ゲームとボカロMVの融合『Q-SIDE / 初音ミク』など、「遊べるMV」流行の兆し。楽曲にもゲーム開発にも本気のこだわり光る

ドワンゴは2月21日から24日にかけて、オンライン参加型イベント「The VOCALOID Collection ~2025 Winter~」(ボカコレ2025冬)を開催した。同イベントに出展された「遊べるMV」が話題となっている。

株式会社ドワンゴは2月21日から24日にかけて、オンライン参加型イベント「The VOCALOID Collection ~2025 Winter~」(以下、ボカコレ2025冬)を開催した。そのなかで、楽曲を聴きながら、音や歌詞に連動したゲームを楽しめる「遊べるMV」が登場し話題となっている。

ボカコレはその名の通りボーカロイド文化の祭典で、期間中はオリジナル楽曲で順位を争うランキング企画などが行われる。話題を博しているのは、ボカコレ2025冬に投稿された『Q-SIDE / 初音ミク』だ。これは初音ミクを用いた楽曲でありながら、未知のエイリアン「キューサイド」と闘うシューティングゲームでもあるという。

本作はフリーゲーム投稿サイト「unityroom」に投稿されており、ブラウザから遊ぶことができる。ゲームが起動すると、未来的な電子音が流れるイントロとともに初音ミクが状況を説明するブリーフィングが開始。キューサイドの侵略に対抗するため、軌道型戦闘機「プロト」に搭乗し敵の本拠地「クエイシス」を破壊するという指令を受ける。この間、画面右上では音に合わせて線が上下するオーディオビジュアライザーや拍に合わせて点滅するUIが絶えず動いており、本作が楽曲でもあることを意識させる。

説明が終わり、出撃するとゲーム開始。オーソドックスな縦スクロールシューティングゲームながら、BGMが初音ミクの楽曲となっており、下方には歌詞が表示。あくまで「遊べるMV」となっている。曲が流れるだけでなく、敵の出現や弾の当たるタイミングが曲に合うように調整されており、普通にプレイしているだけで楽曲とゲームの気持ちよさをどちらも楽しめるような設計となっている。また、「宇宙まで 飛び立つ!」という歌詞とともにステージが宇宙へ移行したり、「ワイドショットで 広がる ミライの先まで」という歌詞の場面で戦闘機のビームが放射状に撃てるようになるなど、音楽とゲームの相乗効果により没入感が深まる演出が特徴的だ。

MVを手がけたのは、ボカロPのかかこ氏。2023年3月に投稿した『リズム天国』ライクなリズムゲーム×MV作品『スペースバニー / 初音ミク』をきっかけに、2Dランニングアクションと音楽を組み合わせた『バック・グラウンド・メモリー / 初音ミク』など、これまで「遊べるMV」を手がけてきた人物だ。『Q-SIDE / 初音ミク』はこれまでとはまた毛色が違うシューティングということもあり、完成までに1年以上を要したようだ。

同氏は昨年12月に“ゲーム制作の恐ろしさ”をこぼしつつも覚悟を決めて完成させることを表明しており、最後の追い込みもありつつボカコレ2025冬への出展に至ったようだ。そんな苦労とこだわりが反映された作り込みからかSNS上でも注目を集めており、本作はボカコレ2025冬において、デビューから2年以内のボカロPが投稿できる「ルーキー」カテゴリの約4000曲の中で21位を獲得している。

『リリカルアナグラム / ナースロボ_タイプT』


そのほかにも、「遊べるMV」もしくは「音楽のためのゲーム」と呼べるような作品がいくつか登場している。たとえば『Q-SIDE / 初音ミク』と同じボカコレ2025冬に投稿された『リリカルアナグラム / ナースロボ_タイプT』はそのひとつだ。手がけたのはボカロPのkuma氏。同氏はこれまでも迷路ゲームとボカロ楽曲を組み合わせた『デイズインアメイズ / 初音ミク』など、かかこ氏と同じく「遊べるMV」を制作してきた。『リリカルアナグラム』では、その名の通りアナグラムがテーマ。画面には虫食いとなった歌詞と文字が配置されており、キャラクターを使って文字を動かすことで次に歌われる歌詞の内容を変化させることができる。歌詞の組み合わせは多く、なんと108通りものパターンを聴くことができる

『nerd: tracing dayline』


また、少し違う方向性として「MVに至る過程を体験するゲーム」といえる、『nerd: tracing dayline』も開発中だ。同作を手がけるのは個人開発者のEvan氏。舞台は海沿いの片田舎にある学校。主人公はこの学校へ転校してきたが、うまく学校に馴染めない。そんな彼女が現状の打開を目指す、淡い青春模様が描かれる。同作はアドベンチャーゲームの方式をとっているが、「一曲のためのゲーム」をコンセプトとした作品で、メインの見せ場はエンディングで流れるMV。それが流れた時に、映像だけではなく音楽や歌詞など、五感すべてでそれまでの物語を体感できるようなゲームを目指して開発されているそうだ(弊誌インタビュー記事)。

『アルクマルチバース』
『Bell』


これら以外にも、VTuber月ノ美兎さんの楽曲をもとにした『アルクマルチバース』では、プレイヤーの選択によって映像や歌詞が変わるインタラクティブなMV(体験版も配信中)がプレイできる。また、過去にはロックバンド「androp」のMV『Bell』にて、動物となり届けたいメッセージを運ぶアクションゲームがプレイできたこともあった(現在はプレイ不可)。

ちなみに『Bell』が公開されたのは2011年。近年企業や団体だけでなく、個人製作者からも遊べるMVが登場しており、リズムゲームとはひと味違う、ゲームと音楽が融合した新しいタイプのメディアとして注目されるところだろう。

なお過去に弊誌が『nerd: tracing dayline』の開発者Evan氏に行ったインタビューでは、ミュージックビデオを楽しんでもらうために音楽の完成度だけでなく、ゲームとしてプレイする楽しさを第一とする開発方針も語られていた。今回開発に1年以上かけたというかかこ氏の『Q-SIDE / 初音ミク』の例も見るに「遊べるMV」におけるゲームプレイは決しておまけではなくじっくりと練り上げられているわけだろう。今後も「遊べるMV」がどのような盛り上がりを見せていくのか、注目していきたい。

Yusuke Sonta
Yusuke Sonta

『Fallout 3』で海外ゲームに出会いました。自由度高めで世界観にどっぷり浸れるゲームを探して日々ウェイストランドをさまよっています。

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