一次元のゲーム?匂いが出るゲーム? ゲームの可能性は無限大!「センス・オブ・ワンダーナイト2016」イベントレポート

東京ゲームショウのビジネスデー最後を飾るのが、センス・オブ・ワンダーナイト2016だ。今回は全世界から300以上のタイトルが集まり、その中から審査によって絞られた珠玉の8作品のプレゼンテーションが行われた。それぞれ紹介していく。

9月15日から9月18日まで開催された東京ゲームショウ(以下、TGS)。4日間ある会期のうち、最初の2日間はビジネスデーだが、来場者は昨年以上のペースで推移している。そんなTGSビジネスデー最後を飾るのが、センス・オブ・ワンダーナイト2016(以下、SOWN2016)だ。今年で開催9回目を迎えた当イベント。「見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚」を引き起こすようなゲームを世界中から発掘することをコンセプトとしている。毎年各国から集ったクリエイターたちが、自らのゲームの面白さ、開発の背景などをプレゼンテーションし、競い合うイベント、それがSOWNだ。

イベント開始が17時半と、TGSイベント終了時刻である17時よりもあとである関係上、ほかの一般参加者が一切いなくなったホールの雰囲気も楽しめる稀有なイベントとも言える。そんなユニークな環境にいるという高揚感が、発表されるゲームへの期待をさらに膨らませる。

予定されていた17時半から5分ほど遅れて開始されたSOWN2016。開催のたびに規模を大きくしているSOWNだが、今回は全世界から300以上のタイトルが集まり、その中から審査によって絞られた珠玉の8作品のプレゼンテーションが行われた。

それでは8つの作品を紹介していこう。

 

Chambara

team ok アメリカ

sense-of-wonder-night-2016-report-001

白と黒にきれいに塗り分けられたビル群の中で戦う一人称視点のアクションゲームだ。二人対戦のゲームで、自身と相手とがそれぞれ、黒もしくは白のキャラクターとなり、フィールド内に溶け込み、相手の死角から近づき、チャンバラのように叩いてポイントを争う。かくれんぼとFPSのあわせ技のようなゲームで、仕組みも非常にシンプルだ。ただ、背景に溶け込んだ相手を見つけるのは至難の技なので、動き回って積極的に敵を見つけに行くべきか、息を殺して相手が動くのを待つのか、その時々でプレイヤーが選択すべき戦略が変わる。

sense-of-wonder-night-2016-report-002

sense-of-wonder-night-2016-report-003

遠距離攻撃用の武器である手裏剣は、当てれば敵にダメージが与えられる、というわけではなく、あくまで相手がフィールド上で目立つようになるだけ。しかも外したら、その場所まで手裏剣を回収しに行かなくてはいけない、など絶妙なバランスでゲームが成り立っている。アメリカではPS4で配信済みで、今後各国でも販売できるように取り組んでいくとのことだ。

 

UnWorded

Bento Studio フランス

sense-of-wonder-night-2016-report-004

画面のすべてが文字によって構成されたゲームが、この『UnWorded』だ。文字を組み合わせることで、与えられた課題を解き明かしていくパズルゲーム、といえるかもしれない。プレイヤーは事故で入院することになった作家となり、過去を振り返りながら、物語全体の謎に少しずつ踏み込んでいくことになる。

sense-of-wonder-night-2016-report-005

O・W・V・Dの四文字を組み合わせて電球を作るシーンがスクリーンに映し出されると、観客席からは驚きの歓声が上がった。8作品の中でスタイリッシュさで最も目を引いたのはこのゲームかもしれない。

sense-of-wonder-night-2016-report-006

実際のプレイデモは残念ながら行われなか ったが、11月16日にiOSでローンチ予定とのことなので公開を待つとしよう。なお、iOSでリリース後もPC・Mac、PS4&PS Vitaでも発売するため準備を進めているとのことだ。

 

