んとなった。たとえば、『ファイナルファンタジー13』のダンジョンがほぼ一本道なのは、この集合知への対策とみえなくもない。また、独力の攻略を不可能とする膨大な選択肢で、プレイヤーに集合知・ゲームコミュニティの参加を求める設計もある。有名所であげると『艦隊これくしょん』の艦娘建造レシピが該当する。しかし、本作はそれらとはまた異なる対策をとった。集合知が関与できないようにランダム要素の介入幅を大きく取り、かつプレイヤーにはじめから最短ルートを提示しているのだ。
ダンジョンはつねに自動生成され、ルート分岐や部屋数などダンジョン構造は最初からプレイヤーに開示される。トラップ、財宝、敵出現といったイベント位置もその時点で決まり、迂回ルートがなければイベントは避けられない。これがイベントへの最短ルートとして機能し、集合知の関与を少なくした。また、キャラクターのスキルやアイテム効果、敵ステータスは各種耐性に至るまでマウスオーバーすれば確認できる。攻略サイトを必要としないよう必要な情報を提示してあり、ここにも集合知が関与できる余地は少ない。過剰な親切にみえるが、ゲームの根底に不運死があり、最短ルート以外が危険である事を鑑みれば、プレイヤーストレスを緩和しているといえよう。
死とロストのちがい
本稿はキャラクターとプレイヤーのストレスを別記した。プレイヤーストレスはダンジョン攻略のカタルシスを得るために必要な負荷だが、量が過ぎると苦痛へとかわる。本作の設計はその点に細かく配慮しており、キャラクターとプレイヤーのストレスの焦点にあたる、キャラクターの死についてスマートな手法を考案した。キャラクターの成長は死によってロストするが、街の成長はロストしないのだ。
"ロスト"とは、『ウィザードリィ』でキャラクターデータが強制削除される状況を指す。この言葉には、それまでキャラクターに費やした投資がうしなわれる意味も含む。ロストの恐怖がプレイヤーストレスとしてはたらき、キャラクターストレスの管理に深みとシビアさをもたらすが、ロストの徒労感が大きすぎてゲーム意欲が削がれることもある。それを軽減するため、ロストしない街にも成長要素をもたせ、それぞれちがう成長方法をとった。成長は最終目標の"Darkest Dungeon"攻略にからむ重要要素なので詳しく紹介する。
ロスト要素があるキャラクターの成長は2種類ある。ダンジョン攻略を達成して得られる経験値でレベルが上がると、基本ステータスがアップし、街で上位の武具・スキルを購入できるようになる。微々たる数値だが確実な成長だ。それとは別に、クエスト終了時、目標の達成・失敗にかかわらず、ある運試しが発生する。永続的な能力の低下"トラウマ"を負うか、逆に、永続的な能力の向上"特技"を得る運試しだ。ダンジョン探索・報酬で得る装備品は能力の向上と低下がかならずセットになっているため、永続的な能力の向上のみを得る機会はこれしかない(アーリーアクセス当初、この運試しは選択式だった。3月2日バージョンは強制)。キャラクターの成長は運の要素が大きく、どちらかというとトラウマで傷物になることが多い。
なお、本稿では便宜上「特技・トラウマ」と表現したが、ゲーム中はどちらも「Quirks(癖・特性)」としてまとめられており、文字色のちがいで能力向上と低下を読み分けることが出来るようになっている。
それに対し、ロストしない街の成長は計画的だ。財宝やダンジョン攻略報酬で得られる街ポイントで施設を強化すると様々な恩恵が得られる。その恩恵は施設利用の価格の低下や、上位武具・スキルのアンロックだけでない。キャラクターストレスを回復する施設や、トラウマを解消する施設の利用枠を拡張できる。無償で手に入るキャラクターの応募・雇用枠を拡張すれば、欠員がでてもバランスよいパーティを組みやすくなる。このように、街の成長がすすむとキャラクターの補強や回復は容易となり、最終目標"Darkest Dungeon"を攻略する最強パーティ育成の土台になるのだ。そのゲーム攻略を助ける街の成長はうしなわれることがなく、ゲーム全体の経験値を保証している。
運要素で傷物になり"お気に入り"ではなくなるキャラクターと、計画的に成長できゲーム全体の経験値を保証する街。本作はダンジョン報酬をこの2つに分配することでロストにまつわる徒労感を軽減した。ここに、特定キャラクターへの気持ちの入れ込みを設計で回避していることもつけくわえておく。キャラクターストレスは自動回復がなく、同じキャラクターの連続使用が難しい。そのためパーティは毎回ちがった編成になり、プレイ時間をはじめとする投資が分散することでリスクヘッジになる。これもロスト時の徒労感をふせぎ、プレイヤーストレスをダンジョン攻略のカタルシスを得る程度に調整している。
本作の本質は不運死だが、徒労感が先立つ理不尽なゲームではない
本作は不運死を最新のゲーム技術によって再構成し、プレイヤーストレスが過剰にならないよう調整した。不運死を段階的にし、投資という判断基準で管理可能にした点。集合知に対策し、プレイヤーに最適ルートをはじめから提示した点。死とロストを区分し、プレイ意欲を断絶する決定的なロストをなくした点。それらの配慮でキャラクターとプレイヤーのストレスを一致させ、没入感をうみだすことに成功している。ここに不運死は改良され、現代RPGとして通用する魅力あるゲーム要素となった。新世代のゲーマーは完成を心待ちにしていただきたい。
また、昔ながらのダンジョンクロールを愛する歴戦ゲーマーも注目していただきたい。リセットボタンを押す準備をしながら『ウィザードリィ』をプレイしたゲーマーはもう一度剣を握りしめてほしい。待ち受ける不運死に満足するだろう。ゲーム起動時の注意文を和訳転載しておく。読んで心が奮い立った冒険者はアーリーアクセスに参加し、開発にフィードバックされたし。
『Darkest Dungeon』は、最悪のシチュエーションに陥ることについてのゲームだ。
クエストは失敗するか、あるいは放棄せざるを得なくなる。ヒーローは死ぬだろう。死亡すれば死んだままだ。
進行はつねにオートセーブされており、(プレイヤーがとった)行動は永続的に続く。
(訳: 弊誌石元)
アーリーアクセスの結果は上々だ。すでに、トラウマキャンセルやスタンハメといった"ズル"が摘発され、より手強く、恐ろしいものとなった。ほぼ連日バージョンアップしつづけ、意見・要望のくみ上げとフィードバックに余念がない。この真摯な対応でローンチの完成度に期待がもてる。深淵なダンジョンをのぞく者たちを、深淵なダンジョンもまたのぞき返しているのだ。