足し算パズル『saicachi』、ターン制タクティクス『KAIJIN』、チャレンジを続ける個性派クリエイター集団Thunderbolt
ここ数日の間に発売されたモバイルゲームのなかから光る何かを・際立つ要素を・特筆すべきものを(・場合によっては目に余るデキを)持つタイトルを紹介する不定期連載「Mobile Pick」。前回に引き続き、7月9日と7月10日にかけて京都で開催されたインディーゲームの祭典「BitSummit 4th」で見つけたゲームを紹介する。今回は、単純な計算なのに難しい『saicachi』と、開発元のThunderbolt Interactiveにフォーカス。
Thunderbolt Interactiveは名古屋を拠点に活動するエンターテイメントプランニングクリエイター集団である。BitSummit 4thでは、数字パズル『saicachi』(iOS/Android)とターン制タクティクス『KAIJIN』、そして隠し玉として『ピクトリス』を参考出展。ちなみにThunderboltは今回が2回目の出展であり、前回の記事はこちら。
Thunderboltオリジナルアプリ第2弾『saicachi』は、数字が書かれた「サイカチ」を重ねて数字を合体させ、とにかく大きな数字を作り出してハイスコアを目指すパズルゲーム。スクリーンショットを見ていただくとわかるとおり、画面には赤・青・緑の3色のサイカチが登場し、「合体できるサイカチは同じ色でなければならない」と「合体した数字が3の倍数になってはいけない」というふたつのルールを守って遊んでいく。
ルール自体はとても単純なのだが、この数字とあの数字を合体させてはいけないことを頭の中でわかっていても、ついついルール違反を犯してしまう。3で割り切れない数字を作るだけなのに、簡単なことなのに、それすらできない自分自身に腹が立つのだ。BitSummit会場のThunderboltブースでは、集中力を切らしてしまったプレイヤーが頭を抱える姿を何度も見ることができた。
ゲームの遊び方や仕組みは、公開されている動画を見ていただくほうがわかりやすいかもしれない。とにかくこの悔しさは、実際に遊んだ人にしかわからないだろう。
うっかり3の倍数の数字を作り出して苦悶するプレイヤーを、楽しそうな表情で見つめていたThunderbolt InteractiveのCEO安田武史氏に少し時間を割いていただき、お話を聞かせてもらった。
人が喜んでくれることが何よりも快感
――ThunderboltさんはBitSummitの参加は2回目ですよね。前回は『Triangular』で、今回は新作を?
安田武史氏:
そうです2回目ですね。今回は『saicachi』と『KAIJIN』、あと隠し玉として『ピクトリス』を参考出展しています。ちなみに『ピクトリス』はBitSummitに向けてスタッフが徹夜で作りました。
――今年も気合じゅうぶんですね。去年のお客さんとの再会はありましたか?
ありました。うれしいですよね、声かけてもらって。こっちも「君、去年リアクション良かったよね」という感じで覚えていた子もいましたよ。
――去年と比べてお客さんの反応は違いますか?
今回出展しているものは前回とゲーム性が変わっているので、今までとは違うリアクションが目立ってます。前回の『Triangular』はCPUとの対戦がメインだったんですけど、今回出展している『saicachi』と『KAIJIN』は一人で遊ぶゲームで、自分の考えが結果に直結するので、お客さんが失敗したときのリアクションはとても大きかったですね。
――昨年のThunderboltさんのブースを思い返すと、外国人のお客さんが多かったですよね。今年はいかがでしたか?
今年のほうがぶっちぎりで多いです。やはり『KAIJIN』の影響が大きいですね。
――昨年お話を聞かせていただいたとき、ゲームのコンセプトとして「“Face to Face”の遊び」というものがありました。『saicachi』はどのようにして誕生したのでしょうか?
新幹線に乗っていたとき、「数独」を遊んでいる年配の方がいたんです。「数独」ってそのままアプリで作れるじゃないですか。でもそれだと面白くないなと思って、「数独」のような年配の方でも遊べるもの――何かあたらしいパズルゲームを作れないか考えました。
ちょうどパズルゲームにハマっていたうちの企画スタッフが、いろいろなアイデアを出して、まずは色あわせのゲームが出来ました。でも、自分が塾の先生だったという経験があるからかどうかわからないですけど、頭に「3」という数字が浮かんできて、「3」って奇数にも偶数にもなれる一番小さい素数というのもあって、この計算を取り入れれば、遊んでいるうちにゲームが複雑化していくんじゃないかと考え、今の形になりました。
――さきほど遊びましたが、とても難しいゲームでした。
最初に考えたときはもっと簡単だと思ってたんですが、プロトタイプを作って遊んでみたら思いのほか難しくて。ただ、この難しさにはこだわりがあります。出現する数字の大きさや場所を、プレイヤーが「うわっ嫌だ」と感じるようにプログラマーが工夫しているんです。でも、誰が遊んでも3の割り算をするということは変わらないので、集中力さえ保てばそこまで難しくないはずです。
――その集中力がなかなか続かないんですよね……。自分では集中しているつもりなのですが、ついつい隣の数字と合体しちゃうんです。
操作性の問題で数字がくっついてしまったという声をよく聞くんですけど、数字同士のくっつき加減は調整していて、すこし触れたぐらいではくっつかないようにしてあります。自分の意志で数字と数字を重ねないと合体しないんです。なので、失敗は「自分の計算ミス」ということになるんですよ。
単純に計算が得意な人がハイスコアを出せるということでもなくて、画面上にはたくさんの数字がありますから、目に入ってくる情報に騙されることがあるんです。合体させるべき数字と、合体させてはいけない数字が、集中力の低下によってうまく区別できなくなってくるんですよ。そういう失敗シーンを見ると、しめしめ……って感じですね(笑)。
――ゲームのBGMは安田さんが作曲されたそうですね。
はい、15年ぶりに作曲しました。
――なんでも作られるイメージが強いです。
スタッフはみんなメインの仕事があるので、できる限り迷惑をかけたくなかったんです。最小の人数でどこまで作れるか試してみようということもあって、チャレンジしました。
――『saicachi』の制作期間はどれくらい?
