『サカつく』新作が基本プレイ無料なのは、「毎年データを継続して更新していきたいから」。新たに生まれ変わった『サカつく』新作の理念を開発者に訊く

『サカつく2026』プロデューサーの久井克也氏に興味深い話の数々を訊くことができたので、前後編に分けてその内容をお伝えしたい。

プロサッカークラブをつくろう!2026』(以下、『サカつく2026』)は、サッカークラブを運営していくシミュレーションゲームだ。しばらく家庭用ゲーム機向けには音沙汰がなかったが、今回は基本プレイ無料タイトルとしてクロスプラットフォームで展開される。通常のように移籍交渉を経て選手を獲得できるほか、ガチャで選手を獲得できるのが本作の特徴だ。場合によっては、あのメッシをプレイヤーの率いるJ3のクラブに加入させることも可能。そうした荒唐無稽ともいえる出来事をきっかけにプレイヤーそれぞれのドラマが生まれていくのが『サカつく2026』のロマンあふれるところだ。

そんな『サカつく2026』の開発者に、弊誌は複数のメディアで合同インタビューを行う機会に恵まれた。自身もコンシューマー向けタイトルだった頃のシリーズのファンだったという『サカつく2026』プロデューサーの久井克也氏に興味深い話の数々を訊くことができたので、前後編に分けてその内容をお伝えしたい。本稿は前編にあたり、『サカつく2026』が誕生した経緯や運営型タイトルとしての強みを紹介する。

『サカつく2026』プロデューサーの久井克也氏


『サカつく』と『Football Manager』が共存できる理由

――最初に自己紹介をお願いいたします。

久井克也氏(以下、久井氏):
『サカつく2026』プロデューサーの久井克也と申します。現在は主にスマートフォン向けタイトルに携わることが多いのですが、かつては『サカつく』シリーズを始めとした家庭用ゲーム機向けタイトルの開発にも参加していました。2009年に発売された『J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!6 Pride of』でプランナーとして携わっているほか、2011年に発売された『Jリーグ プロサッカークラブをつくろう!7 EURO PLUS』ではディレクターを務めさせていただいております。

過去作の開発に携わった経験から、その頃の『サカつく』を蘇らせたいとの想いで『サカつく2026』の企画を立ち上げました。なによりも私自身が『サカつく』のファンなんですよ。昔のような『サカつく』を現代でも遊びたいという気持ちを込めて『サカつく2026』の企画を立ち上げた、というのが私の正直な気持ちです(笑)。

――セガのサッカークラブ経営シミュレーションゲームといえば、Sports Interactiveの手掛ける『Football Manager』シリーズが世界的な人気です。そうしたなかであえて『サカつく』新作を発売することについては、どのような狙いがあるのでしょうか?

久井氏:
『サカつく』と『Football Manager』はどちらもサッカークラブを率いるゲームですが、本質的なところがまったく異なるゲームだと個人的に考えています。『サカつく』は純粋なシミュレーションゲームではなく、プレイヤーが監督として戦っていくRPGのようなタイトルだという印象を受けていますね。『サカつく』に個性的な架空選手が登場することから、一種のキャラゲーとしても親しめる要素が存在します。選手の個性に向き合って育成していくゲームとしても、『サカつく』は一定のシェアを獲得できると考えています。

『Football Manager』は長らく続いているシリーズですが、日本語版が登場したのは2023年に発売された『Football Manager 2024』からです。それ以前は、日本の市場がそこまで本格的に意識されてこなかったことは事実でしょう。『サカつく2026』の開発を立ち上げたのは、4年前の2021年でした。私としては開発が始まってから2年ぐらいでリリースしたかったんですが、そうはいきませんでした(笑)。結果として、『Football Manager』の本格的な日本展開が始まったあとに『サカつく2026』をリリースすることになりましたが、『サカつく』の魅力が伝わる余地は残されていると思います。

世界的なタイトルとしては、『Football Manager』が強いというのはもちろん理解しています。しかし、それでも私は『サカつく』を世界に広めたいという、エゴといってもいいような強い気持ちを持ち続けているんです。その気持ちは長期間にわたる『サカつく2026』開発の原動力となりました。

――『サカつく2026』のトレイラーには「Powered by Football Manager」の文言が登場していましたが、『サカつく』と『Football Manager』はどのように協力しているのでしょうか?

