農業生活ゲーム『ファーニア村で暮らす』開発者インタビュー。「『ルーンファクトリー4』でのやり残し盛り込みたい」「似てるけど違う作品」クラファン大成功後の現状と今後を訊いた

実施されていたKickstarterは目標額の3.5倍である1800万円を集めた。こうした成功を受けてどう感じているのか?

ゲームスタジオManaGamesは現在、『ファーニア村で暮らす』を発表した。対応プラットフォームはPC(Steam)およびDLsiteで、コンソール展開も視野に入れているという。

『ファーニア村で暮らす』は、生活シミュレーション+アクションRPGだ。主人公は「自分の名前しか思い出せない」人物。「家と畑を借りて村での生活を始める。畑を耕し、世界を冒険、恋愛に料理や鍛冶もこなし、ペットを育て、たまには釣りをしつつ、謎の少女に食事の大切さを伝える、そんなゲーム」とのことである。本作においては、ストーリーでエンディングを迎えてもその後の暮らしを重ね続けられるとのこと一般的にはストーリー進行が止まると、基本的な進行は止まるが、本作では“その後”も遊び続けられることを特徴としている。

本作の開発においては、『ルーンファクトリー4』ディレクターを務めた真部シンイチ氏および同作でテキストを担当した辻多加徳氏が鋭意制作しているといい、『ルーンファクトリー』エッセンスのありそうなゲームとして注目を集めた。

そうした注目の後押しを受けて、実施されていたKickstarterは目標額の3.5倍である1800万円を集めた。こうした成功を受けてどう感じているのか?そして『ファーニア村で暮らす』はどんなゲームになるのか?開発者に話を訊いた。なお、同作のKickstarterは11月27日まで出資受付中である。

ふたりで始めた決意のプロジェクト

――自己紹介をお願いします。

真部シンイチ(以下、真部)氏:
真部シンイチです、最初にDimpsでゲーム業界入りして、そのあとネバーランドカンパニーに転職しました。そのあとは、一人で請け仕事などしながら自分個人のゲームを作るために頑張っています。携わったわかりやすい作品としては、Dimps時代には『星のカービィ鏡の大迷宮』にプログラマーとして関わり、ネバーランドカンパニー時代は『ルーンファクトリー3』にメインプログラマー、『ルーンファクトリー4』にディレクターとして携わりました。

辻多加徳(以下、辻)氏:
辻多加徳です。かつてはネバーランドカンパニーに入社して活動していて、現在はフリーのシナリオライターとして活動しています。ネバーランドカンパニーの友人や先輩方には今でもよくお世話になっています。ネバーランドカンパニー時代は『ルーンファクトリー3』『ルーンファクトリー4』にプランナーおよびシナリオライターとして参加しています。かなり多くのテキストを書きました。

――お二人ともに『ルーンファクトリー3・4』開発経験者なんですよね。お二人はご自身をどのようなクリエイターだと思っています。

真部氏:
デザインと作曲以外は全部自分で挑戦するタイプです 。メインはプログラマーなので、破綻せず作れるのも大きいですね。たとえば、『ルーンファクトリー』の、村でうろうろする村人の 生活ルーチンシステムなどは、頑張って仕組みを作りました。ニンテンドーDSのメモリの制限が厳しかったのですが、なんとか設計してチームメンバーに協力してもらい実装しました。 自分は 物量を作るところも得意ですね。

辻氏:
ネバーランドカンパニーのプランナーさんたちは先輩であり、対応力も高かったので、それも大きかったかもしれません。それと、真部さんはかなり話しやすくて、実装を頼みやすいタイプだったと思います。

――辻さんの特徴は。

辻氏:
僕の強みはゲームシステムに寄り添うテキストを書く部分だと思います。ある程度、構造的に物事を捉えられることが、そのままテキストの強みにもなっている気がします。

――面白い。システムに寄り添ったテキストを書けると。『ファーニア村で暮らす』でも、そうしたテキストエッセンスが入っていますか。

辻氏:
入っていると思います。

真部氏:
『ファーニア村で暮らす』ではさきほど話した生活ルーチンシステム も入っています。この動画ではキャラのひとりであるカグヤがくるくるしているシーンがあるんですが……これは生活ルーチンシステム です。その時話しかけると専用会話があったりしますね。

辻氏:
そういう、面白いと思ったものをどんどん実装していくのが真部さんの特徴ですね。ちなみに僕は、プレイヤーは「ゲームをするためにゲームをしている」と思っています。そこを突き詰めると自然と「このゲームは何が面白いところなのか」という話に行き着くと思うので、そこをちゃんと考えて寄り添ってシナリオを作ろうとする部分が、一番の強みとなっていると思います。『ファーニア村で暮らす』でいうと、まさに生活感の部分に当たりますね。

