『Atlas Reactor』プレビュー プロなら行動でしめせ。ニューロンをオーバークロックする4v4ガン&チェス
Trion Worldsが現在開発中のターン制ストラテジー『Atlas Reactor』はカジュアルなプレイとハードコアな体験を両立した、クラス制チームバトルゲームだ。このジャンルはMOBAの独壇場にあり、本作はそれに一石を投じる新機軸のゲームである。2016年2月18日~24日に実施したオープンアルファテストは好評をおさめて終了した。筆者は2016年Q1のベストゲームに推薦する。
https://www.youtube.com/watch?v=lfb1A9XBVJ0
臆面もなく所感を述べると本作は、『Overwatch』+『Dota 2』(または『League of Legends』)+『XCOM』+『Frozen Synapse』である。クールなヴィジュアルとソリッドなルールで第一印象はスマートの一言。コンテンツ強化、バランス調整したベータテストは将来予定とあるので、先にあげたタイトルのファンは注目されたし。
もちろん、そういった訴求対象に媚びた見栄えだけではない。MOBAにない独創的なチームワークがある。敵味方同時に20秒で思考する1ターンの密度。ターン中の行動の同時処理や、カバー・ステルス・視界といった明快なルール。すぐれたユーザインタフェース(以下、UI)。これらの根底に明確な設計理念がある。本稿はその理念に焦点をあてつつ、アルファテストでのゲーム内容を紹介する。
『Atlas Reactor』
開発元: Trion Worlds
発売日: 未定
プラットフォーム: PC(Windows)
価格:基本無料(ゲーム内課金の予定)
Trion Worldsは基本無料モデルMMO『RIFT』を代表作とするオンラインゲーム専門のメーカーだ。本作もメーカー過去作と同様の基本無料モデルを採用する。アルファテストの主体「バーサスモード」はチームバトルだ。プレイヤーは1体のキャラクターを操作し、プレイヤー4人 vs. プレイヤー4人であらそう。先に敵から5回キルをとるか、20ターン経過後キル数のおおいチームが勝利となる(キル数がおなじ場合はサドンデスに突入)。
1ターンにできることは次のとおり。罠設置・攻撃・回復などのスキル使用。カバー・ステルスや、アイテムをとるための移動。マップがスクエアのパネルなのもあいまり、プレイフィールはテーブルゲームに近い。さしずめ、4人分の頭脳で戦うチェスといったところだ。
カジュアルに築けるプロフェッショナルな信頼関係
本作最大の見どころは、敵味方同時に20秒で行動を入力する点と、チーム内の協力をうながすUIだ。これがチームバトルの魅力「味方との一体感」を手にするまでの敷居をさげた。
プレイを通じてターンの流れを紹介する。ターン開始時、敵味方全員に20秒の決断フェーズがある。移動・スキルを入力でき、攻撃範囲や移動経路はUIでチームに共有する。その後、敵味方全員で行動する解決フェーズとなり結果がでる。
この、入力に時間制限を設けたターン同時処理は、ビデオゲームの利点を活かしたマルチプレイだ。相手の手番を待つことがない。敵味方同時に限られた時間で思考するので公平感もある。なにより、チームワークが確実なものとなる点は大きい。マッチ中のチャットより、味方からうけとるUIのほうが雄弁である。チームワークにかかせない「タイミング」・「射程の把握」を、同時処理ターン制・UIといったかたちでゲーム側が用意しているのだ。こうして、言葉を介さず行動でしめした結果、プレイヤー個々の最適行動がチームワークとなり、対等な―― 隷属・強要がない―― カジュアルな協力プレイをもたらしている。
コアなプレイ体験を約束するマインドスポーツ
特記すべきは、前章にあるカジュアルな敷居の低さと、以下に述べるコアなターン制ストラテジーを両立した点にある。スキルの発動速度。カバー・ステルスそして視界。これらの要素で、1チーム4人分の頭脳をもってしても、あまりあるほど奥が深い。
