Steamでどんどん好評集めるローグライト『魔女の庭』はなぜこんなに高評価なのか?開発者のこだわる「流行りとハードコア」の際どいバランス

本稿では、現在好評を集めつつある『魔女の庭』について、開発陣にメールインタビューを実施した。

魔女の庭は、アニメ調のグラフィックが特徴的なアクションゲームだ。本作の世界では、夢の魔女が作り出した理想の世界である「庭」は崩壊の危機に見舞われている。しかし、ほとんどの魔女たちは怠惰でまともに対処しようとしない。主人公の魔女シルは世界を救うために、大きなハサミを手にして半ば力ずくでほかの魔女たちの協力を試みていく。なお、本作には主人公の装備品や使用可能な魔法などがプレイする度に変わるローグライトの要素が存在する。

早期アクセス中の本作はSteamですでに高い評価を得ており、記事執筆時点で約1000件中94%が好評の「非常に好評」のステータスを獲得。そんな『魔女の庭』を開発するTeam Tapasのメンバーに今回弊誌はメールインタビューを行う機会に恵まれた。プロデューサーのイム・テヒ氏を中心にローグライトアクションとしての本作の魅力や、開発陣のこだわりポイントがどこにあるかなどといった興味深い回答の数々を聞くことができたので、本稿で紹介したい。

過去作のノウハウも活きる「ユーザー視点開発」

――最初に、イムさんの自己紹介をお願いいたします。

イム・テヒ氏(以下、イム氏):
プロデューサーのイム・テヒと申します。『魔女の庭』の開発ではゲームの方向性を決定し、スケジュールや品質を管理する役割を担っています。開発にも直接関わっているので、戦闘やボスのデザインといったコアなゲームプレイの決定にも携わっています。

『魔女の庭』を開発するTeam Tapasは、美術高校の同級生が大学で再び集まって結成したチームです。Team Tapasの強みとしては、少人数チームであるからこその迅速な意思決定とそれにもとづいた効率的な開発が特徴として挙げられるでしょう。その一方で、サウンド、エフェクト、QAなど専門性が必要な部分は外部パートナーと協力しています。

私たちのチームは「ゲームはユーザーの視点でも楽しくなければ、本当に楽しいとは言えない」という開発哲学を掲げています。そのため、開発過程では常にテストを繰り返しています。ユーザーからのフィードバックを積極的に取り入れつつ、ゲームの改善を続けています。

――Team Tapasではこれまで『漂流少女』や『勇者の飯』などのスマートフォン向けタイトルを開発されていましたが、『魔女の庭』の開発では過去作の経験はどのように活かされていますか?

イム氏:
『漂流少女』はTeam Tapasの初めての作品です。『漂流少女』ではライブサービスを通じて多くを学びました。アップデートのお知らせ方法、フィードバック収集、問題解決の優先順位など、基本的な運営ノウハウを習得しました。数字の指標だけでなく、コミュニティの投稿やプレイ動画から運営における諸判断をおこなう習慣も『漂流少女』で身につけましたね。

『勇者の飯』は『漂流少女』よりも複雑なアクションゲームでした。『勇者の飯』の開発経験を通じ、バランスを継続的に調整する方法を身につけることができたと思います。敵のパターン、難易度曲線、スキル同士の相互作用を調整しながらのテスト、レビュー、ホットフィックスを繰り返すルーティンを確立することができました。『漂流少女』で培ったサービス運営の原則と、『勇者の飯』で得たアクションゲーム開発の方向性が、『魔女の庭』の開発に大きく役立っています。

――イムさんから改めて、『魔女の庭』紹介してください。

イム氏:
『魔女の庭』は、崩壊寸前の「庭」を舞台にしたローグライトのアクションRPGです。プレイヤーは魔女シルとなり、散り散りになった仲間をティーパーティーに招待することで庭の滅亡を阻止する旅に出ます。愛らしい魔女たちの個性と危機感が共存するストーリーを中心に、ボス戦やキャラクターの成長要素が有機的に繋がるよう構成しました。

ボス戦における適度な緊張感とアクションの手応えを両立させるため、ボスパターンの視認性やキャラクターの操作感については特にこだわりました。2Dイラストの可愛らしさを活かしつつ、アクションの手応えを活かすために数多くの試行錯誤を重ねたことで、個性的なスタイルとクオリティを実現できたと考えています。

本作の核となるのは「ビルド実験」と「ボス戦の緊張感」です。プレイするたびに魔法、装備、魔道具の選択によって異なるプレイスタイルを体験できます。一見シンプルな要素でも、少し掘り下げるだけで多彩な組み合わせを見つけられるように設計しているんですよ。プレイヤー誰もが没頭できることが本作の強みだと思っています。

『魔女の庭』の魅力はすなわち「ローグライトの醍醐味

――『魔女の庭』も含めて、「ローグライト」ジャンルの醍醐味はどこにあると開発陣は考えていますか?

