深層墜下アクションストラテジー『Million Depth』は、どれをとってもアピールポイント。開発者インタビューに感じた、全方位への徹底したこだわり
本稿では、深層墜下アクションストラテジー『Million Depth』を手がけるαPop氏より、本作にかける“熱量”をうかがった。

弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドPLAYISMとCyber Space Biotopeは11月12日、『Million Depth』を発売する。対応プラットフォームはPC(Steam)。同作は、深層墜下アクションストラテジーだ。
主人公である少女モマは、“キミ”という人物を追い求め、100万階層続く地底世界「ミリオンデプス」に墜ちていく。物語を彩るのは自由な発想で無数の武器を作成可能なクラフトシステム、そこには時間を停止して思考する独特の戦闘システムが盛り込まれ、また、世界線ごとに異なる“キミ”の正体によってルートごとに結末も変わっていくなど……とにかく盛りだくさんの作品になっているのだという。

弊誌は今回、東京ゲームショウ2025にてCyber Space Biotop代表のαPop氏にインタビューを実施。ゲームメカニズムから、世界観構築に至るまで、作品の隅々にまで込められたこだわりを存分に語っていただいた。現在公開中の「αルート」を最後まで遊べる体験版の狙いに迫る内容の他、本作にかけるαPop氏の“熱量”を是非、お届けしたい。

――自己紹介をお願いします。
αPop氏:
『Million Depth』を製作しています、αPop(あるふぁぽっぷ)です。
――早速ですが、本作のアピールポイントを教えていただけますか?
αPop氏:
ええと、そう、ですね……。
――どうかされましたか?
αPop氏:
……あの、申し訳ないんですが、どうしてもアピールポイント一つに絞り切れないんで、全部の要素をアピールしちゃってもいいですか? 言いたいことが多すぎて……。バトル、ストーリー、音楽、全部ジャンルが違いすぎるんですよ。それぞれで手を抜かずにしっかり作り込んだので、全部アピールさせてください!
──(笑)もちろんいいですよ。むしろ是非お聞かせください。
αPop氏:
ありがとうございます!
──でははじめに、TGSでのユーザーの反応をご覧になって、いかがですか。
αPop氏:
思ったより皆さん反応が良くて、ありがたいですね。直前に結構ボリュームが大きい体験版を出したのですが、それをやり尽くすくらい熱心に遊んでくれている人もいて。皆さんガンガンフィードバックもくださるので、本当に助かってます。

──昨年のTGSでは開発度が50%程度だった印象を受けましたが、ここ一年で完成までこぎつけましたね。振り返って、これまでの開発はいかがでしたか?
αPop氏:
この一年で言えば世界観の演出に時間がかかって、そこを中心に開発を進めていましたね。私が好きなSFの、楽しい要素だけをゲームとして楽しんでもらえるようなストーリー構成をしようと思って組み立てて……今回の物語に決めたんです。
開発全体で言えば、『Million Depth』はバトルとクラフトシステムが結構変わったゲームなので、その作り込みに一番時間がかかったかもしれません。でも、個人的にはそれと同じくらいシナリオにも力を入れたかったので。このゲームのシナリオにはいくつかの世界線があって、それぞれの世界線ごとにストーリーも全部違うんですけど、各世界ごとに用意された“トリガー”が別の世界にも影響するっていう構成になっているんです。
──各ストーリーは並行世界のようなものであるのと同時に、ストーリー同士が相互に影響を与えあっているシナリオということでしょうか?
αPop氏:
そうなんです!相互に関係し合ってるし、それぞれの世界は時代も異なっています。これは公式としてはまだ表には出していなかった情報なんですけど、勘の良い方は体験版を遊んだ時点で既に仕組みに気付かれていたみたいですね。なので、平行世界ものであるのと同時に、タイムリープものを組み合わせた話にもなっています。「過去の世界の行動が、未来の世界に影響を与える」っていうのがシナリオで力を入れた仕組みの一つですね。
──先ほどからお話に出ている体験版は、3つあるシナリオのうちの一つ「αルート」がまるっと遊べる贅沢なものになっていましたが、その辺りはα世界を遊んでもらっても次の世界についても自信があるということで?
αPop氏:
はい。そこには割と自信があります。体験版のストーリーを最後まで見てくれた人は、続きが気になってきっとその先もやってくれるだろうなって思いはありましたね。
──今回の試遊では、その「αルート」をクリアするRTA企画が行われていますよね。シナリオに力を入れられた一方、繰り返し遊べるゲームとしてのプレイボリュームも意識されているように見えます。本作は主にどういった遊び方を想定されて作られたのでしょう?
αPop氏:
ストーリーを楽しんでもらいたいのは勿論そうなのですが、もともと私個人としては「1000回遊べるローグライク」みたいなゲームが好きなんです。だから『Million Depth』にも絶対にそういうゲーム性は取り入れたかった。ただ、ストーリーを入れてしまうと、1回ストーリーを見たらゲームとしてはどうしても“終わり”になっちゃうじゃありませんか。このゲームではそれをなんとかしたくて。そこでストーリーを見終わった後に、ゲームの設定項目で演出をスキップできるようにしたり、何度も遊ぶための工夫を色々と用意しました。ストーリー終了後も、サクサクとゲーム性の部分だけを楽しめる仕込みを作っています。
自然とプレイしていくうちにストーリーが表示されなくなっていき、最終的にはもうゲーム性だけが残る。遊び方が自然に移り変わっていくようなゲーム。本作では、そういう新しい挑戦をしたいと思っているんです。

