破壊&泥棒サンドボックス『Teardown』の「ほぼなんでも破壊できる」自由はゲームデザイナー泣かせの悪夢だった。自由という名の制約

破壊&泥棒サンドボックスゲーム『Teardown』の「ほぼなんでも破壊できる」自由はゲームデザイナー泣かせの悪夢だった。自由という名の制約。『Teardown』はSteamで早期アクセス販売中。

今年10月にSteamでの早期アクセス販売が開始された、破壊&泥棒アクションゲーム『Teardown』。ほぼなんでも破壊できるという自由度の高さと、60秒以内に目的物を盗んで脱出するための計画を立てるパズルアクション的な要素が組み合わさり、高評価を集めている。だが、この泥棒アクションというのは、「ほぼなんでも破壊できる」自由という名の制約に悩まされた末、生み出されたものだったようだ。主要開発メンバーであるDennis Gustafsson氏が、自身のブログにて開発中の苦労をつづっている。


『Teardown』はボクセルグラフィックで描かれる、一人称視点のサンドボックス・アクションゲーム。物理演算に基づき、ほぼすべての地形・オブジェクトを破壊できる点を売りとしている。キャンペーンモードとサンドボックスモードがあり、前者では解体業者のはずがいつの間にか泥棒業に手を出すことになった主人公の物語が描かれる。ハンマーやショットガン、爆発物やバーナー、ときには車両も駆使して建物を壊し、依頼主が求める品をかっさらっていくのだ。

マップ内には盗むべきアイテムが複数配置されており、それを集めて脱出ポイントにたどり着けばステージクリア。ただし、アイテムを持ち出そうとすると警報が鳴り、60秒後には警備ヘリがやってきて捕まってしまう。普通にひとつずつアイテムを拾っていったのでは間に合わない。そこで、事前に建物の壁に穴を開けたり、移動時間を短縮できるよう車両を配置したり、マップのオブジェクトを活用したりと、最適ルートを構築。試行錯誤しながら、60秒の華麗な泥棒・逃走劇に興じるのだ。自由度の高い環境破壊表現と、緻密な計画を楽しむ泥棒劇の組み合わせが評価され、10月25日のSteam早期アクセス配信開始後、5800件ものユーザーレビュー(95%が好評)を集めている。


環境破壊表現というのは、多くのゲームでは映像表現をリッチにするための装飾的な役割を担っている。だが本作においては、ゲームプレイの重要な要素として組み込む意図をもって開発されていた。破壊行為による大暴れを楽しむというよりは、精密作業を実現するという目的の元で作られたのである。ただ、自由度の高い環境破壊要素はゲームデザイン上、多くの制限をもたらす。完全に破壊可能な環境というのは、プレイヤーにとっては魅力的であるものの、ゲームデザイナーにとっては悪夢であったという。そんな中、長い試行錯誤の末に生まれたのが、準備・実行の2フェーズに分かれた強盗ミッションである。

そもそも『Teardown』は、技術実験として始まったプロジェクトである。まずはテクノロジーありきで、そこからどんなゲームを作るのかは後から考えられていった。そこでさまざまな難題に直面する。まず完全に破壊可能な環境を作るということ自体、物理演算・光源処理・スクリプト作成といった技術的なハードルが多く存在する。さらに、なんでも破壊できるということは、プレイヤーの進行ルートを制御する障害物として壁などを使えず、プレイヤーがどのようなルートを辿るのかコントロールできないということを意味する。自由度の高さが生んだ、ゲームデザイナー泣かせのハードルだ。


レベルデザインの面で何よりネックになるのは、先述したように、プレイヤーの行動をコントロールできないという点。なんでも破壊できてしまうため、本当の意味で障害物となり得るのは、高度・距離・水上・破壊不可オブジェクトのみ。破壊不可能な地形やオブジェクトを増やせばプレイヤーの動きをコントロールしやすくなるものの、そうするとなんでも破壊できるという本作のコンセプトから外れていってしまう。そのため、本作における破壊不可オブジェクトは、地面や岩層といったごく一部に限られている。

なんらかのチャレンジ要素を加えるという点では、リソースを制限することで難易度を上げるという手段も考えられるが、それだと本作の肝となる環境破壊を存分に楽しめなくなる。ここでもまた、「なんでも破壊できる」を売りにしつつゲームをデザインする難しさが読み取れる。そこで、作戦を練るためのツールとリソースは十分に与えつつ、タイマーを設けることで、制限時間内にアイテムを回収するための最適ルートを模索するという、パズル的な遊びを作り出した。タイマーというのは多くの場合、ゲームデザイン上あまり好ましいアイデアではないのだが、『Teardown』では良い結果につながったとGustafsson氏は語っている。

タイマーを設けるのではなく、警報を鳴らした後すぐに警備ヘリがやってきてプレイヤーを追いかけるような仕組みはどうかと、提案されることも多いとのこと。だが、それだとランダム要素が入ってきてしまい、慎重な計画・準備という本作の軸がブレてしまうと、Gustafsson氏は考えたという。なお本作には時間制限付きの強盗ミッションだけでなく、建物の破壊や火事の鎮火を目的としたミッションもあるが、それらだけではゲームとして面白いものにはならなかっただろうと、同氏は振り返っている。


また本作ではクイックセーブ/ロード機能により、自分が練った計画がうまくいくか実験し、改善が必要であればクイックロードで戻って軌道修正するという、準備・実行フェーズを行き来しながらの試行錯誤が推奨されている。寛容なクイックセーブ機能があると、リトライしやすくなると同時に緊張感も薄れがち。本作においては、ゲームプレイループの一部として同機能がうまい具合に組み込まれている。準備フェーズであればいつでもセーブできるとはいえ、セーブスロットはひとつのみ。また大幅な作戦変更となれば、ミッションのやり直しが必要となってくる。そのため、セーブする上である程度の慎重さは求められる。緊張感を保ちつつも、ゲーム体験にうまく関わってくる形で実装されているのだ。

そのほかにも、リプレイ性を高めるための工夫や、「ストーリー目当てで本作を遊ぶ人はいません」と冗談を言いつつもこだわった物語の見せ方など、自由という制約の中でキャンペーンモードを面白くするための考えが記された。プレイヤーが自由に遊べるサンドボックスモードもあるとはいえ、ユーザーから高評価を集めている大きな要因は、強盗ミッションを中心としたキャンペーンモード。そこにたどり着くまでには、多くの苦労があったようだ。

自由という制限から生まれた『Teardown』は、Steamにて早期アクセス配信中。キャンペーンモードの序盤とサンドボックスモードが実装済みだ。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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