縦スクロールSTG『Missileman』。夫婦ふたりだからこそ実現できた、かわいらしさとむつかしさ

『Missileman』は、Game or Dieという名で大橋伸乃介氏と愛子さんの夫婦で制作されている縦スクロールのSTG。BitSummit 4thの会場ではモバイル版が出展されていた。ほどよい緊張感と達成感が魅力である。

ここ数日の間に発売されたモバイルゲームのなかから光る何かを・際立つ要素を・特筆すべきものを(・場合によっては目に余るデキを)持つタイトルを紹介する不定期連載「Mobile Pick」。久しぶりの更新となる今回は、7月9日と7月10日にかけて京都で開催されたインディーゲームの祭典「BitSummit 4th」で見つけた縦スクロールSTG『Missileman』を紹介する。

『Missileman』は、一見すると縦スクロールのシューティングゲームなのだが、じつはいくつかの特徴を持っている。そして、Game or Dieという名で大橋伸乃介氏と愛子さんの夫婦でゲームを制作しているという点にも興味をひかれた。

操作にかんしてはタッチデバイスで遊ぶゲームということもあり、スワイプで移動し、タップでミサイルを発射するといったシンプルなもの。敵を倒して経験値をかせぎレベルが上がればミサイルなどのアップグレードも可能。これだけだと、App StoreやGoogle Playにあふれかえる極力シンプルにデザインしたアクションゲームのように感じられるかもしれない。まずはトレイラーを見ていただきたい。

トレイラーを見ると、一般的なシューティングゲームとの違いを感じてもらえるだろう。射撃で敵を撃墜するというよりも、『Missileman』は避けることに重点が置かれているゲームである。タッチデバイスの操作性はマウス+キーボードやゲームパッドより快適とは言い難いので、的確な移動で敵の体当たりを避けるというのは難しい。そこで、敵との接触を未然に防ぐために、ミサイルを発射して撃墜していくというわけだ。

『Missileman』におけるプレイヤーにとっての脅威は敵だけではない。ステージは左右にうねったコースのような構造になっており、黒い壁に接触してもプレイヤーはダメージを受けてしまう。ハイスピードで走り抜ける見下ろし型のレースゲームに近い。敵の撃墜や回避に気をとられていると、突然せり出してきた壁に激突してライフが削られてしまう。

敵と壁というふたつの脅威が『Missileman』の特徴と言えるだろう。とにかく難しいゲームだが、プレイヤースキルの熟達と、レベルアップによる自機の成長、それに加えて毎回ランダムで生成されるステージ、これらの要素がうまい具合に混ざり合って、継続した緊張感と達成感を与えてくれる。

BitSummit2日目の朝、大橋夫妻にお願いし、『Missileman』についてのお話をうかがった。

 

ふたりだからこそ実現できた、かわいらしさとむつかしさ

――よろしくお願いします。大橋さんはBitSummitでの出展は初めてですか?

伸乃介氏:
そうですね。初めての出展になります。

 
――『Missileman』が処女作?

伸乃介氏:
僕たちにとって最初にリリースしたいゲームです。ミニゲームとかはいくつも作ってたんですけどね。BitSummitだけはどうしても出たかったので。去年遊びで来てめっちゃ楽しかったので、自分たちのゲームをここで遊んでもらいたい――甲子園みたいなものですかね。

 
――なるほど。ここを目指して、みたいな。
伸乃介氏:
そうですね。うまいこと審査を通りました。

 
――審査で落ちた方も多かったようで。通ったということは認められたということになりますね。

伸乃介氏:
自分たちでもどこを評価されたのかちょっとわからないですけど(笑)

 
――デモも出すんでしたっけ?

伸乃介氏:
デモも出しますね。じつは期間がなくて、3週間で作り上げたんです。

愛子さん:
BitSummitの出展者募集を見てから気合を入れて作りこみを始めました。

 
――ええ!?

伸乃介氏:
締め切りまで1か月なかったんですよ……。きっとほかの人たちはすでに作っているゲームを出されていたんだと思うんですけど、僕たちはそれを見て「ヤバイ、作らなきゃ!」となって。仕様を作るときにモメたりしたので、一回ちょっと出すの止めるかみたいな話になったんですけど、超高速スピードで壁をくぐり抜けるものと、ゆっくり落ちてくる敵を狙って「パーンッ!」って撃つデモを作ってみたら、あれ?面白いんじゃないの?となって作りました。

 
――アイデアを思いついたとき、何かからヒントを得ました?

