Steam人気ゲーム『Tabletop Simulator』、チャット機能を閉じ開発者謝罪。ボドゲシムが陥った“発言規制”の落とし穴
デベロッパーのBerserk Gamesはボードゲームシミュレーションゲーム『Tabletop Simulator』にて、グローバルチャットを停止すると発表した。その背景には、開発者の一人と見られるモデレーターによる、性的マイノリティをめぐる規制の問題があったようだ。本作のSteamストアレビューは現在、レビュー爆撃を受けている状態である。
『Tabletop Simulator』は、Berserk Gamesが開発したボードゲームシミュレーションゲームだ。チェスやドミノ、トランプなど主要なボードゲームがアセットとして取り揃えられており、プレイヤーは物理演算を用いた手動操作でゲームをプレイする。すべて手動でおこなうため、たとえば大富豪でニッチなローカルルールを勝手に持ち込んだり、あるいは負けたときに盤面をひっくり返したりといったハチャメチャな動作まで可能。外部からアセットを導入すれば、さらに遊べるボードゲームの幅が広がる。アナログゲーム全般を再現できる、オンラインボードゲーム支援ツールなのだ。
もちろんフレンドがいる場合は、友人を誘ってリモートプレイに興じるのがいいだろう。一方で、フレンドがいなくてもゲームを遊びたいユーザーも存在する。そうしたなか、公式が用意したのがグローバルテキストチャットである。ユーザーはチャットにて一緒に遊ぶ仲間を募り、ボードゲームをプレイすることができるわけだ。
ところが、このグローバルテキストチャットにて問題に直面したユーザーがいた。プレイヤーのXoe氏はトランス女性である。Xoe氏はグローバルテキストチャットにて、何度か同性愛についての議論に参加し、自身も同性愛者であると表明したという(正確には、Xoe氏のプロフィール欄に同氏が全性愛者であると記載)。しかし、そうした場面のたび、Xoe氏は繰り返しグローバルテキストチャットからキックされてしまったそうだ。
疑問を抱いたXoe氏は、チャット上でモデレーターに問い合わせをした。同性愛について語ることはグローバルテキストチャットのルールに抵触していないはずだとXoe氏が主張すると、モデレーターは、「(ルールが)トップに大きく、太字で書いてあるだろう」と返答した。トップに書いてあるルールとは、「議論がファミリー向け(Family Friendly)であり、Tabletop Simulatorや卓上ゲームに関するものであること」との決まりである。そこでXoe氏が「同性愛者であることはファミリー向けではないということですか?」と尋ねると、その時点でチャットからキックされてしまった。
その後Xoe氏は、『Tabletop Simulator』公式Discordにおいても開発者に問い合わせを敢行した。同性愛関連の話題がなぜキックの対象になるかをモデレーターに尋ねたところ、先方からは「グローバルテキストチャットは性的指向について議論する場所ではありません」との返答。くわえてXoe氏は自身のジェンダーについて語ること、自身がトランスジェンダーであると表明することも不適切な内容にあたるか尋ねた。するとモデレーターからは、「『Tabletop Simulator』は卓上ゲームを遊ぶ場所であり、性的指向・フェティシズム・政治について議論するところではありません」との返答が返ってきた。
まずXoe氏は、本当に「性的指向」全般がNGトピックに該当するのかについて疑問を抱いたようだ。そこで彼女はグローバルテキストチャット上で実験をおこなう。チャット上で、「自分は異性愛者である」「自分はシスジェンダーである(身体的な性別と性自認が一致している)」といった発言をしたという。しかし結果として、この場合Xoe氏がキックされることはなかった。つまり性的指向の話題全般が規制されているのではなく、同性愛・トランスジェンダーといった単語のみが取り締まりを受けていると感じたそうだ。のちのモデレーターの説明によれば、「同性愛」「トランスジェンダー」のみがNGワードに設定されているのは、蔑称として使われることを避けるためだと釈明されている。
くわえてXoe氏は、同性愛者/トランスジェンダーであると表明することが、「フェティシズム・政治」的な話題であるとみなされることにも疑問を抱いている。彼女が問題を提起するツイートを発信すると、ツイートは1000件以上のリツイートを集め、拡散されることとなった。
こうした一連の騒動を受けて、『Tabletop Simulator』公式Twitterアカウントは声明を投稿している。ユーザーに対するBANやその説明が不適切だったことを謝罪。また『Tabletop Simulator』は、性的指向やジェンダーをフェティシズム・政治・反ファミリー的な対象として扱わないと伝えた。あわせて、『Tabletop Simulator』では、モデレーションの手続きを見直すため、一時的にグローバルテキストチャットを閉鎖すると発表している。
『Tabletop Simulator』の直近30日間におけるレビューは1500件を集め、そのステータスは「賛否両論」となっている。レビューの内訳を見てみると、ゲームの内容とは関係なく、性的指向・ジェンダー差別を批判する内容や、反対にそうした差別的な思想に賛同するレビューなどが殺到。賛同・反対ともに大量にレビューを投じる爆撃状態が続いているようだ。
グローバルテキストチャットでのワード規制に端を発し、レビュー爆撃にまで至った今回の騒動。開発元Berserk Gamesは謝罪声明を出し、チャットを一時閉鎖するなどの対応をとったものの、事態の収束はいまだ見えない状況だ。自由なコミュニケーションが可能なゲームを管理することの難しさも垣間見える。『Tabletop Simulator』は現在、Steamにて配信中である。