『エースコンバット7』の空はこうしてつくられた。UE4とtrueSKYを用いた背景制作

Epic Gamesが主催する大型勉強会UNREAL FEST WEST 2019が4月20日に行われた。「『エースコンバット7』UE4×TrueSkyでの「雲」の表現について」と題された講演で、VRプロデューサーの玉置絢氏とアートディレクターの菅野昌人氏が制作について語った。同講演は、背景制作におけるヒントが得られるだけでなく、『エースコンバット』のファンにとっても興味深い内容。その講演をレポートさせていただく。

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『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』(以下『エースコンバット7』)は2019年1月 バンダイナムコエンターテインメントより発売されたフライトシューティングゲーム。「空の革新」をテーマにした本作は、開発においてUnreal Engine 4(以下、UE4)とtrueSKYテクノロジーを採用している。PlayStation 4版にはVRモードも収録されている。

 

VRモード

はじめにVRモードプロデューサーの玉置氏が、VRモードを制作する上での課題と全体的な開発のコンセプトについて語った。VRモードは左右両目分をフルHDで描画し、加えて絶対に60fpsを維持することが必要だったそうだ。フレームレートが低下すると視線と画面のズレから乗り物酔いのような状態が起きるため、VRの品質でフレームレートは非常に重要な要素とされている。同時に『エースコンバット7』のマップは広さが四方100km、高さが15kmほどあり、さらに300km四方を見渡せるため、描画しなければいけないものの量が非常に多く、フレームレートの維持などに技術的な挑戦課題があったと語った。

またVRの立体感を生かすための雲の演出が重要であるとも説明していた。VRモードでは目の前にはコックピットしかないため、立体的な空間を感じさせることが難しい。ここでも雲の表現の進化によって、立体的な雲や、雲に入ったときキャノピーにつく水滴などの演出で「場の質感」を作ることが可能になったという。

また開発を始めるにあたり雲をどのようにゲーム内で使うか話し合い、雲の間をくぐり抜け、中に入って遊ぶことができるようにすることを目標にしたそうだ。開発現場はこれを「雲のジャングルジム」というキーワードでイメージしていた。ナンバリングタイトルを発表するからには進化がなければいけない。そこで新しい雲の表現を課題として設定したという。

ここからはアートディレクターの菅野氏が『エースコンバット7』の雲について語った。『エースコンバット』シリーズの基本的なゲームプレイは、敵を見つけてミサイルを的中させるというもの。ここにtrueSKYで生成した雲をゲームのギミックとして落とし込む必要があったと語っていた。雲はリアルなだけでは面白いとも限らないし、開発陣の想像のみで作っただけでも面白いとは限らないと、菅野氏は言う。そこで、リアルとゲームプレイのバランスをとるため、UE4とtrueSKYで雲のデモ映像を制作し、航空自衛隊小松基地のイーグルドライバーの方たちに見せ意見をもらったそうだ。そうして戦闘機のコックピットから見た実際の雲と開発陣の考えるゲームギミックとしての雲を近づけていったという。

『エースコンバット7』の重要な要素であるtrueSKYについて、菅野氏は説明した。trueskyはSimul Softwareが開発した天候生成システムで、UE4やUnityに対応している。雲は3Dノイズを組み合わせたボリューメトリッククラウド。レイマーチング法によるレンダリングを行っている。trueSKYは大気散乱による青空や夕焼けを再現でき、雲に関係するライティングも正確だ。一方、3Dノイズの組み合わせで生成する雲の形は正確ではないことやマニュアル通りに作動しないこと、などいくつか欠点もあるそうだ。通常UE4が行う遅延レンダリングに対応していないのでアーティファクトが発生することも課題になると述べた。こうした特徴を把握したうえで、開発陣が重点的に作業した箇所について語った。

 

trueSKYの重要な設定

次に3Dcloud Mainの設定について菅野氏は説明した。この項目では空の雲の量や、その高さについて設定する。とくに高高度に雲を配置するとき注意しなければいけないという。現実の雲は基本的に10kmほどで対流圏界面に達する。これ以上の高度は成層圏になっており、気温が低く雲は発生しないからだ。現実の雲の特性を知っておくとゲームで空をデザインするときに役立つとも菅野氏は述べていた。

ここで、trueSKYの画面右下のシーケンスバーを操作する映像を見せた。二つのクラウドキーの間はリニアに補間されるようで、trueSKYの時間を遷移させると風で雲が流れる様子を見ることができた。

3Dcloud shapeの項目の設定は、雲の形にかかわる項目だ。UpperDensityを大きくすると「迷路状」の雲になるそうだ。いわゆる「雲のジャングルジム」というコンセプトに大きく関わる設定のようで、入り組んだ雲をくぐったりするような遊びが生まれると語っていた。Persistenceは雲の固まり具合を決めるという。この項目を操作することで、ちぎれ雲や薄い雲ができるそうだ。逆に、夏の晴れた日の積乱雲のようなもこもこした雲を作りたいときはDiffusivityを操作するという。

