『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』開発者に訊く「20年ぶりの新作」が出る理由。“『ディスガイア』との違い”もじっくり訊いてみた

『ファントム・ブレイブ』の20年ぶりの新作として開発中の『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』。本稿では、本作でシナリオを担当する城花健人氏に実施したインタビューの内容をお届けする。

2004年に発売された『ファントム・ブレイブ』から、実に20年ぶりの新作として開発中の『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』。2024年9月26日にメディア向けに行われたカンファレンスでは、PS5/PS4/Nintendo Switch版の発売日が2025年1月30日に決定したことが発表。またPC(Steam)版の発売時期も2025年春に決定したことが告知された。

本作は、「やりたい放題RPG」と銘打たれたシミュレーションRPGだ。本作でも前作から引き続き、死者の魂(ファントム)を物体に憑依させる能力(コンファイン)を持つ少女のマローネが主人公となる。マローネは相棒であるファントムのアッシュと一緒に暮らしていたが、幽霊船の船団「船喰い」の襲来で2人は離れ離れになってしまう。一方マローネは流れ着いた「ドクロ島」でひとりぼっちのファントムの少女・アプリコと出会うことに。海賊団の船長である父との再会を望むアプリコと協力しつつ、海賊団の復活を目指す冒険を繰り広げる。

弊誌は本作でシナリオを担当する城花健人氏にインタビューを行う機会に恵まれた。新作ならではの特徴や前作からの変化について興味深い話の数々を聞くことができたので、この記事で紹介したい。

シナリオを担当する城花健人氏


なぜ今、完全新作なのか?

──まずは自己紹介をお願いします。日本一ソフトウェアで携わったタイトルについても教えてください。

城花健人(以下、城花)氏:
日本一ソフトウェアに入社後は『魔界戦記ディスガイア7』でシナリオを担当していました。入社前から『ディスガイア』シリーズや『マール王国の人形姫』シリーズのファンでした。ちなみに『ファントム・ブレイブ』の第1作が発売された頃、私はまだ小学生だったんです。

──前作の『ファントム・ブレイブ』は今から約20年前に発売されたタイトルです。複数回の移植でさまざまな追加要素が加わってきた根強い人気を誇る作品ですが、どうして今このタイミングで完全新作『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』を発売するのでしょうか?

城花氏:
本作の企画が持ち上がったのは、『魔界戦記ディスガイア7』を開発している頃でした。『ディスガイア』シリーズとは異なる味わいを持った、シミュレーションRPGを作ってほしいとのオーダーが会社からあったんです。そこで『ファントム・ブレイブ』が選ばれました。

『ファントム・ブレイブ』は日本一ソフトウェアのなかでは、かなり独特な立ち位置を持っている作品です。シナリオ、キャラクター、世界観のすべてが『ディスガイア』と異なっていたため、『ファントム・ブレイブ』の完全新作を作ろうと決意しました。私個人の考えですが、『ディスガイア』シリーズに匹敵するような日本一ソフトウェアの柱に『ファントム・ブレイブ』シリーズを展開していきたいです。


──本作『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』ならではのストーリーの特徴を教えてください

城花氏:
日本一ソフトウェアのシミュレーションRPGとしては『ディスガイア』シリーズが代表的なタイトルですが、パロディなどのコミカルな要素が多いです。一方で前作『ファントム・ブレイブ』はシリアスな部分とハートフルな部分が両方あるようになっていましたし、『ディスガイア』とは違った印象を受ける作品だと思います。恵まれない環境のなかで暮らす少女の主人公が成長を遂げて、周囲から認められていく爽やかな部分が特徴的でした。そのあたりは最新作の『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』でも踏襲していますね。


前作の冒険を経たマローネの境遇の違い

──死者の魂「ファントム」を操ることのできる主人公のマローネは「悪霊憑き」として前作『ファントム・ブレイブ』では忌み嫌われていました。対して本作『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』のマローネは周囲の人々からどのように思われているのでしょうか?

