『マインクラフト』生みの親Notch氏、フォロワー360万人のTwitterアカウントを突如削除。“政治ツイートやめろ”の果てに
『マインクラフト』生みの親であるNotchことMarkus Alexej Persson氏が、突如Twitterアカウントを削除したとして、話題を呼んでいる。Notch氏は、Mojangを手放してもなお、『マインクラフト』を手がけた人物として影響力を持っており、抱えるフォロワーの数は360万人に及んでいた。しかし8月29日未明、同氏のTwitterアカウントは、11年分蓄えられてきたツイートと共に、跡形もなく消えてしまった。その経緯が非常に奇妙であるとして、注目を集めているようだ。削除した理由は、「お願いされたから」であるという。
Notch 氏は、『マインクラフト』を生み出したスウェーデンのクリエイターだ。試行錯誤を重ねながら『マインクラフト』の開発を進め、仲間と共にMojangを設立。開発と改良を重ね、同作をメガヒット作品へと育て上げた。その後Notch氏は2014年9月に、Mojangと『マインクラフト』IPを25億ドル(2750億円)でマイクロソフトへと売却。開発および運営から正式に身を引きつつ、Twitterにて隠居生活をおくっていた。
きっかけとなったのは、YouTubeチャンネルGame Maker’s Toolkitの収益化報告である。ゲームジャーナリストMark Brown氏によるチャンネルGame Maker’s Toolkitは、ゲーム業界において非常に高い人気を誇る。分野は、ゲームデザインや仕組みの解説だ。ゲームの構造や経緯を取り上げ、わかりやすく言語化することに定評がある。現象や事例を取り扱いつつ、事実を整理し、ロジカルに話を組み立て、結論を出していく。丁寧かつ学びあるチャンネルとして、存在感を放っている。
※ Game Maker’s Toolkitは英語音声のチャンネルであるが、日本語字幕に対応している動画も多い。その分野に関心があるならば視聴するのもいいだろう。
同氏は、視聴者の体験についても重要視しており、93万もの登録者を抱えながらも、これまで自身の動画を収益化してこなかった。しかしここにきて、試験的に動画内の広告導入を開始したことを発表。しかしそれを気に入らなかった人物がいたようだ。それがNotch氏である。厳密にいうと、広告導入を開始した際に添えた“政治発信”が気に食わなかったようだ。
Game Maker’s Toolkitは、試験的に広告を導入することによって、現在の収入に加えてさらに1000ポンド(14万円)受け取れたという。Brown氏はフリーライターとしてさまざまなメディアに寄稿したり、Patreonにて月に1万1000ドル(約112万円)ほど支援を受けていたりと、まとまった収入を持っている。それに加えて、動画広告の収益がもたらされるわけだ。
しかし迷いもあるようで、Brown氏は動画を収益化し1000ポンドを受け取れることはクールであるとしながら、ユーザー体験を悪化させるに十分な理由にはならないともこぼしていた。そこに現れたのが、Notch氏。収益化報告のツイートに対し、なぜか突然「政治発信をやめろ」とコメントした。
Brown氏はこの要望に対し「君がTwitterアカウントを削除するなら、やめてあげるよ」と応戦がわりのお願い。するとNotch氏はなんと、この提案を承諾したのだ。「取引成立。マジでやめてくれるな?」と問うと、Brown氏は「もちろん」と返信。その後、Notch氏のTwitterアカウントは本当に消えてしまったのである。
一方で、Brown氏の動画収益化に対し「政治発信をやめろ」と絡んだNotch氏の言動の意図は謎めいている。実はBrown氏は、ユーザー体験を悪化させる広告のひとつとして「トランプの再選動画広告」をあげていた。アメリカの大統領ドナルド・トランプ氏は現在、大統領選に挑んでいる最中。再選を目指し、さまざまな場所で露出をはかっている。その露出の場所には、YouTubeも含まれているのだろう。
Brown氏は、トランプの再選広告動画をGame Maker’s Toolkitを視聴するユーザーの体験を悪くする広告の例としてあげていたわけだ。このトランプへの嫌悪表明をNotch氏が「政治発信」とみなした可能性は高い。またGame Maker’s Toolkitはゲームに関するチャンネルでありながら、ときおり政治を持ち込んでいたがゆえに、Brown氏が政治発信をしたことにNotch氏が不満を持ったのではないかと推測するツイートも寄せられている。
【UPDATE 2020/08/29 11:30】
上段落の推測ツイートに関する記述を修正
いずれにせよ、Brown氏の政治発信はやめさせるために、Notch氏は「Twitterアカウント削除」に踏み切った。同氏は、削除直前に「notch.net」なるドメインをかつて取得していたが更新はしておらず、連絡はとりづらくなろうとこぼしつつ、フォロワーに「I love you」と語りかけながら、SNS界から姿を消した。Brown氏も一連の出来事を「奇妙な日だ」と振り返っている。
Notch氏といえば、才能に恵まれたクリエイターとして名を馳せた反面、SNS上などでの問題発言が多い人物としても知られている。性差別や人種差別ともとられかねない発言をTwitter上で繰り返してきた。こうした言動はマイクロソフトも問題視しており、『マインクラフト』10周年イベントには呼ばれなかった。生みの親でありながらもイベントに呼ばれなかった理由についてマイクロソフト広報は、その言動が原因であるとコメント。同氏のコメントや意見は、マイクロソフトやMojangの思想を反映するものではなく、『マインクラフト』を表現するものではないとも言及していた(Variety)。人種、性指向など、人々のアイデンティティに関わる部分にて、幾度も過激な言動してきたNotch氏は、自身の生んだゲームの譲渡先にも疎まれているのだ。
Notch氏は突拍子もない言動をすることも特徴。極端な言動を好んでおり、特定の思想や持論を地道に説くというよりも放言的だ。同時に、リプライでのファンとの交流を好むなど寂しがり屋な一面も。気まぐれで情緒不安定な言動が目立っていた。そうした背景を踏まえると、唐突なTwitterアカウントの削除は、ある意味では同氏らしい行動とも言えるかもしれない。
Twitterアカウントは削除したのち30日以内に復活させることが可能。完全に同氏がSNSを去ったとはまだ言い切れない。しかし、Notch氏のもとから離れた『マインクラフト』は成長を続けており、ゲーム内のスプラッシュテキストから「Made by Notch!」「The Work of Notch!」 の文言が消えるなど、徐々にゲーム内からも存在が消えかかっている。徐々に『マインクラフト』の作り手としても忘れられつつあるNotch氏は、Twitterからも移ろい消えゆくのだろうか。
【UPDATE2 2020/9/30 13:50】
Notch氏がTwitterへの復帰を果たしているようだ。9月22日頃より同氏の復帰を確認するユーザー投稿が相次いでいる。
前述したようにTwitterではアカウント削除から30日が経過すると完全に削除される仕様となっており、逆に30日以内ならば復帰することが可能。8月28日に姿を消した同氏であるが、30日が経過する前に復帰を果たしている。宣言を撤回したことになるが、Notch氏本人は復帰に言及しておらず、削除要求の条件を飲んだGame Maker’s ToolkitのMark Brown氏も反応していない。Notch氏の第一声に注目が集まるところ。