久井氏:
『サカつく2026』を広い地域で知ってもらえるようにするためにSports Interactive『Football Manager』のブランド名を使わせてほしいと打診したところ、快諾していただくことができました。『サカつく2026』が重点的な市場として考えている東南アジアにおいて、『Football Manager』シリーズは人気があります。韓国でも『Football Manager』はとても知名度がありますしね。『サカつく2026』を東南アジアで根付かせるために、『Football Manager』のブランド名を使わせていただくことにしました。

ただし、『Football Manager』のブランド名をトレイラーを使うにあたってはなんらかの理由も存在しなければいけません。「Powered by Football Manager」というトレイラーの文言にもとづく具体的な協力例を挙げると、『サカつく2026』では『Football Manager』の選手データを活用しています。というのも、『Football Manager』が使っている選手データは極めて高いレベルに到達しているんですよ。私たちは『Football Manager』の選手データが収められたデータベースを閲覧する権限を与えられています。

もちろん、『サカつく2026』と『Football Manager』では選手の細かなパラメータ項目が一致しませんので『Football Manager』の選手データをそのままコピーすることはできません。リアルな『Football Manager』の選手データを読み込んで、『サカつく』の選手データに沿うように変換して調整していっているという形ですね。このように選手データは両タイトルで協力しているのですが、試合の動きやグラフィックについては『サカつく2026』は独自の路線を突き進んでおります。私たち『サカつく』開発チームは、『Football Manager』というブランドを使わせていただいたことに感謝しています。

――『Football Manager』の選手能力は各項目が20段階で表現されていましたが、それを変換して調整したという『サカつく』の選手データはどのようになっているのでしょうか?

久井氏:
『Football Manager』の選手データの主要な部分を参考にしているという言い方がもっとも適切な表現方法かもしれません。そもそもがコンバートできるほど『サカつく2026』と『Football Manager』のデータは共通していなかったんですよ。

とりわけ参考になったのが、選手のポジション適性ですね。過去の『サカつく』では現実とゲームで適正ポジションが異なってしまったことがありました。『Football Manager』のポジション適正データはかなり正確ですので、そうした選手データを『サカつく2026』で使用できるのはとてもありがたいことだと思っています。


運営型タイトルとして生まれ変わった強み

――基本プレイ無料タイトルになることで、生み出された『サカつく2026』ならではの新たな価値を教えてください。

久井氏:
『Football Manager』のように、『サカつく』も毎年データを更新して継続してリリースすべきIPだと私は考えています。ですが、さまざまな事情があって過去作ではそれができませんでした。本作がオンラインありの運営型ゲームである以上、事業性をきちんと担保しないといけないという側面は出てくるでしょう。逆に事業性を担保することができれば、毎年選手データを更新して継続して展開できるタイトルになるということです。

本作が基本プレイ無料タイトルになることで、年次データを更新していくような運営型のタイトルへとなる可能性を秘めております。継続的なアップデートによって、サカつくモードを改善していくことも可能です。そうしたところが、本作が基本プレイ無料のタイトルになったメリットであると考えていますね。

――運営型のタイトルとしては、『サカつく2026』ならではの強みはどのようなものになるのでしょうか?

