『Void and Meddler Episode 2』紹介。サイバーパンクなポイント&クリックは1年を経てどのように進化したか

『Void and Meddler』は、物質化された記憶が売買される近未来ふうの都市を舞台とした、ポイント&クリックアドベンチャーゲームだ。今回は、1年ごしに発表されたEpisode2『Lost in a Night Loop』に主眼を絞り、物語がどのような展開を見せたのか、そしてゲームとしてどのように洗練されたかを紹介しよう。

Void and Meddler』は、物質化された記憶が売買される近未来ふうの都市を舞台とした、ポイント&クリックアドベンチャーゲームだ。全体的なプレイの感覚やストーリーについては、筆者が1年前に執筆したこちらのレビューを参考にしてほしい。今回は、1年ごしに発表されたEpisode2『Lost in a Night Loop』に主眼を絞り、物語がどのような展開を見せたのか、そしてゲームとしてどのように洗練されたかを紹介しよう。

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基本的な物語の前提として、主人公でありプレイヤーキャラクターであるFynは、ゲームで描かれている夜から2年より前の記憶を持っていない。そのために、彼女は自分が何者かわからないことによる、虚無感と退廃的な感情につねに苛まれている。ある夜、彼女は自分が働いているドラッグストアに食べ物をもらいに行くのだが、そこで白いコートに身を包んだ中年男性を見かける。彼の姿に惹かれるものを感じたFynは、隣の駅のゲームセンターまで彼を追いかけ、そこでアーケードゲームを熱心にプレイしはじめた男を脅迫して、自分が求めている物のありかを聞き出そうとする。

彼女が求めている物とは、彼女自身の失われた記憶である。人々の寂しさを紛らわすために投射されたホログラムの通行人が行き交い、ドラッグに対する精神的抑制が地をつくレベルにまで落ち込んでいるこの世界においては、記憶を物質化する技術が確立されており、人々はドラッグストアで飴を買うように、好きな記憶を購入して楽しむことができる。Fynの記憶が失われている原因が、この虚構世界の記憶にかんする設定とリンクしていることは明らかだ。

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記憶をもとめて街をさまよう彼女は、そもそも手がかりとなる記憶を持たないため、別の手段に頼らなくてはならない。それは、彼女自身の直感である。その直感は彼女に、ごみ箱の中をあさってナイフを掴ませ、他人の私室のなかにある絵画に隠されたスイッチを発見させ、「Lethal Sushi(致死寿司)」というおもしろい名前の飲食店でウェイトレスのまねごとをさせ、人気のない地下鉄の終着駅でヘッドフォンを被らせる。

今回、Episode 2をプレイしてはじめてわかったが、このゲームにおけるFynの直感は、とりもなおさずプレイヤー自身の直感である。つまり、ポイント&クリックのアドベンチャーゲームで次にどこへ行き、なにをクリックするかは、プレイヤーの直感に委ねられている。ゲームのほうからの、ストーリーを進めるための具体的なヒントが少なすぎることは1年前のレビューでも触れたが、Episode 2においてもその欠点はほとんどそのまま残されている。

ほんの少しだけ改善されていたのは、キャラクターたちとの会話やFynの独り言から、この先どうすればいいかというアイデアのようなものが少しだけ言及されるようになった点だ。前回のバージョンにおいては、他人のウォークスルーを参考にしなければ攻略不可能なほど物語は混乱していたが、今回はどうにか自分の手で物語を最後まで見ることができた。

ひとつひとつの物語の最後にこのカットシーンが入り、Fyn自身による失われた記憶の独白が行われる。
ひとつひとつの物語の最後にこのカットシーンが入り、Fyn自身による失われた記憶の独白が行われる。

その物語は、それでもまだ偶然によるところが大きすぎるようだ。たとえばこんなエピソードがある。ジャンクヤードをさまよう小型のロボットにパスワードを要求されたFynは、うろうろと街のなかをさまよい、行きつけの「Lethal Sushi」にたどり着く。そこで自分が腹を空かせていることを思い出した彼女は、ウェイトレスとして客のオーダーを取り、その対価として店主に食事をごちそうしてもらう。メニューには6つの料理がある。Fynの(そしてプレイヤーの)直感が働かなければ、Fynは5皿もの料理を平らげ、また街へと戻っていく。もし直感が冴えていれば、Fynは最初の料理のなかに、固いカプセルのようなものが混ざっているのに気づく。

