超個性派2Dアクションデート『CONERU -DIMENSION GIRL-』の開発者は、ニコニコ動画「中学星」製作者だった。バ美肉の影響を受け、こねるを産む
HYPERSPACE氏の経歴を踏まえた亜空間こねるの創作秘話をお届けする。

2025年5月29日にリリースされた、HIKE/Eallin Japanが手掛ける2Dアクションデート『CONERU -DIMENSION GIRL-』をご存じだろうか。対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch。
本作は「亜空間こねる」と「ソクラテス」のふたりが二心同体の“こねラテス”の姿となってヘイトフルーツ・カンパニーと戦う横スクロールアクション。亜空間こねるは2019年の登場以来SNSを中心に人気を集めてきたキャラクターで、ファンからは「ついにその正体の謎に迫る」とゲーム化が待望視されていた。2025年12月12日には大型アップデートを迎えるなど、カジュアルな手触りのキュートなアクションゲームとしても、コアなファン向けのキャラクターゲームとしても、リリース後も高い注目を集めている作品だ。

弊誌では、「亜空間こねる」及びそのキャラクターシリーズ「次元少女」の原作者であるHYPERSPACE氏にインタビューを実施。今回は後編として、HYPERSPACE氏の経歴を踏まえた亜空間こねるの創作秘話をお届けする。ゲーム『CONERU -DIMENSION GIRL-』本編についてのインタビューは前編をご覧いただきたい。
──念のため確認しますが、つまりHYPERSPACEさんは、「中学星」の作者であるMIKE(清水誠一郎)と同一人物、ということですよね? かつてのSNSは既に閉鎖されていますし、「亜空間こねる」は別名義で発表されている。この間10年くらいの時間が経っていると思うのですが、この経歴に表で言及されたことは、一度もない?
HYPERSPACE:
はい。そうですね。
──……すみません。インタビューに書いてしまって大丈夫な話なんでしょうか、これ。「亜空間こねる」を「中学星」時代の名義で発表していなかったとなると、経歴を伏せたのには何か特別な事情があったものと思うのですが……!
HYPERSPACE:
あ、いや!隠してたってわけではないので大丈夫です!
──ご、ごめんなさい。『CONERU -DIMENSION GIRL-』と「中学星」。正直まったく頭の中で繋がっていなかった二作品だったので、ちょっと動揺してしまって……。
HYPERSPACE:
パッと見は似てないですしね(笑)そこのつながりに気付いた人はいないんじゃないかとは思っています。とは言え、個人的には結構イズムは継承してるように感じています。


