『Renowned Explorers』レビュー 原住民相手に空気を読む近代探検ローグライク
『Renowned Explorers』は、架空の19世紀を舞台に探検家の活躍をえがいた非ハックアンドスラッシュのローグライクだ。「探検」「戦闘」「チーム強化」の3サイクルが力強く回転し、運と戦略の大渦をつくりあげる。その戦略の模索をうながすリプレイアビリティがプレイヤーを冒険中毒にいざなうだろう。ルールの複雑さが不快とならぬよう、演出やユーザインタフェース(以下、UI)で丁寧にゲーム背景をつくりあげた点は称賛ものだ。ローグライクファンを自負するゲーマーは、栄誉をもとめて最高難度「シャングリ・ラ」踏破にいどんでほしい。
『Renowned Explorers: International Society』
開発元: Abbey Games
発売日: 2015年9月2日
価格: 19.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows/Mac/Linux)
プレイヤーは3人の探検家からなるチームだ。計5回の探検を経て栄光ランキング1位を目指す。ゲームは探検・戦闘・チーム強化のサイクルで事業を拡大していく。エジプト・アイスランド・カリブ海などで伝説を追って遺跡を探し、財宝をまもる手ごわいボスを倒して栄光を手にしよう。探検中は決意(ゲーム表記: Resolve)が尽きると敗北する。これは戦闘中のダウン可能回数とほぼおなじだ。探検の途中放棄はできず、待ち受ける運命は凱旋か失踪のみ。プレイをくりかえしてルールの相互作用を学び、ゲームを優位に運ぶ力学を修得する、ストラテジージャンルにちかいプレイ体験をもつ。
この体験は開発元Abbey Gamesの制作方針にもとづくものである。公式サイトに「深いゲームメカニクスをもつ2Dゲームの制作に焦点をおく」とあり、処女作『Reus』でその理念を実現した。神々を操作し文明を育てる「ゴッドゲーム」を、ルールの相互作用でパズルストラテジーとした手腕。目を見張る手書き調アートワークやバリアフリーなUIなど、手間を惜しまないつくり。これらで好評を博し、発売3か月で販売数20万本以上を達成している。本作においてもその理念は健在だ。
空気を読んで雰囲気を支配せよ
本稿ではレビューの立脚点として、ゲームの敗因となる戦闘をはじめに紹介する。探検の最後でかならず発生するボス戦は、後述する探検・チーム強化の焦点でもある。上のトレイラーを一見するとありふれたタクティカルコンバットだが、ステータスを左右する「雰囲気」の支配がカギとなるユニークなルールだ。また、その雰囲気は戦果も左右し、探検の成果、ひいてはチーム強化にも影響する。創造的な戦術を要する戦闘はプレイごとの興奮を約束した。
雰囲気は自チーム、敵チームの態度できまる。態度は行動の積み重ねで刻々と変化し、友好的・欺瞞的・攻撃的と三すくみの関係にある。相性で勝てば有利な雰囲気となり、防御力アップなどステータス上昇をえられるのだ。雰囲気と敵の態度から、プレイヤーを優位に運ぶ行動がきまり、それを見越した敵の行動もさだまる。雰囲気を支配して交渉を優位に運ぶ手法は「空気を読む」という言葉でなじみ深いものだろう。
上記した雰囲気のほかに、各ユニットはステータスを左右する感情をもつ。これを話術で上書きして優位をえるのも大事だ。敵をおだてて話術防御をさげ、挑発して物理防御をさげる、といったかたちで敵の頭数を減らすのに役立つ。雰囲気と感情の支配に成功すればボス戦でも快勝を手にでき、頭脳で勝ち得た達成感をひときわ大きなものとする。
戦況を左右する雰囲気で戦果が変化する点も見逃せない。勝利の種類も態度とおなじく3種類あり、敵ユニットにとどめをさした行動や、ターン終了時の態度で変化するのだ。より戦果をえるべく空気を読むしくみは、雰囲気の支配を適応的なものから計画的なものへと昇華した。本作の戦闘は、CombatではなくEncounter(エンカウンター: 遭遇)という表記だが、これは一期一会の原住民を相手に、話術と暴力を駆使して利益をまきあげる様子を見事に表している。有利不利が一転し、生存と戦果を天秤にかける戦闘は、ゲームの焦点にふさわしい奥深さだ。
ルールを説明するゲーム背景
