“ドア”から見通すゲームデザイナーの仕事 米国開発者による「ドア問題」

ゲームを完成させるには様々な分野のスタッフが必要となるが、ゲーム全体のデザインを決定するゲームデザイナーは、チーム内でどのような役割を果たしているのだろうか。

プランナー、プログラマー、アーティスト、サウンドエンジニア。ゲームを完成させるには様々な分野のスタッフが必要となるが、ゲーム全体のデザインを決定するゲームデザイナーは、チーム内でどのような役割を果たしているのだろうか。Insomniac Gamesは、『ラチェット&クランク』や『Sunset Overdrive』などを開発してきた米国のスタジオだ。同社のゲームデザイナーLiz Englandが、この疑問に「ドア問題(The Door Problem)」を利用して答えている。

 


“ドア”から見るゲームデザイナーの仕事

 

「それで、ゲームデザイナーってなにをするのか?アーティスト?キャラクターをデザインしてストーリーを書く?あるいはそうじゃなくて、ええと、プログラマー?」とEnglandは自問自答する。宇宙物理学者と同じくらい、ゲームデザイナーがどのような仕事なのかわからないとしている。そしてこの疑問を「ドア問題」を利用して答えている。もしあなたが、ゲームを開発中のゲームデザイナーであれば、たった1つのシステムやオブジェクトでしかないドアに関して、どれだけのことをデザインしなければならないのだろうか。ゲームのなかにドアは必要なのか。どうやって開き、どうやって閉じるのか。ドアのアセットを作るのはアーティストたちであり、ドアを閉じたり開いたりするコードを書くのはプログラマーである。だが、ドアがどういった存在なのかを示すのは、ゲームデザイナーの役割である。

 

  • ゲームのなかにドアはあるか?
  • プレイヤーはドアを開けられるか?
  • プレイヤーは全てのドアを開けられるか?
  • あるいは一部のドアはただの飾りか?
  • プレイヤーはどうやってその違いを知ることができるのか?
  • 開けるドアは緑色で、開けないドアは赤色なのか?使えないようにドアの前にゴミを積み重ねるか?単にドアノブを取ってしまって終わりにするか?
  • プレイヤーはドアの開け方を知っているのか?鍵が必要なのか?コンソールをハックするのか?パズルを解くのか?ストーリーの一幕がすぎるまで待つのか?
  • 開くことはできるが決して入れないドアは存在するか?
  • 敵はどこからやってくるのか?ドアから走ってくるのか?そのあと扉を閉めるのか?
  • プレイヤーはどうやってドアを開けるのか?プレイヤーがただ歩いて近づくと、スライドし開くのか?振って開くのか?プレイヤーは扉を開くためにボタンを押す必要があるのか?
  • プレイヤーが通りすぎたドアはロックされるのか?
  • 2人のプレイヤーが居た場合はどうなるのか?2人のプレイヤーが通過した場合のみドアはロックされるのか?
  • レベルが非常に広大で、常に同時に居ることができない場合は?プレイヤーが残っているフロアが消滅してしまう可能性がある。どうするのか?
  • 両方のプレイヤーが同じ部屋で一緒になるまで、1人だけ先に進行できないようにしてしまうか?
  • 遅れているプレイヤーをテレポートさせるか?
  • ドアのサイズは?
  • 1人のプレイヤーが通るのに十分な大きさがあるか?
  • Co-opプレイヤーについては?もしプレイヤー1がドアの通り道に立っていた場合、プレイヤー2は通り抜けられないのか?
  • プレイヤーに付いてくる仲間については?スタックせずにドアを通り抜けるためには、何人ぐらいである必要があるのか?
  • 敵についてはどうか?人間よりも大きい小ボスもドアを通り抜けるには、どれだけの大きさが必要なのか?

 

ゲームデザイナーEnglandは、これがとても古典的な問題だと説明する。ドアはどのようなゲームにも登場する存在であり、誰かがこれらの疑問に答えなければならない。その役目を果たすのがゲームデザイナーである。ゲームの根幹に関わるデザインともなれば、答えることはより難しくなり、疑問の数も多岐にわたるだろう。視界の概念が入るステルスアクションゲームや、『シャドウ オブ ザ ダムド』のような扉自体に重要なゲームメカニックが搭載されている作品ならば、なおさらだ。

 


“ドア”から見るゲーム開発者

またEnglandは、ゲームを開発している大企業に限定した別のスタイルのドア問題を記している。ユーモアを混じえつつ、ドアに関してどのような仕事をするかで、チーム内の各スタッフがどのような役割を果たしているのかを説明する。

 

