『かまいたちの夜×3』先行プレイ感想。原作再現の移植作品ゆえの古臭さもあるが、今なお体験する価値がある緊張感
アドベンチャーゲームの傑作として名高い『かまいたちの夜』の30周年を記念して、2024年9月19日にPS4/Nintendo Switch/PC(Steam)で発売される『かまいたちの夜×3(トリプル)』。本作は2006年にPS2で発売された『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』の移植版だ。スパイク・チュンソフトよりPS4版『かまいたちの夜×3』を先行プレイする機会をいただいたため、本稿ではその感想をお伝えしたい。
小説とゲームを融合させた『かまいたちの夜』の革新性
雪に閉ざされたペンションや嵐に見舞われた孤 島など、いわゆる「クローズド・サークル」が舞台となる『かまいたちの夜』シリーズ。主人公は友達以上恋人未満の関係にあるヒロインと訪れた旅先で、ふとした瞬間から殺人事件に巻き込まれていく。本作『かまいたちの夜×3』では、前作『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』にも登場した「三日月島(みかづきじま)」を舞台に新たな殺人事件が描かれる。
実写を加工した背景画像、青いシルエットで表現されるキャラクター、画面いっぱいに表示されるテキストなど、『かまいたちの夜』が後世のアドベンチャーゲームに与えた影響は計り知れない。小説を読むような体験をしつつ、場面に応じたサウンドやグラフィックの変化といったゲームならではの臨場感も味わえる。小説とゲームが融合したようなタイトルとして、1994年にスーパーファミコンで発売された『かまいたちの夜』は画期的なタイトルだった。
公式のジャンル名である「サウンドノベル」の第2弾として発売された『かまいたちの夜』は好評を博し、サウンドノベルを代表する人気シリーズとなった。初代作のキャラクターたちが登場するシリーズ作としては、『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』で完結。シリーズ第4作目として『真かまいたちの夜 11人目の訪問者』も発売されたが、こちらは主人公やヒロインなどのキャラクターを一新している。
注意しておきたいのは、本作『かまいたちの夜×3』が2002年に発売されたPS2版『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』を現行機向けに移植したタイトルであることだ。本作はリメイクではない。テキスト表示をドットに変更できる機能やBGMを視聴できるサウンドプレイヤーなどが移植に際して追加されているが、ストーリーやグラフィックなどはオリジナル版を忠実に再現したものにとどまっている。
時代が変わっても色褪せない『かまいたちの夜』の緊張感
PS2のタイトルの移植と聞くと、古臭く感じてしまうかもしれない。2002年に発売されたオリジナル版と今回の移植版の両方をプレイした筆者からしても、『かまいたちの夜』に一種の古臭さが存在するのは否定できない。キャラクターたちが使う携帯電話はスマートフォンではなくガラケーだ。携帯電話にアラーム機能が搭載されていることをほかのキャラクターに教えてもらう主人公の姿を見て、当時と今で時代がすっかり変わってしまったことをあらためて知る。
しかし、少し古い時代の出来事を描いているからこそ、『かまいたちの夜』のストーリーに没入できる部分があるのも確かだ。全国の5G人口カバー率が98.1%を記録した今からすると隔世の感があるが、携帯電話の電波がまったく入らない山や離島などの舞台を新鮮に感じられるところもあるだろう。作中の時代には外部と連絡することのできない場所が存在することに説得力を持たせている。姿を見せない殺人犯が潜む閉鎖空間で繰り広げられる展開は緊張感に満ちており、その体験は作中からときが過ぎた現代でプレイしても色褪せない。
移植のクオリティとしては良好で、快適にプレイできる。今回の先行プレイではPS4版をPS5でプレイしたが、ある場面から別の場面へ切り替わるときにはロード時間はほとんど発生しない。家庭用ゲーム機向けにはPS2でしか発売されていなかった本作が、複数の現行機向けタイトルとして蘇るのは歓迎したい。オリジナル版が好きだったプレイヤーはもちろん、プレイしたことがない場合でも推理小説が好きな人や、アドベンチャーゲームの金字塔として『かまいたちの夜』に興味を持った人は手にとってほしいタイトルだ。