伸乃介氏:
『Missileman』のコンセプトは学生のころから考えていて、最初は横方向に移動するミサイルの上にキャラが立っていて――スケボーとかサーフボードみたいなクールなものをイメージしていたんですけど、たまたま彼女がミサイルの先っちょにキャラを乗せたんです。それがすごくまぬけでキャッチーでかわいいし、彼女の絵と合ってるかなと感じて採用して、今の形になりました。

一番大きいのは、『スター・ウォーズ』でルークが乗っているXウイングがデス・スターの表面にスッと入って、その中をハイスピードでくぐり抜ける。ああいうのを表現したかったんです。シューティングゲームって撃ってばかりな印象があって、そうじゃないシューティングがあってもいいと思ったんですよ。なので撃つっていうよりも避けるほうをメインに考えています。iOSだと『ALONE』というゲームがあるんですけど、それも勉強になりました。

 

プレイヤーと真剣に話し込む大橋伸乃介氏。生の声が得られるのもBitSummitの魅力。
プレイヤーと真剣に話し込む大橋伸乃介氏。生の声が得られるのもBitSummitの魅力。

――奥さんがアートを担当されているんですね。

伸乃介氏:
そうです。僕はプログラマーを担当して、彼女は絵を描く人です。だいたい最初に僕が四角とかで組んでしまって、そこに絵を合わせていきます。

 
――夫婦の共同作業ですね。おふたりともゲーム開発会社に勤められていたと聞きました。

伸乃介氏:
去年までふたりとも10年くらい働いていました。

 
――同じ会社で?

伸乃介氏:
10年前に一緒の会社に勤めていたことはあったんですけど。

愛子さん:
1年?

伸乃介氏:
1~2年くらい同じ会社に勤めていて、それからは別の会社でした。

 
――恋愛関係も長い?

伸乃介氏:
10年前のときから一緒に住んでいて、結婚はしてなかったんですけど、付き合ってすぐに住み始めました。

 
――ということは付き合ってから今でどれくらい?

伸乃介氏:
もう10年ですね。出会ってすぐに付き合って、すぐに住み始めて。

 
――はやい(笑)。

愛子さん:
ふたりで一緒に勤めていた会社が夜も遅くて、ほとんど帰れなくて、私の家のほうが終電が遅かったんですよ。

伸乃介氏:
そうそう。だから転がり込んだみたいな。ホテル代わりですよ(笑)。
会社が新宿で、僕は千葉に住んでいたので。

 

ふたりだからこそ実現できた、かわいらしさとむつかしさ。
ふたりだからこそ実現できた、かわいらしさとむつかしさ。

――夫婦でゲームを作っていると、喧嘩しないのか気になります。

伸乃介氏:
ありますね。生活面ではないですけど、今まで一緒にゲームを作るということがなかったので、10年目にして初めて作り始めたので、自分と彼女の方向性がけっこう食い違っていて、その部分での衝突というかね。

愛子さん:
一緒に作るという前に、まず夫婦であるということがあって。私が家族だから一緒に作りたいと思っているのか、それとも私の絵を好きだから一緒に作りたいのかというと、たぶん家族だから一緒に作りたいという気持ちが大きいんだろうなって思うんです。なので絵の部分で合わなかったりします。

伸乃介氏:
最初は、僕が好きな部分を彼女に押し付けちゃってたんです。やっぱりそれは彼女も受け入れがたいところがあって、ちょっと険悪なムードになることもあったんですけど、絵を描くのは彼女であってアートディレクターですから、そこはあまり口を出さないようにしていきました。

 
――長い間ゲーム業界に勤められていたということは、ゲーム業界の難しさも感じていたのでは?独立するにあたって、不安はなかったですか?

伸乃介氏:
正直なところ、僕は楽観的なので、不安はないんですよ。

愛子さん:
私はあるんですけどね。

伸乃介氏:
彼女はすごく不安がっています。僕自身は不安に思っていなくて、なんとかなるんじゃないかなって。もしだめだったら、再就職すればいいじゃんっていうぐらいのテンションですね。

 
――たしかに経験が豊富ですからその技術はありますね。でも奥さんとしては不安がある。

伸乃介氏:
今は無収入の状態なので、貯金がどんどん減っていっている状態だから、そこに強い不安を感じているんだと思います。一時期、今やっている作業を中断して、彼女が就職すると言い出したことがあったんです。それで僕一人で作っていくかどうするかを話し合いました。最後は一緒にやろうということに決まりました。なので、なんとかしてこの『Missileman』が一年ぐらいの生活費になってくれないと。