まずスキルの発動速度について。解決フェーズはつぎの順で処理する。準備>回避>攻撃>移動。移動より前の3つはスキルの処理で、移動よりも攻撃が、さらに回避が、準備(罠設置やヘルス回復)がはやい。基本攻撃以外のスキルはクールダウンがあり、消耗品は使い切りのため、敵味方の呼吸を読めば仕留めることができる。
そこにカバーによる撃ち合いの有利、ステルスによる不意打ちがはいり、プレイヤーは高い次元の思考力を問われる。また、キルをとられたチームは視界がせばまり、敵にヘルス回復やスキルのクールダウン、カバー・ステルスといった占位も許すこととなる。これがかくれんぼゲームに陥らぬよう、マップ上にはヘルス回復・攻撃力強化といったアイテムが定期的に出現し、取得にまつわる駆け引きを生む。
以上の要素に確率の関与はなく、チェスをはじめとする狭義のマインドスポーツを想起する。しかし、ターン中で可能な行動のすくなさと20秒という制限、そして4人分の頭脳のおかげで「必要以上に悩む」ことはない。単位時間の思考力を要求し、1マッチ=20分と手早く終わらせることで、コアな頭脳戦とカジュアルなプレイ時間を両立したのだ。
e-Sportsを意識した“Watchability”への配慮
『Atlas Reactor』は手軽なチームワークと奥深いストラテジーをもって、カジュアル層・ハードコア層の両面を融合した。さらに、いまやゲームシーンで無視できない第三の層、「視聴者層」へも配慮した。アルファテストで積極的にプレイ配信をよびかけ、非公式大会をサポートし開発者チームとの対戦に招待したところに、広告宣伝を超えたもくろみがある。
ネオンでかざりたてたカートゥーンタッチのアートワーク。クラス特性をそのままかたちにしたキャラクターデザイン。派手な演出と、かっこいいトーント。これら見栄えのコダワリも、目にはいらなければ意味がない。本作はターン行動を同時処理するが、演出はキャラクターごとにあり、すべてカメラに捉えることで見栄えの問題を解決した。だれがプレイ配信しても「見て楽しいもの」になるしくみで、観戦時の所感はストラテジーよりも格闘ゲームに近い。
プレイ配信視聴の楽しみやすさ、“Watchability”は必要か。本作リードデザイナー、ウィリアム・クックは、Polygon誌のインタビューで「必要」と答えた。ゲームに深みをもたらす競技性。e-Sportsにかかせないコミュニティの確立。ゲームをはじめる前の学習。これらを満たすため、リプレイ・観戦モードよりも簡単に見て楽しめるものとしたのだ。アルファテストは配信の楽しみやすさ、つまり、配信したプレイヤーの数をはかるテストでもあった。競技用ストラテジーを名乗るゲームは数多くあれど、視聴者への見栄えにも配慮したものは本当にすくない。本作はこの隠れた需要を掘り当てた。
こういうチームバトルがほしかった
『Atlas Reactor』はMOBAに対抗しうる魅力をもつチームバトルゲームだ。チームワークを容易に堪能できる点。同時処理ターン制というコアなゲーム設計と、カジュアルなプレイ時間を両立した点。そして配信映え、“Watchability”を重視した点。これらをもって、アルファテストの時点で、冒頭にあげた人気作のニッチにとどまらない「新機軸」に到達している。
気になる価格について。ゲーム内通貨を購入する基本無料モデルだ。リアルマネーとの変換レートは未発表。ゲーム内通貨はキャラクターのアンロックと、スキン・カラー・トーントといったファッションにもちいる。キャラクターはゲームプレイポイントでもアンロックできるため、非課金プレイも可能だ。また、日替わりで無料プレイのキャラクターがいるため「おためし」できる。スタミナ制といったプレイ回数の制限はない。
最後に。本作をアルファテスト中に紹介できなかったことをおわびする。本稿にて興味をもたれたゲーマーは、公式サイト・アカウント(Twitter/Facebook)をチェックされたし。弊誌読者とベータテストで会えることを楽しみにしている。