新作戦場シミュレーション『タイニーメタル2』は「開発費が前作の20倍」。海軍も協力も、全部詰め込んだ背景を開発者に訊いた

ターンベース戦略シミュレーションゲーム『タイニーメタル2』のプロデューサーとディレクターを務めるAREA35の由良浩明氏に、本作に込められた熱量を伺った。

株式会社AREA35は9月25日、ターンベース戦略シミュレーションゲーム『タイニーメタル2』を発表した。対応プラットフォームはPC(Steam)とその他の機種。

本作は2017年に発売された『タイニーメタル』、および2019年に発売された『タイニーメタル 虚構の帝国』(Steam版は『TINY METAL: FULL METAL RUMBLE』)の続編だ。初代からの主人公「ネイサン・グリース」が、戦艦の墓場から姿を現した世界全土を滅ぼす脅威に立ち向かうことになる。本格的な協力プレイの導入や海戦ユニットの追加により、さらに複雑さを増した戦場で采配を振ることとなる。

このたび弊誌では、本作のプロデューサーとディレクターを務めるAREA35の由良浩明氏へのインタビューを実施。本作に込められた熱量の一端を垣間見ることができたインタビューの内容を紹介したい。

由良浩明氏


予算約20倍、Blizzardに習った開発姿勢

——自己紹介をお願いします。

AREA35 由良浩明氏(以下、由良氏):
AREA35の由良浩明と申します。『タイニーメタル2』ではプロデューサーとディレクターを務めております。ゲーム関係で言うと『タイニーメタル』シリーズとか『フェリシティーズ・ドア』を作りました。

そのほかには、他社様のプロトタイプとかルックデヴ(編注:ルックデベロップメント。3DCGモデルの見た目や質感を決める工程)を作ることも多いですね。元々Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)やCrytekで働いていた物理エンジンに詳しいスタッフが多いので、そういう映像面、技術面のお仕事につながることが多いです。

——『タイニーメタル2』についてご紹介をお願いします。

由良氏:
ここ数年はAREA35ではSAFEHOUSEでガンダム(CGアニメ「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」)をやっていて、忙しくて『タイニーメタル2』がなかなか作れなくて。それが去年終わって作り始めたっていうところですね。

やっぱり『タイニーメタル2』……2というからには、大きな進歩がなきゃいけないかなと思っていて。ただ『タイニーメタル』で確立したゲームプレイ、馴染んでるゲームプレイループをわざわざ2で壊してもう1回作り直したくなかったんです。

なので、グラフィックの向上と、海軍ユニットの追加というかたちで力を入れました。前作まではお金がなかったのと、海軍ユニットはめちゃくちゃバランスが難しくて……なるべく触りたくなかったんですよ。すごく時間がかかるしリソースもかかるから、前作はもう陸と空だけにしていたのですが。今回はある程度余裕があるので、ちゃんと海軍も入れることになりました。

——基礎ができあがっていたから要素の追加ができたということですね。開発のコンセプトを教えてください。

由良氏:
元々『タイニーメタル』のコンセプトは「反戦」的なところがありまして。大きな大戦があって、みんなボロボロになって、1回平和が戻って立ち直ろうとしてる時にいろいろ発掘したら、昔の兵器(ロストテック)……いわゆる核爆弾見つけちゃったみたいな話なんですよ。じゃあその力をもった国が、それを正しく使えるのか、使わないのが正しいのかとか、いろいろ決断しないといけないと思うんですよね。国の中で意見が分かれることもある。そういうドラマをちょっと出していきたいなと思っていて。

私は海外育ちなんですけど、日本はすごく平和じゃないですか。そんな中、クリミアはじめ、ウクライナの戦争やら、イスラエル、中国とか、世界の雲行きが怪しくなっている。でも日本の人たちに聞くと、知り合いとか家族が戦争で命を落とした、怪我したとか海外では当然あることがない。それってすごいことだなと思っていて、日本が守られている中で、世界ではこんなことが起こっている、あるいはこういうドラマもあることを見せたい、というのがベースのコンセプトです。

——初作『タイニーメタル』ではフルタイムの開発者は3名だったとお聞きしたのですが、映像を見ただけでも、開発規模が大きくなっているのを感じました。開発規模はどの程度なのでしょうか。

由良氏:
開発スタッフの人数は、ざっくり35人くらいになっています。僕の悪い癖なんですけど……。やるなら徹底的にやらなきゃ気が済まないですし、できるとこまでやろうというので、予算的には20倍くらいになってます。シミュレーションってゲーム業界の中では結構ニッチなジャンルだとは思うんですけど、僕たちが大好きなジャンルなので、是非みんなにプレイしてもらいたいなという想いで作ってきました。

