BlizzardとDeepMindが『StarCraft II』のAI研究で提携。人工知能がプロゲーマーを超える日は近い?

日本時間の11月5日および11月6日に開催されたBlizzard Entertainment(以下、Blizzard)によるファンイベントBlizzCon 2016にて、Google傘下でAI研究を行っているDeepMind Technologies(以下、DeepMind)とBlizzardが『StarCraft II』のAI研究分野で提携することが分かった。 両社が開発を共にするAI研究用の「StarCraft II API」は2017年初旬に公開される。

日本時間の11月5日および11月6日に開催されたBlizzard Entertainment(以下、Blizzard)によるファンイベントBlizzCon 2016にて、Google傘下でAI研究を行っているDeepMind Technologies(以下、DeepMind)とBlizzardが『StarCraft II』のAI研究分野で提携することが分かった。
両社が開発を共にするAI研究用の「StarCraft II API」は2017年初旬に公開される。

 

AI技術分野で躍進するDeepMind

DeepMindがこれまでに開発してきた人口知能としては、学習アルゴリズムの「DQN(Deep Q-Network)」と囲碁AI「Alpha Go」が有名だ。「DQN」は機械学習を用いることでAtari 2600のゲームをマスターし、短時間で人間プレイヤーのスコアを上回ることに成功した。「DQN」は機械学習によりゲームを繰り返しプレイする中でルールを把握し、シチュエーションごとに最適なアクションを導き出していく。ブロック崩しの『Breakout』ではルールをまったく知らない状態から実験をはじめ、わずか4時間で人間のスコアを超えていったという。

「DQN」の学習過程

DeepMindが開発した囲碁AI「Alpha Go」は2016年3月に開催された「Google DeepMind Challenge Match」にて、10数年にわたり囲碁の世界ランク上位に君臨してきた韓国の李世ドル九段との5番勝負に勝利したことで話題となった。AIが人間を上回ることは難しいとされてきた囲碁の世界において「Alpha Go」は初めてプロ棋士に勝利したAIとして名を残した。

「DQN」および「Alpha Go」の学習速度と汎用性には目を見張るものがあり、ゲームの世界にとどまらない可能性を秘めている。2014年にGoogle社がDeepMindを買収してからは、Googleのサービスに応用する用途でAI研究が進められているほか、エネルギーや医療分野への挑戦も明らかにしてきた。2016年2月に発表したDeepMind Healthという研究プロジェクトでは、医療データとAIの機械学習を用いることで、より迅速かつ適切な治療手段を医療関係者向けに提示する技術の開発を目指している。

 

なぜ『StarCraft II』なのか

そんなDeepMindが次なるターゲットとして目を向けたのがBlizzardによるRTS(リアル・タイム・ストラテジー)『StarCraft II』。『StarCraft II』で求められるのは素早い判断力、難解な局面の把握、そしてAPM(Actions per minute=一分間あたりの操作量)という指標が生まれるほどの圧倒的な操作量。ほかにも相手のブラフ(はったり)の考慮や記憶力、長期的な視野を持った計画力も必要となってくる。「DQN」や「Alpha Go」の研究を経て複雑な情報処理をこなす力を証明してきたDeepMindとはいえ、これらすべてを踏まえたAI学習は新しい挑戦といえる。BlizzConにてDeepMindのOriol Vinyals氏が「『StarCraft II』の研究がもたらす技術の向上は、サイエンスやエネルギーといった現実世界の分野での問題に当てはめる上で役立つだろう」と語っていたように、煩雑なRTSゲームを研究対象とすることは、社会全体の問題にAIを活かすことを目標として掲げるDeepMindにとって大きなステップとなるだろう。

研究用にゲーム内の各要素をレイヤー分けしたインターフェイス。人間プレイヤーと同じ条件を保てるよう、AIが処理できるAPMには制限を設けるとのこと

DeepMindとBlizzardのコラボレーションは両社間での閉じた研究ではなく、AI分野のコミュニティー全体に貢献できるよう、研究目的用のAPIを備えた「StarCraft II API」が2017年初旬に公開される予定だ。まだ情報は少ないが「StarCraft II API」についてはBlizzardのフォーラムから確認できる。コミュニティの研究結果を『StarCraft II』のAI技術の向上に役立たせることで、AI研究のコミュニティだけでなく『StarCraft II』の未来にとっても有益な結果をもたらすだろう。機械学習を経たAIプレイヤーは『StarCraft II』のハードコア・プレイヤーの脅威となり、初心者にとっては効果的な戦術を教えてくれるAIコーチともなり得るのだ。

「Alpha Go」が囲碁のトップ棋士に挑んだように、『StarCraft II』の研究においても最終的にはプロゲーマーを打ち負かすことを視野に入れている。『StarCraft』シリーズはe-Sportsのパイオニアでありながら、いまでもe-Sports界で熱い人気を誇っているだけに、AI対トップクラスのプロゲーマーのマッチが実現すれば話題に事欠かないだろう。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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