『Rebel Galaxy』レビュー スター・ウォーズに反逆した銀河の無法者
『Rebel Galaxy』は西部劇をモチーフとした宇宙アクションRPGだ。アクション部分は三人称視点で宇宙船を操舵する「スペースコンバットシム」にあたる。この手のゲームにただよう様式主義を3つのアンチメジャー手法で打開した。ブルース調ロックと極彩色で描いた銀河が奇抜なだけにおわらぬよう、RPG部分にオープンワールド制など人気要素を踏襲した点も見逃せない。本作は、ゲーマーに娯楽の宇宙を取り戻したアウトローヒーローだ。
『Rebel Galaxy』
開発元: Double Damage Games
価格: 19.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows/Mac)/PS4/Xbox One
発売日: 2015年10月20日(Windows)/2016年予定(Mac/PS4/Xbox One)
舞台は宇宙。個人で宇宙船を駆る恒星間経済の時代。デカいヤマを当てたと叔母から連絡を受けた主人公が、詐欺師と強盗が巣くう無法の星区にたどりついたところから始まる。行く先々で依頼を受諾・達成し物語をすすめていく一般的なRPGだ。依頼のほとんどは戦闘を含み、勝てないときは採掘・貿易・仕事をこなしてクレジットを稼ぎ、宇宙船を強化する。このようにゲーム概要は見慣れたものだが、そこで得る体験は大きくちがう。トレイラーで一目瞭然。マシニマ(ゲームエンジンを用いたCGI映画)を想起する戦闘シーンを、実際にプレイできるのだ。
“スター・ウォーズシム”からの脱却
本作のアクション部分がマシニマを想起させるのは、スペースコンバットシムの様式とちがう見栄えだからだ。そこにある3つの特徴「アートワーク」「高低差の廃除」「船側面の主砲」は、アンチメジャー手法を意図したものである。メジャーとアンチメジャーに優劣はないが、ゲーム体験のめずらしさにおいて、なみいる過去作を抜き去った。
スペースコンバットシムの様式は1977年公開の映画「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の宇宙シーンで確立された。ミレニアム・ファルコンのアクロバット飛行。XウィングとTIEファイターのドッグファイト。反乱同盟軍のデススター攻略作戦。これらがジャンルの様式を定めたといっても過言ではない。オーケストラBGMで、3D空間を自在に飛び、敵機の背後を追尾しつづけるゲームだ(反例は次章であげる)。本作はこれらの定番要素に、真逆のつくりを採用した。
アートワーク
BGMは本作を語る上ではずせない。オーケストラによるクラシック・アンビエントといった様式BGMを全廃し、ブルース・ジャズ調ロックの挿入歌とした。無法者や悪人の生き様をうたいあげ、舞台を強烈に飾り立てる。極彩色を積極的に用いた映像や、デザインを優先した宇宙船も、リアル偏重の様式美と一線を画す別種の見栄えがある。広大で深淵な宇宙ではなく、騒がしさと人なつこさがある銀河を描いた。
高低差の廃除
宇宙船の移動を平面のみとした。敵・NPCとして登場する小型機をのぞき、プレイヤーや他の宇宙船、惑星や小惑星群、宇宙経済をささえるステーションは同じ高さにある。人々や経済とエンカウントしやすく、アートワークの印象どおり、本当に騒がしく人なつこい銀河となった。
船側面の主砲
この設計は先の高低差排除を生かした仕組みだ。視点を船側面にむけると主砲の照準が可能となる。しかし、このあいだは船首方向が確認できない。占位と照準を別視点で操作する戦闘は、3次元空間を把握する様式とは異なるアクション要素だ。また、移動・攻撃方向のちがいは、併走する敵機・自機がお互いに砲撃しあうといった、過去作にはない局面・映像をもたらした。
めずらしいゲーム体験を狙ったこれら3要素は、手探りで模索したものではなく、確かな手法にもとづいている。その手法とは、メジャーをお手本に逆の方針をとり、印象・世評を利用する「アンチメジャー」である。スター・ウォーズシムという強固なメジャーで一様な作品がならぶこのジャンルにおいて、本作は、その様式を守らなかったという意味で型破りな宇宙アクションRPGだ。
アウトロー生活をささえる正統派のつくり
留意すべきは、めずらしいゲーム体験と評価した前章の3要素が、ユニークではない点だ。アンチメジャー手法はジャンルの世評・印象・お約束に(逆のアプローチで)したがったメジャーであり、その箇所が不出来であれば定石をはずした失敗におわる。そしてメジャーと比較できなければ奇抜でおわる。その手法をひきたてるべく、本作はRPG部分を正統派のつくりとした。
