「有料チャンネル登録のたびに配信を10秒延長する」ストリーマー、Ninjaのサブスク数記録を破りフィナーレへ。「1か月ノンストップ配信」が迎えた結末とは

Twitchチャンネルのサブスクライブ(有料チャンネル登録)数において、Ninja氏を超える人物が現れた。「サブスクライブのたびに配信を10秒延長する」企画で一躍名を知らしめたLudwig Ahgren氏である。

Ninja氏といえばいわずと知れた、Twitchにおける超人気ストリーマーだ。そのチャンネルのサブスクライブ(有料チャンネル登録)数はピーク時26万9155件とされる。しかし4月13日、ついにそのレコードが打ち破られた。新たな記録を樹立したのは、Ludwig Ahgren氏。そう、「サブスクライブのたびに配信を10秒延長する」企画で一躍名を知らしめたAhgren氏が、夢の“Ninja超え”を果たしたのである(関連記事)。
 

 
Twitchにおけるサブスクライブとは、いわば「有料チャンネル登録」のようなものだ。お気に入りのチャンネルをサブスクライブすることで、月額4.99ドルからプランを選択可能。配信中の広告非表示や専用スタンプのアンロックなどメリットはいくつかあるが、もっとも大きなものとしては、「配信者を経済的に直接サポートする」という意味合いが大きい。

Ahgren氏はYouTubeやTwitchでのストリーミングのほか、『大乱闘スマッシュブラザーズ DX』大会におけるコメンテーターとしても知られる人物。もともとTwitchにおけるチャンネルフォロワー数は180万人であり、すでによく知られた配信者のひとりではあった。しかし同氏の名が一挙にバイラル化したのは、先月より始まったある企画以来のこと。いわゆる「subathon(サブスクライブ+マラソン)」と呼ばれる企画であり、「視聴者からサブスクライブされるたびに配信を10秒延長する」というストリーミングマラソンを実施したのである。Ahgren氏の企画はあれよあれよのうちに広まり、いつしかストリーミング時間はゆうに「残り数十時間」を維持し続けるように。Ahgren氏のチャンネルは「終わらない生配信」として一挙にネット上で知られるようになったのである。

一般的に配信マラソンというと、「延々とゲームをプレイし続ける」などの耐久レース的な意味合いが大きい。ところがAhgren氏の配信は少し違う空気感が漂っている。もちろんゲーム実況などに興ずることもあるが、それ以外の時間は、通常どおり生活を送っているのである。風呂に入り、スキンケアをし、ガレージで筋トレもする。用を足すときなどのプライベートは守る……といいつつ、シャワーシーンは公開されていた。
 

 
いつも通り生活するAhgren氏の日常のひとこまが共有され、視聴者はあたかもAhgren氏と寝食をともにしているかのような状態となる。それゆえ、コメント欄もいつしか「たまり場」のような空気感が流れるようになり、「何を観るわけでもなく、誰かがいるから滞在する」視聴者が常駐するようになった。Ahgren氏の就寝中もモデレーターによりユルい秩序が保たれ、配信マラソンはいつしか視聴者の居場所としてコミュニティを形成するようになったのである。その間にもチャンネルのサブスクライブ数は増加の一途を辿っていた。

永遠に続くかに思われたAhgren氏のサブスクライブ・マラソン。だが、実は配信はもともと1か月が経過した時点で終了することが告げられていた。というのも前述したTwitchのサブスク権の有効期限は、いちどの登録につき1か月間だからである。配信初日に登録した1万6000人のユーザーの権利が切れるタイミングを節目として、ストリーミングに区切りをつけることになったのだ。Ahgren氏によれば、ストリーミングの間は1日平均9000件ものサブスクライブが届いていたという。

また1か月間という期間については、もうひとつの思惑も潜んでいた。1日9000件のサブスクライブが見込めるとして、これに30日間をかけると、27万件。そう、Ninja氏の記録26万9155件を上回る目算だったのである。そしてラストスパート、Ahgren氏は打倒Ninja氏に望みをかけて、最後の秘策に打って出る。最後の日に限り、いかなるサブスクライブももはやタイマーに加算しない。その代わり、サブスクライブ1件ごとにAhgren氏のポケットマネーから5ドルをチャリティーに寄付するというのだ。
 