イム氏:
ローグライトの面白さは「選択」と「熟練」が交わる点にあります。同じボスを相手にするときでもビルドによる戦い方を変えることで、より良い成果が得られることがあります。たとえゲームオーバーになってしまったとしても、その失敗は熟練の過程における経験として蓄積されていくんです。そうしたローグライトの仕組みは、次の挑戦を具体的に計画するきっかけになります。

いろいろと試みたとしても、あえなく失敗してゲームオーバーになってしまうこともあるでしょう。しかし、繰り返し挑戦するうちに見つけた自分にとって最適な組み合わせで難所を乗り越えたときのカタルシスは、素晴らしいものがありますね。このカタルシスこそがローグライトの醍醐味であり、ローグライトを最も興味深いジャンルの1つにしていると考えています。

――ローグライトのアクションゲームは人気のジャンルですが、『魔女の庭』独自の魅力はなんでしょうか?

イム氏:
『魔女の庭』の特徴は2Dキャラクター、3D背景、演出、サウンドといった各要素が統一感をもってゲームに落とし込まれていることです。「魅力的な魔女」と「力強いアクション」という一見相反する2つの軸が本作に存在しますが、プレイ中の没入感が途切れないようにしました。ストーリーが進むごとに新しいルールが解放され、同じスキルや魔道具でも使い方が変わっていきます。ビルドによって異なる攻略方法ができることも『魔女の庭』の魅力の1つですね。

またプレイヤーの瞬時の判断がそのまま結果につながるボス戦を目指しました。本作では攻撃や回避のタイミングを見極めることが勝敗に直結する設計ですが、アクションは直感的にわかりやすく、レスポンスも速いです。加えてビルドの変更によってキャラクターの動きや攻撃のテンポがはっきりと変化するため、それぞれの違いについても楽しんでいただけると考えています。

「二兎を追う開発」で、ライトユーザーもターゲットに

――本作のターゲット層はどのようなユーザーでしょうか?

イム氏:
『魔女の庭』はサブカルチャーに親しみつつも、ローグライトのアクションゲームにはあまり馴染みのないユーザーに、このジャンルの楽しさを伝えることを目指しました。もちろんすでにローグライトのアクションゲームが好きなユーザーにもプレイしてほしいです。異なるユーザー層を狙うという意味では「二兎を追う」開発を心がけたといえるでしょうか。

ストーリー面では私たちが得意とするスタイルで物語を展開しつつ、サブカルチャーのトレンドに傾きすぎず、その魅力を活かせるポイントを模索しました。そのために、サブカルチャー系ジャンルでキーワードや定型表現のように使われがちな要素を使いすぎないように意識し、よりクラシカルなスタイルのゲームに慣れているユーザーにも違和感を与えず、キャラクターや物語に共感していただけるよう工夫しました。

システム面では、ローグライトやボスパターン攻略に慣れていないライト層のユーザーでもスムーズに入門できるよう配慮しつつ、ハードコア層のユーザーが短期間で高度なプレイに到達できるよう、成長曲線と学習曲線には特に力を注ぎました。さらに、ほかのローグライトのアクションではあまり採用されてこなかった直観的なAOE(範囲攻撃)マーカーを全面的に導入すると同時に、新たなパターンやコンセプトを検討することで、ライトユーザーとハードコアユーザーの双方に満足していただけるよう努めています。

――『魔女の庭』のキャラクターたちは個性が際立っていますが、どうしてこのようなデザインになったのでしょうか?