TAINTED

INSTITUTE OF TECHNICAL EDUCATION/NATIONAL UNIVERSITY OF SINGAPORE シンガポール
五感の中で視覚・聴覚・触覚は使われているが、残りの2つをゲームに導入することはできないか?という発想から生まれたのがこの『TAINTED』だ。開発を行ったシンガポール国立大学ではこの『TAINTED』以前にも味覚・嗅覚をつかったゲームを開発していた。今回の『TAINTED』では特に味覚にスポットを当て制作された。

sense-of-wonder-night-2016-report-007

題材となったのは東南アジアの昔話に登場するポンティアナックという幽霊だ。バナナ農園でプレイヤーは記憶を失った状態で目を覚ます。記憶を取り戻すためのアイテムを探しながら、ポンティアナックの襲撃を避けつつ、舞台となるバナナ農園から脱出するというのが大まかな流れだ。

sense-of-wonder-night-2016-report-008

先にも触れたとおり、このゲームでユニークなのは匂いを放出するモジュールを使う点だ。超音波ディフューザーが4つの異なるフルーツの匂いをゲームのシチュエーションごとに発し、プレイヤーはその情報をもとに次のアクションを決める必要がある。特にバナナの香りはポンティアナックが近くにいることを意味するため、プレイヤーにとっては恐怖の匂いとも言えるだろう。

sense-of-wonder-night-2016-report-009

放出する匂いの量が多すぎると、部屋に匂いが充満してしまい、新たな匂いを認識しづらくなるため、プレイ時間との調整が必要であるなど開発での苦労についても語られた。

 

Line Wobbler

Robin Baumgarten イギリス

sense-of-wonder-night-2016-report-010

登壇した瞬間から、会場の度肝を抜いたのがこの『Line Wobbler』だ。他の登壇者がゲーム画面をスクリーンに映す中、全長5メートルのLEDコードをステージで広げ、デモを行おうとするさまに、多くの観客の頭のなかにはてなマークが何個も浮かんだはずだ。

ステージの明かりが消えるとLEDコードに幾つかの色が生まれ、どうやら緑色の明かりがプレイヤーを示していることがわかる。また敵と思われる赤色の帯にプレイヤーが触れると死んでしまうなど、説明が無くとも直感的に理解できるシンプルなゲームだ。一次元のパックマンといえばわかりやすいかもしれない。

sense-of-wonder-night-2016-report-011

sense-of-wonder-night-2016-report-012

コントローラーも独創的で、強力なバネを応用して作られている。YouTubeで、ネコがバネでじゃれている様子からヒントを得て制作したとのことで、動きたい方向に倒して自機を操り、敵が攻めてきたら左右にバネを振って敵をやり過ごす。

ゲーム性は非常にシンプルであるゆえ、子どもにも直感的に理解でき、イベントなどに出展した際は非常に好評だという。LEDコードは非常に柔らかいため、縦横無尽にコードを走らせればすぐにでも素敵なゲーム空間を作ることができる。

現状次のゲームを開発することを当面の目標としており、『Line Wobbler』は販売の予定がないとのことだが、ビジネスパートナーが見つかれば発売することも検討するとのこと。

 

OPUS: The Day We Found Earth

SIGONO 台湾

sense-of-wonder-night-2016-report-013

『OPUS: The Day We Found Earth』は宇宙望遠鏡を操り、星空をスキャンして新しい惑星を探索していくアドベンチャーゲームだ。プレイヤーはロボットとして、母なる星・地球を探し当てることが目標となる。クエストとして、新たな惑星を探していくうちに、物語が進んでいき、その中で宇宙望遠鏡のオプションパーツが手に入り、今まででは発見できなかった星を見つけることができるようになる。

sense-of-wonder-night-2016-report-014

sense-of-wonder-night-2016-report-015

懐かしいレトロ調のデザインと美しい銀河のグラフィックがプレイヤーの気持ちを宇宙に誘うゲームだ。すでにiOS、Android、Steamで発売中のため、気になった方はぜひチェックしてみてほしい。

 

アドバンスド摩訶大将棋

大阪電気通信大学 デジタルゲーム学科 高見研究室 日本

sense-of-wonder-night-2016-report-016

縦横19マスの将棋盤を使い、50種類、敵味方で合計192枚もの駒を使う、全てが規格外の将棋が「摩訶大将棋」だ。平安時代に考案されたとされるこの摩訶大将棋だが、古文書からその存在は知られているものの、冗談とも受け取られかねない規模感から、だれも実際に対局したことがないゲームとされてきた。

sense-of-wonder-night-2016-report-017

今回新たにその「摩訶大将棋」をゲーム化するにいたった理由は、改めて古文書を解読した結果、ルールが古文書の難解さゆえに誤って伝わっており、正しいルールを用いればプレイでき、かつ大変楽しいということがわかったからだ。しかも、コンピューターによるアシスト機能を用いることで、その盤面の大きさから想像できないほどスピーディにゲームは進む。大体1時間程度で一局を終えることができるというから驚きだ。

