人気サメゲー『Maneater』開発元社長、突然政治的なコメントを投稿し大きな反発受ける。米国内を二分する州法の是非に関して

『Maneater』や『Killing Floor』シリーズの開発元Tripwire Interactiveの社長を務めるJohn Gibson氏が、突然政治的な発言をしたことで大きな注目が集まっているようだ。

『Maneater』や『Killing Floor』シリーズの開発元であり、他社タイトルの販売も手がけるTripwire Interactive(以下、Tripwire)。その社長を務めるJohn Gibson氏が、突然政治的な発言をしたことで大きな注目が集まっているようだ。

Gibson氏は9月5日、アメリカ・テキサス州にて施行されたある法律を合衆国最高裁判所が支持する判決を下したことについて、誇りに思うと自身のTwitterアカウントを通じてコメントした。エンターテイメント業界に携わる者として、これまで政治的なことにはそれほど言及してこなかったが、今回は態度を表明することが大事だと感じたと述べている。


John Gibson氏が支持を表明した法律とは、女性が妊娠してから6週目以降に、人工妊娠中絶をすることを原則禁止する州法だ。今年5月に成立し、9月1日に施行された。もし6週目以降にテキサス州内で人工妊娠中絶をおこなった場合、施術した医師だけでなく、その過程でほう助した人物も訴えられる可能性がある。母体に危険がある場合は例外とされるが、レイプ被害による妊娠であっても中絶することは認められないという。

人工妊娠中絶を規制する州法はほかにも存在するが、テキサス州のものは特に厳しい内容になっている。基準とされた6週目というのは、胎児の心拍が確認される目安とのこと。ただ、妊娠初期に妊娠に気づかない女性も多いため、この州法では事実上中絶が不可能になるとして大きな反対運動がおこなわれていた。またバイデン大統領も、女性の権利の侵害であるとして州法施行を非難している。

最高裁判所はかつて、一定の条件のもと中絶の権利を保障する憲法判断を示したことがある。そこで反対派は、この州法は違憲であると訴えたが、現在保守派が多数を占める最高裁判所は、州法の差し止めを認めない判決を下した。Tripwireの社長John Gibson氏は、人工妊娠中絶を原則禁止する州法を事実上支持した、今回の最高裁判所の判断を歓迎すると述べたわけだ。


John Gibson氏はツイートのなかで、自身はプロライフのゲーム開発者であると述べて、人工妊娠中絶には反対の立場であることを明らかにしている。プロライフとは、生命を尊重する思想であり、原則として人口妊娠中絶に反対の立場がとられる。おそらく信仰に基づく考えなのだろう。ちなみに、『Killing Floor 2』のサウンドトラックにはGibson氏のバンドが提供した楽曲があり、その歌詞のなかでも人工妊娠中絶反対を示唆的に主張していたようだ。

ただ、Gibson氏の発言に対しては疑問の声が数多く寄せられている。たとえばTripwireがパブリッシャーを務める 『Chivalry 2』の開発元Torn Banner Studiosは、Gibson氏の意見は同スタジオのスタッフおよび作品とは関係はなく、女性の権利に対する同スタジオとしての考えにも反していると声明を発表。また、『Maneater』などで開発協力をしたShipwright Studiosは、現体制下のTripwireとは今後一緒に仕事はできないとし、現在抱えている契約をキャンセルすると表明した。

『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズのクリエイターCory Barlog氏は「女性個人の自由を支配する法律を誇りに思うなんて本気か」と、強く疑問を呈している。また、『Gears of War』シリーズや『LawBreakers』などを手がけたCliff Bleszinski氏は、自身へのTwitterのフォローを解除してくれと、あきれた様子で述べる。このほかにも多数の業界人が、Gibson氏の発言を残念がる返信をしている。また、Tripwire作品から距離を置こうと呼びかけるゲーマーも多い。


John Gibson氏の発言を支持する意見もないわけではないが、反対の立場を示すコメントの方が圧倒的に多い状況だ。Gibson氏自身も、今回の人工妊娠中絶を原則禁止するテキサス州法に強く反対する意見は、ゲーム業界のなかでは数多いと認めており、だからこそあえて自らの立場を表明したのだという。

人工妊娠中絶の是非については、アメリカ国内では世論を二分する大きな問題となっている。個人の思想は自由であり、Gibson氏がどちらの立場であれ、自身の考えをもつこと自体に問題はないだろう。ただ、社長という立場の同氏が片方に肩入れするような意見を公に表明することは、Tripwireのビジネスにも影響を及ぼしかねないし、先述したように実際に影響は出始めている様子。Gibson氏が考えを転じることが正しいという問題でもなく、同スタジオは難しい対応を迫られそうだ。


*John Gibson氏は、現地時間9月6日まで開催中のオフラインイベントPAX Westに出張中。現地では、今回の件について生の声に触れることになるかもしれない。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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