Steam『IXION』は重厚SFの風格漂うコロニーシムだった。といいつつ資源管理そっちのけで見入ってしまった美麗な宇宙空間
昨月9月15日~18日に開催された東京ゲームショウ。ドイツのゲームが集まるブースGerman PavilionではKalypso Mediaが『IXION』の試遊を出展していた。本編冒頭をプレイした模様をレポートする。
本作は宇宙ステーション内のコロニーを運営するシミュレーションゲーム。ゲーム内は日本語に対応する。8月27日に開催されたgamescom award 2022において、Best Strategy/Simulation Gamesを受賞した。デモ版では、ゲームの冒頭である、宇宙の到達範囲を広げるためのエンジン「VOHLEエンジン」のテスト打ち上げまでを体験できる。
魅せられるチュートリアル
ゲームを開始するとオープニング映像が流れる。時は2049年。地上のシャトルが発射され、本作の舞台となる宇宙ステーション「タイクーン」にドッキングする場面だ。映像の美しさはもちろんのこと、カメラワークも含めて映画のよう。視覚的なスケールが非常に大きいため、プレイヤーを引き込む力が強い。なおゲーム内の音声は製品版でも英語のみとのことだが、それはそれで洋画を字幕付きで見ているようであった。ゲーム内容を理解する上で邪魔になることもないだろう。
続いてステーション内画面へ。宇宙ステーションと言っても、2022年現在のそれとは比較にならないほど巨大である。複数のセクターに分かれているが、それぞれのセクターだけでもちょっとした都市に近い。最初はチュートリアルで操作を学べる。360度視点を回転させたり、ホイールを使って宇宙ステーションの内部ビューと外部ビューを切り替えたりすることができる。この切り替えのズームがシームレスで気持ちいい。クルーやら資源の残骸やらが密集している屋内の様子が徐々に小さくなっていき、視点が天井を通り抜けると、背景には美しい地球が映し出される。宇宙空間から眺める地球はまさに絶景だった。意味もなく視点を移動したくなる。
操作チュートリアルが終わるとミッションが始まる。最初のミッションは貯蔵庫を建て、散らばった資源を集めることだ。内部ビューでは、さまざまな設備を建てることになる。施設や道は自由に配置していい。作った道に沿ってクルーやロボットがせかせかと動く。自分だけのレイアウトを眺めているだけで楽しい。しかしデモ版も進むにつれ、配置に頭を悩ませる場面もあった。限られたスペースの中でなるべく効率よく輸送できるようにしたいし、設備によっては外壁と接さなければいけないなどの制約もある。ちなみに外部ビューでは、ソーラーパネルやエンジンの改善が外装に反映される。惑星系マップでは探査することで資源を獲得できる可能性のある惑星を確認できる。もともと散らばっている資源だけだと不足気味なので、どこかの惑星の資源を取りに行くこともあるだろう。
宇宙ステーション管理者の苦楽
このゲームでは資源管理が重要だが、最終的にマネジメントすべき要素は大きく分けて3つ。画面の上部に赤・黄・青で表示されているのがそれだ。一つは船体の整合性。整合性と訳されているが、要するにステーションの状態だ。徐々に劣化する船体を適宜修理しなければいけない。修理には合金が必要であり、そのもととなる原料は外部から調達する必要がある。二つ目のマネジメント要素はクルーからの信頼。食料や寝床が足りないと、住環境を整えるようプレッシャーをかけられるイベントが発生。時間内に約束を果たさなければ彼らからの信頼はガタ落ちに。そうなると船は立ち行かない。三つ目は電力。各設備に必要な動力源を確保することが大切だ。需要が供給を上回ると停電を起こす。ソーラーパネルを作れば供給量を増やせるが、それにも限界がある。こまめな節電を求められる場面も出てこよう。このように資源を管理し、ステーション内をメンテナンスしつつ、外の世界に進出してさらなる資源を取ってくるというのが本作の基本的な流れになる。
先ほど内部ビューと外部ビューの切り替えがシームレスだと述べたが、シームレスというワードはゲーム全体の構造についても言える。たとえばクルーからの要求にこたえるためには食料が必要である。これは内部ビューで起きる問題である。しかしステーション内に残された分では足りず、ほかの惑星を探査する必要がある。これには惑星間マップを参照する必要がある。しかし探査のための科学船を作るためには、作業するクルーたちの食い扶持を案じてやる必要があるのだ。こうして話は内部ビューに戻ってくる。宇宙ステーション内外の生産ラインをひとつの系として見たとき、クルーたちの人間臭い要求と壮大な惑星探査事業もまた「シームレス」につながっているのだ。シミュレーションゲームとしては当たり前の設計なのだが、最高水準の科学技術と生身の人間が持つのっぴきならない欲求とが有機的につながっている様を興味深く感じた。そして、その体系のどこに、どのタイミングで介入するか決めることは、シミュレーションゲームとしての醍醐味だろう。