城花氏:
マローネは前作の最後で破壊神を倒した存在です。本作の世界では、マローネは英雄として称えられています。マローネの名を聞けば「あの伝説のマローネか」と思われるほど作中では有名になり、周囲の人々も好意的に接してくれるようになりました。前作の冒険を経て、マローネは精神的に成長しました。生来のやさしさはそのままに、主人公らしくたくましく成長を遂げています。

ただ強いだけだと『ファントム・ブレイブ』の主人公とは言えません。本作のマローネは相棒のアッシュとはぐれてしまうという新たな試練に見舞われます。マローネはアッシュがいなくなることに、以前から恐怖を覚えていました。「アッシュが本当にいなくなったらマローネはどうなるのか」を突き詰めたストーリーが描かれていきます。マローネの心情や振る舞いなどに注目していただければ幸いです。


──アッシュを探すマローネと、父親を捜すアプリコはそっくりな境遇にいます。マローネとアプリコの関係性はどのように描かれていくのでしょうか?

城花氏:
アプリコはお父さんを探しに行く勇気が長年湧いてこなかったんです。マローネと出会うことで、行方不明のお父さんを探す冒険に出かけます。そういう意味ではアプリコにとってマローネは新たな相棒と言えますね。前作から少しお姉さんになったマローネがお姉さん役としてアプリコを引っ張っていく序盤の展開は、マローネファンにとってはたまらないものになっているかもしれません。


人間とファントムの絆を描くストーリー

──マローネとアッシュがストーリー冒頭で離れ離れになってしまうのは衝撃的でした。マローネたちを襲う幽霊船はどのような存在なのでしょうか?

城花氏:
マローネたちを襲う幽霊船は「船喰い」として、昔からの言い伝えで知られる存在で幽霊船に近づくだけで人々は死んでしまうと言われているほど、恐れられています。ただし、あくまで言い伝えになっているだけで、人々は幽霊船の実態を知らない状態です。幽霊船の秘密が何なのかが大きなテーマですが、幽霊船の縄張りを奪い取って真実に迫るためにマローネたちは自らが海賊となって戦っていきます。

一般的には海賊は悪事を働くイメージが強いですけれど、マローネたちは従来の海賊のイメージを覆していく存在ですね。さまざまな島を巡って、困っている人々を助けることでマローネたちは自分たちの縄張りを拡大していきます。マローネたち海賊がどのような成長を遂げるかについても注目していただければ思います。


──本作には、島の7割が砂に覆われた「ハサラ王国」出身のヘンナや雪が降り続く極寒の「シラユキ島」出身のウルミなどのさまざまな新キャラクターが登場します。マローネたちはどのように冒険を繰り広げるのでしょうか?

城花氏:
主人公たちは海賊として縄張りを拡大していくために、ヘンナやウルミの出身地を訪れます。自らの勢力に入ってもらうために、訪れた島で起こっている出来事をマローネたちが解決していくというストーリーラインになります。人間とファントムを交えて縄張り争いをするわけですが、人間だろうがファントムだろうが関係ない、「仲間だろ」という男気あふれるキャラクターも存在しますね。キャラクターの性格はバラエティに富んでいると言えます。

──人間、獣人、魔物など多種多様な種族が暮らしている世界「イヴォワール」が舞台になっていますが、種族間の対立も描かれるのでしょうか?

城花氏:
今回は種族間の争いにはフィーチャーしていません。前作であまり触れられなかった「住人たちがファントムをどう捉えているのか」という部分が、本作のストーリーでもっとも重きが置かれているところです。

さまざまな事情を抱えたファントムが登場するところに注目してほしいですね。ファントムはファントムであるがゆえに、意図しないところで人々に迷惑をかけてしまう。人々がファントムをどのように扱うべきなのか、逆にファントムは人々に対してどのように関わるべきなのか。両者の関係性に描く物語になっています。


──前作では、主人公のマローネの視点でストーリーが進行しつつも、ウォルナットなどの敵対するキャラクターの視点から描写されるところが特徴でした。本作のストーリーでは敵側の事情はどの程度語られるのでしょうか?前作のキャラクターか登場するかについても教えてください。