――ちなみに2人チームと小規模なのはなぜでしょうか。

真部氏:
私と同じく、私財を投げ打ってゲームを作るような人間で 、付き合いと実績がある相手……辻さんと組むことになるので2人でやっています。辻さん がいなければ、1人でゲームを作ったと思います(笑)

辻氏:
自分もある程度資金がたまってきたので1人でアドベンチャーゲームを作りたいと考えていて。そんな中で真部さ んと、一緒に作りたいという話になり。ふたりの作りたい物が一致していたので、『ファーニア村で暮らす』を作ることになりました。作りたいゲーム像が一致していたことが大きいですね。

――改めて、『ファーニア村で暮らす』について紹介お願いします。

真部氏:
端的にいうと……農業、冒険、恋愛が同じ軸で交わって。それが生活となり「ここに住みたい」と感じるゲームです!

――『ファーニア村で暮らす』にはいろんな要素がありますが、もっとも力を入れている、あるいは見てほしい要素はどこでしょうか。

真部氏:
各要素の掛け合わせの部分です。たとえば農業であれば、普段の行動と違う動きで農作業をするのではなく、普段のアクションのような動きで農作業ができます。だから農業モーションにも攻撃判定がついていたり、通常の剣の攻撃で草を刈れたりもするんですね。魔法なんかにも農業的な判定を持たせたりしたいです。

そのほか、村人と仲良くなる要素も農業に還元したいと思っていて、畑を見に来た仲の良い村人が水遣りしていない土に水遣りをしてくれる、みたいな要素も入れるつもりです。こういった掛け合わせの積み重ねが存在の実感を生み、「ここに住みたい」ゲームに繋がると思っています。

辻氏:
力を入れている要素についていえば、システムの延長線上にテキストがあることですね。たとえば、自然と動作が変化しても、そこで思わず話しかけてみて同じテキストが出てしまうと、キャラクターや村は「生きていない」と感じてしまうと思います。そういったところをどれだけケアできるか、というところをこだわっていきたいですし、それを積み重ねた先にこのゲームのメインシナリオを置いていきたいと考えています。

――ということは、『ファーニア村で暮らす』のテキスト量には期待してもいいですか?

辻氏:
テキスト量は自然と多くなると思います。同時に、多く感じられるような工夫も大事だと感じます。「状況によってテキストが追加される」といったところは意識しています。

――おふたりは2人チームで、真部さんがメインで、辻さんがテキスト担当ということですが、こうした生活ゲームはコンテンツの物量が大事だと感じています。2人チームで物量を確保できるものでしょうか。

真部氏:
実は、『ルーンファクトリー4』も少人数チームだったんです。 アーティストの数はかなり違いますが、他は数人減ったくらいでさほど規模感は変わらないと思っています。

それと、ずっと作り続けるというのは、実のところ新人だった頃からずっとやってきました。いろんなパターンの仕様を考えて提案して、調整して。とにかく自分が頑張って物を量産してきました。なので……自分たちがめちゃくちゃたくさん物量を作る、というのが肝だと思っています。

――人数が多ければいいとは限らないと。

真部氏:
大人数だとどうしても足回りが遅くなるので、必要な人数で多く作っていくのが重要ですね。

Kickstarterがなければ「10~20年かかっていた」

――Kickstarterのクラウドキャンペーンで支援を募った理由を教えてください。

真部氏:
はっきり言いますと、活動の資金切れです。本作の開発に集中するための資金が必要でした。

辻氏:
実は僕の方が先に資金が尽きていて。今は別の業務委託のお仕事をしながら、『ファーニア村で暮らす』のテキストを書いています。ただ、先にお話したようにテキストは大量に必要なので、資金を集めてこちらの作業に集中する時間を捻出していかなければとも感じています。

――Kickstarterでは目標額の3倍以上を集めました。予想していましたか。

真部氏:
本当にありがたいです。Kickstarterキャンペーンが始まった直後は、知り合いのご祝儀があり、ありがたい一方で、一般のユーザーの支援は少なく、不安でした。寝ようとして……寝られませんでしたが。

