「収益配分は開発者60%:販売者40%」とあるゲーム開発者が、“契約条件を赤裸々に開示し”パブリッシャーを募る。なぜこの条件なのかなど話を訊いた
個人デベロッパー・ブラウザランド氏は5月27日、自身のXアカウントにてパブリッシャーを募集した。ふんわりパブリッシャーを募る開発者はいるものの、ブラウザランド氏は契約条件を明示化しており、かなり珍しい募集スタイルとなっている。なぜこうした募集をしたのか、開発者のブラウザランド氏に話を訊いた。
ブラウザランド氏が開発する『Tactics Greed』は、デッキ構築要素をもつアクションリアルタイムストラテジーゲームだ。デッキ構築 × アクションRTSと銘打たれており、RTSが苦手な人でも遊べるように配慮されているという。ゲームとしては、カードを求めてダンジョンを攻略。ナイトやウィザード、大型ユニットなど仲間を組み合わせてデッキを組み合わせ進軍をしていく。非同期通信によるランキングバトルや、2人協力や対戦プレイも備えており、個人開発としてかなり意欲的なタイトルとなっている。
先日は体験版も配信し好評を受け、開発も終盤にさしかかっていた『Tactics Greed』とブラウザランド氏。そんな中、同氏はパブリッシャーを募集した。セルフパブリッシング予定であるが、最後に一度だけパブリッシャーを募集するという。そして具体的な条件も記載されている。以下、投稿を引用する:
【条件】
・収益分配:パブリッシャー様 40% / ブラウザランド 60%
・売上前払い:契約時点におけるウィッシュリスト数 × 定価 ※1
・ローカライズ等の負担:パブリッシャー様 100% ※2
・プラットフォーム:Steam ※3
・発売時期:2024年下半期を予定
・入金遅れがあった場合は契約解除が可能
・URL:「https://store.steampowered.com/app/2265190/Tactics_Greed/」
・その他については直接お問い合わせください
※1:契約前段階においてのウィッシュリスト数はブラウザランドのPRによる成果であると考えておりますので、Steamの取り分30%を引いた残額の前払いを希望致します。
※2:ローカライズの対象となる文字数については、説明のテキストのみなので体験版と大差がない予定です
※3:他プラットフォームへの移植等はSteamでの契約による入金の遅れが無かった場合に、引き続きお願いしたいと考えております。
面白いのは、こうした契約条件はインディーゲーム業界のスタンダードを割としっかり押さえているところ。収益配分やローカライズ負担、揉めそうな要件の前もっての取り決めなど、重要なところが一通りチェックされている。なぜこうした条件にしたのか、なぜパブリッシャーを募るのだろうか。ブラウザランド氏に訊いてみた。
まず、なぜこうした具体的な条件を開示したのか訊いてみると、「結果に結びつかない待ち時間を失くす事を目的としております」との回答が帰ってきた。ブラウザランド氏の経験としては、パブリッシングしたいと連絡が来る → メールでの頻繁な連絡 → 突然の音信不通 → 返事が無いのが返事 → 破談となるパターンがほとんどだという。リリースが近づいたこのタイミングでの「結果に結びつかない待ち時間」は大きな機会損失となるのに加え、精神衛生上も良くないので避けたいとし、具体的な条件を開示した募集をかけたとのこと。
また条件が詰められている点については、メディア記事や開発者の友人、過去の交渉経験に基づいて裏付けをおこない、こうした条件にしているそうだ。たとえば収益配分については、メディア記事で見た中での最高分配率は70%だったという。一方でブラウザランド氏は50%で提案された経験があるそうだ。それでいて、売上前払いを希望していることから「70%は厚かましく、50%は卑屈である」と考え中央値である60%と決めたそうだ。このように、それぞれの条件が根拠をもって決められているわけだ。
ちなみに売上前払い金は、契約時点でのウィッシュリスト数に定価(Steam税を差し引き)をかけた金額と定められている。ウィッシュリストが購入に至る確率は10~20%であるといわれている。ウィッシュリスト数をそのまま売上前金とするのは、あまりないタイプの売上前払い金の決め方ではある。この数字についても根拠を訊いてみた。
ブラウザランド氏はまず「売上前払いを希望しておりますので、パブリッシャー様にとって回収可能であり、かつ合理的な金額を提示したいと考えています」とコメント。ウィッシュリストを稼ぐことが日々の命題になっており、自身でも努力しているという。そしてウィッシュリストを計算式に組み込むことは、客観的に理解の得られる数字になると考えたそうだ。
そのうえで、「契約前まではデベロッパーの数字」「契約後からはパブリッシャー様の数字」と明確に色分けが可能と考えたという。また偶然ではあるものの、ウィッシュリスト数を知らない海外のパブリッシャーから同等の金額を提示されることもあり、そうしたことからこの金額は妥当であると考えたとのこと。ウィッシュリストの購入率とは別のベクトルとして、わかりやすく色分けをするためにこうした定量的な条件提示をしているようである。
ここまで読んでわかるように、ブラウザランド氏は開発技術だけでなく契約条件などにも明るい。パブリッシャーがいなくともやっていけそうである。なぜパブリッシャーを募集したのか訊いてみた。すると「時間制約」「言語問題」についてあげてくれた。ブラウザランド氏はひとりで開発しているため活動時間が限られているほか、初の商用ゲームであるので広告費が捻出できないという。さらに、国外に対するアプローチができない点を課題としてあげた。
こうした状況の中で売上を最大化するためにはパブリッシャーは必要不可欠であり、協力を願い出たとのこと。過去にもパブリッシャーと話をする機会があったものの、ゲームの開発が進んでいない段階であったので、具体的な話には結びつかなかったという。一方で現在は開発が終盤に近づいており、このタイミングならば交渉しやすいのではないかと思い募集に至ったそうだ。
つまり、ブラウザランド氏は、個人としていろいろ学んだ上で、そうした経験に基づいて今回パブリッシャーを募集しているわけだ。あくまでブラウザランド氏は自身のための募集であると思われるが、誰かにとってのお手本になりえるという点では、非常に有意義な問いかけである。そんなブラウザランド氏に、自身のゲームについて紹介するコメントを寄せてもらったので、それをもって本稿を締めさせていただく。
僕には小学生と幼稚園の子供がいるのですが、その子供たちと一緒に遊べるストラテジーゲームを目指して 『Tactics Greed』 の制作をしています。『スプラトゥーン』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』を子供たちが遊んでいるのを見て、ならば僕が好きなストラテジーゲームもカジュアル層向けに作って遊べるのではないかと考えたのが始まりです。
子供が遊んでも楽しいように……簡単な操作やシンプルなルール、短時間でプレイできる仕組み、可愛らしいキャラクター達を揃えました。一緒に遊ぶ大人も楽しいように……「デッキ構築 × アクションRTS」という新しい組み合わせによる体験を作りました。マウスだけでも操作可能ですので、仕事中にこっそり遊ぶことだって出来ます
RTSやったことない人も!やりつくした人も!
そんなカジュアルなデッキ構築型アクションRTS「Tactics Greed」の体験版が公開中です。
ぜひ遊んでください!!
『Tactics Greed』はPC(Steam)向けに開発中である。