  • クリエイティブディレクター: 「ああ、もちろんこのゲームにはドアが必要だ」
  • プロジェクトマネージャー: 「ドアを作るためにみんなのスケジュールへと時間を割く」
  • デザイナー: 「ドアでなにをすべきなのか説明したドキュメントを書いた」
  • コンセプトアーティスト: 「何枚か素敵なドアの絵を描いた」
  • アートディレクター: 「3枚目の絵はまさしく我々が欲していたドアのスタイルだ」
  • 環境アーティスト: 「このドアの絵をもらってゲーム内のオブジェクトにする」
  • アニメーター: 「開いたり閉じたりするドアを作った」
  • サウンドデザイナー: 「ドアが閉じ開きするときのサウンドを作った」
  • オーディオエンジニア: 「プレイヤーが居る場所やどちらの方向を向いているかによってドアの閉じ開きの音を変化させる」
  • コンポーザー: 「ドアのテーマソングを作った」
  • FXアーティスト: 「ドアが開くときに出る格好いい火花を追加した」
  • ライター: 「ドアが開くとき、プレイヤーは言う。”おい見ろよ!ドアが開いたぞ!”」
  • 照明アーティスト: 「閉まっているとき、ドアは赤色に光っている。緑色の時は開いている」
  • 弁護士: 「環境アーティストがドアにスターバックスのロゴを使用した。訴えられたくなければ削除すべきだ」
  • キャラクターアーティスト: 「帽子として着用できない限り、ドアに関してはなにも気にしてないね」
  • ゲームプレイプログラマー: 「このドアはプレイヤーが近づいた距離によって閉じ開きするようになった。スクリプトを通してもドアは閉じたりロックされたりする」
  • ネットワークプログラマー: 「全プレイヤーがドアが開くのを同時に見る必要はあるのか?」
  • リリースエンジニア: 「もしディスクに収録したいのなら午後3時までにドアを完成させてくれ」
  • コアエンジンプログラマー: 「ゲーム内に1024枚までドアが存在できるようコードを最適化した」
  • ツールプログラマー: 「ドアを設置するのがより簡単になるようにした」
  • レベルデザイナー: 「担当しているレベルにドアを設置しロックした。イベント後に開くようにしている」
  • UIデザイナー: 「ドアに目標マーカーを設置し、マップ上にアイコンが表示されるようになった」
  • 戦闘デザイナー: 「敵は扉の背後でスポーンし、カバーして銃撃しつつ部屋のなかに入る。ただしプレイヤーがドアの内部を覗いていた場合、異なるドアの背後からスポーンする」
  • システムデザイナー: 「レベル4のプレイヤーは3ゴールドを消費しこのドアを開くと148xpを獲得する」
  • マネタイゼーションデザイナー: 「ドアを即座に開くために0.99ドルをプレイヤーに支払わせることができる、あるいは24時間待てば自動的にドアは開く」
  • QAテスター: 「ドアに向かって歩いた。ドアに向かって走った。ドアの辺りでジャンプした。ドアが閉まる場所に立ってみた。セーブしてリロードしてからドアに向かって歩いてみた。死亡してリロードしてからドアに向かって歩いてみた。ドアにグレネードを投げてみた」
  • UX/ユーザビリティリサーチ: 「クレイグリストで一部の人が扉を通り抜けているのを発見した。なにが問題なのか見てみよう」
  • ローカライゼーション: 「Door、Puerta、Porta、Porte、Tur、Dor、Deur、Drzwi、Drws」
  • プロデューサー: 「全ての人々にドアを提供すべきか、予約特典のために残しておくか?」
  • パブリッシャー: 「ラインナップが少なくなっているなか、これらのドアはゲームが突出するのを手助けしてくれるだろう」
  • CEO: 「私がドアを開くためにどれだけの時間を費やし努力したかを知ってほしい」
  • PR: 「全ての我々のファンへ、次の最新情報で熱狂することになるでしょう #gamedev #doors #nextgen #retweet」
  • コミュニティマネージャ: 「ファンが心配しているドアについては、次期パッチにて改善される予定です」
  • カスタマーサポート: 「プレイヤーがドアについて混乱していました。彼らにどうやってドアを使用するのか詳細に説明しました」
  • プレイヤー: 「そこにドアがあることなんて気づかなかったよ」

 

ゲームはドアだけでなく、いくつものアセットやメカニックが積み重なって完成する。ゲーム内でのドアや花瓶、トイレなどは一見すると無意味に思える。これらの小さなオブジェクトを、開発側の視点から考えてみるのも面白いだろう。物事にはさまざまな側面があるのだ。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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