辻氏:
日本時間の夜でしたからね。海外のユーザーが気づいてくれるだろう……と感じていたものの、数字が伸びなかったことは覚えています。

――そこから盛り返したと。

真部氏:
メディアの人々が取り上げてくれてから、大きく動きました。

辻氏:
やはりXでの広まりが強かったです。それと、真部さ んが公式Xアカウントでいろいろとゲーム紹介してくれたのも大きかった。

真部氏:
説明動画みたいなものを作りましたね。

――Kickstarterキャンペーンは現時点でうまくいったと感じていますか。

辻氏:
はい、現段階で成功と考えています。ご支援ありがとうございます!ただ、僕らが理想とする『ファーニア村で暮らす』の生活を作り上げるためには、少なくとも設定したストレッチゴールを達成するところがスタートだとも思っています。可能な限り、なるべく沢山の「ここに住みたい!」と思う要素を詰め込みたいので……。僕ら2人が『ファーニア村で暮らす』の開発にのみ集中するためには、開発費を確保する必要があるというのも正直なところです。……今後とも、どうかよろしくお願いします!

――Kickstarterキャンペーン成功によって、どのようなことが可能になりましたか。ストレッチゴールの要素実装が大きいとは思いますが。

真部氏:
そもそもとして、「開発を続けられるようになった」のが大きいです。開発中止にはしなかったですが、自分が何らかの下請けの仕事をしながら本作を作るとなると、10~20年かかっていたかもしれません。おかげさまでちゃんと専業で開発を続けられます。

辻氏:
それと、「入れようとしたかったけれど、予算の関係で断念せざるをえないかも」と考えていた要素が入れられそうで、それもできそうなので嬉しいです。

――喜ばしいです!ちなみに率直な感想ですが……『ファーニア村で暮らす』は、キャラデザなどは好きなのですが、グラフィックが気になりました。Kickstarterの成功によってこうしたルック面が改善される可能性はありますか。

真部氏:
改善検討はして、協力してもらえそうな人もいます。ただ、グラフィックをよくするためにギミックやバリエーションが増やしづらくなったりするとやりたいことから離れてしまう。オブジェクト数なども重要ですから。なので背景についてもコストを上げすぎないようにしたりしています。それらを踏まえて、慎重に考えています。それと資金もいりますし、波長の合う仲間も必要ですね。とはいえ、今後基本的に良くなっていくと考えていただいても問題ありません。

辻氏:
真部さ んと自分は意思決定を大事にしています。「良いモノを目指す」にあたって、良いものの認識のブレが少ないことは大事かなと思っています。

『ルーンファクトリー4』でのやり残しを盛り込むために

――少し意地悪な質問ですが、本作から『ルーンファクトリー4』のようなエッセンスは感じてワクワクしますが、一方で本作ならではの要素がどこかも気になります。どのような独自性を盛り込みますか。

真部氏:
『ルーンファクトリー4』は、今となってはいろいろと思い残しが多いです。スペックによる制限も、仕込みたかったけれど叶わなかったことも多く。それらをすべて解消した、現代向けの見下ろしの牧場シム+アクションRPGを作りたい、遊びたいと自分で感じて作り始めました。

辻氏:
現時点で、『ファーニア村で暮らす』をプレイすると『ルーンファクトリー4』とかなり印象は違うゲームになっているかなと思います。たとえばバトルでは、敵の数が多かったり、そうすることによって要求される攻略の幅も広がるかなと。

こうした「冒険」の部分が変化すると、村に帰ってきた時、あるいは行く前……「生活」の部分の感じ方も変わってきます。ゲーム内の日常はこういうちょっとした積み重ねなので、「ちょっと違う」が積み重なって、かなり違う感じに仕上がっていると思います。

真部氏:
たとえば『ルーンファクトリー4』が出た時に『ルーンファクトリー3』と全然変わってないと、いう人がいました。ただ今となっては、そういうことを言う人はかなり減りましたよね。それと同じで、似ていてもかなり進んだもの になっているとは思います。

――おふたりが、プレイヤーに届けたい体験を教えてください。

真部氏:
これまでの回答でいろいろと出ていますが、そのほかでいうと「コレをつかってコレできるの!?」という体験を何度もしてもらいたいと思っています。

――さきほど述べられた「農業モーションで攻撃できる」「畑を見に来た村人が水やりしてくれつ」みたいな要素のかけ合わせの話ですね。辻さんはいかがでしょうか。

辻氏:
「懐かしいけど新しい体験」ですかね。「懐かしい!楽しい!」と感じながら遊んでもらいつつ、ちゃんと驚きや変化を感じられるように作っていきたいと思っています。

――ありがとうございました。

『ファーニア村で暮らす』はPC(Steam)/DLSite向けに開発中。Kickstarterは11月27日まで出資受付中である。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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