『鳴潮』Ver.2.5プレイ感想。悪しき美女……フローヴァとの“歪んだ協力関係”がもたらす情緒揺さぶる3時間
この記事でフローヴァが中心人物となるメインストーリーを中心に『鳴潮』のVer.2.5をプレイした感想をこの記事でお伝えしたい。

基本プレイ無料のオープンワールドアクションゲームとして、『鳴潮』は着実に進化し続けている。2025年7月24日から配信中のVer.2.5では育成システムの一部に改善が施されたほか、これまで敵として描かれてきたキャラクターの「フローヴァ」がプレイアブルとなるストーリーが展開。主人公との因縁がより詳しく描写されるとともに、宿敵ともいうべきキャラクターの過去が掘り下げられていく。
Ver.2.5はシステム拡張の進化だけではなく、本作の美しくも儚げな世界観を深堀りした「深化」といえるアップデートになるのかもしれない。今回のアップデートはVer.2.xにおいては小規模なものとなっているため、この記事でフローヴァが中心人物となるメインストーリーを中心に『鳴潮』のVer.2.5をプレイした感想をこの記事でお伝えしたい。
これまでのフローヴァの所業を振り返る
『鳴潮』ではプレイヤーは記憶喪失の主人公となって、世界各地を旅しながら仲間たちと災いを乗り越えていく。『鳴潮』のメインストーリーは章立てとなっており、Ver.2.5では第2章第7幕「秘密の花園にて、夢を追う」が追加された。今回のストーリーで中心となるフローヴァは、主人公の漂泊者たちに敵対する勢力「残星組織(フラクトシデス)」の幹部だ。フローヴァは2024年5月のローンチからプレイ可能だったメインストーリーの第1章第3幕からNPCとして登場しており、初登場から約1年を経てプレイアブルになった。敵対組織の幹部がプレイアブルになるのも初めてのことだ。
赤いドレスに赤い彼岸花というフローヴァの出で立ちには優雅さを感じさせるが、組織の任務完遂のためには手段を選ばない非情さをもつ。本作における異能力者の証である音痕が左腕に刻まれているように、フローヴァの戦闘能力は極めて高い。フローヴァは彼岸花を指揮棒に見立ててモンスターを召喚するという特別な能力を使う。まるで1人の音楽家が気ままに楽曲を指揮するような振る舞いで、主人公たちを混乱に陥れたこともこれまでにあった。

残星組織による数々の所業は大勢の人々の被害を考慮しないものであるため、悪党といえるのは間違いないだろう。その一方でフローヴァをはじめとした幹部たちの言動からすると、彼女たちはなんらかの崇高な目的のために行動しているようだ。フローヴァの右目を覆う包帯は、彼女に壮絶な過去が存在したことを推察させるものとなっている。その過去が明かされるVer.2.5のメインストーリーをプレイすると、彼女の境遇には同情させられるものがあった。

フローヴァにやられた
美しい容姿、有名な音楽家であったことがうかがい知れる上品さ、そしてほのかに漂う狂気。相反するような気質が同居するフローヴァは、ミステリアスな魅力にあふれたキャラクターだ。Ver.2.5ではふとしたことをきっかけにして、主人公とフローヴァは仮初めの協力関係を結ぶことになる。
2人の協力関係はあくまで一時的なものであり、当初から緊張感が漂う。主人公からすればフローヴァは各地で無辜の民を虐殺することを厭わない犯罪者であり、簡単に気を許すことはできないのは当然だろう。この2人が簡単に相手を信用しない関係性は、これまでのメインストーリーとは異なる緊張感が漂うという点でよかった。ほかのキャラクターの場合だと主人公を称賛して色々と気を遣ってくれそうだが、フローヴァの場合はそうもいかない。こちらが油断を見せれば、寝首をかかれることもあり得る。Ver.2.5のストーリーは予想のできないもので新鮮だった。

フローヴァは油断ならない存在であることを自覚しながらも、徐々に明らかになっていく彼女の過去にプレイヤーの心は揺さぶられていく。フローヴァはとある事件に巻き込まれて、本当にすべてを失ってしまった。そして狂気に蝕まれた。もし、そのような事態に巻き込まれていなければ、フローヴァは音楽家として一生を全うできたかもしれない。
なんともやるせないが、そうした狂気に駆られるのもまたフローヴァの大きな魅力の1つである。ネタバレを避けるため詳細は避けるが、人には禁忌とされる実験を続けることで神の摂理に反逆することを試み続けてきたフローヴァには感心させられた。その試みは今のところ功を奏していないが、フローヴァはあきらめない。
実は、フローヴァと記憶を失う前の主人公は知り合いだった。主人公にとっては些細なことであったとしても、フローヴァは記憶を失う前の主人公との出会いを大切なものとして、自分の理解者になってくれたとさえ思った。ただし、もはや狂気に飲み込まれたフローヴァにはまったく余裕がなく、主人公が記憶を失ったあとはさらに危うくなってしまっていた。主人公からすれば、フローヴァを簡単に許すことはできないだろう。だからこそ、協力関係にヒビが入るし、もとからの宿敵関係をそう簡単に解消することはできない。


