バーテンダーが主役のベネズエラ産ノベルゲーム『VA-11 HALL-A』TGS2015デモプレビュー、南米から「ニコ生」の暗さ突く
現在開催中の東京ゲームショウ2015にて、バーテンダーを主役とするノベルゲーム『VA-11 HALL-A』のプレイアブルデモが展示されている。本作は南米ベネズエラのデベロッパー「Sukeban Games」によって開発が進められているタイトルだ。Sukeban Gamesはその名(スケバンゲームズ)からもわかるように、日本のオタクカルチャーから大きな影響を受けているデベロッパーで、本作『VA-11 HALL-A』のピクセルビジュアルもいわゆるジャパニーズアニメ調だ。さらに今回のデモでは「ニコニコ生放送」を“生々しく”フィーチャーしており、国内のプレイヤーの意表を突いてくる。
バー「ヴァルハラ」の奇妙な一晩
企業によって世界が支配され、すべての人々に弾圧のためのナノマシンが埋め込まれた近未来。法の順守を迫る恐怖の「White Knights」が闊歩するなか、ダウンダウンの一角にひっそりとバー「VA-11 HALL-A(ヴァルハラ)」は存在する。プレイヤーはこの小さなバーの女性バーテンダー「ジル」となり、マスターの「ダナ」や相棒の男性ウェイター「ギリアン」と共に、夜な夜なやってくる奇妙で魅力的な客たちを応対してゆく。
荒廃した未来を描くディストピアな作品でありながら、本作ではその雄大な世界観を下敷きにするに留めており、壮大な企業戦争や人類を救うといったテーマは描かれない。プレイヤーはバー「ヴァルハラ」にやって来る客たちとのやり取り、パーソナルな一晩の物語を楽しむことになる。やって来るのは、タキシード姿で喋るコーギー犬の社長、どう見ても成人しているようには見えないセーラー服の少女。そして今回のデモにて登場するのは、ストリーミング配信で飯を食っていこうとする系女子、その名も「ストリーミング=チャン」だ。
ジルが準備をしていると、突如バー「ヴァルハラ」に興味を持ち乗り込んできたストリーミング=チャンは、無許可でストリーミング実況を開始する。画面上には「8888888」や「ガキはタヒねよ」、「お風呂タイムおわった?」や「(´・ω・`)」といった文字が流れており、名前こそ登場しないものの明らかに日本の「ニコニコ生放送」を意識した演出だ。バーへの突撃実況を敢行するストリーミング=チャンの勢いに負けたジルは、多数の視聴者から画面越しに視線を向けられながら、しぶしぶ彼女の指定するドリンクを作り始める。
どのドリンクを提供するか?
本作は基本的にビジュアルノベルだが、ときおりお客からドリンクのオーダーが入るため、それに対応したドリンクを作ってゆくことになる。画面右側にはシェイカーがあり、このなかに5種類の材料をそれぞれ適量入れ、アイスを入れるか時間を置く(熟成)かを選んだのちにシェイキングする。作り方は画面右側に表示される電子レシピブックから「名前」「味」「タイプ」の項目別に検索可能で、たとえば「スイートな味」で検索すれば甘いお酒のレシピが一覧される。シェイキングを止めるタイミングも重要で、「ミックス」とレシピに記されているなら5秒以内に、「ブレンド」と記されているなら5秒以上かけて振る。レシピどおりに作らないと失敗作ができあがってしまい、やり直しとなる。
この一連の行程は覚えてしまえばそれほど難しくないが、本作では客のオーダーに対し“どんなドリンクでも”提供できるという特徴がある。そして提供したドリンクによって、物語の筋書きは大なり小なり変化してゆく。たとえば今回のデモの一例としては、シュガーラッシュを作れというウェイター「ギリアン」の指示に対し、ピアノ・マンを作れば序盤のチュートリアル部分をすっ飛ばすことができる。
より抽象的でわかりづらい味のドリンク、あるいは「おまかせで」といったオーダーを任されれば、バーテンダーであるプレイヤーのチョイスはより重要さを増してくるだろう。提供するドリンク自体が選択肢になるというゲームデザインは新鮮で面白い。またドリンクを作るという行為が物語の箸休め的な存在となっており、物語の余韻が合間合間で感じられるような、いい意味で遅くゆるやかなテンポにゲームをとどめているようにも感じる。
アニメ調ながらもシットリとした雰囲気
ジャパニーズアニメ調なグラフィックと同じく、キャラクターの性格やストーリーもけばけばしいと思いきや、意外にもゲーム内の雰囲気はバーらしくシットリしており、リアリスティックだ。24時間、自身の姿をインターネット上に晒し続けている「ストリーミング=チャン」は、月額99.99ドルのプレミアムサービスに加入するよう視聴者たちをたびたび扇動する。プレミアム加入者数を増やそうと自身は何度も脱いでおり、そしてプレイヤーであるジルに対しも「脱いで」と命令する。リアクションを見せるためなのか、面白さを演出するためなのか、注文するドリンクもズバり「不味い味」だ。
またジルが人生訓を語ると、ストリーミング=チャンは「視聴者の3分の1は視聴が認められていない10代だ」と言い返し、そんなつまらない話は誰も興味が無いと暗に示す。実際に真面目な話になると、画面上の視聴者たちは途端に「つまんねええええ」とコメントを打ち込み始めるのだ。“過激なものを求める視聴者”と、それにほいほい乗ってしまう“調子者の配信者”、ストリーミング配信における危うい関係を見事に捉えている。デモの後半では、ストリーミング=チャンがなぜそんな過激な配信生活を送るようになったのかが描かれてゆく。
ベネズエラのインディーデベロッパーSukeban Gamesは、当初はアニメやビデオゲームに関する話を掲載するブログとして始動したが、すぐにゲーム開発に興味を持つようになった。所属しているのはゲームデザインやアートを担当するKiririn51氏、プログラミングやライティングを担当するIronic Lark氏、そして楽曲を担当しているGaroad氏の3人だ。当初3人は『Devil’s Journal Tony T』という作品を手がけていたが、こちらの作品があまりにも野心的であったため開発を一度ストップし、先に小規模な作品として『VA-11 HALL-A』プロジェクトを立ち上げたのだという。
なお東京ゲームショウ2015のデモでは描かれていないが、本編では売り上げで各種コレクティブアイテムを購入したり、自宅でニュースを見たりといった要素も存在する。公式サイトでは無料体験版が公開されているほか、4.99ドルでプロローグ入りのバージョン、7.99ドルでサウンドトラック入りのバージョンを予約購入可能だ。リリース時期は明らかにされていないが、対象プラットフォームはPCおよびPS Vitaとされいている。
東京ゲームショウ 2015では日本語化されたプレイアブルデモをプレイすることができるので、参加したプレイヤーはぜひバー「ヴァルハラ」を訪れてみよう。