サンドボックスゲーム『WorldBox』開発者、“ぶっこ抜きアプリ”のコピー被害に苦しむ。その恐るべき手口とは
あるインディーゲームの開発者が、みずからの作品のコピー販売に悩まされているようだ。サンドボックスゲーム『WorldBox』は、個人開発者Maxim氏がリリースする箱庭シミュレーションゲームだ。対応プラットフォームはiOS/Android/PC。プレイヤーは神様となり、みずからの手で生命に満ちた地球を創造する。羊や人間、果てはドラゴンからUFOまでなんでもありの世界観で、時には地震や隕石といった破壊の力も行使しながら自分だけの天地創造を成し遂げるのだ。Google Playストアでは28万件以上のレビューが寄せられ、4.4/5点の好スコアを叩き出している。
Maxim氏が『WorldBox』のコピー販売に気づいたのは、Discordにおけるユーザーからの通報によってだった。該当アプリは『WorldBox』の名前をIDに含み、また商標登録までしようとしていることが伝えられたのだ。調べると、Maxim氏にとって心当たりのある犯人像が浮かび上がった。2018年のデベロッパー向けカンファレンスにて、Maxim氏のアプリを買い取りたいと申し出るビジネスマンがいたのだ。当時は相手が信用できなかったこと、またマネタイズよりも開発に注力したかったことから相手の提案を丁重に断ったMaxim氏。その後も3〜4回相手からのコンタクトが続いていたが、同氏は固辞し続けていたという。
改めてコピーアプリの配信元企業を調べてみると、その関連会社に例のビジネスマンが所属する企業が見つかったという。さらに調査を進めると、同企業はほかにも『マインクラフト』のModを「1週間につき9.99ドル」で販売するといった怪しげな商売に手を染めていた。さらに関連会社同士を見比べてみると、プライバシーポリシーの部分にコピー&ペーストミスと見られる箇所が散見。企業グループ全体の体制が疑わしいものであることがわかってきた。いずれにせよ、先方はMaxim氏と表向きは契約締結の交渉を続けつつ、裏ではすでにコピー作品を開発し販売していたことになる。
同社の悪事は、このほかにも露呈されていく。そのひとつが『Raft Survival : Ocean Nomad』と名付けられたアプリだ。あきらかに2017年リリースの『Raft』盗作と見られる同アプリ。しかし不思議なのは、なぜ明らかなコピー作品が原作と同じ「Raft」の名前を使えたのかということだ。その理由を、Maxim氏は商標登録の落とし穴として指摘している。通常、Steamなどでインディーゲームを発表する開発者はデスクトップ版にしか注力していない。その隙をつき、コピー業者は「Raft」という単語の商標を「モバイルアプリ用に」登録してしまうのだ。これによりコピー作品は、オリジナル作品そっくりの名前を自社アプリにて名乗ることができてしまう。
コピー業者はインディー開発者のシンプルで面白い作品を発見し、コピーバージョンを開発。そして秘密裏にその商標を確保してしまう。オリジナル版デベロッパーが気づかないうちにモバイル版にて名前を売り、勘違いしたユーザーから搾取することで利益を巻き上げる。これがコピーアプリ開発企業の主なやり口であるとMaxim氏は説明する。
コピー版『WorldBox』は、原作そっくりのスプライトを使用。その中には『マインクラフト』から盗用したデータも含まれているようだ。同コピー作品はFacebookやVK(ロシア版Facebook)ほかSNSページを保有し、いずれのページやURLにも「worldbox」の単語が含まれていた。これらのSNSページは数日のうちに削除されたそうだが、諸悪の根源であるコピー版アプリはいまだに残っているのが現状だ。ローンチ時には星5つのレビューが並び「いいアプリだった」などの簡潔な感想が述べられていた。おそらくフェイクであろう。
これらの一件を受け、『WorldBox』コミュニティは「#saveWorldbox」運動を立ち上げ支援を開始。Redditでの議論や注意喚起動画がYouTubeに投稿され、当該コピーアプリのレビューにはコピーの是非を直接問いただすコメントも寄せられた。その際、開発元であるSTAVRIO LTDは本アプリがあくまで独自に開発されたものであり、レビュー欄を荒らすのは控えるようにと返信を寄せている。
コピー業者はEU・オーストラリア・韓国・カナダほか多数の国にて『WorldBox』や『Raft』の商標をもぎ取ろうと動きを進めており、いずれも係争中だ。Maxim氏は今後の目標として1.『WorldBox』IPを守り通すこと、2.ほかデベロッパーに注意喚起すること、3.アプリストアの不正使用を強調するといった方針を掲げている。最終的には、アプリストアのプラットフォーマーによって、これらの悪意ある製品の販売を停止させる処分を期待したいそうだ。現在Maxim氏は弁護士と協力し、自作品の権利を守るための手続きを進行しているという。このために予定していたアップデートが遅れていることについて、同氏はファンへの謝罪を述べている。
ところですでに述べたとおり、最初にMaxim氏にコンタクトをとってきたビジネスマンの企業や実際にコピーアプリを開発・販売している企業に裏でつながりがあるのは明らかだ。このほかにも多数の関連会社が存在し、それらは件のビジネスマンを含む3名の人間が何らかのかたちで関わっている。また多くの関連企業はエストニアに拠点を置いていることになっていた。これらエストニア企業はほとんど同じメールアドレスを使用しており、同じ弁護士事務所が担当しており、ディレクター登録者のみが違うといった有様だった。
重要なのは、企業を設立する際必ずしも現地オフィスにスタッフがいる必要がないということだ。そのため開発チームをロシアの拠点ひとつに置き、あとの10企業をエストニアに籍をおいて“箱だけ”立ち上げておくことが可能となる。何が可能になるかというと、たとえばApp Storeがコピーアプリを探知し、そのメーカーをBANしたとする。しかしその企業は数あるダミー企業のうちのひとつに過ぎず、コピー業者はすぐ替え玉の企業から新たにコピーをリリースし、同様の商売を繰り返すことが可能になるのだ。このようにコピー企業には“残機”が大量にあるため、いくらBANまで漕ぎ着けたとしても、またすぐコピー品が出回るイタチごっことなってしまうのが現状だ。
同企業の多くの元従業員は外部サイトにて、同社は著作権侵害や疑わしい価格設定の常習犯であり、ポリシー違反によってアプリストアからアカウントを削除することに慣れていると証言している。これらの証拠からも、コピー業者がリスク分散のためにダミー企業を大量に設立していることは明らかなようだ。Google PlayやApp Storeが各企業のつながりを検知し、大元を処分しない限りこの係争は続くだろうとMaxim氏は見込んでいる。ちなみに『Raft』開発元であるRedbeat Interactiveも同問題を認識しており、『Raft Survival : Ocean Nomad』から「失礼なメールを受け取った」ことがフォーラムで述べられている。
Maxim氏の投稿には担当弁護士からのコメントも掲載されており、インディーゲーム開発者が自身の作品を発表する際には名前だけでなく商標も登録しておく重要性や、クローンアプリにまつわる資料をことごとく追跡することでカウンターとなる可能性を示唆している。Maxim氏は一連の説明を終えたのち、コミュニティへの感謝を改めて述べた。くわえて、くれぐれも本問題にまつわる議論で攻撃的な言説を広めないことを要請している。
Maxim氏の告発により、コピーアプリ増殖のメカニズムが白日のもとに晒されることとなった。同氏らコミュニティによる格闘が続く一方、Google PlayやApp Storeなどが抜本的な対策を取らない限りこの問題は長く続きそうだ。