ゲームで勝つためのコツとしては、ゲーム終盤まで盤面を縦横無尽に動ける機動力のある駒を温存しておくこと、など『アドバンスド摩訶大将棋』ならではのエピソードも語られ、将棋とはまた違った趣を楽しめるゲームであることを会場に印象づけた。

 

DOBOTONE

Videogamo アルゼンチン

sense-of-wonder-night-2016-report-018

パーティゲームの分野に特化して、ハードウェアから制作されたゲームがこの『DOBOTONE』だ。ゲーム自体はシンプルで、説明が不要な複数種類のミニゲームを切り替えながら楽しむことができる。パーティでの使用を想定してるため、4名から8名で遊ぶべる。

sense-of-wonder-night-2016-report-019

特徴的なのはやはりハードウェアで、ゲーム内の4色のキャラクターを操るためにキャラクターの色と対応したコントローラーが2つずつある。コントローラーの構造も非常にシンプルで、棒の先端にボタンが配置されているだけで、操作も片手で握り、親指でボタンを押すだけだ。一人でキャラクターを操るなら左右の手でそれぞれのコントローラーを握る。二人で一つのキャラクターを操るなら、コントローラーを一人一個ずつ操ればいい。

sense-of-wonder-night-2016-report-020

ゲーム中には言葉は一切出てこないため、子供同士や言葉が通じない者同士であっても、『DOBOTONE』を通じて、自然に会話が生まれる光景が容易に想像できる。

またもう一つ特徴的なのはプレイヤー以外に、もう一人がゲームマスターとなり、プレイヤーたちのゲーム体験を盛り上げる役割を果たす点だ。ゲームマスターは、プレイするゲームの選択から、ゲーム中の難易度の調整、ゲーム画面にかけるエフェクトの操作などを任されるため、ゲームを通してパーティを盛り上げる重要な役割となる。パーティゲームに特化したがゆえに考えついたアイディアと言えるだろう。

 

Fantastic Contraption

Northway Games and Radial Games カナダ

sense-of-wonder-night-2016-report-021

今年のTGSではなんといってもVRが注目されているが、イベントの最後を飾ったのもVRゲームだ。HTC ViveおよびOculus Riftで遊べる、自由度がひたすら高いパズルゲームが『Fantastic Contraption』だ。ゲーム中では、自走するローラーや直線のフレームなどを組み合わせて、メカを組み立てることができる。

sense-of-wonder-night-2016-report-022

sense-of-wonder-night-2016-report-023

VR空間で自由に構造体を作れる、というだけでも楽しそうではあるが、この作品では「ヘルメットをかぶると別次元の世界に行ける」「別次元でさらに仮面をつけることで元の次元で今まで見えなかったものが見える」など世界観にも特徴があり、プレイヤーごとに見る世界や遊び方が大きく違ってくるだろう。

すでにSteamで発売中なので、興味を持ったらぜひともトライしてほしい。

 

「ゲーム」を定義することの難しさと楽しさ

プレゼンテーションが終わり、その内容を受け、すぐさま各賞が発表された。

  • Best Experimental Game Award:『DOBOTONE』
  • Best Technological Game Award:『Fantastic Contraption』
  • Best Game Design Award:『Line Wobbler』
  • Best Arts Award:『UnWorded』
  • Best Presentation Award:『Line Wobbler』

最後に会場の観客によって決められるAudience Awardの発表となるが、この賞にも『Line Wobbler』が輝いた。

今回SOWN2016に参加して感じたのは、「ゲームの可能性」についてだ。今年のTGSに参加した誰もが感じることだと思うが、VR元年と言うにふさわしく、VRゲームが会場を席巻している。PlayStation VRが来月にも販売されることもあり、多くのゲーマーがVRゲームを楽しみにしていることだろう。ゲーム業界自体が次のトレンドとしてVRに重きを置いていることはわかるが、今回TGSを回り、あまりにもVRへの舵取りが強すぎるのではないかと不安になった。

一方で既存の方向性と全く違う形でも「ゲーム」を成立させることができる、という気づきを与えてくれたのが『Line Wobbler』をはじめとした、SOWNの作品たちだ。実験的な作品が多く、荒削り感は否めないが、それを補って余りあるほどの独自性が詰まったゲームを見るにつけ、「ゲームはもっと自由であっていいのだな」と安心する。
来年で10回目を迎えるSOWNだが、より一層多用でユニークな作品が集まることを願いたい。

Hideki Nakayama
Hideki Nakayama

仕事柄、イベントレポート記事を書かせていただくことが多いです。ゲームに限らず、エンタメ系イベント全般に顔を出させていただいております。

Articles: 7