愛子さん:
ただ、会社勤めをしていても、病気になってしまったり、女性の開発者だと結婚して子供を産んだりした場合、自分が納得出来るレベルの仕事ができるのかどうか?という不安は常々ありました。今はインディーとして活動するにあたって収入面の不安はありますが、どちらの環境にいても不安に思う内容が変わるだけだなと気付いてからは、インディーに挑戦してみようという前向きな気持ちになっています。背景やキャラクターのアニメーションなど、今まで仕事ではやってこなかったパートにも挑戦できるので、この開発を通じてゲームアーティストとしてステップアップできればと考えています。

 
――『Missileman』はモバイルのみでしたよね。

伸乃介氏:
今のところiOSのみなんですけど、最近は考え方が変わってきて、出せるプラットフォームがあれば出したほうがいいんじゃないかなって。SteamのGreenlightに登録したりだとか、itch.ioに出して1円でも多く寄付をもらえればいいかなって。

 
――価格設定はどうされる予定ですか?

伸乃介氏:
売り切りで200~300円代で出したいですけど、このご時勢、売り切りは難しいよって話をよく聞くので、もしかしたら無料で配信して広告を差し込んだり、広告を外すアドオンを販売したり、もしくは最初のステージは無料というのも考えています。そこはBitSummitに来られているいろいろな開発者さんの声も聞いてみたいです。

 

難しすぎるとのことで壁が取り払われたボス戦。BitSummit特別仕様。
難しすぎるとのことで壁が取り払われたボス戦。BitSummit特別仕様。

――『Missileman』の内容についてですが、ステージクリア型ですか?

伸乃介氏:
『スーパーマリオブラザーズ』みたいに各ゾーンに4つのステージがあって、最後にボスが登場します。最初のうちは壁もゆるやかですけど、あるていど進むとイライラ棒みたいな感じになっていきます。

 
――ボスと戦っているときも壁が迫ってくる?

伸乃介氏:
それはさすがに難しかったみたいで、今はその要素を抜きました。昨日(BitSummit初日)も壁にぶつかって死んじゃう人がすごく多かったんですよ、ボス戦のときに。

愛子さん:
まさに昨晩、その壁をなくす作業をしていました。

伸乃介氏:
それもあって、ボス戦中はボスに集中してもらえるようになりました。
撃つことに集中していると避けられないとか、人間って意外とマルチタスクが苦手だってことがわかったので、撃つタイミングと避けるタイミングのメリハリを付けていったほうがいいのかなって考えています。そういった意味でも、BitSummitに出れてよかったなと感じます。たくさんの人の声が聞けたので。

 
――いろいろな人の声が聞けるというのは大きいですね。

愛子さん:
普段ほんとに埼玉で引きこもって二人だけで作っているので。彼は作っている本人なので、普通にゲームをクリアできるんですけど、私はそこまでゲームがうまくないので、自分たちで作ったゲームなのにクリアできてないんです。グラフィックをチェックしたいんだけど、そこまでたどり着けない……。なのでちょっといじって無敵設定にするとか(笑)。

 
――そんな苦労もあるんですね(笑)。

愛子さん:
ふたりともゲームのうまさが両極端すぎて、普通の人はどれぐらいなの?みたいな。

 
――難度設定は難しいですね。

伸乃介氏:
昨日の感じだと、シューティングをよく遊ぶという人は何度も遊んでくれたので、やっぱりこのゲームはコアゲーマー向けなのかな?って強く感じました。完全にそっちに振り切っちゃってもいいのかなって。

 
――自分が好きなものを作れるからこそ、インディーゲームはなかなか完成しないことがあります。『Missileman』のリリースはいつごろを目指していますか?

伸乃介氏:
もちろん、こだわりを持って作っていくことは絶対に必要なことですが、時間は無限にあるわけではないので。限られた時間の中で最高のモノを作る、という心構えで開発しています。今年中には絶対に出したいです。

 
――読者のみなさんへメッセージをお願いします。

伸乃介氏:
見た目はかわいい感じになっていますけど、いざ遊んでみるとめちゃくちゃハードです。
壁をすり抜けるスリルがあって、敵を一匹一匹しとめていく、そんなちょっと変わったシューティングなので、弾幕系が苦手でシューティング自体を敬遠していた人にも遊んでいただければと思います。

 
――リリース楽しみにしています。ありがとうございました。

Shinji Sawa
Shinji Sawa

ゲームはジャンルを問わず遊びますが、1回のプレイ時間が短いものが好きです。FPSやRTSは対戦モノを積極的にプレイします。しかし緊張するとマウスを持つ手が震えるタイプでもあります。

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