本作の正式名は『Renowned Explorers: International Society』だ。直訳すると「栄光の探検家」と「国際社会」。前者は未知の秘境を探検、後者は都会でのチーム強化にあたる。冒頭で述べた3要素が分断してあり自由にアクセスできない。探検中は帰国後のチーム強化を、都会ではつぎの探検にむけた準備を、といった先を見据えるプレイにうながす。ここに戦略がうまれ、プレイヤーに模索させることでリプレイアビリティとした。
探検と都会の2面構成は、チーム強化のルールに大きなひねりを加えている。探検の成果がそのままでは使えないのだ。それは都会にもどってはじめて価値をもつ。Collectは通貨、Studyは研究、Campaignは地位となり、それぞれ装備の購入・チームスキルの入手・後援者や専門家の雇用にあてる。ここで、チーム強化の項目に成果の入手機会や変換量の増加を加え、各要素の相互作用を強固にした。RPGの経験値・ゴールド増加用装備をルールに内包したとおもえばよい。チーム強化の内容を生存だけでなく成果関連にも振り分けねばならず、ゲーム全体でリスク・リワードのトレードオフがうまれる。こうして、ルールでプレイ戦略の追求をうながした。
探検・戦闘・チーム強化のサイクルを通じ、探検で成果をあつめ、都会で価値に変換する。プレイ戦略の追求をもってリプレイアビリティとするこのしくみは、「深いゲームメカニクス」というメーカーの制作方針どおりの出来映えだ。だが、アイテムを拾うたびに強化できる従来作とちがい、探検が終わるまでチーム強化できないため難度が高い。生存にまつわる不便がローグライクの魅力を損なうと感じるプレイヤーもいよう。
それを埋め合わせるのがゲーム背景だ。演出の根底にある「近代の探検事業」という背景が、探検・都会の2面構成と、それにまつわるチーム強化ルールを、物語にかかせない舞台装置とした。キャラクターのジェスチャーあふれるイベント。戦闘中の軽快で印象的なアニメーション。冒険活劇らしい探検の展開。これら演出で物語を情景ゆたかなものとし、背景にルールの説得力をもたらしている。この印象強い背景に隠れているが、バリアフリーなUIが不快感の払拭に一役買っている点も見逃せない。「ゲーム以外を難しくしない」誠実なつくりでルールから不快感を濾過し、リプレイアビリティの純度を中毒域にまで高めたのだ。
栄光とロマンに満ちた冒険活劇
『Renowned Explorers』はローグライクの中毒性そのものだ。模索したくなる深さを十分にそなえたプレイ戦略。複雑なルールが内包する不快感を埋め合わすゲーム背景と、それをささえるアートワークやUI。「運がない」よりも先に「つぎはあれを試してみよう」という気持ちが先立ち、プレイヤーの睡眠時間を奪い取るだろう。プレイごとに新たな発見・見解をえて攻略をすすめる様子は、ゲームそのものを探検するかのようだ。
リプレイアビリティを主眼におき1プレイ4時間で完結する内容にこたえるべく、ゲームコンテンツも十分にある。探検の成果に大きな影響をあたえるリーダーが、キャラクターの使用回数に応じてアンロックでき、チーム編成の広がりがプレイ戦略をよりゆたかにする。また、ゲーム中盤以降はチーム強化項目の一部が上位のものとなり、これにまつわる知識もプレイ戦略の構築におおきく関わる。探検家ランキング1位をとった熟練プレイヤーには、名うての探検家でも命を落とす最高難度の探検地「シャングリ・ラ」が用意してある。ローグライク調ハックアンドスラッシュに飽いたゲーマーは、今すぐ本作を手にされたし。運と戦略の大渦に翻弄されること請け合いだ。
本作を楽しむにあたり背景への予備知識が必要なのは否めない。だが安心してほしい。弊誌読者はすでにもっているはずだ。ここに概要を記しておく。史実の19世紀も探検家の時代であった。価値ある財宝や学術的発見、国際社会における地位をえた者は多い。ナポレオンのエジプト誌や、地質学者チャールズ・ダーウィンのビーグル号航海あたりが有名だ。また、創作でもジュール・ヴェルヌ「八十日間世界一周」をはじめ冒険活劇の舞台として古くから愛されており、蒸気機関・機械式計算機・飛行船などのガシェットを用いた歴史改変SFでもなじみ深い。剣と魔法の世界、異星人と光線銃の宇宙につづく、第3の冒険スポットとして触れたことがあろう。すぐれたゲームメカニクスがえがく懐かしの冒険活劇を、心ゆくまで楽しんでほしい。