ドライブシム『Euro Truck Simulator 2』ロシアDLCが発売キャンセルへ。ロシアに寛容であると見られたくない
デベロッパーのSCS Softwareは5月30日、『Euro Truck Simulator 2』におけるDLC「Heart of Russia」のリリースを中止すると発表した。昨今のロシアによるウクライナ侵攻の情勢を鑑みての判断だという。
『Euro Truck Simulator 2』はヨーロッパを舞台としたトラックシミュレーターゲームだ。プレイヤーは運送用トラックに積荷を乗せて、欧州を横断する。単に荷物を運べばいいだけでなく、スピード制限といった法的規制や寝不足などのコンディションも導入。万が一事故を起こせば補償金を支払わねばならないなど、生々しさもありつつ没入感を誘う作りが特徴だ。これまでマップを拡張する多数のDLCがリリースされており、イタリアやフランス、イベリア半島などをテーマとするコンテンツが配信されてきた。
こうしたなか、2021年3月より開発が告知されていたのが最新DLC、Heart of Russiaだ。同DLCはロシアの中心地モスクワをはじめ、同国内の広大な国土を再現。ヴォルガ川やオカ川など、ロシアの豊かな自然のなかをドライブできるとともに、さまざまな歴史的建造物も観光できるコンテンツとして、今年にかけて開発が続けられてきた。
SCS Softwareによれば、今年の2月24日時点で、Heart of Russiaは完成まで残り6~8週間というところまで迫っていたという。スタジオとしては自信をもって送り出そうとしていたコンテンツだったが、突如ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが入る。SCS Softwareは、これを受けて2月28日に声明を公開。ウクライナを支持することを発表し、2万ユーロ(約275万円)を複数のチャリティー団体に送金したことを明かした。
さらに3月には、新DLCとして「Ukrainian Paint Jobs Pack」をリリース。ウクライナの国旗をモチーフとしたトラックのペイントを4種類収録したDLCで、その売上は100%チェコの人道団体People in Needに寄付されると伝えられた(SCS Softwareはチェコに拠点をおく)。5月30日の発表によれば、同DLCは約8万5000本を売り上げたそうだ。
ロシアによるウクライナ侵攻が開始された当初から、一貫してウクライナ支持の立場を保持してきたSCS Software。こうしたなか、リリース間際に迫っていたHeart of Russiaの扱いをどうするかについては長い間苦慮していたようだ。同DLCは、3月にはすでに発売延期が発表されていた。そして5月30日の発表でスタジオは、自身らの情熱が、ユーザーを分断するのではなく、人々をつなげ、隣り合った国をバーチャルで平和に訪問し、そして共有する趣味を楽しむことができるという考えを非常に気に入っていると言及している。
しかし、Heart of Russiaは直接的にロシアを扱っており、苦しんでいる人が数多く存在することから、スタジオはHeart of Russiaのリリースを見送ることとしたという。これは、DLCをリリースすることで、ロシアに対する支持や寛容と見られることを避けるためとのこと。SCS Softwareは、ウクライナの誇り高い人々が勝利し、苦しみが終わる希望があることを強く信じていると表明。不正が勝利することはあってはならないとした。そして、ウクライナが再建し復興するときがきたときに、Heart of Russiaが復興の過程で役に立てる方法を探していくとしている。
SCS Softwareが声明のなかでも述べているとおり、同スタジオが政治的なスタンスを明らかにすることは珍しい。たとえば同スタジオは2021年1月、『Euro Truck Simulator 2』および『American Truck Simulator』にて新型コロナウイルスの終息を祈願したイベントを実施。「COVID-19ワクチン」を貨物として運ぶイベントが実施された。
ところが一部のユーザーから、「ワクチン賛成/反対という政治的議論をゲーム内に持ち込むべきではない」との指摘があり、スタジオが声明を発表するはこびとなった(関連記事)。SCS Softwareはワクチンを支持するか反対するかにかかわらず、昨今の世界情勢にあってたゆまぬ努力を続けている運送業従事者に敬意を表すためのイベントだったと説明。ワクチンの賛否を論ずる立場から距離をおく姿勢を見せた。
これまでのSCS Softwareの立場を振り返ってみると、ロシアのウクライナ侵攻に際して政治的な立場を表明したことは珍しいケースだといえるだろう。リリースを間近に控え、発売がキャンセルされたHeart of Russia。同コンテンツがいずれ日の目を見るときはやってくるのだろうか。