久井氏:
現実のサッカー界で活躍した選手をガチャでピックアップできることが、『サカつく2026』ならではの強みであると考えています。たとえば、Jリーグの試合でマンオブザマッチで選ばれるほど活躍した選手がいれば、ガチャで通常より強い能力を持つ選手を登場させるようなことができるでしょう。場合によっては、サカつくモードでも能力が引き上げられる選手も出てくるかもしれません。現実の活躍を反映して旬の選手をガチャで提示できるというのはライブゲームとして、やりやすいなと思っています。

ガチャについては、同じ選手でも通常とは異なる別バージョンの選手として登場するイメージですね。たとえば、バロンドールを受賞したバージョンの選手がガチャに登場する可能性もあるでしょう。しかし、これは現実のサッカーをゲームに反映するスピードが開発の課題となってきそうです。ラグをできるだけ少なくしたいとは考えていますが、やはり大変なことになるでしょうね(笑)。バロンドールに選ばれた選手のガチャを実施するにしても、発表から2カ月も経過していたら新鮮味が薄れてしまっているでしょうし。現実のサッカー選手の活躍を追いかけて、スピーディーにゲームに登場させることが大切となってきます。

若い選手の評価は難しいところがあって、シーズン中に急激に成長することがあります。最近の例を挙げると、佐藤龍之介さんですね。FC東京からファジアーノ岡山へ期限付き移籍中に活躍し、日本代表に選ばれるようになりました。私はファジアーノ岡山のサポーターですので、この選手が急激に成長を遂げていく様子を試合観戦を通じて知っています。リリース前ではありますが、佐藤龍之介さんの選手データは上方修正が必要だと私は開発スタッフに言い続けているところです(笑)。

――ガチャのピックアップの頻度はどのようになるのでしょうか?

久井氏:
詳細なスケジュールはまだ決まっておりませんが、一般的なタイトルと同じように『サカつく2026』でも2週間に1回というような頻度で選手ガチャが更新されることになると思います。新規選手のガチャが登場しつつ、過去のガチャの選手が復刻する形のガチャも実施していく予定ですね。こちらの復刻選手ガチャは1週間に1回程度の更新になるかもしれません。選手のほかに「特別練習」のガチャも本作に登場する予定です。

――『サカつく2026』の開発チームのメンバーはサッカーがどれほど好きなんでしょうか?

久井氏:
サッカー観戦とゲーム開発はどちらも時間のかかることですので、その両方に詳しいスタッフを見つけるのは難しいんですよ(笑)。そういった人材は昔からなかなかいないんですが、本作の選手データを作っているスタッフはサッカーについて豊富な知識をもっていますね。

そのスタッフは若手なんですが、新卒の面接で私が彼と出会ったときを覚えています。そのスタッフの持つサッカーの知識とサッカーへの情熱に惹かれて採用したいと思ったんです。

ゲームプランナー志望の面接だったんですが、趣味の話でJリーグの話になったんですよ。ロアッソ熊本の熱心なファンで私はその話に聞き入っていましたが、サッカーのことを詳しくは知らない別の面接官は「Jリーグはもう落ち目じゃないか?」と質問したんです。これは間違った疑問です。Jリーグはファンの数も増えているし決して落ち目ではないのですが、一般的な印象としてその面接官は質問したようでした。そこからの当該スタッフの回答が凄まじかったですね。Jリーグは決して落ち目じゃないことを、データを示しながら、冷静にJリーグの現状を説明できていました。

面接を受けている身でありながらも、ロアッソ熊本の現状や熊本にJリーグのクラブが存在する意味までもを的確に語る姿は圧巻というほかありませんでした。冷静を装いつつ、本当は怒りに近い感情が含まれていたかもしれませんけど(笑)。日本のサッカーにおける本質を知っている人物として、私はこの人物を採用したいと思いましたね。当該スタッフが『サカつく2026』のチームに入ってくれて、本当に良かったです。そのスタッフはJリーグだけでなく、今ではヨーロッパなどの海外サッカーにも精通しています。

(明日公開『サカつく2026』開発者インタビュー後編へ続く)

プロサッカークラブをつくろう!2026』は、2026年初頭に配信予定。基本プレイ無料のタイトルとして、PS5/PS4/iOS/Android/PC(Steam)のマルチプラットフォームで展開される。弊誌ではクローズドベータテストのプレイレポートも掲載されているので、そちらもぜひ読んでほしい。

Ryuichi Kataoka
Ryuichi Kataoka

「ドラゴンクエストIII」でゲームに魅了されました。それ以来ずっとRPGを好んでいますが、おもしろそうなタイトルはジャンルを問わずにプレイします。

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