──「シナリオ」と「ゲームメカニズム」。どちらも捨てきれなかったからこそ、インタビューでも作品のすべてをアピールしたかったと。
αPop氏:
そうなんです、そうなんです!むしろ、両方やりたかったんです!チームメンバーも少なく、リソースも足りない中での挑戦ではあったんですが、その両方を出そうという意思で開発に取り組んできたので、こうして様々な形で皆さんに届きつつあることを大変嬉しく思っています。開発側としても、割と満足な形で出せたと感じていますね。
──ちなみにゲーム開発自体は、どちらの要素が先行してスタートしたのでしょうか?
αPop氏:
これはシナリオ、というより世界観が最初でした。地球の中に潜っていくという設定がまず最初に出来たんです。私自身、昔からこの手のSF小説が大好きで。現代技術で地底はある程度解明されていますけど、まだ未知の部分があるんじゃないかと。そこにロマンを感じて、それをもう一度ゲームにしたかったんです。
ユーザーの皆さんからはパラレルワールドSFからの影響をよく指摘されるんですが、どちらかというと影響を受けたのは、ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』やジェイムズ・P・ホーガンの『未来からのホットライン』など、実はクラシックなSF小説の存在が大きいです。地底というテーマや、誰かわからない相手からメッセージが届く導入など……そういう構造から強くインスピレーションを受けていますね。
──なるほど。地底に潜っていく世界観があったからこそ、階層を下るたびに資材を使って武器をクラフトする本作のゲームシステムがそこに生み出されたわけですね。
αPop氏:
はい。地下を目指して潜っていく物語なら、ゲーム的なスタート地点もそこから一番遠いところにしたいなと思って、主人公は宇宙から落ちてきた設定になりました。その枠組みができた段階でデザイナーの金子さんと相談したとき、「どうせ上から落ちてくるなら、主人公はいっそ天使をモチーフにしたらどうだろう」というアイデアが出たんです。作中では明言していませんが、主人公が武器として使うリングは天使の輪っかに見えるようにしてあります。あくまで裏のコンセプトですが、『Million Depth』は”堕天”の物語なんです。
最初こそ、リングは単なるデザインとして描かれたもので、「宇宙空間では髪が伸び広がって邪魔になるから、髪を束ねるためにアクセサリーとして天使の輪をつけていることにしよう」という発想にとどまっていました。でもキャラクターを見ているうちに、だんだんそれをゲームシステムにも落とし込みたくなったんです。リングで攻撃するにはどうしたらいいか、と。そうして辿り着いたのが、「武装したリングが浮遊して敵を攻撃する」という現在の戦闘システムです。デザイナーとのやりとりからゲームシステムが生まれたんです。
武装も最初は決まったものしか用意してなかったんですが、なんだかしっくりこなくて。既存の枠から離れた方が良いと考え、専用エディタで自由にクラフトできるようにしました。完全自由に描かせるのは難しいので、ブロックを配置することでパラメータを決める仕組みになっています。そこにもパズル的な楽しさがある方が良いと思ったので。

