古いゲームのソースコード保存を目的としたプロジェクトが進行中。消えゆく歴史的資料を発見し、アーカイブする学術団体
古いゲームのソースコード保存を目的としたプロジェクト「Video Game Source Project」(以下、 VGSP)が活動を進めている。プロジェクトを進めているのは、非営利組織The Video Game History Foundation。ビデオゲームの歴史を保存・記念・教育することを目的としており、ゲーム関連文献を集めた図書館の運営から歴史を講義するコンテンツの配信まで、幅広い活動をおこなっている。
そうしたプロジェクトのうちのひとつがVGSPだ。ゲームを研究する上で最善の方法は“生”の資料、すなわちソースコードを見ることである。VGSPではソースコードやアセット、さらに開発ツール・原画・ドキュメントなどを含めて包括的に収集しており、学術的価値のある資料として保存を進めている。ときには開発時にやりとりされたメールや手紙、FAXですらコレクションの対象になるという。これらの資料をオンラインで入手することはきわめて難しく、組織的に保存を進めている団体はほとんどない。基本的にこれらのソースは知的財産であり、業界で公に流通することがほとんどないからだ。
そしてこうした保護には「時効」がないため、とっくに絶版になったゲームでも最新作品と同様にクローズドな環境で管理されていることが多い。守られているとはいえ「保管」されているとは限らず、秘密裏に隠されたまま忘れ去られたり、破壊されたりしているケースもままある。商業ベースにおいて、長期間の保護が顧みられることはきわめてレアなのだ。そうして、多くはオフィスの転居や閉鎖、事故などにともなって失われる。ごく初期の媒体における歴史的なソースコードは日に日に失われていっているのだ。
そこで立ち上がったのがVGSPというわけである。同組織では資料を収集・保管するだけでなく、公共的に教育のため役立てるように活用している。さらにこれらのソースはアカデミックな領域だけでなく、旧作のリマスター や別プラットフォームへの移植に不可欠となっており、ゲーム業界そのものを支えるリソースにもなるのだ。多くの開発者は手元のフロッピーディスクに歴史的価値があるなどとは思いも寄らないため、デベロッパーへの啓発活動もVGSPの仕事である。
メガドライブ向けに1993年リリースされた『アラジン』はVGSPの恩恵を受けた作品のひとつだ。手書きのピクセルアニメーションが高く評価されることで知られるが、VGSPはソースコードを解析することで多くの資料を発見。未公開の素材を発見したばかりか、商用リリース前に削除されたすべての敵やオブジェクトを再実装する芸当を成し遂げた。また分析により開発で使用されたツールが判明しており、精細なアニメーションをコンパクトに収録するためのテクノロジーが事細かに分析されている。データの奥底にある「zipファイルの中のzipファイル」からは、デザイン資料のドキュメントも発掘された。
また団体は、スーパーファミコン版『シムシティ』と同時に発表されながら未発売に終わった、ファミコン版『シムシティ』のデータも入手している。ビンテージゲームのコレクターショーに出現したアーティファクトを、役員の財政的支援の助力により確保したという。アーカイブしたゲームプレイ映像がYouTubeに上がっており、幻となったゲーム画面を誰でも垣間見ることができる。
そして直近では、今月末にも大きなプロジェクトが動く。日本時間で10月31日午前5時〜6時30分にかけて、ポイント&クリック型アドベンチャー『The Secret of Monkey Island』および『The Secret of Monkey Island 2: LeChuck’s Revenge』のソースコードを探るライブストリームが配信される。オリジナル版クリエイターのRon Gilbert氏を交えて、削除されたシーンや未使用のアートワークに迫る。参加にはチケット(10ドル)が必要となり、購入者はアーカイブで視聴することも可能だ。
ビデオゲームはいまだ歴史が浅く、学術的に研究しようという動きは始まったばかり。貴重な資料が失われつつある中で、The Video Game History Foundationのような理念をもった団体は稀有な存在といえるだろう。なおゲームの保存活動をおこなう動きは国内にも存在している。文化庁から助成を受けるゲーム保存協会をはじめ、デジタル考古学的資料を後世に残そうと努力する人々は日本にも数多く存在する。これらの団体のリサーチでさらなる遺産が発見されることに期待していきたいところだ。