Image Credit : Ludwig Ahgren

 
マラソン中、Ahgren氏のチャンネルには2000万人のユーザーが訪れたという。Twitchのフォロワーは100万人増加した。ラストスパート配信においては、ユーザーが作成した配信時間の分析データも公開。累計24時間もみんなで映画を観たり、ルームメイトに配信が乗っ取られたり、楽しい思い出がデータとともに紹介される。料理に8時間、風呂やトイレなどの離席タイムが18時間など、自身の生活が数値化されたことで、「いかに日常生活が時間を消費するか」という気づきも得たようだ。自身の生活を振り返り、思わず「何もしてないな!」と衝撃を受けるAhgren氏。

また1か月の配信で得た収入は驚異の120万ドル(約1億3000万円)超え。ただし丸儲けかというと、そうでもないようだ。このうちTwitchの取り分は約35万ドル(約3800万円)。またコメント欄のモデレーターに支払った給与は一晩5000ドル(約54万円)、そのほかの人件費を含めると1か月にして15万7000ドル(約1700万円)の支出。配信の累計時間は671時間。このほか税金などもろもろを差し引くと、最終的にAhgren氏の手元に残るのは21万9000ドル(約2386万円)ほどだという。
 

*配信終了前日の切り抜き。

 
そして最終日。配信終了まで残り7時間が迫ろうという中、Ahgren氏は固唾を飲んで配信を見守って……いなかった。同氏は台所でフライパンを洗っている最中であった。合間にふと画面をチラ見して、Ahgren氏は異変に気がつく。ほぼ秒速でサブスクライブ数が増えていく中、目標とするNinja氏の記録まで残り1000人を切っているではないか。水を1杯がぶりと飲むと、押っ取り刀で配信画面を移動。慌てて普段の配信ブースに戻ったときには、すでに残り300人を切っていた。大急ぎでやってきたAhgren氏が息を落ち着かせる間にも、どんどんサブスクライブ人数は膨れ上がっていく。残り200人。残り100。
 

*3分30秒ごろを参照。

 
そしてそのときはやってきた。「やったぞ」「これがTwitchの新記録だ」。Ahgren氏のサブスクライブ数は、いともたやすくNinja氏の記録26万9155件を打ち破った。Ahgren氏が次の言葉を探している間にも数字は膨れ上がっていき、見る間に数百人規模でNinja氏の数を上回っている。「聞いてるか分かりませんが、あなたの記録を破りましたよ」とジョーク混じりにNinja氏へのメッセージを口にするAhgren氏。このとき同氏はNinja氏が過去に配信で吐いた暴言の音源を流すなど、かなり“調子に乗った”そぶりを見せている。一方で、「ただ、あなたに触発されてのことでした」とリスペクトの言葉も忘れてなかった。

そしてこの動きは、実はNinja氏本人のもとにも届いている。Ninja氏は自身のTwitterにて、Ahgren氏の記録に言及。「ちょっと悲しくないといえば嘘になりますが、新記録樹立おめでとうございます」と祝辞を挙げた。
 

 
最終日まで興奮に満ちていたAhgren氏の配信マラソン。しかしタイマー加算が止められて、その時間もいよいよ幕を閉じようとしていた。配信時間残り2分となったとき、Ahgren氏はいつになく言葉に詰まり気味で、「ありがとう」と述べる。が、「勘違いするなよ!」。Ahgren氏は視聴者のことを知らない。その場にいるのは、みな、顔も分からない有象無象の20万人だ。でもどういうわけか、とAhgren氏は続ける。「お前らという集団が……」と言いかけて、言葉に詰まった。伏せた目はいつもより滲んで見える。「……とても幸せだった」。

時計は残り1分を切った。身じろぎをして、何か言いかけて、時間だけが過ぎてゆく。残り30秒を切ったとき、用意していた音楽だけはうまく流すことができた。もういちどマイクに口を寄せ、「ありがとう」。あとは何も語らず、敬礼ポーズだけを見せて、Ahgren氏は配信を去った。愛用の集音マイクは、最後に少しだけ鼻をすすった音を拾いこぼさなかった。
 

https://www.youtube.com/watch?v=u105jeypw8M

 
さて、Ahgren氏は今後どうするのか。配信終了前日の放送では、こんなことを言っていた。「(マラソンが終わったら)もう配信はしないよ」「……24時間は」。いわく、水曜日に丸1日の休暇をとったのち、木曜日の現地時間正午にはふたたびストリーミング予定。「Magnus Carlsen(チェス世界チャンピオン)と勝負する」とのことである。「ショックだろうけど、ストリーミングが好きなんだよね。楽しいし」。Ahgren氏のチャンネルはこちらから視聴可能。もちろん、これからサブスクライブ登録することも可能である。

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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