『Grim Dawn』を死の間際まで遊び続けた父親、「不死の近衛兵」としてゲーム内で生きる
ゲームは時に人々に喜びを与え、時に怒りや悲しみ、痛みさえも忘れさせる。肺がんを患い闘病生活を続けていたLee Hathway氏にとってもゲームは特別なものだったようだ。Lee氏は入院と退院を繰り返していたが、家へ帰るとすぐさま『Grim Dawn』を起動していたという。死の間際にあった氏と『Grim Dawn』の間には単なる人間とゲーム以上の何かがあったのかもしれない。息子のJohn氏によって伝えられた物語がKotakuで明かされている。
『Diablo』シリーズはHathway親子が一緒にプレイできる数少ないゲームだった。それゆえに息子のJohn氏は“Diabloライク”である『Grim Dawn』の存在を知るとすぐにKickstarterに自分とLee氏ふたり分募金を支払った。John氏は「親父がはじめて『Grim Dawn』をさわった時、なかなかやめようとしなかったんだ」と話す。『Grim Dawn』のKickstarterは2012年に、アーリーアクセスは2013年5月に開始されている。Hathway親子と『Grim Dawn』の付き合いは2年間以上にわたるものとみられる。Lee氏は、新しく更新があると追加されたコンテンツを含めたゲームを体験するため、そのたびに新たなキャラクターを作りプレイを始めるほどの入れ込みようだったようだ。
肺がんは咳や吐血を伴い、体力低下も著しい重い病だ。おそらくLee氏は家にいることを強いられたのだろう。しかし、家にいる生活が苦ではなかったのは『Grim Dawn』があったからかもしれない。息子のJohn氏は、毎朝仕事をするためにパソコンをつけるといつもLee氏がSteamにログインしていたと語っている。病になってからも『Grim Dawn』のなかで成し遂げる任務に没頭していたようだ。Lee氏はZedleeという名で、剣を扱うソルジャーとしてプレイしており、ソルジャーを選んだのは“戦いと破壊が好きだったから”だと息子は語る。John氏とその子どもが祖父であるLee氏をたずねた際には、祖父がゲームをプレイするのをふたりで隣に座って見ていたようだ。
病は日に日に重くなり、Lee氏が病院にいる期間も長くなっていった。最初は短期間の入院が多かったが、病状の変化に伴い1週間家に帰れない日もあったようだ。それでも、家に帰るとまずゲームを起動しクエストをこなす。それほどLee氏にとって『Grim Dawn』はかけがえのない楽しみだったようだ。しかしこの日からLee氏の病状はさら悪化し始める。この夜がLee氏にとっての最後の『Grim Dawn』をプレイできる機会だった。
息子は入院生活を送るLee氏の気晴らしになるようにiPadをプレゼントする。しかしLee氏はiPadをもらっても天気やメールをチェックしようとも、Facebookを見ようともしなかった。彼はただいつも『Grim Dawn』の公式フォーラムへアクセスし、次のアップデートの情報を今か今かと待っていたようだ。苦しみと痛みに包まれる闘病生活のなかで、『Grim Dawn』によってLee氏は安らぎを得ていたのかもしれない。
しかし闘病もむなしく、2015年11月2日、Lee氏は64歳という年齢でこの世を去る結果となった。翌日にJohn氏は悲しみながらも「Zedleeの息子」というハンドルネームで『Grim Dawn』のフォーラムにて感謝の気持ちを述べている。
“父は昨日この世を去りました。彼に幸せを与えてくれたこのゲームに感謝いたします。父はこのゲームが本当に好きで、遊び足りないぐらいの気持ちだったのが少し残念なくらいですが、父にとって完璧なゲームを用意してくださった開発者たちにも感謝したいです。これからは父の名誉を抱いて私もまたソルジャーとして息子と父が楽しんだこのゲームをプレイしていきたいと思っています。コミュニティのみなさんと開発者の方々にはいくら感謝してもしたりません。”
この投稿に反応したのが開発元Crate EntertainmentのデザイナーKamil Marczewski氏だ。Marczewski氏はJohn氏の投稿に非常に感銘を受けたと述べ、小さなプレゼントを送るつもりであると返信する。このプレゼントとは、ゲーム内に「Zedlee」が近衛兵として現れることだったようだ。
“近衛兵Zedleeはブラックレギオンの誇りある者として『Grim Dawn』の舞台Homesteadで永遠に生き続けるよ。”
マネージャーのArthur Bruno氏もまた息子の投稿に心動かされたようだ。Bruno氏はLee氏が肺がんと闘いながらゲームをプレイしていたことに敬意を表しながらも、Lee氏が楽しみにしていた新たなコンテンツを体験させてあげられなかったことを悔やんでいると述べた。そして、「時間の浪費と見られがちなゲームコンテンツで、誰かに生きる意味を与えられているとしたら、ゲーム開発はとても意味深いものだと感じる」とBruno氏は語る。また、Bruno氏も近年に親を亡くした境遇のひとりだと漏らし、大人になっても人を失うものはつらいと吐露している。
この話はCrate Entertainment中に行き渡り、誰もがLee氏に対し敬意を払ったようだ。Crate Entertainmenは最終的にスタジオ一丸となってLee氏に対する哀悼を示すと同時に、息子の気持ちを和らげるために何かをしようという計画を立てた。それが今回の「近衛兵Zedlee」というわけだ。
それから数週間後、Zedleeは実装される。John氏は子どもふたりと共に『Grim Dawn』をプレイしZedleeに会いに行っていた。「とてもすばらしいが、とても悲しくもあるよ」とJohn氏は話す。奇妙なキャラクターだが、とてもLee氏らしいキャラとしてできあがっている。その身体はもはや存在しなくとも、Lee氏は『Grim Dawn』のなかで生き続けているようだ。
以前にも17歳のがんの少年の闘病生活を『Dying Light』が支えたことが話題となった。
ゲームといえば、楽しさや感動、高揚といった刺激を提供してくれるエンターテインメントとして人々の生活を豊かにしてくれる。しかし、時には“安らぎ”として人の痛みを和らげてくれるようなこともあるのだろう。