そのカプセルのなかに収められた紙片には、どうやらジャンクヤードで小型のロボットに要求されたパスワードらしきものが書かれている。彼女はそのロボットにパスワードを伝え、それはどうやら正解らしいのだが、とつぜんロボットの調子がおかしくなる。ロボットはジャンクヤードの小屋のなかに入り、内側から鍵をかけてしまう。またしてもFynは直感を頼りに街をさまよい、地下鉄の駅にいるとある青年から、なぜかバールをもらう。ジャンクヤードの小屋の扉をそのバールでこじ開けると、先ほどのロボットが金庫を解錠し、なかにあるピンク色の球体を見せてくれる。

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そのピンク色の球体こそが、Fynが探し求めている彼女自身の記憶のかけらであり、それを見るまでが本作のなかにあるいくつかの短い章のひとつとなっている。とまあ、こんなふうに、ひとつひとつの章立てのプロットにはなんの脈絡もない。物語を類推してプレイヤーが次の行動を決定するポイント&クリックアドベンチャーゲームとして致命的な欠点は、残念ながらまだ完全には解消されてはいないままだ。

しかしながら、Episode 1のときからの強みもまた、確実に洗練されたものになっている。百聞は一見にしかず。数枚のスクリーンショットを見てほしい。

そして、すべての音色に驚くほどの品質が感じられる音楽も。

すばらしいと思わないだろうか?それぞれのキャラクターの台詞も、大幅な校正が行われている。前作では時制が混乱していたり、何についての話をしているかわからないレベルだったテキストが、今作で改善されたのは喜ばしいことだ。この作品で描かれている近未来風の都市には数十名以上のキャラクターがいて、それぞれが文脈のつながりのない発言を行う。そのこと自体は手法としてまったく構わないのだが、テキストが不明瞭だった前回のバージョンにおいては、とにかく何も伝わってこなかった。今回のEpisode 2の配信に合わせたアップデート後は、文脈につながりはないものの個々のキャラクターの台詞がある程度完結しており、群像劇のような雰囲気を醸成することに成功している。

ただし完全ではない。荒廃した都市の薬物や酒によって虚構世界のなかの人物が酩酊しており、その酩酊感をプレイヤーにも伝えたいという意志はわかる。しかし、フィクション自体を受け手に伝える手段まで酩酊したようなものであるのはいただけない。ひとつひとつのイベントにおけるグラフィックや音の演出はとても素晴らしいのだが、「直感に頼る」というテーマを命題通りに捉えすぎ、物語としての必然性がまったく感じられないような作りになっている。そのために、よくわからないけれども格好いいものが、よくわからないままに終わってしまうのだ。

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「語の続きを知りたいと思わせる適切なテキストを用意できれば、名作に化けるだろう」と1年前のレビューで筆者は締めくくっているが、残念ながら今回のアップデートで完全に達成されたとは言いがたい。しかし、グラフィックと音楽という強みをさらに洗練させ、テキストとゲームシステムという弱点を補おうとする努力が感じられ、その成果は着実に現れてきている。次回で完結となるEpisode 3の配信がいつになるのかは不明だが、その結果がどうなろうとも、最後まで見届けたい作品だ。いかしたグラフィックに明滅する光の演出がもし気になるのなら、グラフィックアートとして鑑賞するだけでも充分に楽しめるだろう。

Syohei Fujita
Syohei Fujita

5歳の誕生日に『ポケットモンスター』の『緑』を買ってもらった時から、ビデオゲームは私と共にありました。煎じ詰めればじつに単純なインタラクティビティと光の明滅に、なぜ我々はここまで驚喜することができるのか?この興味深い問いを少しずつ解き明かしていくつもりです。……もちろん普通のレビューも書きます。なんにせよ、すべてのコンテンツは受け手が自分の人生を忘れるために作られますが、驚くべき豊かな未来において、ビデオゲームはその目的を完全に達成すると思います。

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