本来ならばフローヴァと主人公は、もっと信頼できるパートナーになることができていたのかもしれない。実際に2人が共闘して戦うシーンは否が応でも盛り上がる。ところがもはや2人の差は大きくなっており、修復することは難しいものであることはストーリーが進行するにつれてわかる。私はフローヴァの生きるのに不器用なところや失ってしまった過去にこだわることに人間臭いところを感じたが、過去の悲劇を取り戻そうとする方法には狂気を見ることしかできなかった。フローヴァは魅力的なキャラクターでありながらも、主人公たちとは基本的には相容れない存在ということがわかってしまったからだ。
フローヴァにしても、自分が主人公の傍に立ち続けることは難しいと思っているのかもしれない。イベントシーンの数々では物憂げな表情を浮かべることも多いし、瞬きの数によって過去の出来事への逡巡などが表現されていたように思える。『鳴潮』はテキストだけでなく、フェイシャルなモーションにもキャラクターの感情が込められている。笑顔1つとっても、打算的な笑顔もあれば心からの笑顔も見せてくれるのだ。フローヴァのさまざまな感情を推察できるフェイシャルなモーションは秀逸なレベルに到達している。過去の悲しさ、淡い未来への希望、そして狂気が滲み出るカットシーンの数々に切なくなった。


Ver.2.5のメインストーリーをプレイすることで、フローヴァのことが愛おしくなってしまった。圧倒的な強さを誇る異能力は過去の悲劇によるものであり、なくしてしまったものを取り戻そうというフローヴァの不屈の姿勢にグッと惹かれた。彼女の過去を知ることで残星組織という敵にも同情すべきメンバーが存在することがわかったし、今後もフローヴァがメインストーリーに登場するかも気になるところだ。今回のメインストーリーはフローヴァが中心だったが、第2章のストーリーも佳境に入ってきた感がある。Ver.2.5後半で第2章の舞台となるリナシータの総督に関する詳細が明らかになりそうなので、リナシータにまつわる多くの謎が解明されていきそうだ。
フローヴァの圧倒的な強さによって高まる没入感
フローヴァの半生をもまとめて振り返る最新のメインストーリーは、ボリュームにして3時間といったところだ。ギミックを解いて探索を進めていく要素が散りばめられているが、フローヴァにとっては大したことではない。フローヴァは時の流れを一時的に遅くする能力ももっており、高速で回転するサーキュレーターの時間を遅くすることで安全な足場にできるし、戦闘では「調律」状態中に5回攻撃することで敵を拘束状態にすることが可能。これだけも強いが、調律終了後に拘束状態の敵はすべて撃破されるというぶっ壊れともいっていいような性能をもつ。フローヴァが悪の組織の大幹部であるからこそ、『鳴潮』屈指の利便性の高さに自然と納得してしまった。
フローヴァが悪の組織の大幹部であるからこそ、探索でも戦闘でも『鳴潮』屈指の利便性の高さに自然と納得してしまった。フローヴァを採用した探索や戦闘は快適そのものであり、ストーリーへ集中できる時間をきちんと確保できるようになっているところがいい。『鳴潮』のストーリーは各話が約3時間で読み終えられるようになっているが、今回はフローヴァによる探索と戦闘が楽だったため、その分深くストーリーに集中することができた。短時間ながらもフローヴァの葛藤、素直さ、悲願、狂気を体験することができて、Ver.2.5のエンディングは心を打たれた。


3時間という凝縮した時間でフローヴァと駆けずり回った経験は得難いものだった。決して物足りないということはなく、Ver.2.5のストーリーをプレイすることでフローヴァのことをより深く知ることができたような気にさせてくれる。圧倒的な密度によるキャラクター描写はこれまでのバージョンでも随一であったとさえいえよう。非常に濃密な3時間であり、ローンチから引っ張ってきたフローヴァの見せ場が存分にあって感慨深いものがあった。単なる悪党ではなく、過去に見舞われた悲劇を知った後では、彼女を以前と同じように見ることはできない。願わくば、またフローヴァと再会したい。

『鳴潮』は、PS5/iOS/Android/PC(Windows/Steam/Epic Gamesストア)向けに基本プレイ無料で配信中。