『ポケモン サファイア』を“魚”が操作する実況配信、ついに殿堂入り果たす。3100時間の旅路のすえ、「むてきまるチャンネル」が迎えた結末とは

 

あるプレイヤーたちの『ポケットモンスター サファイア』における殿堂入りが日本中を湧き立たせている。11月7日午前7時、総プレイ時間は3195時間。そのプレイヤーとはずばり、「魚」である。そう、今年6月より実況が続いていたYouTube上の「むてきまるチャンネル」にて、魚たちがプレイする『ポケットモンスター サファイア』がとうとうストーリークリアを果たしたのだ(関連記事)。 
 

 
本チャンネルは、会社員である飼い主(以下、むてきまるちゃんねる氏)の代わりにペットの熱帯魚が『ポケットモンスター サファイア』をプレイする実況をおこなっている。具体的には、ニンテンドーゲームキューブ(ゲームボーイプレーヤー)とUSBカメラ、独自のプログラムと基盤を使用することで水中を泳ぐ魚の動きをゲーム内に取り込む。水槽内の「十字キー・A・B」といった対応箇所を魚が通過することで、ゲーム内のキャラクターも動作するという仕組みだ。 

当初は2匹の熱帯魚がプレイを進めていたが、現在はメンバーが増え4匹に。初代プレイヤーのモーリス・「最大の事件」を起こしたポニョ・華やかなヒレが美しいムーー・動きが活発でもっともプレイの巧みなララが、交代制にてプレイを進めていた。ゲームが進行不可となる場合のみむてきまるちゃんねる氏が介入するものの、操作は基本的にお魚任せだ。当然何の意図もなく泳ぎ回る魚たちのプレイがうまくいくわけもない。最初のポケモンを入手するまでに60時間を所要し、その後もなぜかムロタウンとカイナシティを行ったり来たり。そして今年7月、ポニョが最大の主戦力バシャーモを逃してしまうという「ノホホホホ事件」が発生。本件が話題となり、日本中にチャンネルの存在が知られることとなった。
  

 
さっぱりゲームの進まないもどかしい実況ではあるが、そこが不思議な魅力となっているのが本チャンネルの人気の秘訣。作業用BGMとして点けっぱなしにしておき、時折覗いてみると謎の行動をとっていたり、思わぬタイミングでゲームが進行していたり……とのんびり魚たちの動向を見守る癒し系コンテンツとしてファンを増やしてきた。さらに時には、予想もつかないドラマチックな展開が生じることも。キンセツシティのジムリーダー、テッセン戦ではタイプ相性の悪さもあり大苦戦。9連敗を喫する中、最終決戦にてエースとなるオオスバメ(通称:アキュポス)が根性を見せる。鬼門レアコイルに体力の4分の3を奪われるも、起死回生で放ったでんこうせっかが相手の急所を直撃。からくも勝利を勝ち取り、84時間にわたる死闘に終止符を打った。 
 

また魚プレイヤーならではの「発見」も話題をさらった。海底洞窟にて、かいりきで岩を動かしパズルを解く場面でのことだ。ララが当てずっぽうに岩を動かしてはウロウロしていたところ、なぜか画面外に消えた岩の位置がもとに戻っている。それどころか該当の岩を動かすと、なぜかその下から別の岩が増殖して現れるのだ。本バグはその後むてきまるちゃんねる氏の手により再現性があることが確認され、世にも奇妙な「魚が発見した新バグ」として人口に膾炙することとなった。今や魚がデバッガーもこなせる時代なのだ。 
 

 
すべてのドラマについて紙面を割くことはできないが、幾多もの劇的な出来事を経てようやく四天王のもとにたどり着いたお魚一行。プレイヤーのララがダイゴとの決戦に至るまでに15連敗を喫し、プレイ時間は3185時間を超えていた。手持ちエースのアキュポスをはじめほぼ全メンバーがひんしの中、唯一の牙城として残ったのが「エモミャム」。レベル72のトドゼルガで、ぜったいれいど・ふぶきを主砲とする最後の砦だ。 

「ポケモンと たびをして なにを みてきた?」「たくさんの トレーナーと であって なにを かんじた?」との問いかけに、お魚は何を思うのか。ラストバトルの火蓋が切られた。ダイゴが放つエアームド・ネンドールに対し、迷うことなくふぶきを連発するララ。それぞれを一撃にて沈めるも、ここで最大の武器であるふぶきのPPが切れてしまう。長考のすえ、トレーナーが選んだ技は「アイスボール」。5連続で攻撃するたびに威力が上がり、最高480もの火力を叩き出すトドゼルガ系列のお家芸だ。しかしこの技を選んだ以上、あとは技をミスするか5ターン経過するまで違う手を打つことはできない。ララは最後の賭けに出たのだ。 

初撃、そして第2撃ではタイプ相性も味方し、ユレイドルを首尾よく沈める。その後アーマルド、そして相性不利のボスゴドラが立ちはだかるも、徐々に威力の増すアイスボールにてこれを沈めるエモミャム。いよいよ最後の難関メタグロスが姿を現した。みず・こおりタイプであるトドゼルガにとっては、致命的といっていい相手だ。切り抜ける道はただひとつ。最大火力となったアイスボールを当てて一撃で沈めるしかない。すべてはその1ターンに込められた。 
 

*11:14:00を参照。 

 
命中した。メタグロスは沈んだ。お魚はチャンピオンに勝ったのだ。「むてきまる」こと4匹のベタたちは、かくして殿堂入りを果たした。ダイゴ・ハルカ・オダマキ博士の祝福を受け、おもむろに最奥の部屋へと進むトレーナー。そこでは長きにわたる戦いを勝ち抜いたポケモンたちの名前が記録された。「アQPO♂」「オルルョム」「チキ ョた」「エララママ」「    w」そして「エモミャム」。すべて魚たちが自ら名付けたニックネームだ。土曜日の早朝、空前絶後の挑戦はひそかに幕を閉じた。飼い主のむてきまるちゃんねる氏もやや遅れて事実を確認。約半年間にわたる配信動画に幕を下ろしている。国内Twitterでは「ポケモンクリア」そして「むてきまる」がトレンド入りし、日本はお魚を祝福する笑顔と涙に包まれた。 

足掛け6か月にもわたり、ひねもすよねもす配信を続けてきた「むてきまるチャンネル」。くしくもこの期間、世の中には本当に多くの出来事があった。生活ががらりと変わった人もいただろう。ひとり格闘していた人もいただろう。そんな中にあって、同氏のチャンネルは「いつでも観られる配信」を目指し実況を続けてきた。どれほど日常が変化しても、チャンネルに戻れば必ずお魚が冴えないプレイを続けている。今回の偉業は単なる物珍しさやキャッチーさだけでなく、2020年を通じて配信を見守ってきたファンたちが時の流れる重みを噛み締める機会にもなったようだ。長期配信かつ、生活のひとこまに寄り添うかたちで展開してきた実況だからこその受け止められ方といえるだろう。 
 

 
一部ファンからは、早くもお魚たちによる次なる実況を求める声も。しかし、むてきまるチャンネル氏の第一方針は魚の健康の維持であり、今回の挑戦も休止や療養を挟みながらなんとか達成されたもの。今はただ、前代未聞のチャレンジを成し遂げた4匹を労い、静かに祝福するのがいいだろう。むてきまる一行の長き旅路はこちらからチェックすることができる。