──自由に武装をクラフトできるシステムは本作の目玉要素の一つですよね。そこにはどのような狙いがあったのでしょうか?
αPop氏:
「パラメータだけに縛られない武装の強さ」を表現したかったんです。砲塔を作ると攻撃力が上がる、特定の形にすると防御力が上がるなど、クラフトによって作られた武器は見た目や形状、効果が変わるようになっています。ただし、単に強い要素を重ねれば強い武器が作れるかというとそうではなく、例えば鉄アレイのような形状の武器を作ったとすると、両端の鉄部分は硬いけれど真ん中を壊されるとポキッと折れてしまいます。これをゲーム内で再現したんです。鉄アレイ型を作った場合、弾が飛んできて鉄の部分で受ければ問題ないけど、真ん中に当たるとバキッと一発で壊れる。
つまり、武装の形状によって戦い方を選べるようにしてあるんです。バトル中のプレイヤーの動かし方やスタイル、レリックの組み合わせによっても戦い方が変わる。試作が出来上がった後、それを本当に面白く、繰り返し遊んでもらえる形にするのに苦労しました。こういうクラフト要素って、最終的にみんな大体同じ形を作っちゃうものじゃないですか。このゲームで言えば、丸型で万能な“正解”の形式みたいなものに落ち着いてしまいそうだった。でも、製品版ではそこを調整して、そう簡単にはいかないようにしました。敵の調整も加えましたし、βルートでは武装が二つ使えるようになる、という仕組みも入れています。
同じクラフトだけではうまくいかないような、別の方向性のクラフトを試したくなるような設計。このバランスを成立させるのに、かなり苦労しましたね。繰り返し遊ぶ中で、毎回違ったクラフトを楽しんでもらえればと思っています。
──時間が停止するバトルシステムというのも興味を引きますね。
αPop氏:
本作のバトルは、プレイヤーが操作をやめると敵の動きや攻撃まで止まる仕組みになっています。よく『SUPERHOT』に似てると言われますが、実はこのシステムを作るまで存在を知りませんでした。知ってからも影響を受けたくなかったので、あえてプレイはしていません。なので、似ているようで全く別のシステムになっているはずです。
もともとは、私自身アクションがあまり得意じゃなくて、だいたい途中で挫折してしまうんです。だから、アクションが苦手な人でも楽しめる仕組みを作りたいと思いました。それと、既存のゲームと同じことをやっても面白くないので、独自のゲーム性を生み出したかったんです。
とはいえ指針がないと作れないので、“アクションが苦手でも遊べる”“クラフトした武器を活かせるバトル”の二点を軸に、少しずつ形にしていきました。本当に手探りで、試作しては壊すことを繰り返して大変でしたね。
開発を進めるうちに、「このシステムはアクションではなく、しっかり考えるシミュレーション寄りにした方が面白い」と分かってからは、今の形には割とスムーズにたどり着きました。結果として、かなり尖ったシステムで、きちんと面白いバトルになったと思います。
ただ、全く新しいシステムなので、初見で『アクション』だと思ってプレイすると、ちょっと違うと感じるかもしれません。ジャンプ中に方向を変えられなかったり、ダッシュで勝手に動いたりするのも、全部「アクションじゃない」仕様です。
みなさん、反射神経は捨てて下さい(笑)
──シナリオとゲームメカニズムの開発が相互に良い影響を与えて、作品が一つの形に仕上がっていったのがよく分かるエピソードですね。
αPop氏:
そうなんですよ!これは音楽についても同じで、シナリオにあわせた世界観をきちんと構築するために、本作では開発の初期段階から作曲家のKattoさんにチームに入っていただきました。全部で70曲くらい作ってくださっていて、どれも本作の世界観にマッチした楽曲に仕上がっています。「テーマソングを作りたい」という話もあったのですが、最初はリソース不足で足踏みしていました。でも、そこでパブリッシャーのPLAYISMさんが「テーマソング作らないの?」と声をかけてくださって。
ただ、テーマソングの制作はめちゃくちゃ難航しましたね。これを作るには「Million Depthっぽさとはなにか?」を改めて考える必要があったので。結局、3〜4か月かかってなんとか作り上げました。手をかけた甲斐もあって出来上がった曲はめちゃくちゃ良い曲になったんですが、今度は手をかけた分だけ、歌うのがものすごく難しい曲にもなってしまって……。高いトーンを維持したままこの曲を歌えるだけの技能があって、かつMillion Depthっぽい雰囲気の声質を持った人を探さなければならなくなり。私とKattoさんで1000曲以上サンプルを聴きまくって、その中でバシッとハマったのが今回テーマソング『Re,Future』を歌っていただくことになったVTuberの凛々咲さんです。
凛々咲さんご自身の雰囲気がMillion DepthのSF的な世界観にすごく似合っていて、声の感じもテーマソングにぴったりでした。