城花氏:
前作は破壊神という倒すべき相手が先にわかっている状態でした。勧善懲悪を意識したストーリーだったと言えるでしょう。本作では相手の事情を知って、相手のことをまず理解するというのが主人公たちの大前提のスタンスです。そもそものマローネはすぐに戦いたがるタイプではなく、まず相手を理解しようと努力する女の子だと思うんですよね。本作は前作よりも相手の視線でストーリーが描かれることは少なくなったと言っていいかもしれませんが、マローネの姿勢は変わりません。

私は前作のウォルナットが好きなのですが、『ソウルクレイドル 世界を喰らう者』でウォルナットのその後がきれいに描かれています。それをなかったことにしてしまうと、ウォルナットのファンはがっかりしてしまいますよね。ファンが過去作の思い出を壊されるというのは、開発陣にとっても嫌なことなんです。ですので、既存のキャラクターは、日本一ソフトウェアの過去作を踏襲した形で登場します。どのキャラクターが登場するかについては、続報をお待ちください。


『ディスガイア』シリーズよりも自由度の高い「やりたい放題」なバトルシステム

──シミュレーションRPGとしてみたときに、『ディスガイア』シリーズと『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』の違いを教えてください。バトルシステムにはどのような特徴があるのでしょうか?

城花氏:
もっとも大きな違いは、『ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』の方が『ディスガイア』よりもかなり自由度が高いことにあると思っています。『ディスガイア』は育成の仕方については従来のタイトルから逸脱した部分がたくさんあるのですが、バトルについてはわりとオーソドックスなシミュレーションRPGになっているんですよね。

『ファントム・ブレイブ』はマス目がなくてマップを自由に移動できますし、武器の種類も『ファントム・ブレイブ』は膨大な数が存在します。剣や槍などの王道的な武器はもちろん、魚などを装備することも可能です。敵も装備するという前代未聞の装備品も存在しますよ。しかも条件さえあれば、ヤシの実で銃の技を使えたりもするんですよ。

このように『ディスガイア』に比べると、かなりカオスなバトルになっています。『ファントム・ブレイブ』は「やりたい放題RPG」の名のとおり、思いついた戦い方を自由に試せるようなバトルシステムにしました。やりたい放題を強調するために、本作ではガジェットにコンファイン(憑依)することができるようになりました。絆コンファインも新たに搭載しましたし、マローネにより攻撃的な役割を任せることもできるようになりました。ユーザーによってはマローネをアタッカーとして使う場合もあるでしょうね。

──バトル中にコンファイン(憑依)できるアイテムやフィールド上のオブジェクトはどのようなものが存在するのでしょうか?

城花氏:
前作でコンファインできたオブジェクトには本作でもコンファインできると思っていただいて大丈夫です。魚、看板、サボテン、キノコ、岩、流木などのさまざまなものにコンファインできますよ。今ここですべてをお伝えすることが不可能なほど、かなりの数のコンファインできるオブジェクトが登場しますね。


──新要素として登場する、コンファインすることで特別なアクションができる「ガジェット」はどのようなものなのでしょうか?拠点で開発や強化ができるとのことですが、ガジェットによってどのような戦い方ができるのでしょうか?

城花氏:
拠点で作ったロボットをはじめ、「おばけバルーン」と呼ばれる空を飛ぶ飛行機械、大砲を備えたミニカーなどを拠点で強化して、アプリコで召喚するといった要素が存在します。ロボットの強化を優先して進めていき、ロボットで敵をどんどん倒していくというような前作にはなかった戦い方も本作ではできますね。

──コンファインで参戦させるキャラクターを選べるシステムでは、プレイヤーによっては特定のキャラクターを集中的に使う場合もありそうです。本作の戦略性を高めるために工夫したのはどのようなところでしょうか?

