環境ごと破壊FPS『THE FINALS』先行プレイ感想。「ただのシューターではない」に嘘偽りなし、壁や床を破壊し、想像力で意表を突け
『THE FINALS』は、自由にアビリティや武器を設定し、建造物を破壊できるマップを舞台に仮想現実ショーマッチで賞金を稼ぐ基本プレイ無料のアリーナFPSだ。
開発を手掛けるのはスウェーデンを拠点に活動するEmbark Studios。『バトルフィールド』シリーズを手がけてきたDICEをかつて率いていたPatrick Söderlund氏らが起ち上げたスタジオである。
『バトルフィールド』と聞いて想像するのはやはり破壊表現だろう。同じく『THE FINALS』も、壁や床を破壊できることが大きな特徴だ。加えて、ジップラインやジャンプパッドなど縦方向への移動手段も豊富であり、もわもわとした謎の物体を射出するグルーガンによりちょっとしたオブジェクトを作って遮蔽や敵への足止めに活用することもできる。目標への侵入経路など、プレイヤーに与えられた選択肢は無数にあり「この戦術できるかも?」と思えば実際にできてしまうような作品である。
3月7日(火)に開始されるクローズドベータテストに先立って、本作を実際にプレイする機会をいただいた。本稿ではゲームの概要とインプレッションをお伝えする。シューター好きな筆者が2時間半ほど遊んで感じたのは、戦略が持つ選択肢の広さと、戦術を練りだしていく楽しさだ。プレイヤー自らが戦場を変化させ、敵にあっと驚く意表を突くプレイが待っている。なお、実際にゲームがリリースされるまでに仕様が変わる可能性がある点は留意してほしい。
キャッシュの奪い合いで起こる駆け引き
本作においてプレイヤーは、“THE FINALS”と呼ばれるゲームに挑戦する。THE FINALSはエンタメショーマッチという設定であり、競技者は富と名声、そしてスポンサーの支持を得るため試合に参加する。F1などのリアルスポーツや、「イカゲーム」や「ハンガー・ゲーム」からインスピレーションを受けている。ショーランナーなど試合外の世界観設定については、コミュニティと共に育てていきたいとのことだ。
メインのゲームルールは、マップから現金を回収する、いわゆる“ハイスト”モードだ。チーム対戦型のPvPとなっており、プレイヤーは3人1組のチームで、マップ内に隠されたキャッシュボックスを回収しキャッシュアウトステーションに納めることで、キャッシュを獲得することになる。これらはマップに複数設置され、オーバーレイで常に位置を把握することができる。8分間でもっとも多くのキャッシュを回収したチームが勝利だ。
キャッシュボックスは、インタラクトしてから一定時間経つと運べるようになり、運んでいる間は武器などは使用できないが、落として拾い直すこともできる。キャッシュステーションに納めたあと、回収時同様に一定時間経過すると、晴れて自チームのキャッシュとなる。
肝となるのは、このキャッシュを“奪い合う”ということだ。キャッシュが運べるようになってから、運んでいるプレイヤーを倒せばそのキャッシュはその場に落ちる。これを奪って、自チームがキャッシュステーションに持ち込むのも良い。また、キャッシュステーションでの回収時に、別のチームがステーションにインタラクトすれば、そのチームが回収したことになる。
正攻法でキャッシュを回収しても良いし、他のチームが一生懸命手に入れたものを盗むも良い。この駆け引きが、本作の戦術を考えるうえでの基本となる。
なお、ゲームモードは2種類ある。クイックプレイは、4チーム12名でのプレイで、8分間でもっとも多くのキャッシュを入手したチームの勝利だ。トーナメントモードもあり、16チーム計48名が4つのグループに分かれて予選を実施、それぞれを勝ち抜いた4チームで、ラウンド毎に1チームが脱落していくノックアウト形式の試合を行い、残ったチームが勝者となる。競技性も意識していることがうかがえる。
マップの破壊で刺激される想像力
本作は「ただのシューティングゲームではない」という。その理由は、自由を極限まで高めたマップの破壊にある。世界を変化させ利用することに重きをおかれた本作では、壁や床を自由に破壊することができる。
たとえば、前述のキャッシュボックスから回収を試みる敵チームがいたとしよう。ボックスがある場所の上の階に潜み、爆弾などを使って床に大きな穴を開け、敵の頭上から急襲を仕掛けるなんてことができる。キャッシュボックスからステーションまで床や壁を破壊してショートカットするほか、ロケットランチャーで遠くの建物の外壁を破壊して敵同士の撃ち合いに茶々を入れるなども可能だ。
これが新鮮でユニークな体験を生み出している。そのマップに与えられた地形や部屋割をただ利用するだけでなく、それらを破壊し組み合わせ、なにができるのかを考えていくのだ。
