『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』で、「アメリカ連合国国旗」Tシャツが修正へ。奴隷制めぐる歴史懸念か
『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』におけるマイナーチェンジが注目を集めている。Rockstar Gamesは10月22日、同作のトレイラーを公開した。このなかで、ある人物の装いが注目を集めた。そのキャラクターとは、フィル・キャシディ。武器商人である彼の衣装から、「南部アメリカ」の国旗デザインが削除されているようだ。
『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』 は、オープンワールド・アクションゲーム『Grand Theft Auto』シリーズの人気作3本をリマスターしセットにした作品だ。『Grand Theft Auto III』『Grand Theft Auto: Vice City』『Grand Theft Auto: San Andreas』の3タイトルが収録される。オリジナル版でのゲーム体験はそのままに、グラフィックやゲームプレイ面をアップグレード。22日に公開されたトレイラーでは、オリジナル版との比較映像を確認でき、テクスチャやライティングなどがより精細に表現されていることがうかがえる。
このたび注目を集めたフィル・キャシディは、『Grand Theft Auto III』で初登場した武器商人だ。元軍人であり、武器に精通した専門家であるものの、重度の酒乱であるという悪癖をもつ。とくに『Grand Theft Auto: Vice City』ではプレイヤーにミッションを依頼するキャラクターとして昇格。密造酒「ブームシャイン」を作っていたところ、泥酔状態で扱ったためうっかり爆発させてしまい、片腕を失うという強烈な展開でプレイヤーの記憶に残った。
そんなフィル・キャシディは、『Grand Theft Auto: Vice City』にて特徴的な姿で登場していた。それは、赤地に青いクロスが入ったシンボルつきのTシャツだ。このマークは南部アメリカ、いわゆる「アメリカ連合国」の旗を示すもの。南北戦争にて北部アメリカ(アメリカ合衆国)と争った際の旗が、Tシャツの意匠としてあしらわれているのである。
ところが『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』のトレイラーでは、フィルの特徴的なTシャツが変更されているというのだ。上記トレイラーの34秒ごろを見ると、爆発シーンで一瞬だけフィルが登場。その胸元を見てみると、アメリカ連合国旗ではなく、黒地にスカルマークの意匠へと変更されていることがわかる。
なぜフィルの衣装が変更されているのか。それは、南部アメリカの歴史に関係がありそうだ。南北戦争で焦点となったのは、奴隷制を維持すべきかどうかであった。エイブラハム・リンカーン大統領率いる北部のアメリカ合衆国が反奴隷制を掲げる一方、南部の連合国陣営はあくまで奴隷制の維持を主張。合衆国の勝利後も、南部ではアフリカ系アメリカ人の投票を阻止するジム・クロウ法が制定されるなど、アフリカ系アメリカ人への差別と弾圧が続いた。
一部のアメリカ人からは、連合国旗は南部アメリカという地域性の象徴として愛されている。一方、南部アメリカ人を含む多くのアメリカ人にとって連合国旗は、南部アメリカが守ろうとした奴隷制の象徴や、差別のシンボルとして見られることも少なくない。そうしたセンシティブな側面をはらむことから、『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』トレイラーではフィルのTシャツの連合国旗モチーフが削除されたのだろう。
連合国旗をめぐりゲーム周辺で動きが見られたのは、本作がはじめてではない。2015年にはアフリカ系アメリカ人を狙ったヘイトクライムが起き、米国全体で連合国旗にまつわる議論が激化。このときAppleが、作中に連合国旗が登場するアプリを一斉にストアから削除している。また2020年にもTwitchが、配信上で連合国旗を映すことを禁止している。現代でも白人至上主義団体などで連合国旗が掲揚されるケースが見られ、各社が連合国旗に関する規制を強めている背景があるのだ。
はたしてフィルが実際にゲーム内で衣装を変更しているのか、トレイラー上においてのみ修正がかけられたのかは不明。しかし同キャラクターの衣服をめぐっては、アメリカ国内の歴史と政治事情が絡む複雑な配慮がなされているようだ。
『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』はPS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/Nintendo SwitchおよびPC(Rockstar Games Launcher)向けに11月12日発売予定。価格は7700円だ。2022年前半にはiOS/Android版も配信される。