アートディレクター:
キャラクターデザインで最も大事にしたのは、定型化されたキーワードやトレンドに乗らず、キャラクターが個性的でありながらもマイナーになりすぎないようにすることでした。

求められる要素を満たしながら、定型化されるのを避けるために連想しやすいコンセプトを与えることを意識しました。

たとえばキャラクター「クロエ」の場合、企画上「火」という属性が必要でしたが、定型的な表現を避けるため「蜜蝋」という直観的に拡張された発想のキーワードで表現しました。ここに「蜜蝋」を用いる必然性を持たせるために、さらに発想を広げ、蜘蛛の巣と蜜蝋の表現が似ていることに着目して蜘蛛のキーワードを加えた結果、現在のクロエが生まれました。

ユーザーみんなが満足できる緻密な調整を目指す

――『魔女の庭』は早期アクセス配信されているゲームですが、早期アクセスとしてリリースする前とリリースした後で開発方針に変化はありましたか?

イム氏:
2024年に公開されたデモ版から2025年5月23日の早期アクセス版への移行に際し、最初に調整したのは難易度でした。内部テストでは簡単に感じても、実際のプレイヤーからは難しく感じるかもしれないからです。ボスの攻撃予兆、攻撃間隔、飛び道具のタイミングなどを再調整し、「最初は難しいけど慣れると簡単」という学習曲線を目標にしました。

ライト層とハードコア層の双方を満足させるため、ユーザーからのフィードバックをもとに成長要素やコンテンツ解放速度を実験的かつ緻密に調整しています。さらにガイド文やツールチップを強化することで、どの組み合わせを試すべきか直観的に分かるよう改善し、コントローラーのリマッピングといった操作の利便性向上機能や、敵をより見やすく整理するなど、ユーザーエクスペリエンス向上にも継続的に取り組んでいます。

――早期アクセスから正式リリースにたどり着くまで、今後の開発ではどのようなことを検討していますか?

イム氏:
私たちはプレイヤーの皆さまからの大切なフィードバックをもとに、今後『魔女の庭』を3つの方向で発展させていく予定です。1つめは利便性およびアクセス性の改善ですね。コントローラーのカスタマイズ、UIの改善、ツールチップの追加など、ユーザーの皆さまからご要望いただいたさまざまな機能を重視して取り入れていきます。新規ユーザーの方々がゲームの奥深いシステムをスムーズに理解できるよう、チュートリアルやゲーム内ガイドの強化にも取り組むように計画しています。

2つめに考えているのはコンテンツ拡張および難易度調整です。新しいチャプター、敵、ボス、そして新しいシステムを追加し、ゲームの奥深さとリプレイ性を高めます。ライト層からハードコア層のすべてのユーザーが満足できるように、最適なバランスを『魔女の庭』で追求していきます。

そして3つめが安定性および完成度の向上です。早期アクセス期間中に発生するバグの修正や最適化を継続的に行います。プレイヤーの皆さまが快適にゲームを楽しめるように努めるとともに、安定したアップデートを通じて正式リリースへと進んでまいります。今後もコミュニティの声に耳を傾け、ユーザーの皆さまと共にゲームを作り上げていきますのでよろしくお願いいたします。

――最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

イム氏:
『魔女の庭』はボス戦の緊張感とビルド実験を強調したアクションゲームです。1回の選択が次のプレイの戦略を変え、同じボスでもビルド次第でまったく異なる戦闘を体験できます。可愛らしいアートスタイルに惹かれた方は、その裏に存在する熱いアクションにもぜひ期待してください。

『魔女の庭』の早期アクセスはSteamで2025年5月23日に開始し、2026年初頭の正式リリースを目標にアップデートを続けています。『漂流少女』と『勇者の飯』に温かい支持をくださった日本のプレイヤーの皆様に心より感謝するとともに、最新作の『魔女の庭』ではより良いローカライズとサービスでお応えしていきます。

―ありがとうございました。

魔女の庭』は、PC(Steam)向けに早期アクセスを実施中。正式リリースは2026年初頭を予定している。また、『魔女の庭』の世界観やキャラクターをテーマにしたグローバルファンアートコンテストが2025年10月7日までの期間限定で開催中。ファンアートコンテストの参加方法などの詳細については、Steamストアページで確認してほしい。

Ryuichi Kataoka
Ryuichi Kataoka

「ドラゴンクエストIII」でゲームに魅了されました。それ以来ずっとRPGを好んでいますが、おもしろそうなタイトルはジャンルを問わずにプレイします。

記事本文: 73