──なるほど。すべての要素が有機的に絡み合っていて、これは確かにアピールポイントを一つには絞りづらい……。
αPop氏:
はい。ですからこの1年は、そうして出来上がったMillion Depthの世界観をどうやって演出するか?に一番苦労したんです。会話も単純な立ち絵だけのものにはしたくなかった。せっかく可愛いドットキャラクターがいるんだから、世界観を崩さないよう立ち絵の会話と同時にドットキャラもアニメーションする方式を採用してみたり。そうしたこだわりを一つ一つをゲームにきちんと組み込むのが本当に大変でした。正直、めんどくさかったですけどね(笑)。でも、そうしてこだわったからこそ、作品の世界観がよりリアルに感じられるものになったとも思っています。特にエンディングは頑張りましたので、楽しみにしていてください。
──先ほどお話の中で「Million Depthっぽさ」という言葉が出てきましたが、正式リリースが近づく今、αPopさんはそれはどのように定義されていますか?
αPop氏:
地下にどんどん降りていくにつれ、主人公は神秘的なフィールドや、太古の地球人が地底に潜っていた時代の文明の跡など、様々なものに遭遇するようになります。体験版で遊べるαルートではあえて抑えていた部分が、β、γと進むにつれてどんどん盛り上がっていき、最後にはボーカル付きの楽曲が流れるまでの展開を見せるようになります。バトルはよりカッコよく、世界はより美しく。その期待感こそが「Million Depthっぽさ」なんだと思いますね。
──では最後に、これから遊ぶ方へメッセージをお願いします。
αPop氏:
『Million Depth』は入口が広いゲームです。ストーリーや世界観に興味を持ってプレイしていただいてもいいですし、システムが面白そうだと感じて入っていただいてもいい。どちらの方でも楽しめるように作っていますので、是非体験版を遊んでみてほしいです。
体験版のフィードバックを大量にいただいたおかげで、今も「もっと面白くできる!」というアイディアがたくさん浮かんでいるんです。残りの開発期間は短いですが、できる限り反映させた上で製品版をリリースしようと思っています。
体験版とは比べ物にならないくらい面白い作品になるので、期待していてください!

──……え!? まさかこの1か月でまだまだブラッシュアップされるおつもりなんですか?
αPop氏:
はい。時間がなくて慌てていますが、あと1か月くらいは作業ができますから。その間に頂いた意見も参考に、ギリギリまでアップデートして製品版を仕上げます。ですのでこれを読んでいる皆さんも、今からでも感想を送っていただければ嬉しいです!
──ありがとうございました。
『Million Depth』は、PC(Steam)向けに11月12日発売予定だ。