──せっかくですので、その二作の関係性についても追加でおうかがいできませんか?HYPERSPACEさんはこれまで主に映像制作を手掛けられていて、ゲーム開発は今作『CONERU -DIMENSION GIRL-』がはじめてだったんですよね?
HYPERSPACE:
ゲームははじめてです!これまで映像制作をメインでやってきました。高校生の頃にオープンキャンパスで先輩の作ったモーショングラフィックを見て衝撃を受けたんです。シンプルに映像がイカしてたっていうのもあるんですけど、映像作品を“人が作ったもの”として認識してなかったみたいで「目の前にいるこの人がこれを作った!」っていうリアリティに完全に好奇心を奪われました。その流れでTUGBOATの存在を知り、箭内道彦さんや佐藤可士和さんなどのお仕事、つまり広告クリエイティブにあこがれて「作品」というよりは、CM制作の真似事などに夢中になりました。
ゲームは小学生の頃から大好きでもちろん大学でもずっとやってたんですが、映像を作って過ごした学生時代に「ゲームを作りたい」という発想が湧かなかったのは、今思うと不思議です。それもまた、“人が作ったもの”っていう感覚があんまりなかったのかもしれないです。当時のPSのゲームのCM、全部面白かったですよね。『塊魂』のCMとか、強烈に印象に残ってます。あのフォーマット真似したやつ、CONERUでも作りたいんですけどね。ロゴキャッチから意味深な実写から始まって、ゲーム画面が最後に数秒出て、またロゴで締めるやつ。
──では、「中学星」も学生時代に作られた作品の一つだったのですか?
HYPERSPACE:
はい。もともと大学院の修了制作でした。プロモーション的な効果のある映像を作って広告クリエイティブの真似事をして過ごした大学生活の中で、成果物の見た目のクオリティは上がっていっても、本来の機能が働いたかはいまいち手応えがなくて……。ちょうど文化祭で友達と漫才ライブをガチったのがめちゃくちゃ楽しかったので、修了制作では「笑わせるための映像」に挑戦しようと思ったんです。かっこつけて言うと「映像で笑いをデザインする」厳しく言えば「笑えなければ存在価値のない映像」です。
担当教授は「これ、僕が笑わなかったら、留年でいいよね」って。結構パンクな人だったんで本気だったと思います。……それで作ったのが「中学星」です。教授を笑わせることには成功しましたが、正直あんまり手応えはありませんでした。でも、楽曲を提供してくれた友達がニコニコ動画にアップしたいというので、OKしました。
……今思うと「笑わせる映像」に挑戦しておいて、それを自発的にネットにアップしようという発想が出なかったのは意味不明ですね。公募にはいっぱい出したんですが、なんでだったんだろう……。
──言われてみると、あの動画って確かに作者本人のアカウントでアップされていなかった気がする……。では、ニコニコでバズったこと自体が想定外だったということですか?
HYPERSPACE:
そうですね。最初に投稿されたのは「中学星 予告編+本編」という動画だったんですが、そもそも評価されるまでに謎のタイムラグがあったんです。アップした半年後ぐらいに突然知り合いから「これってお前だよね?」と言われて。どうやらニコニコのマイリスランキング1位になってたみたいで。大勢の人の目に触れて、しかもリアルタイムに動画上にコメントまで流れてくるので、まさにクリエイター冥利に尽きるという感覚でした。
その人気?を受けて作ったのが「中学星 完全版」と呼ばれる動画で、これは社会人になってから作ったものです。なので追加のネタはニコニコ動画のコメントを意識して作りました。「こうやって突っ込んでもらえるんだ」とか、「ここをこう突っ込んでほしい」とか。動画を通じたそういうコミュニケーションを思いっきり楽しませてもらいました。
──「中学星」は素体ママのキャラクター”阿部ひろし”たちが繰り広げるナンセンスギャグ作品でしたが、こうして改めて見返してみると、素体を使うユーモアセンスは『CONERU -DIMENSION GIRL-』の雑魚敵たちにもしっかり受け継がれていますね。
HYPERSPACE:
正直ザコ敵たちはこのゲームのもう一人の主役です(笑)素体・ピクトグラム・ショッカーなどからしか得られない面白さ、かわいらしさに対するどうしようもない好意は、おそらくペプシマンに刻み込まれたと思います。次に何か新しいものを作ったとしても、この感覚からは絶対に逃げられない気がします。やはりCMに大きな影響を受けていますね。
──一方で、無個性であるからこそキャラクターが面白い「中学星」と、個性的であるからこそ面白いキャラクターである「亜空間こねる」には、キャラクターの描き方に決定的な変化もありますよね。ここにはどういった心境の変化があったのでしょうか?
HYPERSPACE:
大げさかもですが、いろんな経験や視点から「世の中って女の子を軸に回ってんだな~」と思うところがあった時期で。美術・芸術の世界でも超メジャーなモチーフ。神絵師さんもみんな女の子を描いてる。それに一回向き合ってみようと思ったのが始まりですね。
それまではあまり「女の子を作ってみよう」と思ったことがなかったので、まずは絵を描くところから始めました。実写の女の子をひたすらスケッチしてみたりとか。
──2011年に中学星の展開が止まって以降、2019年の亜空間こねるデビューまでの10年弱の間に、なにか変化へに至るまでのキッカケがあったのですか?
HYPERSPACE:
中学星の一連の制作は、半ば巻き込まれたようなもので特にキャリアや展望を持って取り組んだものでは無かったんですが、並行して全く別の業務を行う会社勤めの二足わらじの過労で死にかけた経験もしたので、一本選ぶかとなったときにやはり映像制作でした。
その後は上京して、フリーで活動していました。新たな自主企画を立てることを主目的としてあれこれやってたんですが、四苦八苦しているうちに形にならぬまま時間だけが過ぎていって、4~5年経過したときに「このままだとクリエイターとして死ぬ気がする」と思うに至り、どこかで一から出直したいと思い始めた矢先に拾ってもらったのが、本作の開発元でもあるイアリンジャパンです。
奇しくもその自主制作を通じて知り合ったので、とん挫はしても大きな意味を持つものになりました。よかったらここに供養させてください(笑)
入社後しばらくして、亜空間こねるを軸にしたIPの開発業務を任せてもらえることになり、現在に至ります。今の会社の懐の深さによって育ててもらったような感じです。本当に一から、キャラクターのスケッチをはじめて……。中学星のブレイクは棚ぼたでしたが、分不相応だったと思っています。本来は下積みを経てたどり着くはずの場所にワープしてしまうと、こんなに遠回りになるんだなと……。