3Dcloud Lightning では、陰影設定について解説していた。菅野氏は、我々は空を日常的にみており、ゲームの雲がリアルかどうか本能的に判断できると説明し、ゲームに落とし込むとき特にライティングは重要であると語っていた。Godrayや薄明光線という光の柱が雲の間から見える美しい現象もtrueSKYで再現できる。雲が光を吸収するパラメーターExtinctionと、Godray は依存関係があり、Extinctionが弱いとGodrayは出てこない。Godrayは雲の量にも影響されるので、雲が少ないと出てこない。菅野氏はディレクターから雲が少ないシーンでGodrayを出すよう要望され再現に苦労したとか。『エースコンバット7』 で雲が少ないシーンのGodrayは、こうした苦労の成果かもしれない。

『エースコンバット7』の雲で最も重要な設定は、Amplitudeだそうだ。3Dcloud EdgeNoise設定で雲の輪郭を設定できる。この項目の中にあるAmplitude設定はEdgeNoiseのほつれを制御する。雲の輪郭は重要で、晴れた日の雲は輪郭がはっきりしているはずだが、雲の輪郭が淡いと感覚的に肌寒い印象を与えてしまう。また薄い雲を作る場合、上から見たとき四角い形になってしまう。これはオリジナルのtrueSKYに必ず付きまとう問題のようだ。そのため雲のエッジを際立たせつつ、人工感のある形を抑えるという課題があった。そこで社内のエンジニアにtrueSKYを「魔改造」してもらい、重要なAmplitude設定に関する項目を追加したという。新しく追加されたAmplitudescaleの機能の効果は絶大で、視線の位置に応じて雲の輪郭の自然なノイズのゆがみを制御でき、どこから見ても四角い印象にならなくなったという。

 

ナムコの『リブルラブル』(1983)をモデルにした雲

菅野氏は、雲の配置についても解説していた。『エースコンバット7』の広大なマップに座標をきめて雲をひとつひとつ配置していくことは現実的ではない。そこで大まかな配置をアーティストが行ったあと、レベルデザイナーがBitmapをペイントツールで塗ることで雲を配置していったそうだ。このほかにも重要な雲の設定について語っていたが、ここでは省かせてもらう。

 

最適化

氏はtrueSKYの最適化についても解説。trueSKYはGPUに非常に負荷がかかる。開発間もないころGPUリソースの6割をtrueSKYが占めており、「信じられない」くらいの値だったそうだ。trueSKYのGPUの使用率の問題はdownscalefactor(低解像度化)でも十分ではなかった。そこでtrueSKYを独自改造することを2017年ごろに決定したという。改造の内容は、高速レンダリングモード追加、LOD(ディテールを遠距離では下げる)など負荷削減機能の追加、VRモード専用のレンダリングモードなど。VRは専用のレンダリングモードに加え、通常のPlayStation 4では視野の周辺部分の解像度を落として処理を軽くする工夫もあるそうだ。上記の変更に加えて、負荷削減のため雨や雪などのパーティクル、雷、雨柱、2DクラウドなどはtrueSKYから削除し、UE4で代替的に制作したと語っていた。これらの機能の追加や削除で、trueSKYが占めるGPUリソースは3~4割まで下げることができたという。

 

雲の実体感強化

雲の実体感強化についても菅野氏は解説した。ここまで菅野氏が語ってきた数々の工夫で、外側から見た雲は非常にリアルなものになったが、これだけでは突入したとき実感が伴わないそうだ。そこで雲の存在感を出すための工夫についても説明した。一人称視点では戦闘機のキャノピーに水滴がついたあと、氷結する演出がある。雲のコリジョンをフラグにしてキャノピーに水滴を発生させているようだ。戦闘機のキャノピーのメッシュには、太陽光などを反射する層と水滴などの天候を反映する層がガラスの厚さだけ分けてあるという。水滴と氷結はキャノピーレイヤードマテリアルという一つのマテリアルとして表現しているそうだ。

なお、trueSKYテクノロジーは、『ARK』などを筆頭にさまざまなオープンワールドゲームで採用されているが、いずれも最適化およびカスタマイズされているとのこと

三人称視点で雲に入ると、機体の表面が濡れ、雲から出ると表面が乾いていく演出がある。雨雲や雨などをトリガーにして、戦闘機のラフネステクスチャにアクセスしてツヤを出し、水に濡れた機体を表現しているらしい。加えて戦闘機が雲に入るとBGMがこもって聞こえ、気流で機体が振動するなどの演出を追加したことを述べていた。以上に述べたような総合的な演出で、氷や水の集まりである雲の実感を強化することに成功したという。

空と雲という現実の題材に向き合い、『エースコンバット7』で新たな雲の表現の基準を作ることができたようだ。空を飛ぶゲームに限らず、雲はシーンのライティングやムード作りに重要であるため、trueSKYはさまざまなゲームに役立つツールになるだろう。『エースコンバット』の開発陣がそうしたように、現実の題材に真摯に向き合うことで、新たな表現を生み出すことができるのかもしれない。

同講演においては、YouTubeにて映像も公開されている。本稿を読んで興味が湧いた方は、映像でも『エースコンバット7』の「空」についておさらいするといいだろう。

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