映画版と違い過ぎる内容が新鮮。ドリームキャストの迷作「リング(the Ring)」とは?
シネマゲームと言えば洋ゲーのイメージが強いと思うが、日本映画を原作としたシネマゲームも、決して数は多くないが存在している。ファミコンの「スウィートホーム」や「マルサの女」などは、コアなファンを中心に人気も高いため、プレイしたことはなくとも存在は知っているという人は多いだろう。個人的に、セガサターンの傑作タイトルの一つだと思っている「RAMPO」も、日本映画のゲーム化作品だ。
「Underground Gamer」も今回で第7回を数えるわりには、ジャンルのバリエーションが格闘ゲームに偏っていたため、ここらで新たなジャンルを開拓してみようと、タイトルの選別を行っていたのが12月初旬。そこで筆者は見つけてしまった。超有名映画のゲーム化作品でありながら、その存在がほとんど知られていないタイトルを。それが、今回取り上げる「リング(the Ring)」(ドリームキャスト・2000年発売)だ。
「リング」といえば、その名を知らぬ者はいないほど有名な、ジャパニーズ・ホラーを代表する人気映画。その勢いは海外にまで飛び、2002年には「ザ・リング」の名でリメイクもされている。今年2016年6月には、誰が望んだのか分からないが、いつかは来ると思っていた待望の新作(?)「貞子 vs 伽椰子」も上映予定。
そんなリングだが、意外なことにゲーム化作品は少ない。筆者の知る限り、ドリームキャスト版「リング」のみだったような気がする(他にあったっけ?)。実は筆者、本作をリアルタイムではプレイしておらず、発売から数年経ったのちひっそりと購入。そのとき一応プレイはしたのだが、あまり印象に残っていなかったため、今回、連載で取り上げるため改めてプレイした次第だ。
気になる内容だが、舞台はなんとアメリカ。「ザ・リング」に先立ち、アメリカを舞台にした「リング」がゲームで登場していたのである。ストーリーは、主人公メグ・レインマンが、謎の死を遂げた恋人のため、事件の真相を探っていくというもの。
映画では「呪いのビデオ」が物語のキーワードだったが、本作は、謎のゲーム「Ring」なるものが登場。ゲームを起動させると仮想世界へと転送され、正体不明の怪物と戦いながら世界の謎を解いていくという、映画版「リング」とはかなりかけ離れた内容になっており、当時のファンは戸惑いを隠せなかった。
ゲーム性は、初期の「バイオハザード」を踏襲した3Dアクション・アドベンチャー。ただ、操作はすこぶる悪く、なかなかにストレスがたまる。加えてロード時間もそれなりに長いため、決して快適とは言えない。基本的にシネマゲームは、ゲーム性よりも映画の世界を追体験させることが大事だと思っているので、個人的に操作性の悪さやロード時間はあまり気にしないのだが……。
とはいうものの、「リング」といえばほとんどの人が連想するであろう、映画版「リング」特有のジメッとした気持ち悪さはほぼ皆無。主人公の前に立ちふさがる敵もクリーチャーやモンスターといった出で立ちだし、仮想世界とはいえ、ハンドガンやショットガンで倒せるので、「リング」の要ともいえる「ビデオ」に殺される?」という正体不明の恐怖はあまり感じない。一応、山村貞子の名も出てくるし、劇中の1シーンも使われてはいるので、映画の要素をまったく無視した内容ではない。ただ、これだったら「リング」の名を付けなくてもよかったのでは、と思ってしまったのが正直な感想である。だって全然「リング」っぽくないんだもん……。
ファンが「リング」に期待しているのは、Jホラー特有の不気味さや気持ち悪さであり、決して銃を使ったアクション・アドベンチャーではないはずだ。ドリームキャストは3Dの処理能力に優れているため、この手のジャンルに向いているといえば向いているのだが、せっかく「リング」という最高の素材を使っているのだから、もう少し作りこんでほしかったというのが、筆者の素直な感想だ。名作になる可能性はあったし、数少ない「リング」のゲーム化作品だけに惜しい。
ただ、ハリウッド版「リング」に先んじてアメリカを舞台にしたのは斬新だったし、別解釈の「リング」として受け止めることができれば……、それができなくても、独立したホラーゲームとして見れば、また違った評価をすることは可能なはずだ。確かに秀逸とはいえない出来だが、物語自体は先の展開が気になるものだし、現実世界と仮想世界を行き来するという設定も個人的には好きだ。ゲームデザインがゲームデザインだけに「バイオハザード」のフォロワーという印象は避けられないと思うが、他とは趣の違うサバイバルホラーとして、人々の記憶に残ったかもしれない。……先ほども書いたが、操作性の悪さやロード時間の長さはもう少しなんとかしてほしかったけど。
とにもかくにも「リング」という作品の強すぎるイメージと、本作の内容があまりにかけ離れてしまっているがゆえの賛否両論であることは間違いないと思う。「リング」というフィルターがかかっているからこそ、さまざまな部分が悪目立ちすることも、また事実だろう。ハリウッド版「the Ring」でさえ賛否両論があったのだから、ゲームとはいえ、「リング」の名を冠する作品をこういったテイストで送り出してしまったら、そりゃ反対意見もあるよなと。
ただ冒頭でも述べたように、邦画はゲーム化すること自体が少ないため、数少ない国産のシネマゲームとして見れば、その価値は変わってくるのではないだろうか。加えて、本作は紛れも無いオフィシャルな「リング」のアイテムなので、コレクションの末席に加えてみるのも一興だと思う。今なら中古ショップなどで安価で買えるので、興味を持った方はぜひ購入を検討してみてほしい。