ゲーミング団体EMPから相次ぐ離反者、Evo前日の電撃発表
Empire Arcadia(EMP)から選手が離反するのは今に始まったことではない。じつは、米国Fighting Game Community(FGC)で最高のキャリアを持つJustin Wongも、数年前までEMPに所属していたのだ。今年3月JustinはIGNで当時を振り返っている。チームメイトからのいじめ、孤立といった屈辱を受けたEMP時代から、故郷ニューヨークを見限りカリフォルニアへ移住するまでの物語が、忌憚なく語られたのだ。
このインタビューがFGCにどういった影響を与えたかはさだかでないが、翌月4月に入りTampa BisonとFlocker、そしてREOが相次いでEMPを離脱した。Tampa Bisonは『ストリートファイター X 鉄拳』、Flockerは『ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3』、REOは『Mortal Kombat』と『Injustice: Gods Among Us』、それぞれの分野で数多くの実績を持つプレイヤーたちだ。
この時期に退団者が相次いだことについては、EMPのボスTriforceが当時フランスに滞在中であったことが影響しているのではないかとも噂された。鬼の居ぬ間になんとやらというわけだ。しかし彼のアメリカ帰国後も選手の脱退は続いた。
『Killer Instinct』や『Mortal Kombat』など米国産の格闘ゲームに強いCD.Jr。Yipesのパートナーであり、コメンテーターとして活躍するPersia。そして『MARVEL Vs. CAPCOM 2』時代からの古株であり、Evoでの動向も注目されていたSanford Kelly。彼にいたっては脱退が発表されたのがなんとEvo2014開催前日のことである。EMP内部の混乱のほどが推測できるというものだ。さらにEvoが終わって本稿を執筆しているさなか、Yipes、JRosa、Kreymoreの脱退が表明された。
Justin Wongとは違いEMPを脱退しながらも東海岸に残ったプレイヤーたちがその後いかにしてプロゲーマーとしての活動を続けているか。本稿で全員を網羅しきれているわけではないが、それでもTriforceとEMPのこの先が心配になってしまうほど、みな成功しているように見える。彼らがもしEMPに残留したままであったとしたら、Evo2013『Injustice: Gods Among Us』の優勝者でありながらEvo2014には出場できなかったKDZのように、不本意な道を歩むことになっていただろう。
Tampa Bisonは、すでにお伝えしたようにWebコミュニティ/r/Kappaの厚い支援を受けた。Flockerは、実力派チームRevolution Gamingに加入し、彼自身もEvo2014でベスト5に入る活躍を見せた。CD.Jrは、コミュニティからの支援で大会への挑戦を続け、Evo2014の『Killer Instinct』で優勝を果たした。Persiaは、『ULTIMATE MARVEL Vs. CAPCOM 3』のシーンで活躍するチーム、BrokenTierのマネージャーとなった。Sanfordは、電子タバコ会社Steam Coからの後援を受けEvo2014への参戦を果たした。
Sanfordについては、もうすこし書き添えておく必要があるだろう。現在もEMPに残っているDieminionがエキシビション出場の条件として要求したSanfordの出場は、皮肉にもSanfordがDieminionを裏切ったことで果たされたからだ。SanfordとDieminion、そしてTriforce。それぞれの心中は計り知れない。エキシビションは、1-5の大差でニューヨーク勢の敗北に終わった。
昨年Evoにおいて、『ULTIMATE MARVEL Vs. CAPCOM 3』のFlockerに『Injustice: Gods Among Us』のKDZと、2部門での優勝者を輩出したことを思えば、今年のEMPは振るわなかった。いつもなら大会で自軍の選手が活躍するたびTwitterで大きくアナウンスするTriforceも、今年のEvoではまったく静かなものだった。主力選手たちの相次ぐ離脱とあわせ「帝国(empire)の落日」は近いともささやかれはじめた。だがひとつ、筆者には気になることがある。
今年『ウルトラストリートファイターIV』部門を優勝したフランスのローズ使いLouffy(Luffyとも)。彼は、Triforceと共にフランスに滞在していたアメリカ最高レベルのガイル使いのDieminionと、強いつながりを持っている。LouffyとDieminionがグランドファイナルを戦った大会、また、ふたりがタッグを組んで出場した大会も複数確認できるのだ。
TriforceとDieminionのフランス長期滞在について、資金の出処などを疑問視する声も多かったが、Louffyや彼の所属する団体Meltdownが、EMPに宿など提供していたのかもしれない。となれば、今回のLouffy躍進の一因には、おそらくおこなわれていたであろうDieminionとの数ヶ月に渡る共同練習の影響があった、とは考えられないだろうか。
仮定の上に仮定を重ねていることは承知している。しかし、EMPとその「放漫経営」こそがLouffyを優勝させたのだ――そんな疑念を筆者は捨てきれずにいる。
アジア圏に独占されていた『スト4』の王座をフランスが奪取したことは、フランスのみならず、ヨーロッパのFGCを大きく奮い立たせることになるはずだ。それにより今後のShadowloo Showdown、DreamHack、CAPCOM Cup などの国際大会を、いったいどの国、どの地域が獲るか、まったく読めなくなってきた。
EMPのおかげで世界の格ゲー情勢はますますおもしろくなってきた、とすら思えるのだ。
妄想と言われてしまえばそれまでだ。だが、いかにEMPが淘汰されるべき悪であったとしても、彼らをFGCから追放することでマイナスの影響も間違いなく生じる。Triforceが急速に立ち位置を失いつつあるいまこそ警戒が必要であろう。
なお、本項本文執筆完了後の7月19日時点でDieminionがEMPから脱退することが、彼自身のツイートによりあきらかになった。海外格闘ゲームコミュニティサイトEvent Hubsもこれをソースにおおいに盛りあがっている。これによって主力選手の大半を失ったEMP、そしてTriforceの去就を引き続き見守っていきたい。