まず、前章の反例をかねて、本作の要素にジャンル内外で類似例をあげ、ユニークでない点を明らかとする。高低差を廃除したスペースコンバットシムは、ジャンルにあかるいゲーマーなら『Starpoint Gemini』『Drifter』の名をあげよう。艦側面の主砲で狙うアクションゲームに着目すればジャンル外『Assassin’s Creed』シリーズの海戦パートが有名だ。アートワークについては反例・類似例は多数あり割愛する。
本作の真価は、それらが借り物でおわらぬよう、アンチメジャー手法とした点にある。つまり、作品の優劣はその手法の成否にかかっている。これを、つぎの2項目で検討しよう。ひとつは、様式をはずした要素が、様式と同等の品質であること。これは前章でアクション部分を評価したとおりだ。もうひとつは、様式をはずしていない要素がジャンルの水準に達していること。以下に箇条書きで紹介するように、宇宙RPGの定番要素はひととおりある。
ランダム生成のオープンワールド
星系内はオープンワールドだ。作中のワープはワールド上の高速移動で、惑星・ステーション・小惑星群といった天体に近いと速度がおちる。それら天体に加え、救難信号・宇宙海賊の強襲・隠し財宝といったイベント発生ポイントは、ゲームごとにランダムで配置され、未開の星系を探索する興奮を約束する。
仕事
ステーションで依頼を受ける。物資運搬、貿易船の護衛、宇宙海賊基地の襲撃など、すべて戦闘が発生するものだ。仕事を受けたあと、メイン画面のUIで目的地の方角・距離・出現敵の強度が表示してあり、行き先や優先順位が一目でわかる。
貿易・小惑星採掘
ステーション間の貿易と、小惑星の採掘は、仕事とくらべて利益がすくない。序盤の戦闘で苦戦するプレイヤーへ、戦闘無しで宇宙船を強化する救済処置として機能する。中盤以降は武装・船体の価格にあわせて仕事(戦闘)の報酬がはねあがり、修理費程度の位置づけとなる。これは本作の見どころである戦闘にプレイヤーを誘導する仕組みだ。
ストーリー
会話中の選択で若干分岐はあるが、ほぼ一本道だ。その構成はボーイ・ミーツ・ガール。ボーイと呼ぶにはタフガイで、ガールのようなものは多少異質だが、王道の展開といえる。行く先々で人々にトラブル解決を依頼され、ほとんどの任務で戦闘がある。出現敵の強度は高いが、任務に時間制限はなく、宇宙船を強化してから挑める。
派閥の信頼度
ゲーム中、2つの体制派と3つの宇宙海賊が登場する。ストーリー上、体制派と協力し宇宙海賊を攻撃するため、派閥の信頼度は気にしなくてもよい。一部の仕事は宇宙海賊の信頼度を改善できるので、これを念頭に置いてプレイすれば海賊基地と貿易できる。専用の宇宙船やSteam実績を手にいれる、やりこみプレイとしての位置づけだ。
これらの要素に奇をてらったものはない。ストーリー上の強敵を、操作の上達と武装の強化でたおす、アクションRPGの醍醐味を踏襲してある。前章に記した要素とくらべ堅実すぎて、無難とすらいえよう。この正統派のつくりが土台となり、アンチメジャー手法をひきたてている。本作の各要素にユニークなものはないが、粗のない高水準の品質でメジャーと比較しやすく、総和の印象で新しいと感じるゲーム体験を生みだした。こうして本作はアンチメジャーの先にある新たなメジャーを目指したのだ。
ニューメジャーを切り開くフロンティアスピリッツ
『Rebel Galaxy』は無法者が巣くう銀河を舞台としたが、ゲームのつくりに無法はない。ジャンルの定番要素を取捨選択し、基盤をのこして丁寧に改革した。人なつっこい銀河、危なっかしい平面移動、トラブル連発の主砲戦。これらでジャンルの様式主義を打ち破り、見事なオールドファッショネード・フューチャー=スペースオペラを生みだした。一言にまとめれば「カジュアルに遊べる豪華な宇宙ゲーム」である。ここまであえてこの表現を避けていたが、それこそが、本作が想定した訴求対象だ。ステーションの着発艦だけで死ぬ。マルチプレイ専用。リアルマネートレード。いつまでたっても完成しない。といったジャンル大作の高い敷居で切り捨てられたゲーマーに、宇宙のロマンを取り戻した。
本作を批評するにあたり、スター・ウォーズシムでないところが焦点になろう。だが、アンチメジャー手法を受け入れる人口が十分に多ければ、これを新たなメジャーと呼んでもさしつかえあるまい。PC専用タイトルがほとんどのスペースコンバットシムにおいて、コンソール機で発売予定という点が、その人口を得る機会になるだろう。インディ開発スタジオがアンチメジャー・コンソール機という開拓者精神で、西部劇が描くようなゴールドラッシュの引き金に手をかけるのは小気味よい。数々のフォロワー作をうんだ『FTL – Faster Than Light』のように、いつの宇宙時代においても、ノウンスペースから離れたアウトロースターにとんでもなくデカい金脈があるのだ。