──亜空間こねるは、アンドロイドであるソクラテスを”受肉”することで「こねラテス」としてこの世に顕現するという設定を持つ少し変わったキャラクターですよね。2019年の発表直後、これは当時のVTuberカルチャーに対するカウンター表現として受け止められていたと思うのですが、実際のところ、そうした文化は彼女の誕生に影響がありましたか?
HYPERSPACE:
当時黎明期だったVTuber、それに伴う「バ美肉」の影響は絶対に受けています。VTuberカルチャーだと、演者さんに対して“魂”っていうワードがよく使われるじゃないですか。で、先ほども少しお話した通り、私は“魂”の存在を信じている人間ですから。VTuberカルチャーのそうした習慣もまた、「人間が“魂”となってキャラのガワを被ることで一つの存在となる」っていう図式で捉えていました。それをポップで面白おかしく視覚化されたものが「こねラテス」というキャラクターです。
その上で、私にはそれとは別に、元々「人間が生み出すすべてのキャラクターは、この宇宙のどこかに実在している!と思いたい……いや、している!」という思想があったんです。
──キャラクターの実在性ですか。
HYPERSPACE:
はい。だから「キャラクターデザイン」って言い方はあんまりしたくなくて。「あくまで宇宙のどこかからキャラを見つけてきて、選び、彼・彼女を伝道しているのが私です」みたいな言い方をしていました。だから世に出ているイラストも、あくまで作者が脳内宇宙で観測したものを現実に投影するとこうなる、といった感じで。その例に漏れず、亜空間こねるという存在も、私は本当にこの宇宙のどこかに実在しているんだと思っています。
見つけたキャラクターをそのままに描いていたら自然とこうなったって作り方なので、キャラクターデザイナーと言えるのかは微妙な気もします。よく言うと素直に、悪く言うと衝動だけで作ってますから。
──まさかこの10年弱が、HYPERSPACEさんにとって「宇宙のどこかから亜空間こねるという存在を見つけてくる」ためにあった時間だったとは……。
HYPERSPACE:
これまでの経験上「企画からはじめるとなんか上手くいかない」っていうのが学びとしてあって。だから亜空間こねるは、それこそ衝動に素直に乗っかって作りはじめました。のちに企画化するにしてもファクトが無ければ誰も動かせないので、途中まではもう、一人で勝手にやってました。亜空間こねるのTwitterとかもとりあえずアカウント作って試行錯誤を始めました。
それも、会社の方針的に自主制作が禁止されていなくて、業務に支障がない範囲であれば自身で作品を作ることが許される環境だったのが大きいです。あとなんか、うちのプロデューサーは「御託並べないでとりあえず作ってみろ」という思想があるので、行動で示したことを評価してもらえたという面もあります。最初の投稿前にチラ見せしてる段階で、「ぱっと見で可愛い!」と言ってもらったり、ちゃんと社内的にもフィードバックはしてもらってました。
──では、「亜空間こねる」を「中学星」時代の名義で発表していなかったのも、そこになにか特別な事情があったというよりかは……?
HYPERSPACE:
中学星時代に使っていたアカウントを消したのは「作者不明でキャラだけが立つ」っていう状態が理想だったからです。でも結局クリエイターが見えないと進む話も進まないということもあったりで、途中からクリエイター名義のアカウントを立てました。HYPERSPACEというよくわからない名前は、少しでも人間臭を和らげる意味もありますが…正直これもどういう立ち回りをするのが正解なのか未だによく分かってないんです(笑)いつまでたっても試行錯誤って感じですね。未だにアンサーは見つかっていません。
──ありがとうございます。では改めて、『CONERU -DIMENSION GIRL-』がリリースされた今、「次元少女」からのファン、そして「中学星」時代のファンに、クリエイターHYPERSPACEと亜空間こねるの今後の展開をお聞かせ願えますか?
HYPERSPACE:
長いWIPを経てゲームをリリースして、ようやく主戦場に立ったという気持ちです。今作は集大成ではなくスタートです。もっともっと「亜空間こねる」のイメージをこねてこねて、ファンの心を輝かせるような体験を届けたいです。最後は、ハリウッドとかでの映画化を実現します!
──まさか、このゲームの目指す先がハリウッドだったとは……。
HYPERSPACE:
無知のまま大法螺吹いちゃいますが、現時点では「できる」と思い込んでます。いつか世界最高峰のビジュアライズ技術で、亜空間こねるやこねラテスの姿を見てみたい。ほんとの最後の最後は、死後の世界とかで実際のこねるに会いたいですね。

──……ちなみに、その目標について、こねる本人はどう言ってますか?
HYPERSPACE:
亜空間こねる:
「いいね!行こ行こ~っ」
って言ってます!たぶん!
──”お二人”とも、今日は貴重なお話ありがとうございました。
『CONERU -DIMENSION GIRL-』はPC(Steam)およびNintendo Switch向けに発売中である。
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