3次元的な移動方法も、破壊と戦略の楽しさを手助けしている。ジャンプパッドやジップラインなどを使用し、プレイヤーは高い場所へ簡単に移動することができる。これらはプレイヤーがロードアウトに組み込むことで設置することもできるので、外壁を壊して敵のいる部屋に意図的にジャンプパッドで飛び込むような使い方もできる。
また、もわもわとした謎の物体を射出するグルーガンによって、マップにキャラクターほどの大きさの遮蔽物を作ることができる。これは(確認した限り)爆発物などを使用しないと壊せないもので、キャッシュボックスを守ったり、敵のルートを潰したり一時的な要塞を築いたりと、使い方は多岐にわたる。
ここまで述べただけでも、プレイヤーの発想力次第で無数に戦術が生まれてくることがわかるだろう。
舞台となるアリーナ(マップ)は現実の有名なロケーションをモチーフとしている。今回の試遊で体験できたのは、古めかしい建造物が建ち並ぶ旧市街地・モナコと、韓国・ソウルの高層ビルをモチーフとしたマップの2つだった。モナコでは3階建て程度の建物が連なっている印象で、屋上を上手く使うことで屋外と屋内の戦いを楽しむことができた。一方のソウルでは高層ビルなだけあって高低差が凄まじい。床に穴を開けたり、ジャンプで階層を行き来したりと、マップによって個性がありそうだ。
また、時刻・天候がランダムで設定され、ゲーム内イベントもまたランダムに起きる点も興味深い。重力が弱くなり、ジャンプの飛距離が伸びるイベントや、無数の隕石が降ってきてあちらこちらが炎上するもの、シンプルにダメージが大きくなるものなどが、一試合に一回ほど起きる。起死回生のチャンスになる場合もあるだろう。
さまざまなプレイスタイルを作成
本作はヒーローシューターではない。プレイヤー自身が自分のヒーローを作るヒーロービルダーだ。プレイヤーがどうなりたいか、どうプレイしたいかを選ぶため、試合中に使う武器などはロードアウトをカスタムすることになる。特徴的なのは、武器やサブガジェットのほかに、ライト・ミディアム・ヘビーの3つのボディタイプが用意されていることだ。
機動力やHPのステータス、それぞれのアビリティが設定されていて、ライトであれば機動力が高く、刀を持って忍者スタイルのロードアウトを組むことができ、ヘビーであれば壁などを破壊するダッシュやロケットランチャーなどを持つことができる。ミディアムは味方を回復するレーザーなど、汎用性が高い能力が揃っている印象だ。それぞれのタイプで個性があるので、味方のロードアウトを考慮してバランスの良い構成を組むのが望ましいだろう。
筆者は、最近の例でいうと『バトルフィールド2042』のように、「ルールや環境破壊を含め、さまざまなプレイスタイルを許容する」ことが近年のシューターにおけるひとつのトレンドに感じている。その点、ボディタイプによって異なる動きができるロードアウトによるプレイスタイルと、マップを破壊して利用する環境ダイナミズムによって、本作は頭一つ抜けているように感じた。
キャラクターや武器による個性でプレイの幅を広げるだけでなく、プレイヤーがマップを破壊し想像することで新たなプレイを生み出せるようになっている。
なお、本作のキルタイムは長めだ。初期装備のアサルトライフルでも1マガジンで敵を倒すことは難しい印象だった。それゆえに、接敵した際に周囲のオブジェクトをいかに活かして敵を倒すのか、そしてキャッシュを回収するという目標にいかに達するのかを考える猶予が与えられている。敵を視認して照準を合わせるだけでなく、「こうしたらこうなる」と環境を読み取り、想像して実行することが大切だ。
余談だが、今回の試遊会は『レインボーシックス シージ』のゲームプレイを思い起こす体験であったことを記しておきたい。壁を破壊して経路を組み立てたり、遮蔽物を作って攻撃をいなしたりという点において、類似している部分は少なくない。ただ、いわゆる爆弾ルールである『レインボーシックス シージ』とは異なり、本作はアリーナFPSとしてスピード感のあるゲームプレイが味わえる。『レインボーシックス シージ』は静と動のメリハリの効いた体験であるのに対して、『THE FINALS』は、咄嗟の判断が連続するスピーディなタイプの体験だ。
試遊前のプレゼンテーションによると、Embark Studiosは本作によって「(FPS)市場を変えることができる」と自信を覗かせている。破壊によって戦術を生み出すアリーナFPSが、シュータージャンルコミュニティに受け入れられるのかどうか、注目したい。
『THE FINALS』の グローバルベータテストはPC(Steam)向けに3月7日(火)20:00~3月22日(火)2:00まで実施予定だ。
【UPDATE 2023/3/7 9:55】
グローバルベータテストの開始時間に変更が入ったため修正