——映像面はかなりリッチになっていますが、ここにしっかりコストをかけた理由を教えてください。

由良氏:
昔からBlizzardと仕事で縁があって。Blizzardの掲げた言葉で私が大好きなのは、「ゲームはゲーマーたちのために(Game for gamers)」という言葉で、その姿勢が素晴らしいなと思っていて。それにならって、とことんやっています。

それと大手のゲーム制作を見ていると、やっぱりシネマティックス、ムービーに力を入れてるなと思います。ムービーはナラティブをすごい豊かにしてくれるんですよね。気持ち、演出、キャラクターがどう思うかとかも、1回映像を見るだけで、潜在意識のどこかで理解できてしまう。映像に力を入れるのは憧れでもありましたし、素晴らしいチームもいるので、今作でやらなきゃいけないと思っています。


コミュニケーションを促進する協力プレイと、存在意義を感じられる海軍ユニット

——これまでのシリーズでは1人でじっくりと戦略的にプレイするという感覚があったんですが、 協力プレイではどういう風にプレイ感覚が変わってくるのでしょうか。

由良氏:
これまで通り1人でもできるので、遊び方はそれぞれなんですけども、2人でやるとコミュニケーションが増えるんですよね。個人的に『Advance Wars: Dual Strike』(日本では『ファミコンウォーズDS』)のマルチプレイが大好きで、それで今回デュアル、「タイニーメタル“2”」にしたというのもあるんです。あとコロナ渦を経て、反動でみんな会って遊びたいよねという気持ちがあって。エモートの導入なども検討しているのですが、それプラスリアルのコミュニケーションが平行してあると、楽しい思い出を作れるかなと思っております。

——協力プレイのところで、難易度的には協力とソロプレイでは変わってきたりするのでしょうか?

由良氏:
ソロプレイと同じユニット数を2人のプレイヤーで分けるというかたちなので、難易度は変わらないです。

——海戦要素が導入されましたが、陸・空に次ぐ海という新たな概念が登場したことで、戦術面にどのような変化がありますか?

由良氏:
1番大きいのはモビリティ(機動性)ですね。あと海軍ユニットは遠距離攻撃できるユニットが多いんですよ。例えばバトルシップとかは結構射程距離が長かったり。それを踏まえると、海軍ユニットの役割は、陸のサポートです。

基本的に『タイニーメタル』はどんなに弱いユニットでも大事なんです。たとえば1番弱いユニット「ライフルマン」がいなかったら、施設の占拠は難しい。弱くても色々やり方があるんですよ。だから、海戦ユニットもしっかり使い方があって、地上や空中のサポートだったりとか、ユニットを運んでいったりとか、ちゃんとした存在意義があります。他社さんの作品では、海戦ユニットがなくてもいいんじゃないかなと思うものもよくあるんですけども、『タイニーメタル2』は海軍がなかったらかなり厳しいと思っていただけるようなデザインにしています。

——ストーリーに関してお聞きします。主人公は『TINY METAL』と同じネイサン・グリースですが、物語や舞台設定は前作から直接つながっているのでしょうか?

由良氏:
そうですね。前作からネイサンは昇格していて、数年後という設定です。ただ新しいストーリーなので、前作を知らなくても大丈夫です。知っておくとわかりやすいというような知識はあるんですけど、別に知らなくても全然遊べます。


1つの総合的な作品として見てもらえるように

——ストラテジージャンルのマーケットがややニッチということで、商業的に成功させるための戦略はあるのでしょうか?

由良氏:
日本のゲームだというのもあって、まずキャラクターがすごく大事だなと思っています。キャラクターの冒険や、どう心情が変わるか、どう成長していくかを描くのが重要だと思います。

かつ、シンプルなストラテジーではなく、ストーリーをフォローしながら、誰にでも楽しめる作品というのを目指しています。ストラテジーというジャンルは、ちょっと難しいと思っちゃう人もたくさんいると思うのですが、『ファイアーエムブレム』のように、みんながプレイできて楽しめるものを理想としています。

あと戦争というネガティブなテーマも、ユニットのキャラクターデザインを可愛くしたりとか、戦闘で負傷しても血が出なくて、実は誰も死んでないっていう設定になっていたりとか、こういう柔らかな表現で親しみやすくするという努力はしています。

個人的に、ゲームはゲームデザインだけって考えてなくて、ストーリーがあって、ゲームデザインもあって、音楽もあって、全部込み込みでゲームだと思ってるんです。なので1つの総合的な作品として見てもらえるようなゲーム作りを意識しています。

――ありがとうございました。

タイニーメタル2』はPC(Steam)とその他の機種向けに2026年発売予定。

Yusuke Sonta
Yusuke Sonta

『Fallout 3』で海外ゲームに出会いました。自由度高めで世界観にどっぷり浸れるゲームを探して日々ウェイストランドをさまよっています。

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