『ゼルダの伝説』チンクルの生みの親、チンクルを「今見るとキモい」とつぶやく。複雑な立場のチンクル

 

元任天堂の今村孝矢氏は3月11日、自らがデザインしたキャラであるチンクルについて、「今見るとキモい」とコメントした。『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』に思いを馳せながら、改めてチンクルのデザインと向き合っているようだ。


今村孝矢氏は、かつて任天堂に在籍していたクリエイターだ。アートディレクターやプロデューサーとしてさまざまなタイトルに携わってきた。主に『F-ZERO』シリーズや『スターフォックス』シリーズを監修。また『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』にはアートディレクターとして関わっており、チンクルの生みの親としても有名である。2021年に任天堂を退社し、現在大阪国際工科専門職大学で教員をしながら、フリーランスとして活動中だ。

チンクルは、全身タイツの中年キャラクター。妖精になることに憧れており、しばしば理解に及ばない行動を起こすことも。やや稚拙でメルヘンな言動が特徴だ。「クルリンパ」など、怪しげなセリフを繰り出すことも。『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』で登場し、異様さと可愛らしさの両方を有するキャラとして人気を集めることとなった。

そのほかの作品にも多数登場しており、チンクルが主人公のゲーム『もぎたてチンクルのばら色ルッピーランド』『いろづきチンクルの恋のバルーントリップ』が発売されるまでに至っている。『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』のディレクターで現在は『ゼルダの伝説』シリーズを統括する青沼英二氏は、チンクル誕生について「“風船を背中につけたヘンなキャラクターを作ってほしい”と言ったら、アートディレクター(今村氏)が描いてきたのがチンクルだったんです」と語っている (任天堂公式)。


そんなチンクルについて、生みの親である今村孝矢氏が、『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』の映像と共にチンクルを褒めるユーザー投稿を引用RT。「当時はキモカワを狙ったつもりだったけど今見るとキモいなこれ😅」とコメントしたことが注目を集めている。『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』は、最近になり有料月額サービスNintendo Switch Online + 追加パックに加入することで遊べるようになった。あらためてチンクルと出会うユーザーが増えているわけだ。そんなユーザーの投稿に今村氏が反応したと見られる。


一方で、同氏の「キモい」との反応は示唆に富む部分がある。というのも、チンクルはそもそも、一部地域では嫌われているとの言説があるのだ。具体的には、アメリカではチンクルが嫌われているとの風潮が根強い。たとえばGoogleで「Hate Tingle」と検索すると、「Americans hate Tingle」といった比喩的用法があると伝えるページや、「なぜアメリカ人はチングルが嫌いなの?」といったフォーラム投稿がヒットする。「チンクル 嫌い」と検索しても、海外で嫌われているというサイトばかりが並ぶ。一方、国内でチンクルが嫌いとの意見はあまり見かけない。対照的である。

「Americans hate Tingle」と検索して引っかかるサイトが提唱する、チンクルがアメリカ人から嫌われる理由は、かなり多岐にわたる。一番多い指摘は、30代半ばながら子供のように振る舞う「子供おじさん」キャラへの不快感だ。YouTuberのMaverick Taylaa氏はチンクルと同様に『ファイナルファンタジーX』のティーダも、言動や内面が子供っぽいという理由で、欧米では日本ほど受け入れられていないと指摘している。また『ゼルダの伝説 風のタクト』の悪名高きトライフォースの欠片収集イベントで、チンクルに多額のルピーを支払う必要があり、そのことが嫌われる理由につながっていると指摘するユーザーもいる(Reddit)。


いずれにせよ、アメリカでは日本ほどチンクルが受け入れられていないという考えが根強い。『もぎたてチンクルのばら色ルッピーランド』は日本と欧州でのみ発売され、『いろづきチンクルの恋のバルーントリップ』は日本でのみの発売。ともにアメリカが販売国に入っていないのは、そうした不人気説をある種裏付けるものだろう。実際のところ、チンクルは『ゼルダの伝説』シリーズとしての本人の出番は『ゼルダの伝説 風のタクト』から大きく減っているのが現状だ。

当時は人気があったが、最近では出番そのものがめっきり減っている。そう考えると、今村氏の「当時はキモカワを狙ったつもりだったけど今見るとキモいなこれ😅」という感想は、今のチンクルの微妙なポジションを絶妙に示唆するコメントであると、いえなくもない。一方で今村氏は「こんな特異なキャラを王道シリーズに躊躇なく採用する任天堂開発部の懐の深さは継承して行って欲しいな」とコメントしている。チンクルがいなくとも、任天堂作品や『ゼルダの伝説』タイトルでは奇妙なキャラは生み出され続けている。今村氏やチンクルの思いは引き継がれているだろう。いずれにせよ、チンクルは、開発者とユーザーの両方にとって強烈な印象を与えたキャラクターであったのは間違いない。


ちなみに今村氏はTwitter上での活動も活発。任天堂時代の思い出話をこぼしたり、『エルデンリング』の感想をつぶやいたり、Nintendo Switch Onlineで実装された『F-ZERO X』をファンと楽しんだり、かなり可愛らしい。任天堂ファンは同氏のアカウントをフォローしてみるのもよさそうだ。







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