オリジナル版と同様に、本作では『かまいたちの夜』と『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』のメインストーリーもプレイできる。サブストーリーを収録していないのは少し残念に思うものの、三部作のメインストーリーを通してプレイすることでキャラクターたちの成長や変化を体験できるところに、セット移植の意義がある。同じ殺人事件に巻き込まれたという過去を持ちながらも、前向きに生きる者や過去の悪夢に苛まれる者などが入り乱れる群像劇を体験すると、あらためて人生というものについて考えさせられる。
『3』は現代で遊ぶに足りうるのか
ここであらためて『かまいたちの夜×3』が現代に通用するかを見ていこう。『かまいたちの夜×3』の本編は複数主人公制を採用しており、4人の異なる視点から殺人事件の解決を目指していく。ある主人公ではわからなかったことが別の主人公でプレイしたときに判明するなど、多角的に事件を推理できるようになっている。複数主人公で得られた情報をもとに犯人を指名し、トリックの謎を解き明かすという本作の推理はやりごたえがあった。
4人の主人公で殺人事件を体験するという点は斬新だったものの、マルチエンディングの『かまいたちの夜×3』との相性は決していいとは言えない。というのも、似たような文章を読むことが多いからだ。ある主人公のとった行動が別の主人公に影響を与える面白さはあるものの、1人の主人公が死亡するバッドエンディングを迎えることでほかの3人もバッドエンディングになってしまうことがかなりの頻度であった。
しかし、主人公と時間帯を切り替え可能な「タイムチャート」と呼ばれるシステムを本作は採用している。バッドエンディングを迎えた場合もその直前からやり直すことができる便利なものだ。さらに、十字キーの下ボタンを押せば1度読んだ文章はサクサクと切り替えて読み飛ばしていくことができる。
旅先で殺人事件に巻き込まれるという非日常の極地というべき体験ができるのが『かまいたちの夜』の特徴的なところだ。「こんや、12じ、だれかがしぬ」と書かれた置き手紙で殺人事件が始まる初代作のように、旅と殺人事件の両方を味わえるのがシリーズの醍醐味であると言えるだろう。しかし、本作『かまいたちの夜×3』は前作にも登場した三日月島を舞台としているため、未知の場所で殺人事件に巻き込まれるという非日常感が薄くなってしまった。前作の事件を供養するために島を再訪する主人公たちの目的からすると仕方のないことだが、本作は序盤からシリアスな場面がほとんどを占める。
『かまいたちの夜』シリーズになじみ深い筆者としては、『かまいたちの夜』初代作のキャラクターの成長や葛藤を描いた三部作の完結編としてはきれいにまとまっていると感じられる。4人の主人公の行動がそれぞれに影響を与える本作のシステムで向上した難易度を乗り越えてたどり着いたトゥルーエンディングは、切なくも爽やかなものだった。
明るいノリとお色気で突き抜けたサブストーリー「ピンクのしおり」
『かまいたちの夜』といえば、不穏な雰囲気から一転してギャグのようなエンディングに直行することも大きな特徴だ。本作でもプレイヤーの選んだ選択肢によっては、それまでのシリアスな展開を無視して笑えるバッドエンディングを迎える。ネタバレを控えるために詳細は避けるが、そうした笑えるバッドエンディングはシリアスな場面の続く本作では一種の清涼剤となっている。
コメディ要素とお色気要素の強いシリーズお馴染みのサブストーリーとして、「ピンクのしおり 」が一定の条件を満たすことで解禁される。本作では「番外編」と呼ばれているこのサブストーリーは、男性キャラクター3人が女性の幽霊の色仕掛けに耐えながらダンジョンを進んでいくというギャグ調のものだ。青いシルエットという制限されたキャラクター表現のなかで、最大限に色っぽさを追求した女性キャラクターたちが主人公たちに立ちはだかる。
罠とわかっているのに、それでも引っかかってしまうのは悲しい男の性(さが)なのか。本編ではやさぐれていたキャラクターも、煩悩を解放しているのが面白い。ターン制コマンドバトルのRPGのようなイベントシーンも存在し、番外編は終始明るいノリで展開される突き抜けたものとなっている。
『かまいたちの夜』は時代を作ったタイトルであると同時に、今プレイしても面白いゲームだ。時代設定やキャラクターの言動などは古めかしい部分があるものの、閉鎖空間を舞台にした推理アドベンチャーゲームとしての魅力は現在も通用する。シリーズ1・2作目はメインストーリーに限定されるものの、本作だけで三部作を体験できるのはシリーズをプレイしたことがない人にとっても『かまいたちの夜』デビューを果たす絶好の機会だ。
『かまいたちの夜×3』は、PS4/Nintendo Switch/PC(Steam)向けに2024年9月19日発売予定。価格は3960円(税込)。My Nintendo Storeでは予約受付が始まっており、2024年9月18日23:59までの予約購入でサウンドトラックアプリ『かまいたちの夜 アニバーサリーアレンジパック』が付く。