これまで「資源」とひとくくりに述べたが、本作には10以上の資源の種類が登場する。それら一つ一つに直感的なアイコンが用意されている。個人的にはアイコンの色分けも目に優しくて良かった。ほかにも、用語に下線が引かれており、マウスオーバーすればそれぞれの説明を確認できるなど、要素の多さに気圧れないための配慮がされていると感じた。
惑星を探査していると、イベントが発生する。選択肢を選ぶことで、資源の要求と引き換えに、ほかの資源や智識(スキルの解放に必要)を獲得できる。こういうイベントは、数回遭遇するうちに、どの選択肢を選ぶのがベストか自分の中で固まってしまいがちだが、本作ではスキルツリーの取得状況に応じて選択肢が増え、同じイベントでも新しい結果が得られる可能性があるらしい。デモ版の範囲内では確認できなかったが、ゲーム終盤になっても飽きない作りになっているようだ。
ちなみに筆者は意味もなくズームインしてクルーの日常を眺めたり、意味もなくズームアウトして青く美しき地球を眺めたりしているうちに、食料が底を尽き始めた。デモ版では食料を確保する機会が限られているようで、そのまま食料の蓄えは無くなり、クルーはみんな餓死してしまった。管理者に、悠長にしている暇はなかったのだ。でも360度ビューで見る宇宙空間は本当に美しかった。悔いはない。
SFとしてのモチーフ
本作は宇宙を舞台にしたシミュレーションゲームだが、ただフレーバーが作り込まれているというだけではなく、物語も重厚そうだ。開発担当者によれば、本作はゲームシステムとストーリー、どちらにも同じくらいの力を入れて制作したとのこと。デモ版を遊んだ範囲でも、細かい設定まで工夫されていることを感じた。本作には医者や技術者、CEO、哲学者などさまざまな専門家が登場するが、登場人物の発言の節々からは、それぞれに専門家としての信条を感じる。コロニーシミュレーションゲームにしては珍しくマルチエンディングが採用されているらしいのも楽しみだ。ちなみにストーリーは、まったくのフィクションではなく、近い未来を予見させるものとなるよう意識したそうだ。登場人物のセリフからは、未来技術を実用化することへのワクワク感だけでなく、地球の生態破壊に対する反省の弁のようなものも聞かれた。
余談ながら本作のタイトル「イクシオン」について気になったことがある。作中にはさまざまな特殊用語や固有名詞が登場するが、少なくとも「イクシオン」という言葉はデモ版の中では登場しなかった。この言葉はギリシャ神話に登場する人間の王の名前と同じだ。義理の父を殺したり、人間の分際で女神を凌辱したりと外道な振る舞いばかりしてきたが、その最後は、罰として「永遠に回り続ける輪」に縛り付けられるという末路だった。そんな男の名前がタイトルに使われているというのは、示唆に富んでいる。
開発担当のクリスチャン・ウールフォード氏は、本作制作の背景について「スタンフォード大学が40年以上前に制作したアートピースに刺激され、それらと「インターステラー」をはじめとするSFとを組み合わせた」と述べている。筆者の調べたところによるとこのアートピースは、スタンフォード・トーラスと呼ばれるスペースコロニーを描いたものかもしれない。1975年、スタンフォード大学でおこなわれたNASAの夏季セミナーで提唱された、最初期のスペースコロニー設計案である。まじめな研究の一環であったが、そのカラフルな色彩と斬新なアイデアがあまりにも衝撃的だったため、SF作品に大きな影響を与えたそうだ。このアートピースを描いたDonald Davis氏が自らのサイトでそれらのイラストの一部を公開している。アートピースは、車輪上の宇宙ステーションを描いており、円形をなしているチューブの中に建物があるなど、本作の宇宙ステーション内外のグラフィックに通じるものがある。
※ DOLOS社のTwitterアカウントによる投稿。1枚目の画像に映っている姿勢の悪い男は筆者である。
試遊してみた感想としては、ステーション内を拡張したり宇宙を探索したりするほどにできることが増えていくことが喜ばしい一方で、「あちらを立てればこちらが立たず」というべきやりくりのもどかしさもあり、それらのバランスが絶妙に保たれていると感じた。SF作品としてもコロニーシミュレーションゲームとして見ても大作の風格が漂う『IXION』。12月7日にPC(Steam)で配信開始だ。