「Nintendo Switch」に見る、「ローカルマルチプレイ専用の対戦・協力インディーゲーム」が輝く可能性

数年前、私は友人のPS4上で『TowerFall Ascension』を3人とプレイした。最大4人のプレイヤーがアーチャーとなり戦う同作は、固定画面型のシンプルなアクションゲームながらもハイテンポで面白く、友人と朝までプレイしてしまったのを覚えている。

数年前、私は友人の所有するPS4上で『TowerFall Ascension』を3人とプレイした。最大4人のプレイヤーがアーチャーとなり戦う同作は、固定画面型のシンプルなアクションゲームながらもハイテンポで面白く、友人と朝までプレイしてしまったのを覚えている。「帰ったら買うよ、またやろう」。そんなことを始発の電車に乗る前に言ってから、住む場所を引っ越し数年が経過した現在に至るまで……薄情な話だとわかっていて告白するが、私は『TowerFall』を実は購入していない。友人と離ればなれになってしまったから、忙しかったから、他にもプレイしなければならないゲームがあったから。理由はいくつかあるが、その際たるものは、本作がローカルマルチプレイ専用のゲームだったからだ。

TowerFall Ascension

私の知る限りで、そして私の知らない多くのゲーマーにも当てはまるであろうこととして、協力・対戦型のゲームがローカルマルチプレイ専用であった場合、購入対象の作品としてチェックすることは極めてまれだと思う。それはインディーゲームでもオンライン対応の作品が増えてきた昨今において、現実世界でプレイヤーを集めてゲームを遊ぶよりも、別のオンライン対応のゲームを見つけるてインターネット上でフレンドと繋がることの方がはるかに容易だからだ。

またローカルマルチプレイ専用のゲームについては、単純に人を集め場所を確保する難しさの他にも、「知らないゲームに興味を持ってもらう難しさ」もあると思う。私は2010年にリリースされたXbox 360インディーズの『まもって騎士』が好きで、友人たちに布教しようと家に来た人たちにプレイさせてみたが、軽く触れただけで「映画でも見に行こう」というのが関の山だった。幸いにも『まもって騎士』は1人でも十分に遊べる作品だったが、もし同作が協力プレイ前提の作品だったのなら、私はグラフィックと音楽と軽いゲームの感触しか楽しめなかった。あるいはオンラインに対応していたのなら、すでに興味を持って購入したプレイヤーたちと共に、私は『まもって騎士』の協力プレイを味わうことができただろう。「彼らなら一緒に遊んでくれる」という友人がいない限り、あるいはオープンなイベントでもない限り、ローカルマルチプレイ専用のゲームが開発者が設計した通りに楽しめる可能性は、オンラインのものと比較すると低い。

ローカルマルチプレイによって生まれる“エネルギー”が、オンラインプレイよりも劣っていると言うつもりはない。『TowerFall』の開発者であるRyan Clemets氏はかつてPlayStation.Blogにて、相手が明確には見えないオンライン上のゲームプレイと異なり、肩を並べて同じ空間で遊ぶローカルマルチプレイには独自の熱量があると語っていた。たった一晩とはいえ、『TowerFall』を友人と熱狂的にプレイした自分も、その楽しさには同意する。ただ単純に、ローカルマルチプレイはプレイできる可能性が低いのである。その可能性を一度危惧してから現在まで、購入してもいい機会は何度もあったはずなのに、私はなんとなく『TowerFall』に手を伸ばすことをしなくなってしまった。

「Nintendo Switch」の映像が初めて公開された今年1月13日、Joy-Conを二分割して若者たちが1つの画面でプレイする様子を見て、正直にいえば私は「こんな風に使う人は少ないだろう」と感じていた。いったい何のゲームを遊んでいるのか、映像中では明らかにされないが、こういう人たちはより刺激的なおしゃべりや美味しい食事の方に身を興じるのではないかと。だが私は今になって、この風景が「Nintendo Switch」の1つの可能性を示しているものだと納得している。それは「ローカルマルチプレイ専用のインディーゲームを友人たちと集って遊ぶ」という可能性だ。

Nintendo of Americaは現地時間の2月28日、「Nindies Showcase」にて多数のインディーゲームを正式発表した。その中でもハッとさせられたのは、『Overcooked』のNintendo Switch版のアナウンスである。『Overcooked』は最大4人で協力・対戦プレイするアクションゲームで、すでにPC版がSteamにて配信されているが、ローカルマルチプレイ専用のタイトルということもあり、購入しなかった、あるいはまともにプレイできなかったという人も多いのではないだろうか。

なおJoy-ConはR/Lが片方だけ、あるいは左右がパックされたものが個別に販売されている。価格は左右パックで8000円程度と安くはないが、たとえばPC上でプレイするために追加のコントローラーを用意する場合と比較すると、高すぎると感じることはない

だが『Overcooked』にNintendo Switchを照らし合わせると、カチリと頭の中で音が鳴るように、Nintendo Switchと「ローカルマルチプレイ」の相性に気づいてしまう。持ち運びが可能で遊ぶ場所を選ばず、テレビがなくとも携帯モードでプレイすることでき、さらにコントローラーを分割して2人がその場でゲームに参加することができる。分割したJoy-Conは私の大きな手には小さすぎるだろうが、ガッシリと握る従来のコントローラーと違い、友人に気軽にわたして持たせることができそうだ。わざわざゲームがプレイできる環境を作り人をそこへ誘うという、最大の障壁の1つが取り除かれるわけである。これは基本的にローカルマルチプレイをするとしても人数分のハードを用意する必要があるニンテンドー3DSなどの携帯ゲーム機とも違う、「Nintendo Switch」が持つ独自の魅力、手軽さである。

開発者側の視点として考えてみると、もはやマルチプレイヤーといえばオンライン機能の搭載が当たり前となったトリプルA級タイトルを手がける大手・中堅企業よりも、個人や小規模な開発チームがより恩恵を受けるのではないかと感じている。マルチプレイヤーでもっとも重要な要素の1つは「人がいるかどうか」だ。対戦・協力プレイをする上でプレイヤーベースは非常に重要であり、遊んでいる人が減ってしまえばマッチングされる機会は減り、結果としてプレイ人口は先細りしてしまう。大抵は露出が少なく販売数もある程度限られるゲームを作る個人や小規模な開発チームが、資金や時間を投じて作品にオンライン機能を導入するというのは、非常に危険なものがある。Gamasutraが2014年に公開した記事では、近年販売されたインディーゲームの開発者らが、その点でオンラインマルチプレイを導入するかどうか苦悩した経緯が伝えられている。

すでに60本以上の作品が発表されたように、「Nintendo Switch」はインディーゲームにもオープンなプラットフォームであることが明確になりつつある。またgamesindustry.biz japan editionが報じたように、同ハードの開発機は5万円程度となることが明らかにされており、今後いよいよ任天堂のゲーム機へのインディーゲーム参入が本格的に進んでいくことになるだろう。すでに販売されたローカルマルチプレイ専用インディーゲームが、さらに登場する可能性にも期待が持てる。

ここまで魅力を語っておいてなんではあるが、このローカルプレイ専用インディーゲームとの相性に興味を示すのは万人ではないだろうし、この点がクローズアップされたからといって「NintendoSwitch」が爆発的に普及するような可能性は低いと思う。ただ私のように、『TowerFall』や『まもって騎士』のような素敵なローカルマルチプレイ専用インディーゲームをみんなと遊べなかった人たちにとっては、Nintendo Switchはよりその機会を多く与えるようなプラットフォームになるだろう。その未来は遠くないはずである。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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