城花氏:
これは私個人の見解なんですけど、特定のキャラクターでガンガン進めていくという攻略法は「本作ではアリ」だと思っています。自分の好きなキャラクターを使って突き進むことができないと、ユーザーにとってはストレスになってしまうと思うんですよ。本作は自分の好きなユニットでガンガン進んでいけるという自由度の高さを優先したタイトルになっています。

強いユニットは1つのマップで行動できる回数が短くなっているので、どのタイミングでコンファインするかという戦略性は健在です。ただし、今回のマローネは、リムーブまでのターンを伸ばすことのできる新技を習得しています。この技を使って好きなキャラクターをエースにして戦うことも可能ですね。

マローネ自身にファントムが憑依する絆コンファイン

──マローネ自身に味方のファントムを憑依させる「絆コンファイン」が本作で新しく登場します。どのような理由で追加されたのでしょうか?

城花氏:
2つの理由があります。本作では、ファントムとマローネの絆をフィーチャーしています。ストーリーとして絆を強調したいので、マローネにファントムがコンファインする「絆コンファイン」のアイデアに繋がりました。ストーリーとの関係がもっとも大きな理由ですが、2番目の理由としては「映えるから」ですね。絆コンファインすることによってマローネのビジュアルがかわることで、インパクトが発生しますから。

『魔界戦記ディスガイア7』で導入した「弩デカ魔ックス」は少々バランスブレイカーな側面がありましたが、インパクトは絶大でした。弩デカ魔ックスのようなパッと見でわかる新要素がほしいなと本作でも考えていましたので、マローネのさまざまな姿を見ることのできる「絆コンファイン」を考えたんです。外見が変わるマローネも見どころになっていますよ。

 


──「絆コンファイン」中に「ワンモア」が発生すれば連続で行動可能できるとのことですが、「ワンモア」の発生条件を教えてください。相手との絆が深ければ深いほど、ワンモアが長く続くとのことでしたが、主人公とファントムの絆の深さを示すシステムが搭載されているのでしょうか?

城花氏:
「ワンモア」の仕様はまだ調整中なので詳しくは明かせませんが、「ワンモア」は気軽に使えるようにしようと思っています。「ワンモア」で連続攻撃しまくって敵を殲滅していくような形には仕上げていきたいですね。

またマローネとファントムのキャラクターたちの間には「絆ゲージ」と呼ばれるものが存在します。本作ではマローネからファントムたちにさまざまなプレゼントを渡すことができます。相手の好みに合わせたものを渡すと絆ゲージが上昇しますし、拠点で頻繁に話しかけることによってもマローネとファントムの絆ゲージが上昇していきます。絆ゲージが上昇することによって、そのファントムとの会話内容が変わるようなシステムを取り入れています。

マローネとファントムの絆がテーマになっているストーリーで、その関係性は「絆ゲージ」が上昇することで変化していく。築き上げた絆によってバトル中の「絆コンファイン」が強くなっていくという形になっています。新要素の数々はマローネとファントムの絆を描くというストーリーのコンセプトに由来したものになっています。

──読者へのメッセージをお願いします。

城花氏:
20年ぶりの完全新作ということで、あのときの魅力が失われるのではないかと思うユーザーもいるかもしれません。でも、開発スタッフは前作の魅力を確認するために、徹底的にプレイし直しました。スタッフが考える前作の魅力を話し合ったなかで、開発することになりました。そのため、新作はまちがいなく前作を踏襲した作品になっていると思います。20年前の前作の魅力を全部詰め込みつつ、より面白くなるように新作を開発中です。ぜひ、ご期待ください。

──ありがとうございました。

ファントム・ブレイブ 幽霊船団と消えた英雄』は、PS5/PS4/Nintendo Switch版が2025年1月30日に発売予定。PC(Steam)版の発売時期は2025年春を予定している。通常版の価格は7920円(税込)。2枚組のサウンドトラックCDやA5サイズで全40ページの設定資料集などを同梱する初回限定版の価格は1万978円(税込)となっている。また発売に先駆けて、本日9月28日および29日に一般公開される東京ゲームショウ2024では、ホール4-N03のセガ/アトラスブースに試遊出展されている。興味のある人は足を運んでひと足早く遊んでみるのもいいだろう。

Ryuichi Kataoka
Ryuichi Kataoka

「ドラゴンクエストIII」でゲームに魅了されました。それ以来ずっとRPGを好んでいますが、おもしろそうなタイトルはジャンルを問わずにプレイします。

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