3~4か月ですね。土日も年末年始も休みをとれなかったですけど。平日は基本業務が終わる19時ごろから作業を始めて、23時ぐらいまで没頭していました。
――それってめちゃくちゃ疲れないですか?
いや、そうでもないですよ。なんだろう、楽しかったです。
――身体はボロボロになるけど、楽しいですか。
ボロボロになりますけど、楽しいですね。楽しいという精神力だけで耐えていたってのもありますけど(笑)。
ぼくたちのような会社って受託開発の仕事が多いじゃないですか、だから決定権はクライアントにあると思うんですけど、インディーの醍醐味のひとつって自分に決定権があることなんですよ。自分たちがやった結果がBitSummitでたくさんの人に見てもらえたり、遊んでもらえたりっていうのが。これがぼくたちのモチベーションになっています。
――会社自体は受託でまわっているのに、そこまでしてゲーム開発に打ち込む情熱はどこから来るのでしょうか?
世界の人を喜ばせたい、楽しませたいという気持ちだけですね。自分が趣味のゴルフとかで遊ぶよりも、人が喜んでくれることのほうが快感なんです。究極のエゴかもしれないですけどね(笑)。
――なるほど(笑)
あと、もしかしたら親父の影響が強いかもしれないです。うちの親父は破天荒な性格で、迷惑をかけたりもしたんですけど、人を笑わせたり楽しませることに体を張ってたんですよ。ぼくはそこまで体は張れないけれど、血筋なのかなとも思います。
去年あたりからうちのスタッフに言ってるのは「チャレンジ」なんですよ。言われたことをやるだけでも生活は楽になるけれど、チャンスをつかむためにはリスクが必要になる。リスクって何だろうと考えたとき、ぼくたちのリスクは「時間」なんですよね。彼女とデートしたいとかいろいろあると思うんですけど、時間を削ってでも作っていけば、人に喜んでもらえるものを世に出せるはずです。
『KAIJIN』にかんしても、スタッフが「絶対に仕事をおろそかにしないから作りたい」って言ったんです。通常の業務はちゃんとやると。自分もクリエイターの端くれだと思っているので、その気持ちを無下にはできないですよね。その結果、まだ手探りの段階ではありますが、今回のBitSummitで好評を得られるものが出来上がりました。自分たちのセンスがどこまで世界に通用するのか――気概だけでみんなやってますね。
――『KAIJIN』はThunbderboltではなく別ブランド「SIDEKICK」名義になってますね。一人で作られているんですか?
3人です。デザイナー2人とアーティスト1人ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=WoZBXydF9ak
――こちらも音楽は安田さんが担当されるんですか?
今回は別の方にお願いしようと考えています。やはり彼ら主体のプロジェクトですから、チームですべて決めてもらっています。もし頼まれたらやりますけど(笑)。
――『KAIJIN』のリリースはいつごろを予定されていますか。
iOSとAndroid向けに、今年の秋ですね。
――今後のThunderboltはどこに向かって進んでいきますか。
もしかしたら自社だけでは作れないものがあって協力会社さんと組むこともあるかもしれないですが、そのなかにインディー気質を持った方がいらっしゃれば一緒にやっていくのも楽しいかと思います。VRとか新しい試みをみんなでやりたいなと。
――ThunderboltさんがVRゲームを作ると、とんでもなく変わったものが出来上がりそうですね……。
最初にVRコンテンツの企画を考えたとき、すごくバカっぽいものが出来たんですよ。ただこれはちょっとバカすぎてダメだなと(笑)。
――やはり(笑)。
海外のVRコンテンツと日本のVRコンテンツを見比べたとき、どうも日本は体感型が多いように感じたんです。VRって没入感がハンパないデバイスなので、もっとゲームの幅が広がるようなコンテンツを作りたいなと。でも、最初の導入は「バカでもいいじゃない」かな(笑)。
――楽しいってのは大事ですからね。
ただひとつ弱点があって、さっき会場でVRゲームを遊んだんですが1分ほどで3D酔いしてしまって……。
――(笑)Thunderboltさんの今後の展開に期待しています。ありがとうございました。