Steamの“ストア税”を巡りValveを訴えたゲーム開発者が、提訴の背景を説明。Valveの反競争的行為を指摘
格闘ゲーム『Overgrowth』やFPS『Receiver』シリーズなどで知られるデベロッパーWolfire GamesのCEO David Rosen氏は5月7日、Valveに対する集団訴訟(クラスアクション)を提起した件について公式サイトにて説明した。
Wolfire Gamesと2名の個人は今年4月27日、Valveを相手取り米国ワシントン州西部地区連邦地方裁判所にて提訴。ValveはSteamの優越的な地位を利用して、極端に高いストア手数料をSteamで販売するメーカーに課しているとし、独占禁止法および不正競争防止法違反を訴えている。
ストア手数料とは、メーカーが作品を販売した際の売り上げから運営元に支払うお金のことで、ストア税などと呼ばれることもある。Steamでは売り上げの30%に設定されており、この割合自体は業界標準的な側面はあるものの、近年はより低い割合のストアが登場してきている。原告は、PCゲーム市場の約75%のシェアをもつというSteamの優越的な地位を背景に、ValveはSteamと他ストアの両方で販売するメーカーの、販売価格を拘束する仕組みを導入していると主張。これにより競争が発生せず、結果的にSteamの手数料の引き下げにも繋がらないとしているわけだ(関連記事)。
David Rosen氏は、Humble Bundleの設立に関わったことでも知られる人物。2019年までは、兄弟Jeff Rosen氏がCEOとしてHumble Bundleの運営に携わっていた。ストアを運営する側の立場もある程度理解した開発者だと言えるだろう。今回同氏は、Steamよりも手数料の安いストアで『Overgrowth』を販売しようとした際のエピソードを明かした。ストア税が安い分、Steam版よりも価格を引き下げて販売することを計画していたが、このことをValveに相談すると、『Overgrowth』をSteamから削除するとの返信があったという。Steamのサービスをまったく利用せず、Wolfire Gamesの公式サイトで販売した場合であっても、Steam版よりも安く設定すると同じく削除すると伝えられたそうだ。
Rosen氏は、Steamについてほかの開発者に話を聞くと、独占的であるとの言葉がたびたび飛び出すものの、開発者にできることは何もないと諦めムードだという。そこで同氏は、Valveは本当に法に則ってSteamを運営しているのか疑問を抱き、法律の専門家に相談したうえで、今回訴訟を起こすに至ったとのこと。
Steamで販売されているゲームについて、Valveはほかのストアで併売することは認めており、そのためのSteamキーの発行もおこなっている。ただ、“Steamの顧客が不利な状況になる”ことは認めないと規定。すなわち、他ストアと比較してSteam版が割高な価格に設定することはできない(セールなどにより、時期によって価格が異なることは容認)。
David Rosen氏ら原告によると、Steamキーのかたちでなくとも、併売する場合には同様の規定が適用されるようだ。ただ、今回Rosen氏が披露したエピソードについて、一部の開発者からは自身のValveとの経験とは異なるとする意見もあり、原告にはValveとのやりとりの記録などを開示してほしいとする声も聞かれる。
今回の訴訟に関しては、先述したストア間の価格面での公平性を求める規約はゲームに限らず一般的に存在し、競争はほかのサービス面などにおいておこなわれるべきだとする指摘もみられる。これに対しRosen氏は、市場の中である一定の規模に達した企業の場合は、独占禁止法が適用され得ると主張。Valveが競争の自由や、価格設定の自由に干渉することをやめるよう、裁判を起こしたのだと説明した。
なお現時点では、Valveは本件について特にコメントを発表していない。また裁判については、原告が集団訴訟(クラスアクション)として陪審員による審理を要求し、その承認を得られるかどうかを待っている段階。本審理へと進むかどうかは不透明である。